日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(3): 187-188 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.187

巻頭言Editorial

「教える」ということTeaching is Learning

鹿児島市立病院小児科Department of Pediatrics, Kagoshima City University ◇ Kagoshima, Japan

発行日:2016年5月1日Published: May 1, 2016
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長く学生・若手医師の教育に携わっている.「教えることはもっとも良い学習法である」とよく言われるが,まさに至言だと思う.教えられる方からすると本当にいい迷惑だったろうといまさらながらに赤面であるが,おかげでとても多くを学ばせてもらった.教えるためにはその場面で「正しいこと」を確認する必要があり,そのことが学ぶことに繋がる.「正しいこと」とは教える知識だけではなく,教える手法も正しくなくてはならないということである.

今回機会をいただいたので,拙い個人的な考えや経験で恐縮ではあるが,ここに述べさせていただくこととする.

知識を教えても仕方がない?

小児循環器の分野は疾患ごとに血行動態の特徴があり,それに伴う薬剤効果のメカニズムなど多くの理解すべき事項がある.それらの詳しい知識と理解を基にした患児の管理が専門医の実力の見せ場であり,関連する質問をされると自負心もくすぐられ,「この児はTOFだから水分を絞る必要はなく…」とか,「術後のPHに対してNO効果のメカニズムは…」と,とうとうと解説してしまうことも多い.教えられた若手は「よく分かりました」と感謝し,感謝された方も気分は良く,その場はどちらも満足かもしれない.

確かに教えることは悪いことではない.しかし,全てを教えてしまうと若手の成長する機会を奪うことになるということについての自覚は必要である.当然,最初は多くの知識を教え込むことは必要である.ただ,医師にとっての「最初」は医学生初期であり,座学の4年間で膨大な知識を詰め込まされており,臨床現場は知識を詰め込む時期としては既に遅いということも知っておかなければならない.また,教えられ,簡単に得られた情報は,数日でほとんど忘れさられてしまうのも実情である.更に,臨床現場での情報はその症例に限局した条件付きである場合も多く,教えられた知識を一般的なものと間違って理解してしまうと,別の症例でかえって危険な状況にすらなる可能性もあることは問題である.得られた知識をしっかり理解する必要があるので,知識を与えた時にちゃんと成書で確認し勉強するように指示することでも良いかもしれない.しかし,解決した気持ちになっている若手が確認のための学習をする状況になることは決して多くはない.したがって,医学生初期とは異なり,臨床現場で教えることの意義はあまり期待できない.学ぶべき事項を自ら見出し,自ら学習し,自ら解決してこそ,その知識を理解し成長に繋がる.この「成人型学習」の習得を促すことこそが重要である.患児を担当することは,責任を自覚し解決すべき問題を実感する機会を多く提供する.指導医はその機会を活用できるようにサポートすることこそが仕事である.問題解決の結論を示すのではなく,その解決へのアプローチへ導くことが肝要である.

学習意欲を高める3原則を意識する

学習意欲を高める3原則とは,①やりたいこと,②やらなければならないこと,③やることが可能であること,の3項目である.学生時代にあまり学習意欲を示さなかった学生が,熱心な学習態度の研修医へと豹変することに驚かされるのは珍しくはない.臨床現場で解決しなければならない事項が顕実化し,それが担当患児のために解決したい事項となるのは人情であり,必然的に成人型学習へと移行するからである.ただ,解決したくても解決できない問題が度重なると,「やることができない」とあきらめてしまい,学習意欲の低下をきたしてしまう.成長段階を見極め,その成長段階に応じて指導内容を考えるのも指導医の仕事である.若手が患者・家族へ検査結果や状態についての説明を行うことも,解決すべき問題が更に自分の中でも明確になり,学習意欲の更なる向上に繋がる.なるべく説明をさせることは良いことではあるが,成長レベルと説明する事象の内容によって,どこまで説明を任せるかを考慮するのも指導医の大切な仕事である.

成人型学習における理想的な報告を目指す

若手の臨床現場における学習意欲向上は事実であるが,この時期には特に注意しなければならないことがある.学習意欲を高める3原則とも関連するが,成長段階としては成人型学習の途に就いたばかりで情報処理能力に難があり,臨床現場の膨大な情報処理の重圧に負けてしまうことがままある.その繰り返しから指導医の指示待ちに徹してしまう研修医も生まれてしまう.「Aちゃん,△▽ですけどどうしましょう?」と報告するようになると問題である.その報告に,「☆◇はした?採血は?では,□□しよう!」と即答する状況が日常なら問題は深刻であり,単なる使い走り養成である.理想的な報告は「Aちゃん,△▽ですけど,◎☆だと思います.□□したいのですが,よろしいですか?」である.状態を把握・解釈し,対応を考えることが重要であり,若手が理想の報告をできるように育成しなければならない(あくまでも最終目標であるが).情報を整理し解釈する機会がなければ成長はない.報告に対して,「今の病態をどう考える?」,「病状把握に必要なことは?」,「それで,どうしようか?」と状態把握や解釈,対応を考えさせる機会を与える必要がある.ただ,現場は急を要する場面も多くあり,常に全てを行うことは不可能である.状況に応じて何を考えさせるか,その考える時間の猶予をどうするか,成長段階も踏まえて配慮することが必要である.どこまで考えさせるか,どこで指示をだすか,良いタイミングを見計らうのが指導医の力量であろう.

最後に

教育は医師の重要な仕事の一つであるが,それが真に評価されているかについて疑問もあるのは残念な事実である.ただ,指導医は若手の成長を実感することで達成感・充実感を得,それを糧に更なる教育に励むことができる.また良い指導を継続するためにも,自分自身も学習し自らのレベルアップを目指すことが可能となる.

これからも「Teaching is learning」を実感する喜びを糧に励んでいきたい.今回の拙文を読まれて,共感を持っていただく方が多ければ幸いである.

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