日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(2): 154-159 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.154

原著Original

経皮的に小口径人工血管流量調整を可能とする簡易装置の開発:流量調整可能なBlalock–Taussig ShuntのためにDevelopment of a Simple Device Enabling Percutaneous Flow Regulation for a Small Vascular Graft: A Blalock–Taussig Shunt Capable of Flow Regulation

1大阪医科大学医学部外科学講座胸部外科学教室Department of Thoracic and Cardiovascular Surgery, Osaka Medical College ◇ Osaka, Japan

2東海メディカルプロダクツ株式会社Tokai Medical Products Inc. ◇ Aichi, Japan

受付日:2015年9月18日Received: September 18, 2015
受理日:2015年12月17日Accepted: December 17, 2015
発行日:2016年3月1日Published: March 1, 2016
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肺血流量減少性疾患に対して鎖骨下動脈と肺動脈を人工血管で接続するmodified Blalock–Taussig shunt手術(BTS)は今もなお重要な姑息手術である.BTS人工血管によって供給される肺血流の過大と過小は患者の臨床経過を決定する重要な因子であり,単心室の新生児及び早期乳児では時に致死的イベントを来す大きな要因となる.しかしながら,BTS血流量の最適化のための人工血管サイズ及び吻合部位の選択基準が明確ではなく,術直後の血流過多によるショックへの緊急対応や遠隔期の血流過小に対するBTS追加手術を必要とすることがしばしば発生する.この問題解決のためには,シャント血流を任意に調節可能となることが望まれる.今回我々は,小口径人工血管周囲に特殊構造のバルーンを設置し,皮下ポートに接続することで経皮的にバルーン容量を変化させる装置を開発した.模擬循環回路では,バルーン容量の可変により再現性のある人工血管の圧–流量関係の変化を認めた.ビーグル犬を用いた生体内埋植モデル(右頚動脈を本装置を装着した人工血管で置換)では,埋殖直後及び,3か月後においてバルーン容量可変による流量調整が可能であった.本装置により,誰もが容易にBTS流量を調整することが可能になると考えられた.

The Blalock–Taussig shunt (BTS) operation has been a cornerstone procedure as the first palliative operation for congenital heart disease with severely reduced pulmonary blood flow (PBF). Although the ideal PBF provided by BTS is crucial for an uneventful postoperative course, particularly in neonates and infants with single ventricular physiology, there are no standardized criteria for selection of the shunt graft size and anastomosis site. Excess PBF results in acute distress of the systemic circulation, and insufficient PBF requires another BTS surgery. Adjustment of PBF is a definitive solution for these problems that occur with BTS use. Therefore, we developed a simple device to percutaneously control the shunt graft flow with a constrictor balloon connected to a subcutaneous port. The device provided good flow control by inflating and deflating the balloon ex vivo and in vivo for up to 3 months (in a canine model of replacement of the right carotid artery with a small graft wrapped with the device). This simple device could enable the regulation of the PBF through a small vascular graft and help prevent severe morbidity and mortality even in the clinical setting of BTS.

Key words: Blalock–Taussig shunt; small vascular graft; flow regulation

はじめに

鎖骨下動脈から肺動脈へ短絡路を外科的に作成するmodified Blalock–Tausig shunt手術(BTS手術)は,肺血流減少性疾患に対するfirst lineの姑息術として今なお重要である.

先天性心疾患の手術成績が飛躍的に向上した近年においてもシャント血管を通じる過大な肺動脈血流による体循環還流低下からのショック状態や,シャント血管の急性閉塞による術後急性期の有病率と死亡率は依然として高い1).これらの発生では,新生児,低出生体重児,単心室,胸骨正中切開アプローチ,および体外循環使用例等が危険因子とされる2, 3).また,過小な肺血流では,急性シャント閉塞や肺動脈発育不良に対するBTS手術の追加が必要となることがある.これらの問題の解決には,最適な肺血流量の確保するための適正なサイズの人工血管の設置が重要である1).近年のBTSでは,径3~5 mmのpolytetrafluoroethylene(PTFE)製の小口径人工血管(W.L. Gore & Associates. Inc., Flagstaff, AZ, USA)が使用されることが一般的ではあるが,そのサイズと吻合血管部位の選択に客観的指標はなく,多くの場合で術者や施設の経験に頼っているのが現実である.よって我々は,そのサイズと吻合部位にかかわらず誰もが容易にシャント人工血管の流量の調節を可能とする簡易装置を開発する発想を得た.

方法

人工血管流量調節バルーン装置の概要(Fig. 1

円筒形のバルーン(1 cm長,最大容量300 µL)とバルーン中央部に接続した抗屈曲構造エクステンションからなるもので,エクステンションのもう一端に皮下ポートを接続して使用する.素材はバルーン,エクステンションのいずれもポリウレタンを採用した.長期留置を考慮し,従来のポリウレタンに比し柔軟かつ耐久性や生体適合性を高めた.様々な樹脂硬度,形状,接合方法を組み合わせることにより,バルーンは膨張時に外側への圧力損失を防止するために円筒内側方向のみ膨張する物性と構造を有している.バルーンは円筒長軸に沿って配列されている.均一な内腔変化には可能な限りバルーンを複数のコンパートメントに分割する必要があるが,ポリウレタン溶着等の技術的困難性から最終的に3つのコンパートメントとなった.このため60~100 mmHgの加圧を加えた人工血管のバルーン膨張時の内腔は均一な三角形状となった.皮下ポートから生理食塩水を出し入れすることでバルーンを伸縮させ,内挿した人工血管内腔断面積の変化により流量を変化させる仕組みである.

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Fig. 1 Device overview

A 5-mm polytetrafluoroethylene vascular graft was inserted into the specially designed tube- and donut-shaped balloon connected to a subcutaneous injection port (upper panel). When saline is injected from the port, the balloon expands inward and the diameter of vascular graft is constricted (lower panel).

模擬循環回路内におけるバルーン伸縮時の圧–流量関係の測定(Fig. 2

本バルーン装置に内挿された径5 mmのPTFE人工血管を遠心ポンプによる閉鎖式模擬循環回路に接続し,回路に電磁流量計(Medtronic製BIO-PROBE TX 50P, Minnesota, USA)と圧力計(STOELTING製BLOOD PRESSURE DISPLAY UNIT, Illinois, USA)を組み込み,バルーン内容量を20 µLずつ変化させた時の圧–流量関係をプロットした.ここでの圧力(ΔP)は,本装置を装着した人工血管の前後での圧力の差と定義し,遠心ポンプの流量より規定された.

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Fig. 2 Ex vivo simulation circuit

Graft flow was controlled by a centrifugal pump and measured by a magnetic flow meter. Pressure was defined as a gradient between inflow (P1) and outflow (P2) of the graft.

生体内における本装置動作の確認

体重11.0±0.7 kgの雄ビーグル犬5頭を用いた.thiopental 20 mg/kgを静注後,気管内挿管を行い人工呼吸器で調節呼吸を開始し,術中はisoflurane 1.5~3.0%で麻酔を維持した.仰臥位で右総頚動脈を露出し,heparin 200 IU/kgを静注の後,本装置に内挿された長さ2 cmの径5 mm PTFE人工血管で置換した.本装置のエクステンションに接続した皮下ポートを頚部の皮下へ留置した.バルーン内容量の調節は,皮下に埋植したポートへ経皮的に刺入したヒューバー針を用いて行った.術前にCefazolin Sodiumを20 mg/kg静脈内投与し,術翌日から犠牲死までaspirin 10 mg/kg/day経口投与による抗凝固を行った.

本装置埋植直後に,バルーン内への生理食塩水注入の前後で超音波画像診断装置(日立メディコ社製Apron EUB7000HV, Tokyo, Japan)および14 MHzリニア形プローブ(日立メディコ社製EUP-L65, Tokyo, Japan)を用いて本装置接続遠位部頚動脈の血流速度の変化を測定した.また,バルーンを充満させた状態を3か月間維持した後にバルーン虚脱の前後で上記の血流速度の変化を観察した.この期間は第一期姑息術であるBTSから第二期手術へのおおよその待期期間を考慮して設定した.血流速度の変化を,本装置埋植直後でのバルーン注入前後,および埋植3か月後でのバルーン虚脱前後でそれぞれpaired T testで比較し,p<0.05を有意差ありと判定した.

標本摘出および肉眼的,組織学的検索

埋植3か月後に本装置を周囲の組織を含め一塊に摘出した.人工血管と本装置を,長軸に沿って切開し肉眼的に観察した後,10%ホルマリンで固定した.後日パラフィン包埋の後に切片を作成し,Hematoxylin–Eosin(HE)染色下に光学顕微鏡で観察した.

結果

模擬循環回路を用いた各バルーン容量における圧–流量関係(Fig. 3

バルーン容量を増加させていくに従い,圧–流量曲線は下方にシフトした(なお,最大容量の300 µLを注入しても,バルーンの形状により完全閉塞とはならなかった).本装置を未装着の径5 mm,径4 mmおよび径3.5 mm人工血管でも同様の計測を行った.径5 mmの人工血管の内挿ではバルーン内容量が140 µLの時に径3.5 mm, 120 µLの時に径4.0 mmの人工血管と同等の圧–流量曲線を得られた.

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Fig. 3 Flow–pressure relationship of the graft with the device

The balloon volume was changed by injecting 20 µL of saline using a microsyringe connected to the balloon. When 140 µL of balloon volume was given to the device constricting the ϕ5.0-mm graft, the flow-pressure relationship of the graft was reduced to the same curve as a ϕ3.5-mm graft without the divice.

イヌ生体内での本装置動作の確認(Table 1

埋植直後では,バルーン拡張でpeak systolic velocity(PSV)は151.1±100.2 cm/secから99.9±80.0 cm/sec, mean velocity(MV)は85.5±51.3 cm/secから51.6±39.5 cm/secへと速やかにかつ有意に減少し(p<0.05),良好な動作性を確認した.埋植後3か月間に渡ってバルーン容量を140 µLで維持した後の測定では,バルーン内生理食塩水の回収によりPSVは109.8±57.0 cm/secから171.2±98.3 cm/sec, MVは61.9±23.1 cm/secから97.9±53.8 cm/secへと数分以内に有意に増加し(p<0.05),本装置の動作性の維持を確認した.

Table 1 In vivo Doppler flow characteristic of the right carotid artery distal to the replaced graft equipped with the device
Balloon inflationImmediately after implantation3 months after implantation
%Change%Change
PSV (cm/sec)151±100100±80.0*−34.4110±57.0171±98.3#+54.3
MV (cm/sec)85.5±51.351.6±39.5*−41.061.9±23.197.9±53.8#+53.7
*p<0.05 vs balloon inflation (FF0D), # p<0.05 vs balloon inflation (+)

摘出標本の肉眼および組織所見(Fig. 4

本装置は線維状カプセルに包埋されていた.本装置をつけたまま人工血管を長軸方向へ切開すると,肉眼的に人工血管とバルーンの間には癒着や組織浸潤を認めなかった.また,HE染色による組織観察においても,人工血管とバルーンの間には癒着や周囲組織の侵入等の動作不良の原因となる所見を認めなかった.一方で,人工血管壁はPTFEに特有のスポンジ構造が保たれており,バルーン側からの細胞浸潤はなかった.また血管側には一般的に認める偽性内膜が形成されるのみであった.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(2): 154-159 (2016)

Fig. 4 Explanted device (3 months later)

There was no adhesion or tissue growth in the space between the graft (A) and the balloon (B): gross appearance (a) and microscopic view (b).

考察

本装置の開発研究で得られた有用な所見は以下の3つである.

第1は大動脈内バルーンポンピング等の臨床ですでに用いられている素材であるポリウレタンを用いて比較的単純な構造で本装置を作成できたことであり,ex vivoではバルーン容量の可変により他サイズの人工血管と同様の圧–流量関係が再現可能であった.第2は,本装置の生体内における埋植直後と3か月で良好な動作が確認できたことである.血管ドップラー検査による血流波形の評価では,3か月後のバルーン虚脱時においても,埋植直後と同様にバルーン内容の有無により血流が有意に変化すること,およびその血流調整が,皮下ポートを使った経皮的操作が可能であったことは注目に値する.第3は,埋植3か月後の摘出標本の観察では人工血管に構造的変化を与えることはなく,かつ,本装置バルーンと人工血管との間隙にバルーン動作に影響を与える組織の浸潤が生じていなかったことである.

本研究冒頭で述べた“BTS流量調整”の課題については,現時点では決定的解決法が産み出されていない.一般臨床ではBTS人工血管をチタン製止血クリップで部分狭窄させる方法が行われているが,流量の微調節は困難であり,その部位での人工血管損傷や血栓形成,また閉胸後の流量調整やクリップの除去は不可能であることから,限定的な解決法と言わざるを得ない.我々と同様な“特殊装置による調節”の報告が散見されるが,様々な問題から解決法として一般化していない.1980年代後半に東京女子医大のグループが“スクリューによるネジ送り機能で主肺動脈または人工血管周囲に設置したワイヤーループを絞る装置”を開発した4).3例のNorwood術におけるBTSの流量調整の臨床応用では,スクリュー調節器本体を腋窩付近の皮下に埋植し,径1 mmのドライバーを刺入して行われ,生存した1例では10日目まで血流調整が可能であったと報告している5).残念ながら,当時のNorwood手術の成績により数か月単位での動作の確認は得られていない.一方で,金属ワイヤーで直接人工血管を結紮する構造からの人工血管へのダメージ,止血クリップ同様のピンポイント狭窄による血栓形成の危険,そしてネジ送り構造シャフトと周囲組織との癒着による動作不全の危険がこの装置では懸念され,事実それ以降の報告は途絶えている.これらの課題の解決のため,本研究による開発品は人工血管に接する部分を1 cm長のポリウレタン製バルーンとし,“ピンポイントの狭窄”ではなく“一定の幅の人工血管の口径を変化させること”を目標とした.また長期間にわたる装置の動作性確保のため,人工血管と本装置との間隙への組織侵入を抑える構造とし,3か月後の摘出標本の組織学的検査で確認し得た.

2000年代になり,テキサス大学のグループから“スクリューによるトルク伝達ワイヤーが接続された向かい合う二つの凹型プラスチックによって、人工血管を挟む装置”の開発が報告された6).この装置は体外のモーターとトルクメーターに接続される複雑かつ大きな装置である.残念ながら鼡径動静脈シャントモデルを用いた急性実験6)と開胸BTSモデルでの2日間の実験での動作性確認のデータしか示されていない7).加えて特殊な装置が用いられていることから,動作不良時の原因検索と対応が困難と考えられ,誰もが使用できる方法としての臨床応用には疑問が残る.これに対し,我々の開発品は単純な構造を有するディスポーザブル型であり,問題発生時でも原因究明(回路からの生理食塩水リーク等)や交換が簡便であり,誰もが使用できる可能性がある.

本研究で提示した限界として以下の2点が挙げられる.第1に,頚部動脈を本装置装着の人工血管で置換したモデルを用いており,実臨床では存在しない状況である.よって,今後は鎖骨下動脈–肺動脈間を人工血管で接続するBTSモデルを用いて本装置の動作性を確認する必要がある.また,より小口径人工血管に対応するための実証も必要である.2点目として,バルーン膨張時の内腔変化の観点からの構造デザインの検討,および臨床応用の観点からは安全性,耐久性試験の検討等が必要であり,今後は製品化を見据えた改良を加えたい.

謝辞Acknowledgments

本研究の実施にあたり,実験動物の管理と手術準備等で上田敦子様,入谷明子様に御協力いただいた.ここに感謝の意を示す.

付記

本研究の一部は文部科学省科学研究費助成事業(26870721)による研究助成により実施された.

また,本研究の成果を平成26年9月24日に特許として国内出願した(特願2014-193286).

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