日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(5): 268-270 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.268

Editorial CommentEditorial Comment

18トリソミーにおける心臓手術の現状The Current Status of Cardiac Surgery in Patients with Trisomy 18

慶應義塾大学医学部小児科学教室Department of Pediatrics, School of Medicine, Keio University ◇ 〒160-8582 東京都新宿区信濃町35番地35 Shinano-machi, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan

発行日:2015年9月1日Published: September 1, 2015
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18トリソミーは,その80~90%に先天性心疾患を合併し,小児循環器医の関与はほぼ必須である.生命予後不良である18トリソミーにおいて,心疾患に対する手術介入を行うべきか否かについては未だに不明な点があるが,今回の江原らの研究1)を含め,国内外の手術症例が集積されつつある2–6).これらの研究は,心疾患および心外合併症がより軽度な症例で心臓手術が選択されやすいというバイアスを内包するものの,心室中隔欠損,動脈管開存などの左右短絡疾患については,心臓手術により心不全症状の改善,在宅医療への移行が得られること,肺動脈絞扼術などの姑息手術のみならず,心内修復症例が可能な症例も存在することを示している.

18トリソミーにおける心臓手術が躊躇される根拠は,1歳までの生存率が10%未満であること,その死因として中枢性無呼吸が最も多く,心疾患は早期死亡と関連しないという1990~2000年代の自然歴の報告7,8)に由来すると思われる.これらの対象症例の大半は生後数日以内に死亡していたが,本邦のKoshoらによって,生後早期に人工呼吸管理をはじめとする集学的治療が早期死亡を減少させることが報告され9),その後さらに在宅医療への移行を目的として,心疾患に対する手術治療が行われるようになった2–6).重篤な消化器合併症である食道閉鎖,気管食道瘻に対する修復手術も行われ,早期死亡の減少に寄与している10,11).18トリソミーという予後不良な疾患であるがゆえに,一律に治療を差し控えるという従来の方針は,個々の症例に応じて外科的治療まで考慮するという方針に変わりつつある.

このような状況の下,日本小児循環器学会心血管疾患の遺伝子疫学委員会は,2015年に学会評議員307名を対照に,「無侵襲的出生前遺伝学的調査(NIPT)と13,18,21トリソミーの心疾患治療の現状についてのアンケート」を行い,199名(65%)から回答を得た.調査結果は学会員用ホームページに公開されているので,参照いただきたい.18トリソミーおける心疾患治療方針について,最も多かった回答(選択式)は,「姑息手術まで行う場合がある.」(43%)であり,2番目に多かった回答は「心内修復術まで行う場合がある.」(22%)であった.すなわち,心疾患に対する治療として手術を選択する可能性が60%以上という結果であった.また,「手術までは行わないが,内科的治療まで行う場合がある.」(15%),「心臓については内科的治療のみ,心臓以外の手術については行う場合がある.」(13%)という回答がそれに続いた.従来提唱されていた,生命予後不良という観点から積極的な治療を行わない,すなわち「全例治療せず,自然歴にまかせる.」という回答は最も少なく7%であった.また,心疾患治療方針決定の際に最も重視する事由は,「保護者の希望」が最も多く56%を占め,次いで「在宅医療の可能性」が26%であった.しかし,心疾患の治療について,「実際に最も多いケースとして」という質問に対しては,「姑息手術まで行う場合がある.」が33%,「心内修復術まで行う場合がある.」は5%と,実際に心臓手術が行われる割合は約40%に減少していた.一方,「心臓については内科的治療のみ,心臓以外の手術については行う場合がある.」が32%まで増加しており,心疾患に対する治療の選択肢として手術を検討するものの,臨床の現場では,心疾患のみならず,心外合併症の有無,重症度などを考慮して個別に対応,あるいは葛藤している状況が推測された.近年,米国でも18または13トリソミーの診療経験をもつ小児医療従事者859名のアンケート調査が行われ,心臓手術(単心室疾患を除く)を家族に実際に提案する割合は,小児循環器科医では32%,遺伝科医では20%,新生児科医では7%であり,本邦と米国で,小児循環器医の心臓手術に対する意識に大きな相違はないようであった.また,心臓手術の決定に際して,保護者の希望を尊重する傾向は同様に認められた12)

18トリソミーに合併する心疾患は,心室中隔欠損,動脈管開存など,肺血流増加型疾患が多く,しばしば心不全に加え,高流量性肺高血圧の管理に難渋する.Van Praaghらによる18トリソミーの剖検報告では,25例中8例(32%)に肺動脈中膜肥厚,内膜増生が認められ,その8例中6例は生後2か月未満の症例であった.21トリソミーと同様,あるいはより早期に,非可逆的な肺血管閉塞性病変が進行する可能性が推測された13).近年,本邦においても田原らにより,18トリソミーの肺生検所見が報告された.生後20日から2か月の18トリソミー19例を対象に,肺動脈絞扼術時に採取した肺動脈組織では,肺小動脈中膜形成不全が21.1%,肺小動脈低形成が36.8%に認められた.また,絞扼術を行った日齢と心臓関連死の頻度は正の相関を示し,早期の閉塞性病変進行が示唆された14).中膜が低形成である肺小動脈においては,高肺血流による物理的なストレスに対して,内膜の線維増生が招来され,肺血管閉塞性病変に移行する機序が推測されている15).肺胞組織においては,63.2%に低形成の所見が認められ,術後挿管期間と相関していたことから,周術期の呼吸不全,肺気腫などの呼吸器合併症のリスクも高いことが考えられた14).さらに,先に述べた中枢性無呼吸の他,てんかん発作に伴う無呼吸もまれではなく,突然死を防ぐためには,心疾患のみならず,これらの合併症を鑑別し,呼吸中枢刺激薬あるいは抗てんかん薬の投与も考慮する必要がある10,16)

小児循環器科医は,18トリソミーの患者の心臓手術を決定する際に,家族に対して心内修復術を含めた心臓手術により在宅医療に移行できる希望のみではなく,呼吸器系,中枢神経系,消化器系合併症があり,手術による長期予後改善は不明であること,重度の精神発達遅滞に向き合う必要があることも説明しなければならない.心臓手術に関して,非指示的態度で家族の希望を尊重するという姿勢は大切であるが,18トリソミーという生命予後不良な疾患の受け入れに直面している家族に,さらに手術判断の責任という心理的負担をさらに負わせる結果になってはならない.江原らが,「家族との十分な話し合いの上,手術介入を含め,個々の症例の状況に応じた対応を行うことが重要である.」と述べているように1),小児循環器科医は,家族に対して,疾患についての情報,知識,経験に基づいた専門家としての見解を提供し,その意思決定を支援,支持する立場で信頼関係を築くことが必要であろう.そのような状況の下で選択された治療は,手術であれ,内科的治療であれ,家族が望み,納得する方向に帰着するのではないだろうか.

本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 江原英治,ほか:先天性心疾患に対して手術介入を行った18トリソミーの検討.日小児循環器会誌 2015; 31: 254–264

引用文献References

1) 江原英治,江上洋介,中村香絵,ほか:先天性心疾患に対して手術介入を行った18トリソミーの検討.日小児循環器会誌 2015; 31: 254–264

2) Graham EM, Bradley SM, Shirali GS, et al: Effectiveness of cardiac surgery in trisomies 13 and 18 (from the Pediatric Cardiac Care Consortium). Am J Cardiol 2004; 93: 801–803

3) 鈴木恵美子,大嶋義博,土肥善郎,ほか:13トリソミーまたは18トリソミーに対する開心術の経験.日小児循環器会誌 2008; 24: 546–554

4) Kaneko Y, Kobayashi J, Achiwa I, et al: Cardiac surgery in patients with trisomy 18. Pediatr Cardiol 2009; 30: 729–734

5) Kobayashi J, Kaneko Y, Yamamoto Y, et al: Radical surgery for a ventricular septal defect associated with trisomy 18. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2010; 58: 223–227

6) Maeda J, Yamagishi H, Furutani Y, et al: The impact of cardiac surgery in patients with trisomy 18 and trisomy 13 in Japan. Am J Med Genet A 2011; 155A: 2641–2646

7) Embelton ND, Wyllie JP, Wright MJ, et al: Natural history of trisomy 18. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed 1996; 75: F38–F41

8) Rasmussen SA, Wong LY, Yang Q, et al: Population-based analyses of mortality in trisomy 13 and trisomy 18. Pediatrics 2003; 111: 777–784

9) Kosho T, Nakamura T, Kawame H, et al: Neonatal management of trisomy 18: Clinical details of 24 patients receiving intensive treatment. Am J Med Genet A 2006; 140: 937–944

10) Kosho T, Kuniba H, Tanikawa Y, et al: Natural history and parental experience of children with trisomy 18 based on a questionnaire given to a Japanese trisomy 18 parental support group. Am J Med Genet A 2013; 161A: 1531–1542

11) Nishi E, Takamizawa S, Iio K, et al: Surgical intervention for esophageal atresia in patients with trisomy 18. Am J Med Genet A 2014; 164A: 324–330

12) Yates AR, Hoffman TM, Shepherd E, et al: Pediatric sub-specialist controversies in the treatment of congenital heart disease in trisomy 13 or 18. J Genet Couns 2011; 20: 495–509

13) Van Praagh S, Truman T, Firpo A, et al: Cardiac malformations in trisomy 18: A study of 41 postmortem cases. J Am Coll Cardiol 1989; 13: 1586–1597

14) 田原昌博,真田和哉,新田哲也,ほか:肺生検組織所見,臨床経過から考える18トリソミーの管理.日小児循環器会誌 2015; 31: 126–132

15) Tahara M, Shimozono S, Nitta T, et al: Medial defects of the small pulmonary arteries in fatal pulmonary hypertension in infants with trisomy 13 and trisomy 18. Am J Med Genet A 2014; 164A: 319–323

16) Kumada T, Maihara T, Higuchi Y, et al: Epilepsy in children with trisomy 18. Am J Med Genet A 2013; 161A: 696–701

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