日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(5): 265-267 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.265

Editorial CommentEditorial Comment

18トリソミーに関するエビデンスの蓄積Growing Evidence on the Management of Children with Trisomy 18

信州大学医学部附属病院遺伝子診療部Division of Clinical and Molecular Genetics, Shinshu University Hospital ◇ 〒390-8621 長野県松本市旭三丁目1番1号3-1-1 Asahi, Matsumoto-shi, Nagano 390-8621, Japan

発行日:2015年9月1日Published: September 1, 2015
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18トリソミーは,出生児3,500~8,500人に1人の頻度で発生し,ダウン症候群,22q11.2欠失症候群に次いで多い常染色体異常症候群である1).1960年の報告2)以降,厳しい生命予後と生存児における重度の発達遅滞のため,欧米では13トリソミーとともに,「診断がついたら延命のためのあらゆる医療行為の制限が推奨される」(Smith’s Recognizable Patterns of Human Malformation第4版3)まで)疾患と位置づけられた.日本においても,東京女子医科大学病院NICUから報告された新生児医療におけるMedical Decisionのクラス分けで,13トリソミーとともに「Class C:現在行っている以上の治療は行わず一般的養護(保温,栄養,清拭および愛情)に徹する」カテゴリーに分類され4),これが新生児医療現場に一定の影響力を持って浸透していったと思われる.1979年,2人の母親とユタ大学小児科Carey教授とで米国のサポートグループSOFT(Support Organization from Trisomy 18, 13, and Trisomy Related Disorders)が創設され,1994年に会員への大規模調査の結果が報告された.10歳以上の長期生存児,心臓手術を受けた児,予防接種が有害でないことが紹介され,成長曲線が試作された5).さらに,82%があやし笑いし,40%が経口哺乳し,5人が歩行器で移動し,年長児では言語理解や発語・ジェスチャーが可能になる場合があるなど,重度の発達遅滞を呈するが,生涯を通じて発達し続けることが示された6).サポートグループの活動や自然歴に関するエビデンスの蓄積により,先のSmith’s Recognizable Patterns of Human Malformationの第5版から,13トリソミーとともに,「診断されたら延命のための侵襲的治療の制限を真剣に考慮すべきである.しかし,親の感情と児の身体状況を考慮しなければならない」7)と大きく記載が変更されることになった.1990年代以降,世界各地でpopulation-based studyによる大規模な生命予後に関する調査が行われた.なかでも,Yorkshireで行われた調査に基づく報告では,生存出生34人中1年生存率0%,生存期間の中央値3日,主な死亡原因は無呼吸,治療中止であり,心疾患が死亡原因とされなかったことから,心臓手術は正当化されないとの結論が導き出された8).現在最も広く引用されているのは,米国のデータベースをもとに行われた過去最大規模の調査であり,1年生存率5.57~8.4%,生存期間の中央値10~14.5日,先天性心疾患の有無は生存に影響しないようだと報告された9).2000年,日本における初めてのサポートグループ「18トリソミーの会(http://18trisomy.com/)」が設立され,2003年9月には第1回公開セミナーが長野県立こども病院で開催された.同年会員を対象とした国内初の大規模臨床調査が行われ,得られた包括的かつ詳細な自然歴に関する臨床情報は各種学会で発表されるとともに,医療者・家族が共有できるリーフレットとして発表された.さらに,新生児集中治療の現場において,前述のクラス分けが浸透した結果,疾患名が独り歩きし,医療者の思考停止を招いたこと,限られた医師のパターナリズムにより方針決定がなされてきたことを受けて,2004年に「重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン」が発表された(http://jspn.gr.jp/info/INFORMATION.html).そこには,子どもの最善の利益にかなう医療を目指して,その個別の状況を考慮して,最新のエビデンスに基づき,医療スタッフと両親とが話し合うことの必要性が明記され,こうした診療姿勢は国内新生児医療施設に確実に浸透していった.

18トリソミー児への医療的介入の有効性に関して,少なくない施設で他の重症児同様の標準的新生児・小児医療を提供してきた日本を中心に数々のエビデンスが蓄積されてきた.2006年,心臓手術を除く標準的新生児集中治療を行っていた長野県立こども病院から,こうした介入により生命予後が改善すること(1年生存率25%,生存期間の中央値152.5日),主な死亡要因は先天性心疾患に基づく心不全,肺高血圧であることが報告された10).2013年,京都小児神経多施設共同研究会からは,長期生存児におけるてんかん発症に関する調査結果が報告され,64%がてんかんを発症し,うち57%において抗てんかん薬で発作が抑制されること,てんかん性無呼吸を呈する場合があり,呼吸中枢性無呼吸との鑑別を要することが明らかになった11).さらに,2014年には,長野県立こども病院と愛知県心身障害者コロニー中央病院との共同研究で,従来絶対的予後不良因子とされた食道閉鎖に対する積極的な外科的介入の有効性が報告された(根治術を受けた群の1年生存率は27%)12)

家族における心理社会的側面に関しても重要なエビデンスが報告されている.2012年,北米を中心としたサポートグループに属する18または13トリソミー児の親を対象に実施された調査によれば,99%の親が児を幸せな存在であると答え,98%が児の存在により自らの人生が豊かになったと答えた.他方,医療者からは,生きる価値がない(87%),苦しむだけの人生(57%),植物状態(50%),意味のない人生(50%)といった否定的な言葉を受けたと答えた13).「18トリソミーの会」が2003年に実施した調査の結果は,2013年に論文発表された.そこには自然歴に関する情報だけでなく,児の生き生きとした日常の姿や親の思いに関する記載も盛り込まれ,全体として親たちは児を育てることに対して前向きであり,児も生存する限り親や同胞と何らかの交流をし続けている様子が明らかになった14)

先天性心疾患および肺高血圧への医療的介入は,18トリソミー児の健康管理における最も重要な部分である.1990年以降,心臓手術に関する報告が散見されるようになり,2004年,初めてのまとまった調査結果が北米のthe Pediatric Cardiac Care Consortiumより報告された.その内容は,13トリソミー児とともに,多くは心臓手術を乗り越え,また術前の人工呼吸管理期間が短かった児が術後長期人工呼吸管理を要する可能性は低いというものであった15).日本からも重要な知見が次々と発信されるようになり,本誌上でも,富山大学医学部附属病院における18および13トリソミー児に対する心内修復術の経験から,児と家族における生活の質の改善のためには,姑息術のみでなく心内修復術も有効であることが示された16).これに対するEditorial Commentで「13/18トリソミーというだけで心臓手術禁忌と考えず,両親の希望,全身状態を考慮したうえで,手術適応を検討する必要があるのではないだろうか」とのメッセージが示された17).日本小児循環器学会では,平成17~19年度研究課題として「18および13トリソミーの心表現型・遺伝子型と予後」の調査が行われ,18トリソミー児135人のうち34人が手術を受けていたこと(姑息術23人,心内修復術6人),手術例が非手術例に比べて明らかに生存期間が長いことが報告された18,19).標準的新生児集中治療および心臓手術を行ってきた日本赤十字社医療センターからは,18および13トリソミー児に対して,PDAへの薬物療法と手術いずれも行われなかった時期,PDAへの薬物療法のみ行われた時期,いずれの治療も考慮された時期とで生命予後を比較し,いずれの治療も考慮された時期が最も良好であったこと20),18トリソミー児に対する多数の手術経験から心臓手術が先天性心疾患関連死の予防において有用であったこと21),VSD閉鎖術は生存期間の延長につながる妥当な治療であったことが報告された22).大阪府北摂地域では大阪医科大学を中心に,新生児科,小児循環器科,小児心臓血管外科,麻酔科が理想的な連携のもと,18トリソミー児の先天性心疾患に対し“肺動脈バンディングと動脈管結紮”,可能なら根治術という一貫したプロトコールで治療にあたっている.“肺動脈バンディングと動脈管結紮”後の累積5年生存率は80%,根治術後の生存率は100%と良好な治療成績を示しており,18トリソミーの先天性心疾患管理は,最適なタイミングの外科的介入により,長期生存,在宅治療,そして児への苦痛軽減を両立させる新たな時代に突入したといえる23)

江原論文は,こうした18トリソミー児の診療をめぐる歴史的変化の流れのなかに位置づけられる.大阪市立総合医療センターにおける,19年間46例の詳細な臨床的検討であり,2004年,おそらくは前述の「ガイドライン」を一つの契機として,輸液や酸素投与などの制限的治療から,手術介入により在宅移行が可能と考えられる場合には児の状態を考慮し,かつ家族の希望をふまえて,人工呼吸管理や心臓外科手術を含む医療的介入が行われるようになった.NICU入院中に在宅移行を目的に姑息術を行った14例中10例(71%)が在宅移行でき,1年生存率は29%であった.手術介入なしで退院後,心内修復術を行った2例は術後肺高血圧を呈することなく,経過良好であった.手術介入を行わなかった30例では,1年生存率は3%であった24).18トリソミー児の先天性心疾患管理に直面している小児循環器専門医,新生児科医を含む周産期・小児医療関係者にとってきわめて貴重な報告といえる.

18トリソミーは,13トリソミーとともに,標準的周産期管理,新生児集中治療,手術介入を含めた先天性心疾患管理が行われる施設もあれば,児適応の帝王切開を避け出生後も緩和的介入が標準的アプローチとなっている施設もあり,現場のスタッフにとっても,家族にとっても深刻な問題といえる.エビデンスに基づく医療を目指すべき現在の医療者は,まずは,江原論文をはじめ,新生児集中治療,心臓外科治療など自然歴に関するあらゆるエビデンス,さらに親の思いに関するエビデンスを受け止め,それを親と共有し,さらに児の身体状況をふまえ,継続的な話し合いを通じて児の最善を追求する姿勢が求められている.

本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 江原英治,ほか:先天性心疾患に対して手術介入を行った18トリソミーの検討.日小児循環器会誌 2015; 31: 254–264

引用文献References

1) Carey JC: Trisomy 18 and trisomy 13 syndromes, in Cassidy SB, Allanson JE (eds): Management of Genetic Syndromes. 3rd edition, Hoboken, Wiley-Liss, 2010, pp 807–824

2) Edwards JUH, Harnden DG, Cameron AH, et al: A new trisomic syndrome. Lancet 1960; 1: 787–789

3) Jones KL: Trisomy 18 syndrome, in Jones KL (ed): Smith’s Recognizable Patterns of Human Malformation. 4th edition, Philadelphia, WB Saunders, 1988, pp 16–19

4) 仁志田博司,山田多佳子,新井敏彦ほか:新生児医療における倫理的観点からの意志決定(Medical Decision Making)の現状.日新生児会誌 1987; 23: 337–341

5) Baty BJ, Blackburn BL, Carey JC: Natural history of trisomy 18 and trisomy 13: I. Growth, physical assessment, medical histories, survival, and recurrence risk. Am J Med Genet 1994; 49: 175–188

6) Baty BJ, Jorde LB, Blackburn BL, et al: Natural history of trisomy 18 and trisomy 13: II. Psychomotor development. Am J Med Genet 1994; 49: 189–194

7) Jones KL: Trisomy 18 syndrome, in Jones KL (ed): Smith’s Recognizable Patterns of Human Malformation. 5th edition, Philadelphia, WB Saunders, 1997, pp 14–17

8) Embleton ND, Wyllie JP, Wright MJ, et al: Natural history of trisomy 18. Arch Dis Child 1996; 75: F38–F41

9) Rasmussen SA, Wong LYC, Yang QY, et al: Population-based analysis of mortality in trisomy 13 and trisomy 18. Pediatr 2003; 111: 777–784

10) Kosho T, Nakamura T, Kawame H, et al: Neonatal management of trisomy 18: Clinical details of 24 patients receiving intensive treatment. Am J Med Genet 2006; 140A: 937–944

11) Kumada T, Maihara T, Higuchi Y, et al: Epilepsy in children with trisomy 18. Am J Med Genet A 2013; 161A: 696–701

12) Nishi E, Takamizawa S, Iio K, et al: Surgical intervention for esophageal atresia in patients with trisomy 18. Am J Med Genet A 2014; 164A: 324–330

13) Janvier A, Farlow B, Wilfond BS: The experience of families with children with trisomy 13 and 18 in social networks. Pediatr 2012; 130: 293–298

14) Kosho T, Kuniba H, Tanikawa Y, et al: Natural history and parental experience of children with trisomy 18 based on a questionnaire given to a Japanese trisomy 18 parental support group. Am J Med Genet A 2013; 161A: 1531–1542

15) Graham EM, Bradley SM, Shirali GS, et al: Effectiveness of cardiac surgeries in trisomies 13 and 18 (from the Pediatric Cardiac Care Consortium). Am J Cardiol 2004; 93: 801–803

16) 鈴木恵美子,大嶋義博,土肥義郎,ほか:13トリソミーまたは18トリソミーに対する開心術の経験.日小児循環器会誌 2008; 24: 38–46

17) 前田 潤:Editorial Comment 13トリソミーおよび18トリソミーに対する心臓手術の是非.日小児循環器会誌 2008; 24: 47–48

18) 前田 潤,山岸敬幸,新垣義夫,ほか:平成17~19年度研究課題報告 18および13トリソミーの心表現型・遺伝子型と予後.日小児循環器会誌 2009; 25: 216–220

19) Maeda J, Yamagishi H, Furutani Y, et al: The impact of cardiac surgery in patients with trisomy 18 and trisomy 13 in Japan. Am J Med Genet A 2011; 155: 2641–2646

20) Kaneko Y, Kobayashi J, Yamamoto Y, et al: Intensive cardiac management in patients with trisomy 13 or trisomy 18. Am J Med Genet A 2008; 146A: 1372–1380

21) Kaneko Y, Kobayashi J, Achiwa I, et al: Cardiac surgery in patients with trisomy 18. Pediatr Cardiol 2009; 30: 729–734

22) Kobayashi J, Kaneko Y, Yamamoto Y, et al: Radical surgery for a ventricular septal defect associated with trisomy 18. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2010; 58: 223–227

23) 根本慎太郎:心疾患への対応(心室中隔欠損の合併に“退院”を目標とした段階的心臓手術は成り立つのか?).櫻井浩子,橋本洋子,古庄知己(編):18トリソミー(子どもへのよりよい医療と家族支援をめざして).大阪:メディカ出版,2014, pp 87–91

24) 江原英治,村上洋介,中村香絵,ほか:先天性心疾患に対して手術介入を行った18トリソミーの検討.日小児循環器会誌 2015; 31: 254–264

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