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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 87-93 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.87

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胎児心エコーの基本綺麗な基本断面を出すポイントTechniques for Obtaining Clear Standardized Fetal Echocardiogram

福岡市立こども病院胎児循環器科Department of Fetal and Neonatal Cardiology, Fukuoka Children’s Hospital ◇ Fukuoka, Japan

発行日:2022年5月1日Published: May 1, 2022
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胎児心エコー検査は先天性心疾患の胎児診断と周産期管理方針を決めるうえで不可欠な検査である.胎児の位置や向きは常に変化するためプローブを当てる位置・動かし方は一定でなく,胎児診断のための基本断面を描出するには生後の心エコーと異なるテクニックが必要となる.胎児心エコー検査は主に水平断面スキャンをして心臓と両大血管を評価することが基本であるため,上達するには〈きれいな四腔断面〉〈観察しやすい四腔断面〉を描出するテクニックを習得するとよい.それらテクニックを利用して胎児心臓の〈きれいな基本断面〉を描出できるようになれば,小児循環器科医が持つ知識を利用してプローブの動かし方を少し変えるだけで複雑心奇形の診断も自信をもって行えるようになる.

Fetal echocardiography is an essential test for the diagnosis of congenital heart disease and perinatal management strategies. Because of the constantly changing position of the fetus, different echocardiography techniques are required to obtain the basic cross- sectional images necessary for diagnosis. Since fetal echocardiography is mainly based on horizontal cross- sectional scanning to evaluate the heart and its great vessels, learning the techniques for obtaining a “clear four-chamber view” and “easy-to-observe four-chamber view” is recommended to improve fetal echocardiography. By applying these techniques, sagittal and short-axis cardiac sections can be visualized, and echocardiography for complex fetal cardiac malformations can be performed with confidence. In this article, we explain the concepts in fetal echocardiography and the techniques for obtaining clear cross- sectional images.

Key words: fetal echocardiogram; fetal; congenital heart disease

はじめに

2006年に胎児心エコーガイドライン1)が策定され,胎児心エコー検査が普及した結果,多くの先天性心疾患は胎児診断されている2, 3).特に左心低形成症候群や大血管転位症などの出生直後より治療が必要な重症心疾患では,対応可能な施設で分娩して生後の治療を計画的に行うことで予後は改善すると報告されており,小児循環器科医は胎児心エコー検査の手技を習得して,胎児心疾患の重症度に応じた適切な周産期管理を行うことが求められている4–6)

胎児心臓の正確な評価には,胎児心エコー検査で〈きれいな基本断面〉を描出する必要があるが,他のエコー検査と同様に検者の技量により得られる画像には大きな差が出る.胎児心エコー検査では母体腹壁でプローブを操作して子宮の中で自由に動く胎児の心臓を観察するため,診断に必要な断面をきれいに描出するには,ある程度の知識と経験がないと困難である.

本稿ではこれから胎児心エコー検査を学ぶ医師と技師を対象に,〈きれいな基本断面〉を描出するために必要な考え方とプローブの動かし方を〈きれいな四腔断面の出し方〉と〈観察しやすい四腔断面の出し方〉の順で解説する.

胎児心エコー検査の基本

胎児では肺は水で満たされており,任意の方向から胎児心臓を描出できるため心臓CT検査のように胎児胸郭の水平断面をスキャンして心臓と大血管を評価する.具体的には,一定の手順で四腔断面(図1-①)を描出し,次はプローブを胎児の頭側へ動かすと左室から大動脈が起始する左室流出路断面(図1-②),さらに動かすと肺動脈,大動脈,上大静脈が一列に並ぶThree-vessel view(3VV:図1-③)が描出される.さらに頭側へ動かし大動脈と動脈管がV字型につながるThree-vessel trachea view(3VTV:図1-④)まで描出して心臓から両大血管と動脈管までを連続的に観察すれば,ほとんどの先天性心疾患の胎児診断は可能である7, 8)

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図1 胎児心エコー検査の基本断面

それらの基本断面をきれいに描出するために最初に修得することは,〈きれいな四腔断面〉を描出することである.小児循環器科医にとって難しいのは,胎動などのために心臓の位置や向きが常に変化することであり,胎動や胎位に関係なく〈きれいな四腔断面〉を描出する方法について解説する.

きれいな四腔断面とは

〈きれいな四腔断面〉とは胎児胸郭の正確な水平断面から得られた四腔断面のことであり,その確認は水平に走行する胎児肋骨の影を利用する.〈きれいな四腔断面〉(図2b)では肋骨の影はなく,超音波は肋間を通過するので心臓も明瞭に描出される.一方,胸郭に対して斜めの断面では,肋骨の縞状の影を認め,胸腔内も不明瞭となる(図2c).心臓も斜めに描出されているので心室や房室弁の大きさや位置は正確に評価できないために,大動脈縮窄症や総肺静脈還流異常などの軽度心室バランス異常や修正大血管転位症などの心臓軸の異常が特徴的な心疾患を見逃す原因となる.〈きれいな四腔断面〉を描出するには,肋骨の影に注意して正確な水平断面であることを確認しながら検査を行うことが大切である.

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図2 きれいな四腔断面の判断方法

a)胎児肋骨は水平に走行しているので肋骨の縞状の影の有無で正確な水平断面を確認する.b)正確な水平断面から描出した四腔断面では肋骨の影はなく,心臓は明瞭に描出される.c)肋骨の縞状の影(⇒)を認める場合は胸郭に対して斜めの水平断面である.

プローブ操作のポイント

初心者はプローブを単純に母体腹壁に沿って動かす傾向にあるが,その操作ではプローブの向きと心臓位置がずれるので意図した断面は得られず,また画面から心臓が見えなくなることもあり胎児心エコー検査が難しく感じる原因の一つである(図3a).胎児心エコー検査では〈プローブを移動+進行方向のエッジに力を加える〉操作を行うとよい(図3b, 4).進行方向のエッジに力を加えることでプローブの向きが変わるので,画面を見ながら心臓が画面から消えないようにプローブ先端に力を加えながら動かすと目的の断面を得ることができる.注意点は,経胸壁心エコー検査の様にプローブを軽く握り先端に力を加えない持ち方ではこの操作は難しいため,プローブをしっかり握り,先端にもある程度の力を加えて操作することも必要である.

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図3 胎児心エコー検査でのプローブの動かし方のポイント

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図4 きれいな四腔断面の描出に必要なプローブ操作(1)

四腔断面を出す手順

ここで最も重要なことは必ず一定の手順で四腔断面を描出することである.偶然に得られた四腔断面から検査を続けても胎児心エコー検査技術は上達しない.ここで述べる基本的な方法は胎児心エコーガイドライン(第2版)と同じであるが,それぞれの手順に大切なポイントがあり,それらを正確に行うことで胎位や胎動に関係なく〈きれいな四腔断面〉を描出できる.

  1. (1)胎児のポジションをイメージする
    • 最初は弱拡大で母体腹壁に上下と左右に広くプローブを動かして,胎児の胸郭の向きや頭と心臓の位置を確認する.また胎児の姿勢,例えば母体に対して頭が深い,浅いなど把握すると次の操作がしやすくなるが,慣れないうちはぬいぐるみなどを横に置くと胎児をイメージしやすくなる.
  2. (2)胎児の正確な長軸断面を描出する
    • 胎児の位置を確認したらプローブを母体腹壁に当て,中央に心臓,右に頭となる長軸断面を描出する.ここでのポイントは正確な長軸断面を描出することであり,画面で頭と心臓の深さが同じで,胸郭が画面で水平になること,肋骨または椎体の影が心臓を垂直に貫くことで確認できる(図5).初心者にとって正確な矢状断面の描出は難しく感じるかもしれないが,前述した〈プローブを移動+進行方向のエッジに力を加える〉操作をして正確な長軸断面を描出する.
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図5 胎児胸郭の長軸断面と水平断面

  1. (3)プローブを反時計回転方向に90度回転させる
    • 正確な長軸断面を描出すればプローブを反時計回転方向に90度回転させると水平断面が得られる.このときに肋骨の縞状の影があれば,プローブを時計回転or反時計回転して微調整して肋骨の影が消えれば正確な水平断面となる(図6a).また肝臓または大動脈弁が含まれる時は胎児の長軸方向にプローブ移動または傾けると(図6b)〈きれいな四腔断面〉となる.
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図6 きれいな四腔断面の描出に必要なプローブ操作(2)

検査中に胎児が大きく動いた場合や微調整しても〈きれいな四腔断面〉が描出できないときは上記(1),(2)の操作を繰り返し行う.最初は手間がかかると思うかもしれないが,一定の方法で〈きれいな四腔断面〉を描出することを続ければ,胎位や胎動に関係なく四腔断面をきれいに描出できるようになる.

観察しやすい四腔断面の描出方法

流出路から3VTVの描出は,心尖部が画面上向きの四腔断面(図7a)の場合はプローブを頭側に傾けるのみで簡単に描出できるが,心尖部が下向き(図7b)ではプローブを頭側へ平行移動しながら腹側へ傾ける複雑な操作が必要である.また心臓の前に椎体や肋骨があるので,経験豊富な医師でもきれいに基本断面の描出は難しい.

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図7 観察しやすい四腔断面

そのために〈きれいな四腔断面〉を描出しても心尖部が下向きの場合は,プローブを操作して心尖部が上向きになる〈観察しやすい四腔断面〉にすれば,簡単に〈きれいな基本断面〉を描出できるので,次は心尖部が画面上向きの〈観察しやすい四腔断面〉の出し方について解説する.

ここで用いるテクニックも〈プローブを移動+進行方向のエッジに力を加える〉操作である.心尖部が下向きの四腔断面(図8)を例にとると椎体の影のために四腔断面から心臓の観察はできないが,プローブを胎児の右へ移動しながら先頭のエッジに力を加える(図8-①)と椎体の右側から超音波が胸腔内に入るので心尖部が下向きの四腔断面(図8-②)となる.また反対方向に動かせば心尖部が横向きの四腔断面(図8-③④)となる.この断面から流出路から3VTVを観察してもよいが,さらに大きくプローブを動かせば心室中隔が上向きの〈観察しやすい四腔断面〉となり基本断面を簡単に描出できる.プローブを動かす距離や力の加え具合は画面を見ながら調整するが,母体腹壁を広く使用することがポイントである.

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図8 観察しやすい四腔断面の出し方

①の方向に動かすと心尖部下向きの四腔断面が得られる.③の方向に動かせば心室中隔が横向きの四腔断面が描出される.

この操作ができるようになれば,プローブの移動やエッジの力加減から心臓を好きな方向から観察できるようになっている.図9に示すように心室中隔,房室弁などの心内構造物や大血管は観察しやすい向きがあるので,それを覚えておくと心臓と大血管をより詳細に観察できるようになる.

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図9 心室中隔の向き別の観察項目

最後に

胎児心エコー検査で〈きれいな基本断面〉を描出するための考え方とプローブの動かし方について解説した.正常心臓の胎児心エコー検査を行えるようになれば,心疾患症例ではその解剖学的特徴にあわせてプローブ操作を少し変えるのみで特徴的な所見を描出できるようになる.胎児心エコー検査を上達するには,本稿で述べたことを注意しながら正常胎児の検査を多く行うことである.心疾患症例を経験したときは,動画を保存して出生後の所見と比較や,胎児に詳しい医師に動画を見てアドバイスをもらうなど一例一例フィードバックするとより早く上達できる.本稿が,皆様の胎児心エコー検査手技の向上に役に立つことを期待している.

利益相反

本論文において開示すべき利益相反はありません.

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