Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 75-86 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.75

ReviewReview

心臓の成り立ちと前駆細胞Formation of the Heart and Progenitor Cells

広島大学大学院医系科学研究科心臓血管生理医学教室Department of Cardiovascular Physiology and Medicine Graduate School of Biomedical and Health Sciences Hiroshima University ◇ Hiroshima, Japan

発行日:2022年5月1日Published: May 1, 2022
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心臓は,心筋細胞によって構成される心臓原基の前後軸に沿って流出路–心室–心房の区画化がなされ,その後にその区画化に従った心筋細胞の移動や増殖を経て形成されるというモデルが提唱されてきた.しかし,20年程前に心臓原基の内側に二次心臓領域と呼ばれる心臓前駆細胞の存在が報告されて以来,その考え方を大きく変えてきた.さらに近年,単一細胞のトランスクリプトーム解析によって,中胚葉が形成される時期から,解剖学的に区分された各領域を形成する細胞の運命が順次決定される可能性が示され,さらに変貌を遂げようとしている.つまり,中胚葉が形成されて胚の前方中央へと移動して行く間に細胞の運命が決定され,内外側に沿って性質の異なる予定心臓領域を配した心臓原基が形成される.その一部が形態的変化に伴って前駆細胞のプールとして残存していき,流入路および流出路から心臓へと進入形成する細胞を供給しながら心臓が形成されていく一連の細胞の流れが示されてきた.本稿では,それらの知見を加えた心臓形成モデルの構築を試みる.

An early model of heart formation suggested that the heart is sequentially formed through the anatomical compartmentalization of the cardiac primordium along the anteroposterior axis, from the outflow tract to the atrium. However, this model has drastically changed since the proposal 20 years ago of the secondary heart field, where cardiac progenitor cells exist on the medial side of the cardiac primordia. Recently, transcriptome analyses of single cells have shown that the fate of each anatomically segmented region may be determined in a different spatial and temporal order depending on the timing of mesoderm formation, thereby prompting further refinement of the model. Cell fate is determined by mesodermal cell migration to the anterior part of the embryo to form the cardiac primordium, including designated cardiac regions, along the mediolateral axis. The heart is formed when a portion of the cardiac primordium changes morphologically and remains as a pool of cardiac progenitor cells supplying the inflow and outflow tracts. The behavior of cells from the progenitor pool during heart formation is now better understood. This review evaluates recent findings and provides an updated model of heart formation.

Key words: cardiomyocytes; heart development; progenitors

はじめに

心臓はからだの中で最初に機能する器官で,他の器官へ血液を供給するためのポンプの役割を果たす.心臓発生における形態形成過程は非常に複雑で高度に調節されており,さまざまな形態形成過程に関わる遺伝子の異常は先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)の要因となる1–5).近年の内科的,外科的治療の進歩によって,CHDを持つ子供のかなりの割合が成人まで成長するようになってきたが,心不全を発症する傾向が強いことが報告されている6, 7).形態形成過程に関わる遺伝子は,心筋の分化や維持にも機能を果たすことが示されており,出生時の形態の異常とその後に見られる心機能の低下との間にはなんらかの関連性が予想される.心臓発生の理解は,CHD患者の原因となる遺伝的な背景を類推し,CHD患者の成長・加齢に伴う病態の変化に対処して治療する戦略を立てていくための一助となるだろう.

21世紀に入ってから,ニワトリ胚を用いた細胞標識実験やマウスを用いた遺伝学的な細胞系譜解析で,心臓前駆細胞が増殖・分化して心臓が形成されるまでの多くのことが明らかとなってきた.さらに,単一細胞レベルのRNAseq注1解析から得られた情報を元にしたトランスクリプトーム解析がなされ,心臓原基を構成する細胞の間で転写される遺伝子の発現プロファイルが既に異なっており,将来寄与する心臓の領域や分化段階を反映した特徴づけによっていくつかの細胞群に分類できる可能性が示されてきた.そして,当初全ての心臓を構成すると考えられていた心筋の分化マーカーを発現する従来の心臓原基に,その周囲の前駆細胞領域から供給された心筋細胞が加わりながら心臓が形成される過程の大枠が理解されようとしている.本総説では,歴史を振り返りながら最新の心臓形成過程の知見について概説する.

心臓の形態形成過程と二次心臓領域

心臓は主に中胚葉の一部から構成される.原腸形成(gastrulation)では,まず,胚盤葉上層(epiblast)の表面に形成された原始線条(primitive streak)の前方に原始結節(primitive node)ができる.原始結節では数種類のシグナル伝達物質が作られ,それによって周囲の細胞が誘引されるとともに細胞間結合が弱められて,層の下へと陥入(invagination)する.胚盤葉下層(hypoblast)に達した細胞群は内胚葉(endoderm)となり,その他の細胞群は互いに弱く接着した状態の中胚葉(mesoderm)を形成し,胚盤葉上層に残存する細胞群は外胚葉(ectoderm)となる.形成された中胚葉の細胞は胚体の前方へと移動し,胚体外組織と境をなす前方端で馬蹄形の細胞塊となって心筋特異的遺伝子を発現するようになる.これが心臓原基(cardiac crescent)である.

心臓原基は,心筋特異的遺伝子を既に発現する領域として認識され,心臓原基の前後軸に沿って流出路–心室–心房の区画化がなされ,その後にその区画化に従った細胞の移動や増殖を経て形成されるというモデルが提唱されてきた8)Fig. 1).最近の研究によって,心臓へと加わるタイミングや領域の異なる2つの前駆細胞集団,一次心臓領域(first heart field: FHF)と二次心臓領域(second heart field: SHF)から構成されることが示されてきた.一次心臓領域の前駆細胞は主に左心室に寄与し,二次心臓領域は右心室と流出路に,そして心房や中隔は両領域から寄与するとされた1–3).二次心臓領域は,当初,頭部形成に伴って前方へ移動した咽頭弓中胚葉(pharyngeal mesoderm: PM)や臓側中胚葉(splanchnic mesoderm: SM)が,原始心筒(heart tube: HT)形成期に主に流出路側から心臓へと流入して流出路や右心室を形成することが示され,この心臓に流入する咽頭弓や臓側中胚葉が前方心臓領域(anterior HF: AHF)として定義された9–11).その後,IsletIsl)-1遺伝子の発現ならびに発現細胞の系譜解析により,元来心臓原基と考えられていた領域の内側に心筋特異的遺伝子を発現していない領域が存在し,やがてAHFである臓側中胚葉や咽頭弓中胚葉となっていき,その一部が心臓形成期に心臓内へと流入し,流出路,右心室,そして心房に寄与することが示された.そして,一連の細胞領域が二次心臓領域と呼ばれるようになった12).これらの結果から,心臓原基の内側に咽頭弓および臓側中胚葉を形成し,その一部が原始心筒形成期に流出路側から心臓へと流入して流出路から右心室にかけて,もしくは流入路から心臓へと流入して心房を構成する二次心臓領域と呼ばれる前駆細胞が存在すると考えられるようになった.ただ,二次心臓領域の流入路への直接の寄与については,未だ議論の余地が残されている.二次心臓領域の発見以降,元来心臓原基と考えられていた領域が一次心臓領域と便宜的に呼ばれるようになり,一次および二次心臓領域を含めた領域が心臓原基として認識されるようになってきた(Fig. 2).

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 75-86 (2022)

Fig. 1 Old model of heart development

In mouse, mesodermal cardiogenic precursors form the cardiac crescent (left panel), which is patterned along the anterior-posterior axis to form specific segments of the linear heart tube. The linear heart tube (middle panel) forms the various regions and chambers of the looped and mature heart. Corresponding days of mouse embryonic development (E) are indicated. This illustration is modified from Fig. 1 of Srivastava et al.8) A, atrium; AS, aortic sac; AVV, atrioventricular canal; CT, conotruncus; LA, left atrium; LV, left ventricle; RA, right atrium; RV, right ventricle; V, ventricle

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Fig. 2 A recent model of the heart development

In mouse, the cardiac crescent (CC) is formed with the second heart field (SHF) lying medial to the first heart field, which was formerly thought of as the CC (right panel). The heart tube (HT), shown from front (upper middle) and lateral (lower middle) views, is formed. The SHF migrates anteriorly and consists of splanchnic (SM) and pharyngeal mesoderm (PM). The sinus venosus progenitor (SVP) appears in the vicinity of the venous pole of the HT. As indicated in the dotted box, cells of the SVP are scattered in the mesenchymal cell mass (MCM), which also includes the proepicardium (PE). The looped heart tube is compartmentalized with the right ventricle (RV) and the outflow tract (OFT), both of which are derived from the SHF, as well as the left ventricle (LV) and atrium (A), which arise from the FHF. The SHF in the subpharyngeal mesoderm (SPM) is characterized by several core properties, such as continued proliferation.

二次心臓領域は心臓前駆細胞で構成されており,心筋細胞,内皮細胞,平滑筋細胞,および線維芽細胞に分化することができる高い増殖性と多能性を有しているとされる13, 14).心臓原基の内側を構成していた二次心臓領域は,やがて咽頭中胚葉の中核部に未分化性が維持される集団(前駆細胞プール)を構成し,原始心筒がルーピングしながら伸長して拡張し,原始的な心室を形成するための細胞を継続的に供給する15).この二次心臓領域の前駆細胞はIsl1の他に,Fibroblast growth factorFgf)-8Fgf-10といった増殖因子をコードする遺伝子を発現し,転写因子であるT-boxTbx)1を発現するようになって流出路から右心室へと移動して行く14–16).一方,心臓の背側に位置する臓側中胚葉から流出路へと移動していく細胞を供給する前駆細胞プールが予想されていたが,その本体が心臓の静脈極の背側正中に位置する可能性が示された17).この細胞集団については後述するが,こういった前駆細胞プールが胚体内にあり,さまざまな組織への細胞の供給源となって臓器や胚体の成長を支えていると考えられる.

一次心臓領域と静脈洞原基

一次心臓領域は,二次心臓領域に対して便宜的に呼ばれるようになったのが始まりで,従来の固有心筋に既に分化した細胞領域である心臓原基を指していた(Fig. 11–3).この領域は,Myosin light chainMlc)-2aなどの心筋を構成する因子をコードする遺伝子に加えて,心筋への分化を制御するGATA-binding transcription factorGata-4, NK-2 transcription factor-related, locus 5(Nkx2.5), Heart And Neural Crest Derivatives ExpressedHand)-1などの固有心筋特異的転写因子をコードする遺伝子を発現することが知られていた.当時は,心臓形成初期に心筋分化マーカーを発現した細胞が原始心筒内で増殖して,左心室を作るという理解がなされていた.その一方で,流入路側からも細胞が流入して心臓を形成することを示す実験結果が報告され,一次心臓領域の前駆細胞の存在が予想されるようになってきた18)

転写因子をコードするTbx5遺伝子が心筋分化マーカーより広範囲に発現し,Tbx5を発現した細胞が左心室から心房を構成するようになることが知られていることから,Tbx5発現領域が前駆細胞を含んだ一次心臓領域とされている.しかし,原始心筒が形成された後にも心臓内に発現が残存するため,一次心臓領域の前駆細胞は区別できていなかった19).また,NaチャネルをコードするHyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gatedHCN)-4遺伝子は,これまで洞房結節を含む心臓刺激伝導系だけに発現すると思われていたが,その発現が心臓原基から原始心筒の左心室から心房の領域にかけて一過的に観察され,その発現細胞が左心室心筋に寄与することが報告され,一次心臓領域の初期の分化マーカーとしても同定されてきた20)

静脈洞(sinus venosus: SV)は,魚類などでは心房へと流入する静脈血が一時的に滞留する膨大部であったが,ヒトでは右心房の一部となってその後壁を構成すると共に冠状静脈洞を形成し,一部が洞房結節(sinoatrial node)へと分化していく.静脈洞は静脈極腹側の細胞塊の一部の前駆細胞群で構成される静脈洞原基から形成されることが示されてきたが,心臓原基に於ける静脈洞へと寄与する前駆細胞の存在については不明な点が多かった.Wingless-type MMTV integration site family(Wnt)シグナルが心筋の分化過程に関与することが知られていたことから,Wntリガンドのデコイ受容体として知られるSecreted frizzled-related proteinSfrp)-5遺伝子の発現と発現細胞の系譜解析を行い,一次心臓領域と静脈洞の前駆細胞が共通の細胞群として標識されることが示された17).心臓原基においてSfrp5遺伝子の発現する領域は,心筋へと分化した領域の背側で二次心臓領域の外側に位置し,未分化性細胞を含む一次心臓領域のマーカーであるTbx5を発現する領域と重複するが,二次心臓領域のマーカーであるIsl1遺伝子の発現領域と重ならないことが明らかとなった.その後,原始心筒が形成されてルーピングが始まる頃の静脈極にある間葉系の細胞塊にSfrp5遺伝子が発現し,同じ時期に発現する静脈洞のマーカーで転写因子をコードするTbx18遺伝子の発現領域と重なることが示された.また,Sfrp5遺伝子を発現した細胞のSfrp5-Creマウス注2を用いた系譜解析を試みたところ,Sfrp5遺伝子が,静脈洞,左右両心房,房室管,左心室と流出路に寄与する細胞にも発現することが明らかとなった.これらの結果から,Sfrp5遺伝子を発現した細胞は,一次心臓領域および静脈洞に寄与することが強く示唆された.

一方,E7.5の心臓原基では,Sfrp5遺伝子の発現領域とIsl1遺伝子の発現領域は重ならないにもかかわらず,Sfrp5遺伝子を発現した細胞が流出路に寄与することが観察されたため,Sfrp5遺伝子発現細胞とIsl1遺伝子発現細胞との関係性について検討した.Sfrp5-Creマウスとレポーターマウスを交配させた胎仔において,Sfrp5遺伝子を発現した細胞が標識されるレポーター遺伝子産物(GFP)とIsl1タンパクの発現を2重免疫染色法で解析したところ,咽頭弓と心臓の背側の臓側中胚葉と右心室から流出路にかけて見られるIsl1タンパクが,GFPの発現する心臓の背側の臓側中胚葉から流入路の尾側にかけて共局在することが明らかとなった.これに対し,Isl1-Creマウスとレポーターマウス,さらにSfrp5-YFPマウスを交配させて,Isl1遺伝子を発現した細胞が標識されるレポーター遺伝子産物(RFP)とSfrp5の発現を示すYFPの発現を2重免疫染色法で解析した場合には,RFPが咽頭弓と心臓の背側の臓側中胚葉と右心室から流出路にかけて見られたのに対し,YFPは流出路と接する心臓の背側の臓側中胚葉にしか認められず,共局在が見られなかった.これらの観察結果から,Sfrp5を発現した細胞がIsl1を発現するようになることが示唆された.さらに,心臓の流入路の背側正中に位置するSfrp5を発現する細胞群の一部にIsl1を共発現する細胞が少数存在することが明らかとなった.つまり,この心臓の流入路の背側正中に位置するSfrp5を発現する細胞群は心臓の背側に位置する臓側中胚葉の細胞の供給源であり,二次心臓領域の前駆細胞プールとなっている.この前駆細胞の一部がIsl1遺伝子を発現すると共にSfrp5の発現を消失していき,頭側へと移動し,流出路へと寄与すると考えられる.

以上の解析結果からSfrp5の発現細胞は,主に一次心臓領域(二次心臓領域の一部を含む)の前駆細胞と静脈洞へと分化する前駆細胞が含まれると考えられる(Fig. 2).しかし,後述するように心臓原基が形成される頃までには心臓の各予定領域へと寄与する前駆細胞が既に細分化されているとされる.そうならば,心臓内へ侵入して主に固有心筋へと分化する前駆細胞群と静脈洞を構成する特殊心筋へと分化する前駆細胞群はすでに性質が異なる細胞群として識別可能なのかもしれない.残念ながら,今のところ2つの前駆細胞を区別する手段はない.いずれにせよ,固有心筋の前駆細胞は静脈極の腹側(ventral)と背側(dorsal)正中に集合していき前駆細胞プールsinus venosus progenitor(SVP)となる(Fig. 3).静脈極の腹側の前駆細胞プールは,左心室から心房にかけての心筋細胞が供給し,遅れて静脈洞の特殊心筋細胞が供給するようになる.静脈極腹側の前駆細胞プールが含まれる間葉系の細胞塊には心外膜の前駆細胞も散在し,心外膜を形成していく.一方,静脈極背側正中の前駆細胞プールは,Isl1遺伝子を発現する様になって頭側方向へと移動していき,その一部が流出路の尾側から心臓内に流入して流入路を構成する臓側中胚葉の供給源となる.咽頭中胚葉の中核部をなす前駆細胞プールと共に流出路を形成していく.このように,Sfrp5を発現した心臓の前駆細胞は,右心室以外の心臓へと細胞へと寄与していくと考えられる.

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Fig. 3 A new model of the heart development

In mouse, the mesoderm, which is formed through gastrulation, migrates anteriorly and forms the cardiac crescent at embryonic day (E) 6.5. The cardiac crescent is divided into three fields, including the first heart field (FHF: orange), which mainly forms the left ventricle (LV), the atria (A), and Sinus venous (SV), the secondary heart field (SHF: green), which forms the outflow tract (OFT) and the right ventricle (RV), and the Juxta-cardiac Field (JCF, light blue), which contributes to the epicardium. Cardiogenic mesodermal cells for these heart fields appear to be determined based on the timing of when the mesoderm is formed during their migration period. Thereafter, a portion of the FHF begins to differentiate into cardiomyocytes (red) at E7.5. During head formation, the FHF migrates anteriorly to form the heart tube (HT), and some maintain an undifferentiated state at the venosus pole of the HT at E8.5 to form progenitor pools, the dorsal venous primordium (dSVP), and the ventral sinus venous primordium (vSVP) at E9.5. A portion of the dSVP, which begins to express Isl1, consists of the splanchnic mesoderm (yellow) and forms the OFT. The vSVP eventually differentiates into specialized myocardium for the Sinus venosus (SV). The vSVP is within the mesenchymal cell mass (MCM), which is located in the vicinity of the venous pole of the HT. The MCM also contains the epicardial primordium (PE), which is derived from the JHF, and exits to become the epicardium at E9.5. In contrast, the SHF migrates anteromedially to form the splanchnic mesoderm (SM) and pharyngeal mesoderm (PM). The SM on the lateral side of the HT is gradually substituted with cells from the dSVP (yellow). A portion of the SHF in the subpharyngeal mesoderm (SPM), which has core properties such as continued proliferation, supplies cells that contribute to the OFT.

中胚葉から心臓原基へ

ここからは,心臓原基が形成されるまでの過程に遡って,最近の知見について述べてみたい.初期に形成された中胚葉細胞が心血管系に寄与することは,Mesoderm posteriorMesp1遺伝子の発現および発現細胞の系譜解析より明らかとなってきた21)MesP1遺伝子は,沿軸中胚葉に発現して体節の形成に重要な働きをするMesp2遺伝子とともにbHLH型の転写因子をコードすることが知られ,その発現は,初期の中胚葉に一過的に見られ,前方へ移動する間に消失する.一方で,Mesp1-Creマウスを用いた細胞系譜解析で,Mesp1遺伝子を発現した細胞は胚体の前方を形成する中胚葉に寄与し,心臓や血管系の他,咽頭弓から前肢の一部に至る中胚葉由来の組織へと分化することが明らかとなった.また,Mesp1とMesp2遺伝子を同時に欠損(KO)させると中胚葉が形成不全となり,心臓原基が形成される前に胚発生が停止し,Mesp1/2重複KOの胚性幹(Embryonic stem, ES)細胞を注入することによって作製されたキメラマウス胚では,Mesp1/2重複KOの細胞だけが心臓へと寄与しないことが明らかとなった.これらの実験から,Mesp1遺伝子は心臓を形成するための必須な転写因子で,Mesp1を発現した初期の中胚葉から心臓が形成されることが示唆されてきた.

最近,初期に形成される中胚葉に発現が見られるMesp1遺伝子の発現期間より短い期間に発現するForkhead BoxFox)-A2遺伝子の発現と発現細胞の系譜解析によって,最も初期に形成された中胚葉から心室が形成されることが示された22)FoxA2は,胚体内胚葉(definitive endoderm)特異的に発現する遺伝子で,別名Hepatocyte nuclear factorHnf)-3βとしても知られる.原始結節形成時に周辺の胚盤葉上層に一過的に発現するため,その時期に形成された中胚葉にも発現が認められる.この最も初期に形成されたFoxA2を発現する中胚葉は,前方に移動して心臓原基の頭部側の一部を形成し,やがて心室にのみ寄与することが明らかとなった.つまり,中胚葉の形成される時期を反映して心臓の形成される領域が決まっている可能性が示唆された.

また,遺伝学的なフェイトマッピングの手法を併用したRNAseq解析で,Mesp1遺伝子を発現した中胚葉が,心臓を構成する細胞へと分化することが決まっている心臓前駆細胞へと速やかに移行することが示された.各時期のMesp1遺伝子を発現した細胞の系譜解析を行った結果,クロマチンリモデリング因子として知られるSWI/SNF-related matrix-associated actin-dependent regulator of chromatin subfamily D member(Smarcd)-3もしくはBrg1-Associated Factor, 60-KD, C(Baf60c)が既知の心筋前駆細胞マーカー(Nkx2-5, Tbx5, Isl1)より先に発現し,Smarcd3を発現した細胞が最も初期の心臓前駆細胞集団を示す可能性が示された23).さらに,各時期の胚体内での位置を明確化させた単一細胞に対するRNAseq解析から,マウス胚の胎生(E)7.25日まではほぼ同質の心臓前駆細胞で,E7.25からE7.5の間に分化が進行するにつれて一次および二次心臓領域を反映した2つのグループへと識別できるようになることが示唆された24, 25)

一方Ivanovitchらは,単一細胞のトランスクリプトーム解析と遺伝子系統の追跡を併用することで,これまで考えられていたよりも早い段階で心臓の各予定領域へと寄与する各前駆細胞へと細分化されることを示した26).原始線条を離れた最初の心臓前駆細胞は左心室に寄与し,その後すぐに右心室の寄与する心臓前駆細胞が移動し,続いて異なる領域からそれぞれ流出路と心房の心臓前駆細胞が移動していき,心室に寄与する前駆細胞は流出路や心房を形成する細胞とは異なる分子的特徴を持つとした.これらの解析から,中胚葉は形成直後に速やかに心臓前駆細胞へと移行し,中胚葉が形成される時期を反映して,その後心臓を構成するそれぞれの領域へと分化する前駆細胞へと運命が決定され,心臓原基を構成していくと考えられる.中胚葉が形成される時期がいかにして分化する領域の決定に繋がるのか,その分子機構の理解は今後の課題である.

心外膜の前駆細胞

心外膜(epicardium)は,心臓を直接包み込む臓側性の漿膜で,その外側にある壁側性の漿膜性心膜と連続して閉ざされた空間である心膜腔を形成する.漿膜性心膜はその外側にある線維性心膜と合わさって心膜(preicardium)となる.この一体化して強度を増した心膜は,心嚢とも呼ばれ,心臓を包み込んでエアバックのように心臓を保護するとともに,潤滑油の役割をする漿液を心膜腔に分泌して心臓の自由度を保つ役割を果たす.心外膜は,心外膜原基(proepicardium: PE)から形成される27–30).PEは,さまざまな脊椎動物の胚発生時に心臓の静脈極腹側に形成される一過性の構造で,心筋を直接覆う心外膜となるとともに,発達中の心臓に上皮間葉転換(epithelial mesenchymal transition: EMT)を経て心筋細胞,血管平滑筋,線維芽細胞などいくつかの細胞種に分化して,心筋の壁の形成や肥厚,冠状血管の発達など,心臓の形態形成の制御に重要な役割を果たしている.最近の多くの発見にもかかわらず,心外膜の形成や心外膜細胞の運命を制御する分子経路は十分に理解されていない.

最近,高解像度ボリュームイメージングおよびタイムラプス顕微鏡を組み合わせて同定された細胞のsingle-cell RNAseq解析を行い,マウス胎仔の心臓前駆細胞の領域ごとの特徴づけがなされた31).その解析で,心臓原基の外側で,胚性中胚葉と胚性外中胚葉の合流点に位置する細胞の集団が,Tgf-βシグナルによって誘導される核内タンパクをコードするMale abnormal 21-likeMab21l)-2やzinc fingerタイプの転写因子のWilms Tumor(Wt)-1などの従来のPEのマーカーを発現する一方で,心筋のマーカーであるMlC2aNkx2-5を発現しないことなどから,将来心外膜原基を構成する前駆細胞であると推測された.そして,この将来心外膜原基を構成する前駆細胞が心臓原基の最外側に位置し,胚体外中胚葉と接していることからJuxta-Cardiac Field(JCF)といった概念の提唱がなされている(Fig. 3).この細胞群の発見で,かなり広範囲の領域が将来心臓へと寄与する心臓原基として扱われることになるだろう.

心臓刺激伝導系を構成する特殊心筋の発生

脊椎動物の心臓は,狭窄部や弁で区切られた静脈洞(SV),心房(atrium),心室(ventricle),円錐部(conus)の4つの筋性の部屋が流入路から流出路にかけて配置されており,この基本的なレイアウトは魚類から存在する18).魚類には組織化された結節や伝導路の報告はないが,静脈洞と心房には,刺激伝導系細胞に似た,染色性が弱く,筋線維は太く,大きな核を含んでいる特異な細胞が観察されており,連続した収縮の引き金となっていると考えられている32).1心房1心室の心臓では,ペースメーカーからの周期的な刺激があれば,流入路から流出路へと心筋内を連続的に伝わり,連続した収縮に変換され,蠕動運動のように血液が押し出される.そのため,電気的信号を伝えるために特化した刺激伝導系を発達させる必要がなかったと推察される.さらに,流出路に円錐部と呼ばれる狭窄部があって,その狭窄部を血液が乗り越えられるだけの駆出力があれば,逆流のない一方向性の血流を生み出すことができる.2心房2心室へと進化に伴う複雑化とともに刺激伝導系のシステムを含めた循環ポンプとしての機能を発達させてきたのだろう.

心臓刺激伝導系は,心房と心室の心筋の同調したリズミカルな収縮を実現させるためのシステムで,循環路の構築と同時に形成される33, 34).上大静脈と接する静脈洞に在る洞房結節で自律的な脱分極が周期的に起こることによって,それが電気信号として房室中隔にある房室結節からヒス束–プルキンエ線維まで伝わり心筋細胞の同調した拍動を生み出す.あたかも神経細胞のように電気的な刺激を伝導する性質を有するが,心房や心室を構成する固有心筋細胞とは性質の異なる特殊心筋細胞で構成される.現在刺激伝導系の発生過程は,洞房結節,房室結節とヒス束–プルキンエ線維はそれぞれ独立して発生するものと考えられている.

洞房結節は,原始心筒がルーピングし終える頃の静脈極腹側の間葉系の細胞塊に転写因子をコードするTbx3, Tbx18Short Stature HomeoboxShox)-2といった遺伝子やNaチャネルをコードするHcn4といった遺伝子が発現する細胞からなる静脈洞原基から形成される.これらの遺伝子が心房・静脈洞に全体に一過的に発現した後,洞房結節のみに発現するようになる33, 35).しかし,流入路腹側の間葉系の細胞塊の静脈洞原基として認識される以前の前駆細胞の由来については,別の心臓領域が存在する可能性が浮上するなど不明であった36).しかし,Sfrp5を発現する細胞が静脈極の間葉系の細胞塊で発現を継続し,静脈洞の特殊心筋へと分化していくことが明らかとなり,Sfrp5を発現した一次心臓領域の前駆細胞に洞房結節へと分化する前駆細胞が含まれていることが強く示唆された17)

特殊心筋は心室や心房の固有心筋とは異なり,固有心筋特異的転写因子であるNkx2.5といった遺伝子が発現しないにもかかわらず,Cardiac Troponin T(cTnT)などの全種心筋を構成する心筋特異的タンパク質をコードする遺伝子が発現することが知られている.また,房室結節はTbx2を発現する房室管を構成する心筋細胞より分化するとされるが,その前駆細胞が固有心筋に由来するか否かは定かではない.プルキンエ線維に関しては,Hcn4-ERT2Creマウスを用いた細胞系譜解析より,ある特定の時期までHcn4を発現した細胞が固有心筋とプルキンエ線維の両方に寄与するが,その後プルキンエ線維だけにしか寄与しなくなることから,心筋層の固有心筋細胞から分化してくると考えられている37).しかし,中胚葉形成期に細胞の分化の方向性が決定されているならば,特殊心筋の前駆細胞が固有心筋と混在して移動し,到達した場所に応じて,洞房結節,房室結節,ヒス束,プルキンエ線維へと分化する可能性も残され,今後の解析が待たれるところである.

心筋の分化誘導シグナル

細胞の運命決定や分化には,その細胞を取り巻く環境が大きく影響を及ぼす.特に,周囲や自身の細胞から分泌されたシグナル分子が細胞の運命決定や分化の引き金となる.心筋前駆細胞プール内のsingle cellレベルでの発現解析から,主要なシグナル伝達経路の重要性を改めて示す結果が報告され38),心筋分化においては,特にBone Morphogenetic Protein(Bmp)とWntシグナルが心筋前駆細胞の増殖と分化のバランスをとることが重要だとされる.

Bmpシグナルは,心筋細胞への分化を誘導することが示され,少なくとも6種類のBmpがマウスの心臓で発現している39, 40).Bmpの受容体は,リガンドとの結合によってReceptor-regulated(R)-Smad注3であるSmad1/5/8がリン酸化を受け,Common(C)-SmadであるSmad4と相互作用して核内移行する.マウスの胚でBmpシグナルが欠損すると,中胚葉が形成されず心臓原基が形成されない41).Smad4を心筋特異的に欠損させたマウスの解析から,心筋は形成されるが心室心筋の薄層化が認められることから,心室心筋の維持にも必須であることが示されている42, 43).Bmpは固有心筋の分化に必須なNkx2.5の発現を誘導することが示されている44).ES細胞の誘導研究においても,一過的にBmpシグナルを遮断した後に改めて活性化すると,心筋へと高効率に分化することが示されていることから,心筋分化においては,Bmpによる心筋特異的な転写の活性化が必要であると考えられる41).最近,Smad4が直接Nkx2.5と結合して核内移行を制御することが示された45).Bmpシグナルは心筋分化に於いて,心筋特異的遺伝子の転写制御にとどまらず,核内移行を含む因子の活性化制御にも役割を果たしていると考えられる.

Wntシグナル系は,主に転写エフェクターであるβ-カテニンを介したシグナル伝達系で,心臓の発生で二相性の役割を担っている46).まず,Wntは,胚盤形成時の中胚葉形成に必須であり47),その後,増殖を促進して心筋分化を抑制する48).Wntシグナルの低下は右心室と流出路の低形成をもたらすことから,二次心臓領域細胞においても,Wntによって早期分化が阻止されていることで前駆細胞のプールとして維持されているようである39, 40, 49).一方,Sfrp1/2/5重複KOマウス胚でも心臓の低形成と静脈極腹側の未分化細胞群の肥大が見られることから,FHFの前駆細胞においてもWnt/β-カテニンが分化の阻止と増殖を促進する機能を果たす可能性が示唆されている17)

Notchは高度に保存された細胞間相互作用を司るシグナル伝達経路で,細胞運命決定に重要な役割を果たしている50).Notchシグナルは原始心筒形成には必須ではないが51),Notchの阻害は右心室の低形成を引き起こす52).NotchはWntシグナルを抑制したり,Bmpを直接誘導することによって,心臓前駆細胞の維持や分化を促進することが示されている39, 52).また,Foxa2発現および非発現細胞のRNAseqの比較解析から,心筋分化にNotchシグナルが重要であることが報告された53).ヒト多能性幹細胞由来の中胚葉にNotchシグナルを一時的に誘導することで心筋細胞の分化が促進されることや,NotchシグナルとWntシグナルが心筋系へのコミットメントに充分であることが示唆された53).さらに,Gfra2が心筋前駆細胞を特異的に発現していることが示され,心臓のGfra2シグナル伝達経路は,Retチロシンキナーゼとそのリガンドに依存するカノニカルな経路とは異なり,Notchシグナルを制御している可能性が示された54).Notchは心筋分化に必須なシグナル間のバランスをとる調節因子として重要な働きを担っていると考えられる.

最後に,Hand2-nullマウス胚を用いた解析により,レチノイン酸シグナルの調節がうまくいかなくなり,心筋前駆細胞の前後方向のパターニングが乱れることが明らかとなっている38).レチノイン酸(RA)は活性化型ビタミンAの一つで,シグナル伝達の過不足は心臓をはじめとする発生の欠陥を引き起こすことが報告された.原始心筒の形成には不要であるが,心臓形成中胚葉の前後境界の決定,心房と静脈洞の形成や流出路の伸長と隔壁形成に必要であるとされるなど,機能的な心臓を確立するためには,適切に制御されたRAシグナルが必要であるとされる55)

新しい心臓形成モデルの提唱

これまでの細胞系譜の知見を基に,新たな心臓形成モデルを考えてみたい(Fig. 3).心臓形成は,中胚葉が形成されるところから始まる.形成された中胚葉は前方へ移動し,卵筒胚期(E7.5)に馬蹄形の心臓原基が形成される.中胚葉の形成時点から前方へと移動する間に分化の方向性が決定され,将来寄与する心臓の各領域を反映して心臓原基は内外側に沿って整列する.原腸形成時の早い時期に形成されたFoxA2を一過性に発現した中胚葉は主に心室に寄与し,それより遅い時期の中胚葉は心室以外の領域となることや,Tbx5を発現したものが一次心臓領域へ,そしてSmarcd3を発現したものは二次心臓領域へ到達することが示されるなど,遺伝子発現プロファイルが異なっている.従来の心臓原基であった中央部は一次心臓領域の分化した領域で,すでに心筋特異的遺伝子を発現しており,左心室から心房へと寄与する.その外側に,Sfrp5Tbx5遺伝子が発現する一次心臓領域の未分化性の前駆細胞群が含まれ,左心室から心房へ寄与する固有心筋へと分化する細胞を供給する.その中には,静脈洞を主に構成する特殊心筋へと分化する前駆細胞群も含まれる.さらに最外側には,JHFと呼ばれる将来心外膜へと寄与する前駆細胞が存在する.一方,内側にはIsl1遺伝子を発現する二次心臓領域があり,主に流出路から右心室を構成する前駆細胞が存在している.

頭部形成とともに,一次心臓領域の前駆細胞群は固有心筋細胞を供給し,供給された固有心筋細胞が尾側から頭側へと移動しながら原始心筒を形成し,ルーピングの頃までに静脈極の腹側と背側に前駆細胞プールを形成する.腹側の前駆細胞プールはJHFの前駆細胞も含まれ,心外膜を形成する細胞を排出していく.最終的に残存した前駆細胞群が静脈洞を形成する特殊心筋へと分化し,その一部が成熟して洞房結節を構成していく31).背側正中の前駆細胞プールは,流入路側から固有心筋細胞を供給するとともに臓側中胚葉にも細胞を供給しIsl1を発現して流出路を形成する.二次心臓領域は主に頭側へと移動して心臓の背側の臓側中胚葉から咽頭中胚葉を構成するとともに流入路側から心臓へと流入し右心室から流出路を形成する.さらに,咽頭弓中胚葉の中核に前駆細胞プールを形成し一部が頭側から咽頭弓から心臓へと流入して,流出路から右心室を形成する固有心筋細胞をさらに供給する15).やがて,心臓への細胞の流入は止まり,生後数日に心筋細胞の増殖性が失われるまで増殖を続けて,心臓全体が拡大していくと考えられる.

ここで,single cell RNA-seqを行った結果と組み合わせて考えてみたい.Tyserなどは,マウス胚における心臓原基から原始心筒形成期までの心臓原基を含む腹側中胚葉(VM),心臓原基の背側に隣接する臓側中胚葉(DM),頭側の臓側中胚葉(CrM),および尾側の沿軸中胚葉(PM)の細胞をマイクロダイセクションして採取し,single cell RNA-seqを行った(Fig. 431).その結果,この4つの領域にさまざまな程度に分散した5つの異なる亜集団が存在するとした.この5つの亜集団は,咽頭中胚葉マーカーで特徴付けられるCrMを構成する集団,尾側の中胚葉マーカーで特徴付けられるPMとDMを構成する各々2つの細胞集団,心臓特異的マーカーで特徴付けられる主にVMとDMを構成するそれぞれ2つの細胞集団である.それぞれ咽頭弓の中核の前駆細胞プールに由来する中胚葉がCrMを,静脈極の腹側と背側の前駆細胞が中胚葉マーカーを発現するPMとDMを,これらの前駆細胞プールから固有心筋へと分化している細胞集団が心臓特異的マーカーを発現するVMとDMとして心臓原基を構成しているとすれば,3つの心臓前駆細胞のプールが存在するとした細胞系譜の知見を基にしたモデルとの整合性がとれる.さらに,Tbx18がDMの尾側に相当する領域に発現することが確認されており,この領域が将来静脈洞へと分化する前駆細胞を含んでいると考えられる.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 75-86 (2022)

Fig. 4 Schematic for the four regions of mesoderm

In mouse, single cells from the four indicated regions of the mesoderm were isolated and used for scRNA-seq. This illustration is modified from Fig. 2A of Tyser R. C. V. et al.31). The ventral mesoderm includes the cardiac crescent. CrM, cranial mesoderm; DM, dorsal mesoderm; PM, paraxial mesoderm.

一方,Yvanka de Soysaらは,3つの発生段階でマウス胚の心原性領域から採取した細胞のトランスクリプトーム解析を行い,多能性Isl1+前駆細胞,内皮細胞または心内膜細胞,心外膜,心筋,神経堤由来の中胚葉,沿軸中胚葉,側板中胚葉の7つの集団に大別されるとした38).そして,Isl1+の多能性前駆細胞は,Anterior Secondary Heart Field(aSHF),Posterior Secondary Heart Field(pSHF)とBranchiomeric Muscle progenitor(BMP)に細分化されるとした.aSHFを咽頭弓の中核の未分化中胚葉のプール由来,pSHFを静脈極背側の未分化性心臓前駆細胞の集団で,Sfrp5発現細胞で後にIsl1を発現する様になる細胞集団とすれば整合性がつく.さらにaSHFとpSHFの集団は,9つの亜集団に分離できるとしており,Sfrp5の発現は2つの亜集団に発現していることから,Sfrp5の発現だけではこれらの亜集団を識別できない可能性がある.いつの時期に分化が進んでいくのか,さらなる解析が待たれる.

体循環と肺循環を独立した経路とするための心臓前駆細胞

脊椎動物は,水中から陸上へと生活環境の変化に適応するために鰓を退化させて肺を新たに加えた.それに伴って心臓では,静脈洞,心房,心室,円錐部の筋性の4つの部屋を2心房2心室の4つの部屋へと基本的な構造を変化させた18).肺への血液循環を実現するために,右心房と右心室の付加という進化が起こったに違いない.まず右心室を形成するため,もともとは咽頭弓を構成するためのaSHFの中胚葉を利用したのだろう.右心房を形成するために,現在右心房を裏打ちする壁を構成している静脈洞を利用し,また,円錐部を流出路の弁へと進化させ,鰓への血管を選択して利用し,肺への動脈を形成したのではないだろうか.Sfrp5遺伝子を発現したFHFの細胞は,右心室以外の心臓を構成する細胞に全て寄与することからも,進化する前の単純な構造の心臓はFHFの細胞だけで構成されていたと推測される.ただ,肺静脈の由来が不明で,どのような経緯で付け加わったのかについては今後の研究の発展を待ちたい.ルーピングの時期にFHFから静脈極の腹側と背側に未分化細胞のプールが形成され,SHF由来の咽頭弓の未分化細胞のプールを形成することからも,肺循環を独立させるために右心室が付け加わる必要が生じ,咽頭弓の中胚葉をその材料として利用したと考えられる.心室だけでなく心房も,左右2つの独立した部屋へと進化させる際に,Isl1遺伝子を単独で発現した細胞が心房の一部に見られることから,SHF由来の細胞を利用したのだろう.将来,比較解剖学や進化生物学における分子生物学的な解析が進展し,新たな事実が浮かび上がってくることを期待している.

最後に

本稿では,細胞系譜解析からの情報を主な材料として心臓発生モデルの構築を試みた.複数の研究室からのトランスクリプトーム解析の結果も細胞系譜解析と相関することから,事実を反映したモデルとなっているのではないだろうか.トランスクリプトーム解析は,膨大なRNAseqの情報をクラスタリング解析法で,メジャーな細胞群の挙動の推測が試みられている.それぞれの研究室によって解釈の違いはあるにしても,形態的変化がもたらされる以前に細胞内で大きな遺伝子発現の変化が起こっていることが示されたことは大きな進捗だと思われる.しかし,マイナーな発現プロファイルを有する細胞群の扱いや,クラスタリングされた細胞群の中での発現プロファイルの差異の扱いなど,詳らかにされた細胞個々が持つ遺伝子発現の情報からさらに何を読み取るのか,データの解析手法のさらなる発展が期待される.また,単一細胞の情報トランスクリプトーム解析は,単一細胞の一時的な遺伝子発現を表しているが,経時的な変化については想像の域を出ない.逆に,細胞系譜解析は時系列を持った単一細胞の挙動を明らかにしていくことができるが,遺伝子発現はわからない.この二つの情報を組み合わせていくことで,心臓形成における単一細胞の挙動が明らかとなり,心臓形成の実態が解明されるのではないだろうか.Expressed sequence tag(EST)解析データから人工多能性(induced pluripotent stem: iPS)細胞を生み出すための遺伝子候補が見つかったように,膨大なトランスクリプトーム解析のデータが利用可能となった今,データを公開した著者らとは異なる視点や解析法で,新たな事実が見いだされるきっかけとなることを予想している.

謝辞Acknowledgments

本稿執筆の機会を頂きましたこと,慶應義塾大学医学部小児科学教室教授山岸敬幸先生に感謝致します.本稿執筆に当たりご助言をいただきましたヤマザキ学園動物看護大学教授富田–宮川幸子先生に感謝致します.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反はない.

注1)RNA seq:細胞中のmRNAやmiRNAの全配列を次世代シークエンサーを用いて解読することによって各遺伝子の発現量の定量や新規転写産物の配列の検索を行う手法.従来のプローブとの結合量によって各遺伝子の発現量の定量するマイクロアレイ法より正確であるとされる.

注2)Creとは相同組み換えを起こすrecombinaseをコードする遺伝子で,同じ向きのloxP配列で挟まれた領域を排除することができる.Sfrp5遺伝子座にCreが組み込まれたSfrp5-CreマウスではSfrp5遺伝子が発現する代わりにCreが発現する.Cre発現した場合,CAGプロモーター下に同じ向きのloxP配列で挟まれたCAT遺伝子とその下流にβ-galactosidaseをコードするLacZ遺伝子やGFPをコードする遺伝子などレポーター遺伝子を配置した配列に対して作用し,CAT遺伝子が排除されることによってレポーター遺伝子がCAGプロモーター直下に再配置されて恒常的に発現する様になる.Creを一度でも発現した細胞をこれらのレポーターの発現で確認することができ,Sfrp5遺伝子の発現細胞の系譜を追跡することが可能となる.

注3)Smad:線虫の(C. elegans)のsma遺伝子とショウジョウバエ(Drosophila)のmothers against decapentaplegicmad)遺伝子Smadと命名された.

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