Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(1): 38-47 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.38

症例報告Case Report

発熱前に弁破壊による急性僧帽弁閉鎖不全で発症した感染性心内膜炎の乳児例A Case of Infantile Infective Endocarditis Presenting Acute Mitral Regurgitation due to Valvular Destruction without Fever

1あかね会土谷総合病院小児科Department of Pediatrics, Tsuchiya General Hospital ◇ Hiroshima, Japan

2あかね会土谷総合病院心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Tsuchiya General Hospital ◇ Hiroshima, Japan

3国立循環器病研究センター病院小児循環器内科Department of Pediatric Cardiology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

4国立循環器病研究センター病院病理部Department of Pathology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

受付日:2021年8月5日Received: August 5, 2021
受理日:2021年11月24日Accepted: November 24, 2021
発行日:2022年2月1日Published: February 1, 2022
HTMLPDFEPUB3

症例は生来健康の7か月女児.急性僧帽弁閉鎖不全による左心不全症状で第1病日に当院に搬送となり,第2病日に準緊急手術を行った.入院時から抗菌薬投与を開始し,入院8時間後から発熱を認めた.術中所見では僧帽弁両尖の破壊と後尖の穿孔を認め,僧帽弁の明らかな腱索断裂や疣腫は認めなかった.僧帽弁形成術が困難であったため,僧帽弁人工弁置換術を行った.血液,切除僧帽弁前尖の培養検査では細菌,真菌は陰性であったが,切除僧帽弁の病理組織像では好中球浸潤を認め,感染性心内膜炎と診断した.しかしその原因や起因菌の確定には至らなかった.乳児の急性僧帽弁閉鎖不全では,原因として感染性心内膜炎や特発性僧帽弁腱索断裂が挙げられる.本症例は発熱前に著明な弁破壊を来した感染性心内膜炎で,乳児特発性僧帽弁腱索断裂に類似して急激な臨床経過を辿った.生来健康な乳児の急性僧帽弁閉鎖不全についての治療や合併症はその原因によって異なるため,病理学的検討も含めて,注意して原因を確認しなければならない.

We present a case of a healthy 7-month-old female infant who developed sudden left heart failure due to acute mitral regurgitation (MR). She was rushed to our hospital on the day of onset and underwent semiemergency surgery the next day. Antimicrobial treatment was initiated upon admission, and pyrexia occurred 8 h later. At surgery, the anatomical findings included the destruction of both the anterior and posterior leaflets of the mitral valve, posterior mitral valve leaflet perforation, an undetected rupture of the chordae tendineae, and no vegetation on the mitral valve. Mitral valve replacement was performed because of the difficulty of mitral valve annuloplasty. A culture test of blood and resected anterior mitral valve demonstrated no bacterial or fungal infection, but histopathological analysis revealed polymorphonuclear cell infiltration of the resected mitral valve leaflet. The patient was diagnosed with infective endocarditis (IE) based on these findings; however, we were unable to determine the cause of infection or pathogenic bacteria. Acute MR in infants can be caused by IE and acute rupture of the chordae tendineae of the mitral valve (RCTMV). The current case of infantile IE started with acute MR due to significant valvular destruction, followed by pyrexia, and progressed quickly, similar to RCTMV in infants. Because the treatment and complications of acute MR in healthy infants are dependent on the cause, we must take special care to ascertain the cause along with histopathological analysis.

Key words: acute mitral regurgitation; infective endocarditis; mitral valve perforation; acute rupture of the chordae tendineae of the mitral valve in infants

はじめに

小児期の感染性心内膜炎(infective endocarditis: IE)は先天性心疾患患者に発症しやすく1),発熱などの感染症状のほか,心不全,不整脈,塞栓症などの多彩な症状を呈する.今回我々は,生来健康の乳児で,発熱前に僧帽弁に限局した破壊性変化によって急性僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation: MR)を来し,病理学的所見からIEと診断した症例を経験した.先天性心疾患が指摘されていない健康な小児においてもIEを発症し,緊急手術を要することがあるとされている2, 3).しかし我々の検索した範囲では,出生時に早産児などの既往歴を認めず,先天性心疾患の指摘のない生来健康の1歳未満の児がIEによる急性MRで左心不全症状を呈した症例の文献報告は4例のみであり,新生児期が2例4, 5)で,生後1か月以降が2例6, 7)であった.

乳児の急性MRの原因は,IE8–10),乳児特発性僧帽弁腱索断裂(acute rupture of the chordae tendineae of the mitral valve in infants: RCTMV)6, 11–13),川崎病14)などが挙げられる.その原因検索は,治療内容や合併症検索など診療方針に影響を与えると考えられるため,重要である.当院における乳児の急性MR症例と比較し,RCTMVとの類似点,相違点を挙げて本症例を報告する.

症例

症例

7か月,女児

主訴

陥没呼吸,呻吟

家族歴

家族構成は両親,本児.両親に心疾患や免疫不全症の既往歴はない.

出生歴

在胎40週1日,出生身長48.0 cm(−0.82 SD),体重2,612 g(−1.25 SD)で仮死なく経腟分娩で出生.

既往歴

生来健康で,定期健診の際に心雑音を指摘されたことはなかった.肺炎球菌,ヘモフィルスインフルエンザ菌b型,B型肝炎ウイルス,結核菌に対する予防接種は計画通りに接種できていた.アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の既往はなく,乳歯は未萌出であった.

現病歴

発症前日の日中までは感染徴候を認めず,活気良好で経口哺乳良好であったが,夜から不機嫌であった.発症日の朝に陥没呼吸,呻吟を認めて医療機関Aを受診した.心雑音と,胸部単純X線で気管支肺炎が疑われ,医療機関Bに救急搬送となった.顔面蒼白,陥没呼吸,呻吟のほかに,経胸壁心臓超音波検査で重度の僧帽弁逆流を認めたため,心疾患による呼吸障害と判断され,精査加療目的に当院へ救急搬送となった.

入院時現症

当院到着時,身長65.5 cm(−1.53 SD),体重7.2 kg(+0.00 SD),意識レベルJCSI-1,心拍数180拍/分,血圧86/66 mmHg,体温36.7°C,経皮的酸素飽和度95%(室内気)であった.大泉門の膨隆は認めなかった.心尖部を最強点としてLevine 3/6度の汎収縮期雑音を聴取し,呼吸音は清だが陥没呼吸,呻吟を認め,腹部は平坦,軟で右季肋下に肝臓を2横指触知した.

入院時検査所見

胸部単純X線(Fig. 1):心胸郭比は50.7%で心拡大を認めなかったが,両肺野には明らかな肺うっ血所見を認めた.12誘導心電図:心拍数152回/分,洞調律,正常電気軸.経胸壁心臓超音波検査(Fig. 2):左室拡張末期径(left ventricular end-diastolic diameter: LVEDD)29.0 mm(正常比116%),左室駆出率80.2%.eccentric jetを伴う高度僧帽弁逆流を認め,特に後方に向かうjetは幅広であった.左房拡大,肺静脈拡張を認めた.A2~3は弁葉中心部がflail様に左房内へ落ち込んでいた.明らかな疣腫や断裂した腱索は認めなかった.3Dエコー画像では弁尖破壊が示唆された.左–右短絡を伴う卵円孔開存を認めた.血液検査:白血球数20,050/µL,好中球比率73.1%と好中球優位の炎症反応上昇を認めた.NT-proBNP 15,078 pg/mLと著明高値であった(Table 1).培養検査:動脈血(1セット)陰性,咽頭拭い液methicillin-susceptible Staphylococcus aureus,気管内吸引痰Streptococcus mitis,カテーテル尿陰性.ウイルス分離検査:咽頭拭い液ウイルス検出なし.

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Fig. 1 Chest X-ray

The chest X-ray showed pulmonary congestion.

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Fig. 2 Transthoracic echocardiography: Color doppler and three-dimensional echocardiograms on admission

A) The 4-chamver view showed severe mitral regurgitation (MR) and eccentric jet. B) The left ventricular long axis view showed MR jet blowing to the back of the left atrium, center of anterior mitral leaflet similar to flail and left atrial dilatation. C) The left ventricular short axis view showed MR jet blowing backwards. D) The three-dimensional echocardiogram of the mitral valve (atrial view) showed destruction of A2-3 and P2 (arrow).

Table 1 Laboratory data
WBC20,050/µLTP6.2 g/dLNa136.2 mEq/L
Neut.73.1%Alb3.2 g/dLK5.8 mEq/L
Lymph.22.3%AST29U/LCl101 mEq/L
RBC4.48×106/µLALT13U/LCa9.8 mg/dL
Hb11.2 g/dLLDH309U/LCRP7.93 mg/dL
PLT73.6×104/µLT.bil0.4 mg/dLNT-proBNP15,078 pg/mL
CPK220U/LAnti-SS-A/Ro antibodyundetected
Venous blood gasCK-MB2.9 ng/mLC3156 mg/dL
pH7.338hs-TnI17.6 pg/mLC439.1 mg/dL
pO260.2 mmHgBUN14 mg/dLIgG440 mg/dL
pCO233.8 mmHgCr0.32 mg/dLIgA26 mg/dL
ABE−6.8 mmol/LIgM85 mg/dL
Glucose159 mg/dL
Lactate3.5 mg/dL

入院後経過

入院時の経胸壁心臓超音波検査(Fig. 2, Movie)では,心内膜炎や腱索断裂の可能性を考えたが,急性MRの原因の確定には至らなかった.急性MRによる左心不全,肺うっ血の程度が重度であったため,準緊急手術の方針とした.血液検査で好中球優位の炎症反応上昇を認めたため,重症細菌感染症を想定した感染巣の検索として細菌培養検査を行ったうえで,メロペネム投与を開始した.入院8時間後から最高38.9°Cの発熱を認めた.

第2病日に手術を施行した.術中所見で僧帽弁の腱索断裂は認めず,僧帽弁前尖のA2~3,後尖のP1~2が発赤を伴って広範に破壊されており感染が示唆された.後尖では穿孔を伴っていた(Fig. 3).破壊組織を肉眼的に可及的に郭清し,僧帽弁形成を試みたが残存組織量が少なく不可能と判断し,機械弁(ATS 16 mm)で弁置換術を行った.術中所見でIEが疑われ,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染の可能性を考慮して,抗菌薬をメロペネムに加えてバンコマイシン併用とした.切除した僧帽弁前尖の病理学的所見では(Fig. 4),核破砕産物を伴う好中球を主体とし,CD3陽性Tリンパ球を混じる炎症性細胞浸潤による弁構造の破壊を認めた.血栓の付着も認めたが,Gram陽性および陰性の細菌集塊は認めず,またGrocott染色でも真菌は認めなかった.免疫染色では,tenascin C4C8陽性,tenascin C4F10陽性,パルボウイルス陰性であった.tenascinは炎症と組織傷害に伴う発現と考えた.切除僧帽弁の細菌培養検査は陰性であった.入院時の血液培養は陰性であったが,術中所見と病理学的所見から,IEと診断した.

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Fig. 3 Gross appearance of the mitral valve during the operation

A) Both AML and PML were destroyed owing to the infection. PML had been perforated partly. B) The operative record of the destroyed mitral leaflet. AML, anterior mitral leaflet; PML, posterior mitral leaflet

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Fig. 4 Histopathological findings of the resected mitral valve visualized by Masson trichrome stain (A, B), hematoxylin and eosin stain (C), and Gram’s stain (D)

A) The resected anterior leaflet of the mitral valve. B) The fibrin deposition (arrow). C) The infiltrated polymorphonuclear cells (arrows). D) No bacteria was detected on Gram’s stain.

術後1日目に人工呼吸器を離脱し,術後2日目に経口哺乳を再開し,抗凝固療法を開始した.術後6日目に頸部~腹部造影CT検査を行ったが,膿瘍形成は認めなかった.術後7日目に頭部MRI・MRA検査を行い,脳塞栓・脳膿瘍を疑う所見は認めなかった.耳鼻科診察で中耳炎所見は認めず,眼科診察でRoth斑は認めなかった.術後14日目に血液検査でWBC 17,050/µL, CRP 7.51 mg/dLまで炎症反応が上昇したため,抗菌薬をアミカシン,ベンジルペニシリンに加えてリネゾリド併用とした.その後,術後27日目に炎症反応陰性化を確認した.術後59日目に抗菌薬投与を終了とし,術後65日目に退院とした(Fig. 5).

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Fig. 5 Clinical course of the patient

ACE, angiotensin-converting-enzyme; AMK, amikacin; MEPM, meropenem; MVR, mitral valve replacement; LZD, linezolid; RBC, red blood cell; PCG, benzylpenicillin; VCM, vancomycin

考察

僧帽弁穿孔の原因にはIE,心臓手術時の損傷15),自己免疫疾患16)が挙げられる.本症例では,術中所見で明らかな腱索断裂を認めず,疣腫はなかったものの僧帽弁が穿孔を伴って破壊性に変化していたことからIEを疑った.弁破壊以外に,粘液腫様変性などを疑う僧帽弁の形態的な異常は認めなかった.本症例は,生来健康で菌血症を生じるようなエピソードがなく,明らかな発熱を認めなかったが,弁破壊が進行していた.僧帽弁弁尖主体の限局的な感染が生じ,全身への炎症の波及よりも先に弁破壊が進行し,弁破壊・弁穿孔による僧帽弁逆流が出現し,うっ血性心不全が急激に発症したものと推察した.また,本症例は,発症時までの乳児健診などで心雑音の指摘はされていなかったが,急激な経過にもかかわらず来院時のLVEDDが正常比17)で116%と左室拡大を認めていた.

Steinbergerらは,357例の健康な中学生で,小児科専門医の身体診察では心臓異常がないとされたが,心臓超音波検査を行ったところ13例(3.6%)でMRを伴う僧帽弁異常などの心臓異常が確認されたと報告をしている18).Linらは一見健康で無症状の心臓異常がIEのリスクを持つかは明らかではないとしている2).本症例では,術中所見では広範な弁破壊によりcleftの存在などは確認できず,心臓超音波検査でも明瞭な弁葉の接合不良は認めなかったが,先天性にMRが存在して慢性経過で左室拡大を来し,IEのリスクとなっていた可能性は考えられる.Linらは心疾患のない生来健康の小児のIEでは診断までに時間を要することから,超音波検査で疣腫のみられる割合が高いと報告している2).本症例では疣腫を認めなかったが,炎症を生じてから急激な経過であったために疣腫がみられなかった可能性が考えられる.一方で明らかな塞栓症,頭蓋内合併症は認めなかったが,疣腫が遊離後で確認できなかった可能性も考慮された.

本症例では,入院時の血液検査で好中球優位の炎症反応上昇を認めており,また術中に切除した僧帽弁前尖の病理学的所見ではIEを示唆する好中球の浸潤を認めていた(Fig. 4C).IE以外には僧帽弁疾患の鑑別として,全身性エリテマトーデスによるLibman–Sacks endocarditis(LSE),急性リウマチ熱,川崎病が挙げられた.僧帽弁の病理学的所見がリンパ球優位ではなく,LSEは否定的であった19).僧帽弁に多形核白血球などの炎症細胞浸潤は認めたが,フィブリノイド壊死やAschoff小体は伴っておらず,急性リウマチ熱の所見としては非典型的であった20).明らかな先行感染を認めていなかったことも踏まえて,急性リウマチ熱の可能性は低いと判断した21).川崎病では僧帽弁に炎症細胞浸潤を認める場合があるが22),発熱以外の主要症状や冠動脈病変も認めなかったことから可能性は低いと判断した23).IEの診断基準の1つである修正Duke診断基準24)の臨床的基準で満たした項目は,大基準では心内障害所見である新規の弁逆流の1項目,小基準では入院後に認めた発熱,血清学的な活動性炎症の微生物学的所見の2項目で,「確診」ではなく「疑診」の判定であった.しかしTissièresらは修正Duke診断基準の臨床的基準では小児のIE症例の12%が「確診」ではなく「疑診」の判定であったと報告しており25),その精度は完全というわけではない.本症例は起因菌の確定には至らなかったが,病理学的所見を踏まえて,IEと診断した.本来,IEを評価する上では抗菌薬投与前に3セットの血液培養検体採取が推奨されている10).本症例では第2病日以降で複数回血液培養検査を行っているが,第1病日(入院日)の抗菌薬開始時には1セットのみしか検体を採取できていなかったため,起因菌の同定ができなかった可能性もある.1997~2001年の5年間での入院例を対象とした日本小児循環器学会の全国調査では,小児から成人の239例のIEのうち38例(15.8%)で血液培養陰性で起因菌不明であった8).培養検査前の抗菌薬投与が主な原因とされるが26),分離培養が困難な原因菌や一般細菌以外の微生物として,HACEK群の細菌(Haemophilus parainfluenzae, Aggregatibacter actinomycetemcomitans, Aggregatibacter aphrophilus, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens, Kingella kingae),1, 2) Bartonella quintana, Coxiella burnettiなども原因となり得るとされている25).FederはHACEK群の細菌のIEでは33%で元々正常の心臓であったと報告している27).本症例では血清抗体検査やpolymerase chain reaction(PCR)法の評価を行えていないが,家畜,猫などの動物との接触,未滅菌の乳製品・肉類の摂取,ダニによる咬傷はなく,Bartonella quintana, Coxiella burnettiなどが原因菌である可能性は低いと判断している.僧帽弁置換術後の検査ではあるが,頭部MRI検査,頸部~胸部造影CT検査,耳鼻科診察,眼科診察でも他臓器に異常所見は認めず,中耳炎,肺炎などIEの原因となり得る感染臓器,合併症である塞栓症・頭蓋内合併症などは指摘できなかった.アトピー性皮膚炎や口腔内異常も認めなかった.入院時培養検査で,起因菌として頻度が多いとされているStreptococcus属,Staphylococcus属27)の保菌は確認されており,気道などを経路としたStreptococcus属,Staphylococcus属,HACEK群の感染が推測された.免疫防御機構については,入院時血液検査で免疫グロブリン値・補体値の低下や好中球数の減少はなく,退院後に感染を反復するエピソードもなかったことから正常であったと考えられる.

Schollinらは一般小児におけるIEの発症率は1年間で10万人あたり0.39人としている28).一方で,Rushaniらは先天性心疾患を有する小児では10万人あたり41人としており1),先天性心疾患例では発症のリスクが明らかに高い.前述の日本小児循環器学会の調査では239例のIEのうち,201例(84%)で起因菌が判明し,疣腫を認めたのは151例(63%)であり,乳児は20例(8%)であった.感染部位は右心系が54%,左心系が46%であった.小児170例のうち基礎心疾患のない例が23例(14%)含まれており,そのうち15例の感染場所は僧帽弁であった8).小児のIEの発症機序としては,まず弁逆流などを契機として弁膜の心内膜に傷害が生じて血小板・フィブリン・赤血球などによる無菌性の凝集塊の沈着が起きることにより,非細菌性血栓性心内膜炎が生じ,その部位に原因菌が付着,増殖をすることで疣腫が形成されるとされている29, 30).小児のIEに伴う僧帽弁穿孔はいずれもKingella kingaeを起因菌として,Youssefらが生後9.5か月の男児7),Holmesらが生後18か月の男児31)でパッチ閉鎖術を施行した例を報告しているが稀であり,我々の調べた範囲では乳児期の報告はYoussefらの1例のみであった.小児のIEでは38°Cまで達しない微熱であることも多く,発熱を認めない症例も少なくないとされる9, 10).IEの症状は非特異的で,経過も様々だが時に急激な経過を辿ることがある32)

本症例は最終的にIEと診断したが,臨床経過および,当院の過去の経験などから,RCTMVも鑑別に挙がった.我々の施設では2016年1月~2020年12月に,本症例を含めて乳児の急性MR症例を4例経験している(Table 2).男女比は1: 3,発症月齢は生後2~7か月,発症時期は3~6月であり,本症例を除く3例(Case1~3)をRCTMV,本症例を病理所見からIEと診断した.Case2は病理組織像で腱索のリンパ球浸潤を確認した.Case3では胎内から左室内乳頭筋高輝度部位を指摘されており,発症後に無症候性Sjögren症候群の母体からの抗SS-A抗体移行を確認し,病理組織像で乳頭筋から腱索の石灰化と硝子・粘液様変性を認めた13).RCTMVは,生来健康の児が突然に僧帽弁腱索断裂を起こし,MRにより左心不全,肺静脈うっ血を来す症候群である.原因として感染症,川崎病,母親由来の抗SS-A抗体などが契機となる可能性が指摘されているが,詳細な病因・病態は未だ不明である6, 11–13).Shiraishiらは本邦で全国アンケート調査を行い,小児の僧帽弁腱索断裂症例95例を後方視的に検討している.81例(85%)が生後4~6か月に発症しており,65例(68%)が春~夏の発症,88例(93%)に発熱・咳嗽などの前駆症状を認めた.入院時の血液検査はそれぞれ中央値で,CRP 1.60 mg/dL, BNP 1,450 pg/mLであった6).病理組織検査は僧帽弁腱索もしくは弁尖により28例で行われており,そのうち18例(64%)で単核球の僧帽弁弁尖の心内膜と腱索への浸潤がみられた.多核白血球も検出されたが,その数は単核球と比べてかなり少なかった6).免疫組織化学的検査ではtenascin Cが腱索組織の全層で発現している症例があり,組織損傷の修復と炎症の関連を示唆していると考えられている.また,浸潤している単核球は主にCD3陽性T細胞とCD68陽性貪食細胞で構成されていた.CD3陽性T細胞はウイルスなどの病原体に感染した細胞や腫瘍細胞を認識し除去する細胞性免疫において中心的な役割を果たしており,CD68陽性貪食細胞は異物排除機能を示すのみならず,免疫応答において抗原提示細胞の役割を果たしリンパ球などの免疫細胞を活性化すると考えられており,感染などを契機とした免疫応答の関与がうかがえる.腱索断裂の病態が不明の場合は特発性となるが,一方で原因が判明したものとして,多核白血球優位に浸潤が認められ,血液培養で表皮ブドウ球菌が検出され,腱索断裂を来したIEと診断された5か月女児も報告されている6).本症例は,生来健康の乳児が急性MRによる左心不全で呼吸状態の急激な悪化を来したという点でRCTMVに類似していた.しかし相違点として,腱索断裂は認めず,また穿孔を伴う僧帽弁破壊を認めた.また,切除僧帽弁には腱索部位が含まれておらず腱索への炎症波及の有無は確認できていないが,僧帽弁弁尖への炎症細胞浸潤は好中球主体であり,RCTMVの病理学的所見とは異なったものであった.今後,さらなる症例の積み重ねにより,IEとRCTMVの臨床学的,病理学的検討をする必要があると考えられた.

Table 2 The patients of infant with acute mitral regurgitation in our hospital
Acute MRcase1case2case3this case
Age at onset (months)7727
SexFemaleMaleFemaleFemale
Season at the onsetMarchAprilJuneApril
Preceding infection3weeks ago Bacterial infection(−)(−)(−)
At the first visit
ComplaintWheezeFeverTachypneaRetractive breathing
Day of illnessDay 2Day 3Day 1Day 1
CRP [mg/dL]Unmeasured5.250Unmeasured
Clinical courseDay 2 severe MR
intubation
transfer
Day 5 acute deterioration of respiratory condition intubationDay 2 severe MR
intubation
transfer
Day 1 severe MR
transfer
Day 6 ECMO(V–A) severe MR
Day 13 diagnosis of AML prolapse
Day 14 transfer
On admission
Day of illness at initial consultationDay 2Day 14Day 2Day 1
Fever(+)(+)(−)(+)
Systolic murmur Levine scale5322
CRP [mg/dL]2.5922.20.017.93
NT-proBNP [pg/mL]17,77118,62910,87115,078
CTR [%]48.651.741.950.7
Pulmonary congestion(+)(+)(−)(+)
SurgeryDay 2 MVP(Alfieri)Day 14 MVR(ATS, 16 mm)Day 2 MVP(artificial chorda)Day 2 MVR(ATS, 16 mm)
Histopathological findingsNot examined【Chordae tendineae~Endocardium】
lymphocytic infiltration
【Torn papillary muscle】
calcification
hyaline/myxoid degeneration
【Mitral valve】
neutrophil infiltration
Rupture of chordae tendineae(+)(+)(+)(−)
P3P1base of chorda from anterior papillary muscleto posterior leaflet
DiagnosisRCTMVRCTMVRCTMVIE
CauseInflammation induced by infection?Inflammation induced by infection?Transition of anti-SS-A/Ro antibody in the womb
Fatal echogenic intracardiac focus
Mother: asymptomatic Sjögren syndrome
Bacterial infection?
AML, anterior mitral leaflet; CRP, C reactive protein; CTR, cardio–thoracic ratio; ECMO, extracorporeal membrane oxygenation (Veno–Arterial); IE, infective endocarditis; MR, mitral regurgitation; MVP, mitral valve plasty; MVR, mitral valve replacement; NT–proBNP, N-terminal pro-brain natriuretic protein; RCTMV, acute rupture of chordae tendineae of the mitral valve

結語

生来健康の乳児の急性MRの原因には,IEやRCTMVなど複数が挙げられる.IEによる急性MRでは,腱索断裂を伴う場合もあれば,破壊変化が弁尖に限局している場合もある.本症例のように発熱のないなかでも弁尖の破壊は進行して穿孔まで至り,腱索断裂を伴わなくても高度のMRから急激な経過を辿るIEが存在することは認識しておく必要がある.また病理組織からRCTMVとは異なりIEと診断される症例もあり,乳児の急性MRの病態を解明するうえで,病理学的検討は重要である.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

著者役割

波若秀幸は,筆頭著者として論文を作成した.真田和哉,白石公,池田善彦は論文作成の過程においてデータの分析および解釈や重要な知的内容に関わる校閲に関与し,本稿の作成に貢献した.田原昌博は論文作成の過程において主著者を指導し,データの分析および解釈や重要な知的内容に関わる校閲に関与し,論文の責任指導者として本稿の作成に貢献した.森田理沙,浦山耕太郎,杉野充伸,山田和紀は医学的内容からの推敲に関与した.

付記

本論文の要旨は,第57回日本小児循環器学会・学術集会(2021年7月,奈良)にて発表した.

本論文の投稿に際し,あかね会土谷総合病院倫理審査委員会の承認を得た(E201221-1).また論文投稿について保護者に説明し,同意を得ている.

この論文の電子版にて動画を配信している.

引用文献References

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