日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(1): 29-37 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.29

原著Original

人工心肺を用いた小児心臓周術期における遊離カルニチン濃度の検討Free Carnitine Levels during Cardiac Peri-Operative Periods with Cardiopulmonary Bypass in Pediatric Patients with Congenital Heart Diseases

1島根大学医学部小児科Department of Pediatrics, Shimane University Faculty of Medicine ◇ Shimane, Japan

2島根大学医学部心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Shimane University Faculty of Medicine ◇ Shimane, Japan

受付日:2021年11月16日Received: November 16, 2021
受理日:2022年1月18日Accepted: January 18, 2022
発行日:2022年2月1日Published: February 1, 2022
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目的:カルニチンはミトコンドリアにおけるエネルギー産生に必須の物質で,その欠乏により心筋症や低血糖などを生じる.本研究では,小児先天性心疾患患者の人工心肺(CPB)前後における血中遊離カルニチン(C0)値の動態を明らかにすることを目的とした.

方法:小児先天性心疾患児のCPB使用直前,直後,以後連日7日後までのC0値を測定した.

結果:対象は50例で,平均月齢は35±49か月であった.19例に心外合併症(染色体異常,早産児,消化器疾患等)を認めた.C0値は術前55.8±24.4 nmol/mLで,CPB直後に33.5±12.9 nmol/mL (p<0.01)と低下した.術翌日には96.3±42.1 nmol/mL (p<0.01)と上昇し,術後3日目には手術前と同程度に戻った.心外合併症の有無は周術期におけるC0低下と関連した(OR 3.385; 95%信頼区間1.858–3.385, p<0.01).

結語:C0値はCPB使用により術直後は一過性に低下するが術後3日目には戻った.臨床的にカルニチン補充を要する症例は認めなかったが,心外合併症例では周術期のカルニチンを測定することが必要かもしれない.

Objective: Carnitine is essential for long-chain fatty acid metabolism in order to produce biological energy via the mitochondria. Carnitine deficiency can result in cardiomyopathy, hypoglycemia, and other complications. This study aimed to determine how plasma carnitine levels changed before and after open-heart surgery with cardiopulmonary bypass (CPB) in children with congenital heart disease.

Methods: We measured free carnitine (C0) levels in the blood before and after CPB, as well as on each day 7 days after the procedure.

Results: We treated 50 patients with average age of 35±49 months. We identified 19 patients with extracardiac complications, including eight with chromosomal disorder, three with suspected chromosomal disorder, four preterm births, two with digestive disorders, and two with other complications. C0 levels immediately before CPB were 55.8±24.4 nmol/mL, whereas immediately after CPB were significantly lower [33.5±12.9 nmol/mL (the ratio of C0 level before and after CPB were: 64±19%, p<0.01)]. Although there was no significant difference in aortic clamp time, CPB time, or pre-operative blood data, the presence of extracardiac complications was significantly correlated to the C0 level just after CPB (odds ratio, OR: 3.385, 95% confidence interval, CI: 1.858–3.385, p<0.01).

Conclusion: C0 dropped temporarily after CPB and then returned three days later. Since the decrease in C0 after CPB was linked to extracardiac complications in children with congenital heart disease, monitoring pre- and post-operative C0 concentration may be warranted in these patients.

Key words: free carnitine; acylcarnitine; carnitine deficiency; cardiopulmonary bypass; congenital heart disease

緒言

先天性心疾患の手術,とりわけ人工心肺(cardiopulmonary bypass: CPB)を用いる周術期管理において,血中カルニチン値の変動や影響が考慮されることは少ない.しかし,カルニチンは心筋や骨格筋細胞のエネルギー産生に必須の成分で,その欠乏は心筋症や不整脈の原因となりうる.そのため心臓外科手術の周術期管理においても血中カルニチン値が着目されつつある1, 2)

カルニチンは遊離カルニチン(free carnitine: C0)とアシルカルニチン(acylcarnitine: AC)の総称で生体内では,98%が心筋と骨格筋に分布している.長鎖脂肪酸と遊離カルニチンが結合し,アシルカルニチンとなってミトコンドリア内へと輸送され,エネルギーを産生する3, 4).ミトコンドリアに取り込まれた長鎖脂肪酸はβ酸化経路を経て多くのエネルギーを供給する.心筋はエネルギー必要量の60~70%を脂肪酸β酸化に依存しており5),カルニチンが欠乏すると脂肪酸をミトコンドリアに取り込むことができず,脂肪酸β酸化が障害される.結果として心筋細胞は深刻なエネルギー不足に陥り,心筋症や不整脈といった症状を呈する6).さらに多臓器のエネルギー不足を反映して,低血糖や肝機能障害,筋痛・筋力低下などを生じることも知られている7, 8).一方,アシルカルニチンの蓄積は相対的な遊離カルニチンの欠乏を反映しており,特にアシルカルニチン/遊離カルニチン(AC/C0)比の上昇は心筋組織におけるカルニチン欠乏の指標にもなる9)

成人ではカルニチンは食事から約75%が供給され,約25%が体内合成されている10).一方,小児ではカルニチン合成能が未発達であり,カルニチンの維持は食事からの供給に依存するため,低栄養状態や長期の経管栄養,偏食などによるカルニチン摂取不足でもカルニチン欠乏になりやすい.ほかにも,ピボキシル基含有抗菌薬やバルプロ酸の服用,リジン尿性蛋白不耐症,Fanconi症候群などによる二次性カルニチン欠乏や,先天的なカルニチントランスポーターの異常による全身性カルニチン欠乏症もある7, 11).さらに,CPBや透析でもカルニチンが除去され,カルニチン欠乏に至ることが報告されている12, 13).小児は前述のようにカルニチン合成能が未発達であり,元々カルニチン欠乏に陥りやすい背景があり,CPB使用時は成人よりカルニチンが低下すると予想されるが,CPBを用いた小児心臓手術の周術期におけるカルニチン動態についての検討は限られる.

本研究では,小児におけるCPB使用後のカルニチン値の動態を評価するため,小児先天性心疾患患者のCPBを用いた心臓周術期の血中遊離カルニチン(C0)値とAC/C0比の推移,ならびにカルニチン低下を来した患児の臨床情報を検討した.

方法

対象と研究デザイン

2014年1月から2015年12月までに,先天性心疾患のため島根大学医学部附属病院でCPBを用いた心臓手術を受けた患者を対象とした.単施設での観察研究で,主に周術期のC0値とAC/C0比を検討した.なお,対象期間中に同一患者で2回以上の手術を受けた場合は,別々の症例として扱った.

本研究は島根大学医学部の倫理委員会の承認を得て,患者自身もしくはその両親に同意を得て実施した(研究管理番号:20131227-8).

検体採取方法

検体は静脈血とした.C0値とAC/C0比の測定はCPB開始の約10分前,CPB終了約5分後,手術翌日からは基本的に朝食前,以後最長で術後1週間まで採取した検体を用いた.なお,術後翌日以降の採血は臨床的に血液検査が必要なタイミングで行い,特定の採血日や採血回数は決めなかった.

C0値と総AC値の定量

アシルカルニチン分析はタンデムマス分析計(MS/MS)を用いた既報の方法に従いC0値と各ACを測定した14).C0値の基準値は当施設における正常基準値(20–60 nmol/mL)を用いた.本研究で用いた分析法では総AC値としては出力されないため,各ACを総和した近似値を総ACとした.なお,AC/C0比は既報の報告から0.4未満を基準とした9)

その他の患者情報,血液生化学データ,血圧・中心静脈圧測定

患者情報として,月齢,性別,主病名,合併症,体外循環時間,大動脈遮断時間および手術時間を収集した.また術前の栄養状態を評価するために身長,体重,ならびにbody-mass index(BMI),総蛋白,アルブミン,総コレステロール,中性脂肪を取得した.

血行動態,心機能,心筋障害の評価として,術前の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),ヒトナトリウム利尿ペプチド(hANP),手術前後の動脈圧,中心静脈圧(central venous pressure: CVP),術前から術後7日目までの血清creatine kinase(CK),creatine kinase-myocardial band(CK-MB),CK-MB/CK比を検討した.ただし,術前のCK-MBは全例で測定していない.

生化学データについては年齢ごとの基準値を用いた15)

カルニチン欠乏症例の検討

術前または術後にC0値が20 nmol/mL未満となった症例について,心外合併症の有無や術式,術前の生化学データなどを症例ごとに評価した.また,カルニチン低値となった「カルニチン低下群」とカルニチン低値とならなかった「カルニチン正常群」で各臨床的指標を2群間比較した.

統計学的検討

測定値は平均値±標準偏差で記載した.周術期の血中C0値およびAC/C0比の推移は,まず分散分析を行い,全体的に有意な変化があるのかを確認したうえで,CPB使用前に対して,CPB直前C0値およびAC/C0値と術後値はWilcoxon符号付順位検定を用いて比較した.また,CPB使用直後のC0値と,術後CK値(CK-MB, CK-MB/CK比含む),体外循環時間,大動脈遮断時間および手術時間との関係について相関係数を用いて検討した.さらにカルニチン低下群とカルニチン正常群の2群間比較はFisherの正確確率法およびWilcoxon順位和検定を用いた.

データ解析にはExcel 2013, JMP®16 2021を用い,p<0.05を統計学的に有意と判定した.

結果

対象患者の臨床像

研究期間内に同意を得られたのは48名で,性別は男女24名ずつだった.本研究では上記期間に二度の手術を受けた患者が男女1名ずつおり,合計50症例を対象とした.対象者の概要はTable 1に示すとおりで,平均月齢は35±49か月であった.心疾患の内訳は,心室中隔欠損症が23名,心房中隔欠損症が9名,ファロー四徴症が6名,総動脈幹症が2名,心内膜床欠損症,三心房心,両大血管右室起始症,肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損症,肺動脈狭窄症,右側相同が各1名ずつ,さらに左冠動脈肺動脈異常起始症,左側相同の1名はそれぞれ二度の手術を行った.心外合併症は19例に認められ,その内訳として,染色体異常が8例(21トリソミーが7例,1番染色体異常が1例),臨床的遺伝子異常疑いが3例(Noonan症候群疑い1例,Holt–Oram症候群疑い2例),早産児4例,消化器疾患2例(鎖肛術後1例,食道狭窄1例),尿道下裂を伴う二分脊椎1例,喉頭軟化症1例であった.なお,染色体異常の8例中3例は,さらに鎖肛やHirshsprung病,骨髄異形成症候群などを合併していた.対象者に全身性カルニチン欠乏症を含む先天代謝異常症を疑う者はいなかった.

Table 1 Patients’ characteristics (n=50)
Main diagnosis
VSD23
ASD9
TOF6
ALCAPA2
Left isomerism2
TAC2
AVSD1
Cor1
DORV1
PA/VSD1
PS1
Right isomerism1
Age (months)35±49
Male gender (%)25 (50%)
Height (cm)81.3±27.8
Body weight (kg)11.8±11.3
BMI (kg/m2)15.1±2.1
Total protein (g/dL)6.7±0.6
Albumin (g/dL)4.5±0.3
Total cholesterol (mg/dL)155±30
Triglyceride (mg/dL)115±61
BNP (pg/mL)62±72
hANP (pg/mL)134±135 (n=38)
Blood pressure before CPB (mmHg)
Systolic77±10
Diastolic41±7
CVP5±3
Blood pressure after CPB (mmHg)
Systolic96±17
Diastolic51±8
CVP7±3
CPB time (min.)157±85
Aortic cross-clamp time (min.)67±48
Operation time (min.)292±129
ALCAPA, anomalous left coronary artery arising from the pulmonary artery; ASD, atrial septal defect; AVSD, atrioventricular septal defect; BMI, body mass index; BNP, brain natriuretic peptide; Cor, cor triatriatum; CPB, cardiopulmonary bypass; CVP, central venous pressure; DORV, double outlet right ventricle; hANP, human atrial natriuretic peptide; PA/VSD, pulmonary atresia with ventricular septal defect; PS, pulmonary stenosis; TAC, truncus arteriosus communis; TOF, tetralogy of Fallot; VSD, ventricular septal defect

周術期における血中C0値ならびにAC/C0比の変動

Table 2のとおり,CPB直前の血中C0値は平均55.8±24.4 nmol/mLで,CPB終了直後に33.5±12.9 nmol/mL(CPB直前との比率64±19%, p<0.01)と有意に低下した.この間,いずれの症例も低血糖などのカルニチン欠乏症を疑う典型的な臨床像は示さなかった.術翌日のC0値は96.3±42.1 nmol/mL(同190±72%, p<0.01),術後2日目は67.5±29.4 nmol/mL(同138±48%, p<0.01)と術前と比して有意に上昇していた.それ以降のC0値の推移は術後3日目,4日目,5日目,6日目,7日目でそれぞれ57.6±22.2 nmol/mL(同108±41%),59.7±33.1 nmol/mL(同95±46%),52.6±22.9 nmol/mL(同99±41%),66.5±46.5 nmol/mL(同120±65%),43.2±10.5 nmol/mL(同124±33%)であり,いずれもCPB直前値との比較で有意差はなかった.

Table 2 Serum free carnitine levels and acylcarnitine to free carnitine ratio post cardiopulmonary bypass (CPB) versus pre-CPB
Pre-CPBPost-CPB1 POD2 POD3 POD4 POD5 POD6 POD7 POD
C0 (n) [nmol/mL]55.8±24.4 (50)33.5±12.9 (50)**96.3±42.1 (49)**67.5±29.4 (38)**57.6±22.2 (28)59.7±33.1 (5)52.6±22.9 (25)66.5±46.5 (8)43.2±10.5 (5)
AC/C0 ratio (n)0.40±0.19 (50)0.74±0.35 (50)**0.46±0.26 (49)0.53±0.29 (38)0.46±0.37 (28)0.54±0.76 (5)0.49±0.42 (25)0.40±0.44 (8)0.51±0.28 (5)
**, p<0.01. AC/C0, acylcarnitine to free carnitine; C0, free carnitine; POD, postoperative day; n, number of collected sapmles

同様にAC/C0比はCPB直前が0.40±0.19で,CPB直後に0.74±0.35(p<0.01)と有意に上昇した(Table 2).しかし,その後は術翌日から7日目まで0.46±0.26, 0.53±0.29, 0.46±0.37, 0.54±0.76, 0.49±0.42, 0.40±0.44, 0.51±0.28であり,CPB直前との比較ではいずれも有意差はなかった.

周術期におけるCKならびにCK-MB/CK比の変動

血清CK値はCPB前に107±58 U/Lに対して,CPB直後に775±493 U/Lと上昇し,手術翌日には1,156±2,349 U/Lとピークを迎えた.その後術後4日目まで上昇していたが,術後5日目以降は術前の水準に戻った.心筋障害の指標とされるCK-MB/CK比は術直後に15±4%と高値を示したが手術翌日は5±2%に下がり,以後も6%未満で推移した.CK-MB/CK比が6%以上となった患者数は手術直後が47/49例(94%),術翌日には14/38例(37%)となり,それ以降は0~1名であった.

術後C0値の変化と体外循環時間,大動脈遮断時間,手術時間,術後CK値との相関

CPB終了直後のC0値と手術時間の関係については,体外循環時間(平均157±85分),大動脈遮断時間(同67±48分),総手術時間(同292±129分)との相関係数がそれぞれ,0.22, 0.03, 0.21(p=0.12, 0.84, 0.15)であり,いずれも有意な相関はなかった.

また,CPB終了直後のC0値と心筋障害の指標である術後CK値,CK-MB値,CK-MB/CK比との相関係数はそれぞれ0.07, <0.01, 0.24(p=0.62, 0.98, 0.14)といずれも有意な相関はなかった.

C0値が基準値未満となった症例

本検討では,CPB後にC0値が基準値下限である20 nmol/mL未満となった症例は5例,術前にC0が基準値未満だった症例が1例認められた(Table 3).このうち2例は研究期間中に2度の手術を行った同一症例(患者5)であった.患者1は心房中隔欠損症の7か月児でカルニチン含有のない経腸栄養剤使用中の超低出生体重児であった.術前のC0値は29.0 nmol/mLと正常下限域でAC/C0比は0.45と高く,術後にC0値は16.0 nmol/mLに低下した.患者2は21トリソミー,鎖肛術後を合併したファロー四徴症の1歳2か月児で,手術前後にC0値が27.1 nmol/mLから14.5 nmol/mLへ低下した.患者3は21トリソミー,Hirshsprung病術後を合併した心室中隔欠損症の2か月児で,術前からC0値は20.6 nmol/mLと正常下限域,AC/C0比も0.81と上昇し,手術直後にはそれぞれ14.7 nmol/mL, 1.37となった.患者4は喉頭軟化症を合併したファロー四徴症の1歳3か月児で術前はカルニチン欠乏所見がなかったが(C0 42.8 nmol/mL, AC/C0比0.29),手術直後はC0 18.0 nmol/mL, AC/C0比0.98と変化した.これら4症例のC0値は,いずれも手術翌日以降には基準値以上を呈した.一方,患者5は本研究に参加前から複数の外科手術歴があり,本研究に参加後も9か月と1歳9か月に心臓外科手術を行った.初回手術時のC0値は術前術後で25.4 nmol/mLから15.8 nmol/mLに低下し,手術翌日には35.5 nmol/mLと上昇したが,手術6日目に再び15.8 nmol/mLとなった.術後1日目以降でC0値が基準値以下となった唯一の症例でもある.また2回目手術時には術前からC0値が17.8 nmol/mLと低下していたが,術後には術直後も含めて基準値以上で推移した.患者5のAC/C0比は初回手術前後で0.88が1.29に,2回目手術時が0.33から0.57と変化した.これらの6症例において,術前から明らかな低蛋白血症や低脂質を呈した患者はいなかった.

Table 3 Clinical information of five cases with carnitine deficiency after CPB
Patient numberAgeMain diagnosisExtracardiac complicationDetails of surgeryFree carnitine levels (nmol/mL)/AC-C0 ratioTP (g/dL)Albumin (g/dL)T-Cho (mg/dL)TG (mg/dL)BNP (pg/mL)CK (U/L)
Pre-CPBPost-CPB1 POD2 PODpre/post CPB
17mASDELBWI was fed carnitine-free formulaASD direct closure, PDA ligation29.0/0.4516.0/0.69119.0/0.1861.7/0.146.24.110254183.091/766
21y2mTOFTrisomy-21, after surgery for anal atresiaVSD patch closure, RVOTR, PV commissurotomy, tethering release, mPA posterior wall plasty, mPA patch augmentation, TVP27.1/0.4414.5/1.2083.1/0.4472.2/0.516.24.21378053.0223/1,580
32mVSDTrisomy-21, after surgery for Hirshsprung’s diseaseVSD patch closure, mVSD4 direct closure, ASD direct closure, PDA ligament20.6/0.8114.7/1.3754.5/0.3052.5/0.405.73.813187293.6123/1,489
41y3mTOFLaryngomalaciaValve sparing method: VSD patch closure, RVOTR, PV commissurotomy, tethering repair, mPA patch augmentation, PDA division42.8/0.2918.0/0.9864.2/0.3840.5/1.517.44.718118631.8120/1,759
59mLeft isomerismSeveral surgeries were performed before participation in this studyTCPS, CAVVP, RF ablation, mPA division, PV closure, PAP(patch augmentation)25.4/0.8815.8/1.2935.5/0.7547.7/0.646.44.413868145.022/747
51y9mTCPC, HV rerouting17.8/0.3321.5/0.5764.6/0.3032.8/0.866.84.313921026.0289/270
Patient 5 underwent two surgeries at the age of 9 months and 1 year 9 months. Abnormal date is shown by bold and underline. AC-C0, acylcarnitine/free carnitine; ASD, atrial septal defect; BNP, brain natriuretic peptide; CAVVP, common atrioventricular valve plasty; CK, creatine kinase; CPB, cardiopulmonary bypass; ELBWI, exremely low birth weight infant; HV, hepatic vein; m, month(s); mPA, main pulmonary artery; mVSD, muscular ventricular septal defect; PAP, pulmonary artery plasty; PDA, patent ductus arteriosus; POD, postoperative day, PV, pulmonary valve; RF, radiofrequency; RVOTR, right ventricular outflow tract reconstruction; TCPC, total cavopulmonary connection; TCPS, total cavopulmonary shunt; TG, triglyceride; TOF, tetralogy of Fallot; TP, total protein; TVP, tricuspid valve plasty; T-Cho, total cholesterol; y, year(s)

さらに,CPB前後にC0が基準値未満になった6例と正常範囲内だった症例44例を2群間比較したところ,心外合併症の有無,性別,術前C0値,術前BNP,術後収縮期動脈圧と術後CVPに有意差がみられた(Table 4).このうち年齢の影響が強いと考えられた術後収縮期動脈圧,術後CVPについて年齢で調整したところ,術後CVPのみ有意差があった.また,心外合併症についてはC0が低下した全6例に認められ,心外合併症の有無とC0低下には有意な相関がみられた(OR 3.385; 95%信頼区間1.858–3.385, p<0.01).

Table 4 Comparison among low C0 and normal C0 groups after CPB
CharacteristicsLow C0 (n=6)Normal C0 (n=44)p value
Extracardiac complication (%)6 (100)13 (30)<0.01
Age (months)11±738±52ns
Male gender (%)6 (100)19 (43)<0.05
Height (cm)65.3±10.183.6±28.7ns
Body weight (kg)6.5±2.612.5±11.8ns
BMI (kg/m2)14.5±1.815.1±2.2ns
pre CPB
C0 (nmol/mL)27.1±8.759.7±23.3<0.01
AC/C0 ratio0.53±0.250.38±0.18ns
Total protein (g/dL)6.5±0.66.8±0.6ns
Albumin (g/dL)4.3±0.34.5±0.3ns
Total cholesterol (mg/dL)138±25158±30ns
Triglyceride (mg/dL)114±66115±61ns
BNP (pg/mL)122±10653±63<0.05
Blood pressure before surgery (mmHg)
Systolic74±778±11ns
Diastolic42±641±7ns
CVP7±35±2ns
Blood pressure after surgery (mmHg)
Systolic83±1198±17<0.05
Diastolic49±552±8ns
CVP10±36±3<0.01
CPB time (min.)198±94151±83ns
Aortic cross-clamp time (min.)82±6064±47ns
Operation time (min.)349±134284±128ns
AC/C0, acylcarnitine to free carnitine; BMI, body mass index; BNP, brain natriuretic peptide; CPB, cardiopulmonary bypass; CVP, central venous pressure; C0, free carnitine; ns, not significant

考察

本研究結果はCPBを用いた心臓手術を受けた小児先天性心疾患患者の周術期の血中C0値,AC/C0比の推移を明らかにしたものである.具体的にはC0値はCPB前に比し,CPB直後に有意に低下し,術翌日には有意に上昇し,その後はゆるやかな上昇が続き,術後3日目以降には術前の状態となることが判明した.成人ではCPBで遊離カルニチンが除去されることが知られているが12),小児においても成人と同様にCPBにより遊離カルニチンは喪失することがわかった.Nemotoらの成人での開心術における血中C0値に関する報告では,CPB 2時間後のC0値は回復していないとされるが,それ以降のC0値の推移は検討はなされていない12).本研究からは,小児の術後血中C0値の低下は少なくとも1日未満で戻り,むしろ術翌日には術前より上昇することが示された.しかし,本研究では術後時間単位でC0値の経過を追っていないため,カルニチンの低下状態が何時間程度続くのか,底値のタイミングや程度はわからない.

また,組織内での遊離カルニチンの相対的欠乏を意味するAC/C0比は術前から高く,CPB後にはさらに上昇することもわかった.今回の検討においてはCPB前から22名(44%)の症例でAC/C0比が0.4以上であった.AC/C0比は小児であってもその基準が大きく変わることはないため16),先天性心疾患の小児例は手術前から組織内では相対的にカルニチン不足傾向であることがうかがえた.ただし,CPB使用では遊離カルニチンは除去されるがアシルカルニチンは維持されるため13),術直後のAC/C0比は見かけ上,上昇しやすく組織内のカルニチン欠乏の増悪を反映したものとは言い切れない.

また,上述のように先天性心疾患の小児例は総じてカルニチン不足の傾向があると考えられるが,なかでも心外合併症をもつ児は特にカルニチン欠乏に注意が必要だと考えられた.本研究でCPB前後にC0値が基準値未満を呈した6例については全例で心外合併症が認められた.このうち5例は術前からC0値が正常下限域または低下状態で,消化管疾患やそれまでの手術の影響によって,食事によるカルニチン摂取や吸収が十分ではないと推測された.また,カルニチン低下群で術前BNPは有意に高く,栄養状態だけでなく循環動態を含めた全身状態が悪い児ほど,周術期にカルニチン不足になりやすいと考えられた.とは言え,カルニチン欠乏を総蛋白や総コレステロールといった一般的な生化学データから推察することは難しいこともわかった.生化学的に明らかな低栄養を示していなくてもカルニチン欠乏に至る危険性があるため,心外合併症がある,複数回の手術歴がある(あるいは今後予定されている)といった児にはカルニチン測定が必要かもしれない.

しかし,今回のような一過性のC0低下や,組織内の相対的なカルニチン欠乏状態がどの程度心機能等に影響を及ぼすのかは不明である.過去には数日間のカルニチン欠乏でも低血糖からの痙攣,意識障害,脳症,心筋症などは報告されているが10, 17),1日未満のC0低下で臨床症状を呈した報告は我々が調べる限り見つからなかった.実際に本検討でも,CPB前後にカルニチンが基準値未満となった6例を含む全例でカルニチン欠乏を示唆するような症状は認められず,少なくとも臨床的には大きな問題はなさそうである.また,心筋障害を反映していると考えられるCK, CK-MB/CK比などの生化学データと術後のC0低下には有意な相関が認められず,一過性のカルニチン欠乏ではCKが変動するような心筋障害を来さないと考えられた.一方で,カルニチン低下群は正常群と比較して術後CVPは有意に高く,臨床的には問題なくとも一過性のカルニチン低下が循環動態に影響した可能性も否定できない.ただし,カルニチン欠乏からCVP上昇を来す病態は不明で,CVPは手術侵襲や輸液などの影響も強く受けることから,カルニチン欠乏との直接の因果関係は不明である.

なお,過去には血液透析によるカルニチン欠乏で心筋の脂肪酸代謝障害が生じるという報告や18),成人の冠動脈バイパス術において,カルニチンの補充による心機能保持や不整脈予防の効果が報告されている19, 20).逆に,周術期のカルニチン補充が臨床的な意味をなさないという報告も散見される21, 22).本研究では実際にカルニチン補充が必要な症例はなかったが,例外的に,あるいは予期せぬ状態においてはカルニチン欠乏の鑑別が必要だと考えられた.特に,低年齢で複数回の手術が必要な複雑心奇形を合併している症例は,経過中の経口摂取制限や周術期等の絶飲食などでカルニチンの経口補充が不十分な上に,手術自体の侵襲の強さと周術期管理中に異化亢進にさらされる機会が多いため,カルニチン欠乏が臨床的に問題になる危険性があり,このような症例に絞って検討できれば,周術期のカルニチン補充の是非も結論付けられるかもしれない.

今回の検討では,CPB終了直後のC0値の低下率と体外循環時間,大動脈遮断時間,手術時間に関連は認められなかった.血中C0値が必ずしも組織内濃度を反映させるわけではないが23),当初の予想では体外循環時間や,手術時間が長いほどカルニチンの喪失と供給途絶により,C0値が低下しやすいと考えていた.しかし実際には相関がなかった理由として,手術中に心筋組織が障害され,カルニチンが血中に流出し,血中C0値に影響を及ぼした可能性が挙げられる.このことは,手術翌朝にカルニチン値が上昇していた原因の一つとも考えられたが,手術翌日以降のCK値とC0値の上昇に明らかな相関は認められなかった.

最後に本研究には幾つかの研究限界がある.まず,採血日を決めていなかったため,術後4日目以降のC0値やAC/C0比の推移についてはサンプル数が少なく,正確な評価ができているとは言い難い.また,カルニチン低下群が6例と少ないためカルニチン欠乏と循環動態の真の関係性を結論付けることはできない.今回の検討では有意差がなかった手術時間(CPBや大動脈遮断時間含む)や年齢等は十分なサンプル数があれば有意差が得られたかもしれない.特に年齢についてはカルニチン生合成の未熟性によって元々カルニチン欠乏のリスクになりうると考えられる.心機能評価についても,心臓超音波検査では開胸していたりエコーウィンドウが狭かったりしたため定量的な評価が難しく,今回の検討には加えられなかった.そもそも,駆出率の変化などは手術そのものの影響も強いと考えられ,術後のカルニチン変動との関連を評価することが困難だと思われる.加えて,本研究はCPB不使用例との比較がされておらず,CPB以外の要因,例えば外科手術そのものがカルニチン値に与える影響も検討できていない.今後は,絶食や心臓以外の筋肉・組織損傷によるC0値への影響なども検討する必要があると思われる.

結論

小児においてもCPB後に血中C0値は低下するが,その期間は1日未満であった.また,術前の血中C0値は正常でも,およそ半数にAC/C0比の上昇が見られ,先天性心疾患の児は組織内の相対的カルニチン不足が懸念された.このようなカルニチン不足が臨床的に大きな問題となることはないが,消化管疾患などの心外合併症がある症例,乳幼児期に複数回手術を受ける必要がある症例は,特にカルニチン欠乏のリスクが高く,周術期のカルニチン値に十分配慮したほうがよいと思われた.

謝辞Acknowledgments

検体採取にご協力いただきました島根大学医学部麻酔科の森英明助教,片山望助教,ならびに原稿作成にご協力いただいた同消化器・総合外科の久守孝司講師に深謝いたします.本研究結果の一部の統計処理については,第57回日本小児循環器学会総会・学術集会におけるよろづWeb臨床研究相談 三上剛史氏(国立成育医療研究センター病院臨床研究センター データサイエンス部門 生物統計ユニット ユニット長)のご指導をいただきました.

また,本研究は部分的に科研費(19K08300)の助成を受けたものである.

利益相反

本研究において,開示すべき利益相反(COI)はない.

著者の貢献度

田部有香はプロトコル作成,実施,データ集積,統計学的解析,データ解析,論文原稿作成,研究結果発表において貢献した.山田健治,小林弘典は統計学的解析,データ解析,論文原稿作成,論文の構想,研究結果発表,データの解釈において貢献した.中嶋滋記はプロトコル作成,実施,研究結果発表において貢献した.城麻衣子,藤本欣史は実施,データ集積,研究結果発表において貢献した.安田謙二,竹谷健は論文の構想,統計学的解析,データの解釈および論文内容の批判的校閲において貢献した.

付記

本研究結果の一部は第52回日本小児循環器学会学術集会において発表した.

引用文献References

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