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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 268-269 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.268

Editorial CommentEditorial Comment

医療分野における3Dプリンタの活用How to use 3D Printer in the Medical Field

岩手医科大学小児科Iwate Medical University, Department of Pediatrics ◇ Iwate, Japan

発行日:2022年12月1日Published: December 1, 2022
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竹下らの論文1)は日常臨床における課題解決に3Dプリント技術を応用した興味深い事例を報告している.実用化に向けては課題もあるが,医療現場で起こる問題に対して先端技術を用いて解決を図る過程を示しており,そのような視点が医療の質を高めることにつながる可能性がある.

1. 3Dプリンタの歴史

3Dプリンタは1980年代に誕生し,2000年代後半にかけて次第に広く実用化されるようになった.基幹技術となる光造形装置を開発したのは,日本人の小玉秀男さんであり,3Dプリンタは我が国とも関係が深いデバイスである.当初高価で材料も限られていたが,次第に低価格化が実現し,竹下らの論文でも述べられているように,現在ではさまざまな造形方式を用いることが可能であり,材料の選択肢も豊富となっている2)

2. 3Dプリント技術の医療への応用

3Dプリンタはすでに日用品や自動車部品などさまざまな分野で活用されており3),医療分野では,3Dプリンタで作成した臓器モデルを用いた手術のシミュレーションおよび治療計画の検討や,症例に合わせたインプラントの作成など,主に外科領域で活用されている4, 5).小児循環器領域でも,複雑心奇形における治療方針の検討や患者への病状説明においても有用なツールとなる可能性がある6, 7).このように3Dプリンタの医療分野における活用方法としては,①教育,手術計画,患者の同意,手術中のガイドとして使用される解剖学的モデル,②多種多様な個人に特化した形状の医療機器・インプラントの作成等年々応用の幅が広がっている.本論文では,『PIカテーテル接続部の緩み』という問題に対する解決策として,固定キャップを作成するというアイデアを創出し,同アイデアを具現化するツールとして3Dプリント技術を用いている.これは②に近い新しい形の医療への応用であるが,極めて身近な問題を早期に解決する身近な道具として3Dプリンタが認知されてきた証左であろう.

3. PIカテーテルの問題点

PIカテーテルキットは新生児用中心静脈カテーテルとして,国内で広く利用されている.留置カテーテルおよび留置カニューレから構成されており,通常は付属のピールオフタイプの留置カニューレを用いるが,実際には穿刺のしやすさから一般の静脈穿刺カニューレで代用することもあるとされる8, 9).そのような場合に問題となるのが,本論文で取り上げられた『接続部の緩み』であり,カテーテルの屈曲・閉塞につながるため,各施設毎にさまざまな工夫がなされていると思われる.今回示された解決策は,わずかな形状の違いへも対応しやすい3Dプリンタを用いており,施設毎に使用する穿刺カニューレの種類によって異なるであろう接続部の形態に対しても応用でき,施設内の問題解決に留まらずに,国内外においても課題克服のヒントになることが期待される.

4. 3Dプリント技術活用の実際と問題点

医療分野での3Dプリンタ活用は大きな注目を集めており,2017年にはアメリカ食品医薬品局(FDA)から3Dプリンタの医療応用に関するガイドラインが公表されている6, 10).近年ではCOVID-19対策における「機材の不足」という問題に対して,3Dプリンタを用いて個人防護具やスワブなどを製作して解決を目指したとする報告が多数見られている11).今後,幅広い実臨床への応用が期待されるが,一方で現状では標識,製造工程,品質試験に関する有効な規制が存在せず,安全性や品質をどのように保障するかという問題がある5).竹下らも学内医療安全委員会との十分な検討の過程を経ているが,PIカテーテルを使用する状況では,血管作動薬やプロスタグランジン製剤など血行動態に直接的に影響を与え得る薬剤の持続投与が行われていることが多く,不具合を生じた場合には大きな問題となることも考えられる.利便性の高さから,比較的容易に臨床への導入が可能である一方,実際の使用にあたっては慎重な取り扱いが必要である.

5. まとめ

日常臨床における課題に対して,ふと思い付いたアイデアを実際に具現化することが可能となる点で,3Dプリント技術は非常に魅力的であり,今後有用なデバイスの開発につながる可能性がある.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.竹下直樹,ほか:3Dプリンタによる臨床課題解決の具体的事例―PIカテーテル固定の工夫―.日小児循環器会誌2022; 38: 265–267

引用文献References

1) 竹下直樹,池田和幸,家原知子:3Dプリンタによる臨床課題解決の具体的事例—PIカテーテル固定の工夫—.日小児循環器会誌2022; 38: 265–267

2) 山口修一:3Dプリンティング技術とこれからの日本のものづくりについて.日画像会誌2014; 53: 119–127

3) 武政 誠:食品3Dプリンタ(Food 3D printer). 日食品科学工会誌2019; 66: 186

4) Tack P, Victor J, Gemmel P, et al: 3D-printing techniques in a medical setting: A systematic literature review. Biomed Eng Online 2016; 15: 115

5) Jamróz W, Szafraniec J, Kurek M, et al: 3D printing in pharmaceutical and medical applications: Recent achievements and challenges. Pharm Res 2018; 35: 176

6) Anwar S, Singh GK, Miller J, et al: 3D printing is a transformative technology in congenital heart disease. JACC Basic Transl Sci 2018; 3: 294–312

7) Giannopoulos AA, Steigner ML, George E, et al: Cardiothoracic applications of 3-dimensional printing. J Thorac Imaging 2016; 31: 253–272

8) 宮沢篤生,相澤まどか:末梢挿入式中心静脈カテーテル(PIカテーテル)留置.小児科診療2019; 82 (suppl): 408–412

9) 亀山千里:PIカテーテル—静脈留置針などを用いて—.with NEO 2022; 35: 98–102

10) Food and Drug Administration. Technical Considerations for Additive Manufactured Medical Devices: Guidance for Industry and Food and Drug Administration Staff, 2017

11) Aydin A, Demirtas Z, Ok M, et al: 3D printing in the battle against COVID-19. Emergent Mater 2021; 4: 363–386

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