Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 249-253 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.249

症例報告Case Report

成人型ALCAPA患者の術後心不全を認めた1例:その原因についてPostoperative Heart Failure in a Teen with Anomalous Origin of the Left Coronary Artery from the Pulmonary Artery: A Case Report Regarding Mechanisms

1JCHO中京病院中京こどもハートセンター小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Chukyo Children Heart Center, Japan Community Health Care Organization Chukyo Hospital ◇ Aichi, Japan

2JCHO中京病院中京こどもハートセンター心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Chukyo Children Heart Center, Japan Community Health Care Organization Chukyo Hospital ◇ Aichi, Japan

受付日:2022年3月28日Received: March 28, 2022
受理日:2022年9月10日Accepted: September 10, 2022
発行日:2022年12月1日Published: December 1, 2022
HTMLPDFEPUB3

症例は16歳女児で,動悸や胸部絞扼感の訴えがあり前医を受診し,左冠動脈肺動脈起始症(Anomalous Origin of the Left Coronary Artery from the Pulmonary Artery: ALCAPA)の診断で当院に紹介となった.手術は竹内法を選択し特記すべき問題なく終了したが,術後より心機能低下と鬱血による呼吸不全を認めた.心不全治療目的にビソプロロールを貼付したところ症状の速やかな改善が得られ,鑑別目的にカテーテル検査を行ったところ冠血流の鬱滞と左右冠血流の上行大動脈への逆流を確認した.前医の造影CT検査を確認し直したところCS径が2.5 mmと平均と比較して1/2以下の低形成であったことも判明した.成人型ALCAPA症例の心機能低下について言及されている報告は少ないが,冠血流の鬱滞が主病態と思われること,鬱滞の一因としてCS低形成が関与していた可能性が示唆された.

A 16-year-old girl, who noted palpitations, and tightness in her chest, was referred to our hospital with a diagnosis of anomalous origin of the left coronary artery from the pulmonary artery (ALCAPA). She underwent surgery using the Takeuchi method without difficulty, but she had respiratory distress and decreased cardiac function following surgery. Her symptoms improved rapidly after treatment with bisoprolol. Cardiac catheterization, performed to identify the cause of her symptoms, confirmed congestion of blood flow within the coronary vessels and regurgitation of right and left coronary blood flow into the ascending aorta. Although there are few reports discussing the cause of cardiac dysfunction in adults with ALCAPA, congestion of blood flow within the coronary vessels may cause postoperative cardiac dysfunction. Preoperative coronary sinus evaluation may identify a possible cause of postoperative cardiac dysfunction.

Key words: anomalous origin of the left coronary artery from the pulmonary artery; coronary sinus; preoperative diagnosis

はじめに

左冠動脈肺動脈起始症(Anomalous Origin of the Left Coronary Artery from the Pulmonary Artery: ALCAPA)は,全先天性心疾患の0.5%程度と稀な疾患である.その臨床経過は生後数週で心筋梗塞を発症する症例から無症状で天寿を全うする症例まで多様であるが,多くは生後2~4か月の時期に肺血圧の低下に伴い左冠動脈(LCA)の潅流が不良となり心不全を発症し,無治療の場合,生後1年以内に約90%が死亡すると報告されている1).乳児型ALCAPA症例は側副血行路では代償ができず著しい心機能低下を呈するが,術後は心機能の改善が得られる.一方で乳児期に側副血行路が発達できた症例では成人期まで無症状で経過する場合もあるが,成人型ALCAPA症例の場合は術後心機能低下を認める場合もある.こういった成人型ALCAPA症例の心機能低下の原因について言及されている報告は少ないが,今回冠血流の鬱滞が術後心不全の一因となったと考えられる症例を経験した.

症例

症例

16歳,女児

アレルギー歴,既往歴,家族歴

特記事項なし 同胞なし

現病歴

12歳時より労作時の動悸や胸部絞扼感の自覚がしばしばあったが放置していた.15歳時にも同様の症状があり前医を受診した.心電図上V4–6誘導でST低下を認め,心臓超音波検査にて心室中隔から右室腔への短絡血流を認めたため(Fig. 1A矢印)冠動脈起始異常を疑い造影CT検査にてLCAの主肺動脈(MPA)から起始を確認(Fig. 1B).ALCAPAの診断にて当院へ手術目的で紹介入院となった.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 249-253 (2022)

Fig. 1 前医検査所見

(A)心臓超音波検査,(B)3DCT

入院時現症

身長157 cm,体重38 kg,血圧87/43 mmHg,心拍数91回/分,SpO2 99%(room air),心音整で心雑音は聴取されなかった.

入院時検査所見(Fig. 2)

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 249-253 (2022)

Fig. 2 入院時所見

(A)胸部レントゲン写真,(B)12誘導心電図,(C)心臓超音波検査

胸部単純X線写真:心胸郭比(CTR)43%

心電図:洞調律.当院入院時は異常Q波やST変化は認められなかった.

心臓超音波検査:左室拡張末期径41.6 mm(92% of normal),左室駆出率66.7%でAsynergyは認められず,ごくわずかな僧帽弁逆流を認めた.LCAは拡張しておりMPAより起始し拡張期にMPAへ血流の流出が確認された.右冠動脈(RCA)も同様に拡張を認めた.

血液生化学検査:WBC 5,600/µL, AST 19 U/L, ALT, 9 U/L, LDH 1,471 U/L, CK 57 U/L, BNP 32.9 pg/mL

診断カテーテル検査:平均中心静脈圧1 mmHg,肺動脈圧20/8(mean15)mmHg,右室圧22/2 mmHg,左室圧120/7 mmHg,肺体血流比1.17,肺血管抵抗2.0 Wood unit.左右冠動脈径とも最大6 mmと拡張を認め,RCA造影にてLCA, MPAへの逆流を確認した.

入院後経過

術式は竹内法を選択し,手術は特記すべき問題なく終了した.手術翌日に抜管し酸素投与のみで酸素化は安定しておりXp上CTRは50.4%だったが,鎮静を漸減したところHR 120 bpm台の頻拍傾向となり,呼吸苦の訴えが出現し,翌日のXp上CTRは56%と心拡大を認めた,またモニター上心室期外収縮と非持続性心室頻拍が散発.心エコー検査ではLCAは拡張期に順行性,収縮期に逆行性の血流を認めた.レントゲン検査にて左下葉の透過性低下を認めたため呼吸苦の原因は無気肺によるものと考え高流量鼻カニュラ酸素療法と排痰療法を施行し,術後4日にはレントゲン上の無気肺は改善したにもかかわらず呼吸苦症状の改善は得られなかった.その後も症状の改善に乏しく,術後6日目にICU退出後の血液検査でBNP 915 pg/mLと著名な上昇を認め,CTRも57.7%とさらに拡大,心電図検査でV5–V6誘導のST低下(Fig. 3A矢印),心エコー検査にてLVDd 34 mm, EF57%, E 1.16 m/s, A 0.26 m/s, MR・TR trivial,左室中隔壁の収縮低下と心尖部の壁肥厚を認めた(Fig. 3B).一方でLCAの血流パターンに変化は認められなかった(Fig. 3C).心機能改善目的にビソプロロールを導入したところ,翌日にはHR90台まで減少し呼吸苦症状も軽減した.また経時的にCTRの縮小も得られBNPも術後14日目には591 pg/mLへと改善した.心機能低下の原因精査目的に,術後20日目に心臓カテーテル検査を行ったところ,冠動脈は左右とも拡張しており明らかな狭窄や閉塞は認められなかったがLVEDPは23 mmHgと高値で,冠動脈造影検査にて側副血行路の発達(Fig. 4C)と収縮期に左右冠血流の上行大動脈への逆流を確認した(Fig. 4A, B).またCSが不明瞭で前医で施行された造影CT検査を確認し直したところCS径が最小で2.5 mmと低形成であったことも判明した(Fig. 5矢印).臨床所見は改善傾向だったため術後21日目に当院退院.術後1か月で行った造影MRI検査では左室中隔壁にわずかな浮腫を認めるのみで心筋の瘢痕化や繊維化は認めず,CS径は3.1 mmであった.退院後も運動時の息苦しさの訴えはあったが手術後3か月の外来時にはほぼ消失した.今後も外来フォローアップ予定している.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 249-253 (2022)

Fig. 3 術後6日目所見

(A)12誘導心電図検査,(B)心臓超音波検査,(C)右冠動脈Mモード

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 249-253 (2022)

Fig. 4 術後カテーテル

(A)RCAG, (B)(C)LCAG

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(4): 249-253 (2022)

Fig. 5 前医造影CT検査

考察

ALCAPAの臨床経過の多くは生後2~4か月に肺血圧の低下に伴いLCAの潅流が不良となり心不全を発症し,無治療の場合,生後1年以内に約90%が死亡すると報告されている1).乳児期にRCAからの側副血行路が順調に発達してきた症例ではLCAの還流領域がすべて側副血行路からの血液供給を受けることができるため臨床症状が出現することなく成人まで生存できる場合もある.しかし心筋虚血から左心機能低下や僧帽弁閉鎖不全症を来し進行性の心不全や突然死のリスクが高くなるため無症状の成人についても診断がつき次第手術適応と考えられている2, 3)

冠動脈再建法としては左冠動脈直接移植法4),冠動脈導管(筒状再建法やspiral cuff法),肺動脈内冠動脈トンネル(竹内法)5)などがあるが本邦の手術成績は良好で左室機能も改善する場合が多いと言われている.手術成績に関する近年の文献では,Xinらは周術期死亡が46例中0例と報告しており6),狩野らは41例の冠動脈血行再建術を受けたALCAPA患者のうち,周術期死亡は2例(4.8%)と報告している.また術後の心機能の予後因子として手術時の年齢であったとも述べている7).今回の症例は16歳と低年齢にもかかわらず術後の心機能低下を経験したが,原因として①側副血行路の発達による順行性血流確立への影響,②術前からの心筋異常,③CS低形成,さらに非特異的な術後の状態悪化が関与していると推察した.

①について成人型ALCAPA患者においてPAへの盗血は側副血行路を発達させたり,冠動脈瘤または狭窄を生じさせると報告されており,本症例でも術前より冠動脈拡張やLCAのPAへの逆行性血流が認められていた.心臓カテーテル検査上でも側副血行路は発達していた.一方術後はLCAからも順行性血流が供給されるようになり,側副血行路を通ってRCA側にも灌流する結果左右冠血流がto and floとなり,冠血流鬱滞の原因となったと考える.またRCAの血流の多くが側副血行を通りLCAを経由してPAへ流れることにより,通常の冠静脈を通る血流が減少し後述のCS低形成につながったとも推察される.βブロッカー導入後より速やかに徐拍化と呼吸苦症状の改善が得られ,Xp上の心拡大やエコー上の心機能も改善も得られた.これは徐拍化と心筋酸素需要の減少によって冠静脈鬱滞が改善したためと推測する.

②について乳児型ALCAPAの場合,RCAからの側副血行路が十分に形成されないと肺血圧低下後にLCAの血流を担えないため虚血性心不全を発症するが,側副血行路が形成された場合もまた心筋虚血は避け得ずSchmittらは,術前に側副血行路が発達していた患者で術後左室機能が改善したにもかかわらず,MRI検査では瘢痕組織が見つかったと報告している8).Browneらは,ALCAPAの心筋損傷は,組織学的には慢性虚血による心内膜下の心筋線維化と関連していることを立証し,心筋の瘢痕化は外科的修復に先行していたと考えた.そして術前の長期にわたる慢性虚血の結果として心筋が損傷し,再灌流後の心血管イベントや心機能障害を引き起こす可能性があると指摘している9).本症例の場合はMRIの所見から瘢痕化や繊維化はなかったが,16歳と青年期で虚血に曝されていた期間が成人と比較して短く,瘢痕化や繊維化を来していなかったため,可逆性の心筋浮腫のみで改善が得られたと推察する.

③については術前CT検査上,通常5–8 mm程度10)と言われているCS径が2.5 mmと明らかに低形成であった.術前はLCAよりPAに盗血されていたが,手術後はLCAから術前とは逆向きの順行性血流が供給され,左右冠動脈から還流した血液が低形成のCSでは捌き切れず鬱滞・逆流し,①と相まって呼吸苦症状の出現やエコーやカテーテル検査で認めた心筋浮腫・心機能低下につながった可能性がある.ALCAPA患者のCS低形成が術後心不全の原因となったという報告は見られなかったが,同様に冠血流の盗血を来す疾患である冠動脈瘻の症例でCS stenosisを認めたという報告や,CS stenosisによる心嚢液貯留を認めたという報告もあり11, 12),LCAからPAへの盗血が多い症例では術前に造影CT検査で術後冠血流の受け皿の評価を行い,冠血流再構築後のリスク評価を行うことが重要と考える.今回手術後1か月で行ったMRI検査ではCS経が3.1 mmと拡張していた.退院後も運動時に軽度呼吸苦の訴えはあったが,経過観察中徐々に軽減し現在は消失している.CSの成長に伴い冠血流の鬱滞が解除された可能性もあり今後CS径がどのように変化していくか興味深い.

ALCAPA患者の術後予後は良好で狩野らの報告では周術期以降の患者の約9割でNYHAIに分類され,NYHAIII以上の症例は認めなかったとしている7)が術後20日目でのカテーテル検査ではEDPは23 mmHgと左室拡張機能障害は残存しており,術後遠隔期の評価目的に今後心筋シンチグラフィーによる心筋血流評価を検討している.また手術後冠血流の再構築によりCSの発育が得られた可能性があり,今後も画像所見は繰り返しフォローする予定である.

結語

ALCAPAで術後心機能が低下した症例を経験した.ALCAPAの手術成績は良好で,若年者で術後心血管イベントを来すことは稀だが,冠血流の新たな構築後には側副血行路の発達次第では冠血流の鬱滞による心機能低下がありうるため留意が必要である.また術前には冠動脈だけでなく静脈還流にも注目することで術後の心機能低下リスクを予想できる可能性がある.

利益相反

本論文について開示すべき利益相反(COI)はない.

著者の役割

鈴木謙太郎:症例の診断・治療に関与し,筆頭著者として論文作成を行った.

大橋直樹:症例の診断・治療に関与し,内容に関する直接的な指導を行った.

永田佳敬,佐藤純,吉井公浩,今井祐喜,吉田修一朗,西川浩,櫻井寛久,野中利通,櫻井一:症例の診断・治療に関与し,論文の知的内容に関わる批判的校閲に貢献した.

引用文献References

1) Yau JM, Singh R, Halpern EJ, et al: Anomalous origin of the left coronary artery from the pulmonary artery in adults: Acomprehensive review of 151 adult cases and an new diagnosis in a 53-year-old woman. Clin Cardiol 2011; 34: 204–210

2) Barbetakis N, Efstathiou A, Efstathiou N, et al: A long-term survivor of Bland–White–Garland syndrome with systemic collateral supply: A case report and review of the literature. BMC Surg 2005; 5: 5–23

3) Bajona P, Maselli D, Dore R, et al: Anomalous origin of the left main artery from the pulmonary artery: Adult presentation with systemic collateral supply and giant right coronary artery aneurysm. J Thorac Cardiovasc Surg 2007; 134: 518–520

4) Neches WH, Mathews RA, Park SC, et al: Anomalous origin of the left coronary artery from the pulmonary artery: A new method of surgical repair. Circulation 1974; 50: 582–587

5) Takeuchi S, Imamura H, Katsumoto K, et al: New surgical method for repair of anomalous left coronary artery from pulmonary artery. J Thorac Cardiovasc Surg 1979; 78: 7–11

6) Yuan X, Li B, Sun H, et al: Surgical outcome in adolescents and adults with anomalous left coronary artery from pulmonary artery. Ann Thorac Surg 2018; 106: 1860–1867

7) Kanoh M, Inai K, Shinohara T, et al: Outcomes from anomalous origin of the left coronary artery from the pulmonary artery repair: Long-term complications in relation to residual myocardial abnormalities. J Cardiol 2017; 70: 498–503

8) Schmitt B, Bauer S, Kutty S, et al: Myocardial perfusion, scarring, and function in anomalous left coronary artery from the pulmonary artery syndrome: A long-term analysis using magnetic resonance imaging. Ann Thorac Surg 2014; 98: 1425–1436

9) Browne LP, Kearney D, Taylor MD, et al: ALCAPA: The role of myocardial viability studies in determining prognosis. Pediatr Radiol 2010; 40: 163–167

10) Ishimatsu T, Sakamoto T, Hada Y, et al: Detection of coronary sinus by parasternal two dimensional echocardiography and the clinical significance. J Cardiogr 1983; 13: 675–683

11) Song G, Qiao W, Ren W, et al: Congenital coronary sinus stenosis. Echocardiography 2017; 103: 131–135

12) Bloomingdale R, Walters HL 3rd, Mertens A, et al: Coronary sinus sternosis with right coronary artery to coronary sinus fistula. Ann Thorac Surg 2019; 108: 31–34

This page was created on 2022-12-21T16:39:38.199+09:00
This page was last modified on 2023-02-21T18:37:38.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。