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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 126-127 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.126

Editorial CommentEditorial Comment

先天性心疾患をもつ乳幼児の計画外入院を減らす支援Support to Reduce Unplanned Hospitalization of Infants with Congenital Heart Disease

東京情報大学看護学部Tokyo University of Information Sciences ◇ Tokyo, Japan

発行日:2022年5月1日Published: May 1, 2022
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1. 先天性心疾患をもつ乳幼児の家族が必要とされる療養行動

先天性心疾患(以下CHD)は病名及び疾患重症度により治療と経過が異なる.最も頻度が多い疾患は,心室中隔欠損及び心房中隔欠損であるが,同じ病名でも欠損孔の大きさや位置で経過や治療方法に違いがある.欠損孔が中等度以上で,体肺短絡量が増え肺血流増加になると呼吸器感染症に罹患しやすく,呼吸不全から循環不全に陥るため感染予防が重要となる.そのため,家庭内感染の予防,予防接種の励行,パリビスマブ接種,授乳量を確保し離乳食を進め,栄養状態をできるだけ良好に維持するよう家族に説明する.また,術前または経過観察の時期に利尿薬の内服治療を要し,定期受診を継続し,心内修復術の要否と必要な場合は時期を決める.ファロー四徴症,単心室など疾患重症度が中等度及び重症なチアノーゼ性心疾患においても,呼吸器感染症は低酸素血症を悪化させるため予防が必要とされる.また,原因が特定できない持続する発熱の際は,感染性心内膜炎の可能性も考えた検査・対応が必要であるため,家族が症状出現時の受診のタイミングを理解しておくことも重要である.

2. CHD児の計画外入院の原因と影響

CHD児が呼吸器や消化器感染症に罹患し入院治療を要する場合,入院は定期受診中またはCHDの治療経験がある施設であり,しばしば自宅から遠方になる.計画外入院は,症状による患児の苦痛のみならず,親に「もっと早く受診させればよかった」「あの行動が感染を招いてしまった」といった判断や行動についての自責の念や病状や経過への不安をもたらす.また,親が不在となることへの心的準備がないきょうだい児の対応,親の仕事や家庭生活の調整など,多くの影響を生じるため,計画外入院をできるだけ防ぐ必要がある.そのためには,CHDをもつ乳幼児の計画外入院の原因,転帰,疾患などを把握し,医療者として計画外入院を減らす支援を検討することが有用と考えられる.しかし,現状を明らかにした報告はなかった.

豊島らによると,CHDの乳幼児の35.4%が計画外入院を要し,うち0才児が31.7%と最も多かった1).また,病名は心室中隔欠損が23.6%と最も多く,次いで両大血管右室起始症20.0%,ファロー四徴症12.1%であった1).入院の原因は,気管支炎,肺炎,胃腸炎,上気道炎,不明熱を合わせると55.3%,心不全は5.3%1)と報告されていた.また,98.8%が内服治療中であり,50.3%が在宅酸素療法,26%が在宅栄養療法を行っていたが,訪問看護の利用は1.0%1)であった.

3. CHDの乳幼児をもつ親の困難感

内服や手術治療を要する先天性心疾患の乳幼児の親は,感染症のリスクを危惧し,保育園の通園や人ごみに入る事,外遊びや友人の増加などの行動範囲の広がり,自宅近くの医療機関への受診などの社会生活に参加することに不安や困難感を抱く2).乳幼児特に第1子の親にとって,育児に関して同年齢の子をもつ親との交流がソーシャルサポートとなるが,CHDの乳幼児をもつ親は感染予防のためその機会をもちにくい.廣瀬らは,先天性心疾患をもつ乳幼児の母親のストレスには,年齢,発達障害や染色体異常,酸素療法,入院回数,手術回数,親の就業,学歴が関連していたと報告している3).このことからも,感染症の罹患や心不全により入院治療を要するリスクがある先天性心疾患の乳幼児の入院回数を,できるだけ少なくするよう,親に対して医療者ができる支援を検討することが重要と考えられる.

先天性心疾患は,同じ病名でも病態の違いにより治療と経過が異なる.また,ダウン症など同じ染色体異常でも,心疾患を合併し生後すぐに治療を要する乳幼児の親は,心疾患を合併しない子どもの親とは同じ思いを感じられず,患者会でサポート感を得にくい2)

このような,ソーシャルサポートを得にくい治療を要する先天性心疾患や,発達障害や染色体異常を合併する先天性心疾患の乳幼児についての支援が必要と思われる.

4. CHDをもつ乳幼児の計画外入院を減らすための支援

阿川らは文献レビューの結果,先天性心疾患の乳幼児を育てる母親への育児ストレスへの支援として,地域のソーシャルサポートであり生活の場で実践する訪問看護師について考察している4).服薬,在宅酸素療法,経管栄養法などの医療的ケアを実施する乳幼児には,医療保険での訪問看護が可能であり,公費負担で実施できる.訪問看護師は,病状悪化の徴候のアセスメント,感染予防行動の確認,受診のタイミングの判断,家族の情緒的支援,育児相談などを実施し,医療施設と連携して実践する.しかし,豊島論文の結果では,訪問看護の利用は少なかった.医療的ケア児の増加,小児に対応する訪問看護ステーションの少なさから,慢性疾患の乳幼児を依頼しにくい状況も推察されるが,乳幼児期の一定期間の訪問看護利用は,計画外入院の抑制に効果が期待できる.

また,定期受診の際の医療機関での,外来看護師による育児や療養行動,家族の対処行動に関する相談も,有用と考えられる.長い時間を確保しなくても,家族の知識と行っている対処を確認し認めることで,適切な対応が継続され家族の不安の軽減につながる.感染予防の点から自宅近くのクリニックへの受診に不安があり,先天性心疾患の診療施設が遠方の場合,電話やオンライン相談が診療報酬で算定され,家庭と医療施設をつなぐ情報通信機器の整備が推進されると,支援の選択肢も増えると考えられる.

避け難い計画外入院はあるが,先天性心疾患をもつ子どもの苦痛が少しでも減り,家族ができるだけ安心して子どもの治療と成長発達を見守れるような環境と支援を,制度と実践の両面から整えていきたい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.豊島めぐみ,ほか:先天性心疾患をもつ乳幼児の計画外入院に関する実態調査.日小児循環器会誌2022; 38: 117–125

引用文献References

1) 豊島めぐみ,久山かおる,新田紀枝,ほか:先天性心疾患をもつ乳幼児の計画外入院に関する実態調査.日小児循環器会誌2022; 38: 117–125

2) 水野芳子:先天性心疾患の乳幼児をもつ母親が感じる困難感と対処の変化.千葉看護学会誌2017; 13: 61–68

3) 廣瀬幸美,倉科美穂子,林 佳奈子,ほか:先天性心疾患乳幼児をもつ親の育児ストレス,背景要因およびソーシャルサポートとの関連.小児保健研究2015; 74: 375–384

4) 阿川啓子,黒崎あかね,石垣和子,ほか:先天性心疾患の乳幼児を育てる母親の抱く育児ストレスの概観と支援の展望.島根県立大学出雲キャンパス紀要2018; 14: 13–21

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