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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 38(2): 115-116 (2022)
doi:10.9794/jspccs.38.115

Editorial CommentEditorial Comment

患者調査を活かした妊娠前カウンセリングを考えるPreconception Counseling Based on a Questionnaire for Women with Congenital Heart Disease

兵庫県立こども病院循環器内科Department of Cardiology, Hyogo Prefectural Kobe Children’s Hospital ◇ Kobe, Japan

発行日:2022年5月1日Published: May 1, 2022
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重症・軽症にかかわらず,成人期に達した先天性心疾患女性患者の妊娠・出産に対する希望は,一般の女性と同等であるか,もしくはそれ以上に強い想いを持っていることは,日常診療の中でしばしば実感することである.

一方で,近年は患者教育について各種ガイドラインや提言が公表され,その中で,妊娠・出産に関する妊娠前カウンセリングの重要性についても述べられているが1, 2),ガイドラインの理想と,実際の患者の状況が異なっていることもしばしば経験される.ここで危惧されるのは,われわれ医療者が,自分たちの理想とする移行期医療や出産妊娠カウンセリングの枠の中に,患者を押し込めようとしていないかということである.

山﨑らの論文『成人先天性心疾患女性のリプロダクティブ・ヘルス向上にむけた妊娠出産に関する予備的調査』3)は,患者アンケートという方法で,患者の実際の考えや想い,理解度を調査しており,ガイドラインを実際の臨床で活かすために,われわれ医療者が認識しておくべき重要な要素が含まれていると考える.というのも,実際の現場では,医療者が「患者はこう思っているであろう」「こうするべきだ」と思い込んでいることは少なくないからである.医療者は,患者の立場や想いに留意しながらカウンセリングを行うことができるように,こうした調査結果を改めて見直していく必要がある.もちろん,山﨑ら自身が「対象患者に偏りがあるかもしれない」と述べており,全ての患者に当てはまらない面はあるだろうが,少なくとも,患者の視点に立つ努力の重要性を再認識することはできよう.

さて,内容に関してであるが,この調査からも,患者の妊娠に関する知識・認識は,われわれが期待する以上という面もあれば,認識不足と思われる面もあり,また,それぞれの患者の認知度には相当開きがあるということがわかる.こうしたことから,移行期・思春期の女性患者に対する妊娠前相談においては,次のようなことに注意して臨みたい.

  1. (1) 軽症患者の問題:移行期医療においては,重症患者に重きが置かれることが多く,多忙な臨床の現場では,軽症患者については注意が行き届かないことが少なくない.しかし,軽症疾患であっても,経過観察が必要であったり,特に,妊娠・出産においては注意が必要であったりする.山﨑らの論文からも,軽症患者の心疾患に関する認識は明らかに重症者に比べて低く,こうした患者にどのような形で妊娠のリスク(高い・低いのどちらであっても)や経過観察の必要性を伝えておくか,考えておく必要がある.
  2. (2) いつ説明するのか:患者は漠然とした知識やイメージを持っているものの,正確ではないことが多い.また,医療者は「○歳ごろには説明をする(した)」というワンポイントで満足しがちである.しかし,われわれが説明したと思っていることは,大概,患者の耳には入っても意識に定着していないものである.理由は簡単で,「その(説明を受けた)時点では関心がない(なかった)から」である.われわれの施設で行っていた患者教室でも,高校生を対象に妊娠や出産の話をしても,「今の自分には関係がない」「それよりも今後の進路について相談したい」というような反応が多く見られた.とはいえ,患者からのタイミングを待っていては,予期せぬ状況下の妊娠に遭遇することもあり,「あらかじめ」話しておく必要もある.患者の疾患に対する理解度を確認するのは難しいが,頭の隅っこに残しておいてもらう,そのためには,「いつ」にこだわらず,都度都度話題にしておくことは重要であろう.山﨑らの論文でも,繰り返しの重要性に触れられているが,いつか現実的になったときに,誰に相談すればいいか思い出してもらえるように,話題に出しておくようにしたい.
  3. (3) 誰がどのような場面で行うのか:妊娠や出産は日常臨床の場面で説明するにも,かなりデリケートで個別性の強い内容であり,外来の診察室や両親の前ではして欲しくない話題のひとつであろう.当院では,外来看護師が患者の様子をみながら,助産師が行う個別教室「女性の体についてお話ししよう」(いちごクラス)に誘っている.こうした診察室以外で医師以外が行うカウンセリング(あるいは四方山話?)の場では,患者もリラックスして話を聴いたり,自分も話したりするようである.診察室ではなく,色々な場面を用意しておき,今すぐの希望が無くても情報を提供・共有する努力が必要である.特に,医師が男性の場合は,話すことを拒否する患者もいること,また医師の話はどうしても一方的になる傾向にあることからも,想いを共有することに長けた看護師・助産師の声かけは重要であると思われる.

とはいえ,寄り添うばかりでは片手落ちであることもまた事実である.妊娠前カウンセリングでは患者の想いに寄り添い,決定権は患者にあるということを留意するべきであるとされるが,特に重症心疾患患者の妊娠・出産が決して安全では無いことも事実であり,現在われわれが持っている情報を正確に伝えることは,医師の重大な役割であることには変わりはない.

さらに,山﨑らも述べているが,不妊治療についてはまだ,小児循環器内科医の側からも,不妊治療専門医師の側からも,お互いの情報交流の機会が乏しく不安な要素が残されている.むしろ患者のほうが,情報を得て先に進んでいくこともあり,医療者も最低限の情報,あるいは相談できる場所を用意しておく必要がある.

最後に,こうした患者対象の調査は,倫理的配慮などから難しい面も多くなっているが,先天性心疾患の診療においては,患者の協力のもとでその実情・考え方を知ることは極めて重要である.一方で,医療の進歩,経験の蓄積は希望をもたらすこともあるが,それでもやはり厳しい現実に直面することが多いのも,先天性心疾患患者の妊娠・出産・育児である.過剰な制限や禁止は排除するべきではあるが,主体は患者であるからこそ,彼らがより善い人生の時間を過ごすことができるようにともに,考えていくことが何よりも大切であると感じる.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.山﨑啓子,ほか:成人先天性心疾患女性のリプロダクティブ・ヘルス向上にむけた妊娠出産に関する予備的調査.日小児循環器会誌2022; 38: 105–114

引用文献References

1) 心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(2018年改定版).https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_akagi_ikeda.pdf

2) van Hagen IM, Roos-Hesselink JW: Pregnancy in congenital heart disease: Risk prediction and counselling. Heart 2020; 106: 1853–1861

3) 山﨑啓子,井上彩香,澤渡浩之,ほか:成人先天性心疾患女性のリプロダクティブ・ヘルス向上にむけた妊娠出産に関する予備的調査.日小児循環器会誌2022; 38: 105–114

4) 日高庸博:先天性心疾患女性に対する妊娠前相談.日本周産期・新生児医学会雑誌2021; 56: 623–626

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