Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(1): 57-63 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.57

症例報告Case Report

modified Blalock–Taussig shunt感染性閉塞症例の臨床像Clinical Features of Infective Modified Blalock–Taussig Shunt Obstruction

あいち小児保健医療総合センター 小児心臓病センター 循環器科Department of Pediatric Cardiology, Kids’ Heart Center, Aichi Children’s Health and Medical Center ◇ Aichi, Japan

受付日:2020年7月2日Received: July 2, 2020
受理日:2020年10月6日Accepted: October 6, 2020
発行日:2021年4月1日Published: April 1, 2021
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modified Blalock–Taussig shunt (mBTS)感染性閉塞は症例報告が散見される程度で,全体像は不明な点が多い.自験6例の経過から臨床像の把握と治療方針の検討を行った.基礎疾患はFallot四徴2例,完全型房室中隔欠損兼肺動脈閉鎖・純型肺動脈閉鎖・三尖弁閉鎖・総動脈幹遺残各1例であった.mBTS閉塞時に感染性閉塞と診断したのは2例のみで,残りは閉塞判明後の精査で感染性閉塞と診断した.起因菌はメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌3例,サルモネラ菌・セラチア菌・表皮ブドウ球菌各1例であった.3例でmBTS近位側吻合部に仮性瘤を形成した.新規の肺血流供給源をoriginal BTS(2例),心臓カテーテル治療によるmBTS再開通・右室流出路形成術・右室肺動脈導管サイズアップ(各1例)により確保した.右室肺動脈導管サイズアップ以外では肺血流確保が不可能な1例のみ人工物を使用した.心臓カテーテル治療でmBTSが再開通した1例以外で感染巣(人工血管グラフト,仮性瘤)を除去した.mBTS感染性閉塞では,閉塞との関連を疑う病歴の乏しい症例もあり注意を要する.mBTS近位側吻合部の仮性瘤は感染性閉塞を示唆する.(1)低酸素血症への対応,(2)新たな肺血流供給源の確立,(3)人工物を使用しない術式,(4)感染巣除去,を基本に症例ごとに治療方針を検討する必要がある.

Infective obstruction of a modified Blalock–Taussig shunt (mBTS) has remained poorly investigated. Here, we present six cases of this condition and discuss the therapeutic strategy. The underlying congenital heart diseases were tetralogy of Fallot (n=2), complete atrioventricular septal defect with pulmonary atresia (n=1), pulmonary atresia with an intact ventricular septum (n=1), tricuspid atresia (n=1), and truncus arteriosus communis persistens (n=1). Only two cases had infection during the diagnosis of mBTS obstruction. The bacterial pathogens were methicillin-resistant coagulase-negative staphylococci (n=3), Salmonella spp. (n=1), Serratia marcescens (n=1), and Staphylococcus epidermidis (n=1). Furthermore, three cases had pseudoaneurysm at the proximal anastomotic site of the mBTS. Pulmonary blood flow supply was established by mBTS recanalization through catheterization (n=1), right ventricular outflow tract reconstruction (n=1), original BTS utilization (n=2), and a larger-sized right ventricle-pulmonary artery conduit (n=1). Only one patient with no alternative therapeutic options was applied with prosthetic materials. Foci of infection, such as artificial shunt graft and pseudoaneurysm, were completely removed, except in one patient who underwent effective catheterization. In conclusion, possible infection must be considered in patients with mBTS obstruction. Pseudoaneurysm at the proximal anastomotic site of the mBTS suggests infective obstruction. Furthermore, the therapeutic strategy includes 1) treatment for hypoxemia, 2) establishment of a new supply of pulmonary blood flow, 3) surgery without using prosthetic materials, and 4) removal of infection foci.

Key words: Blalock–Taussig shunt; infective obstruction; pseudoaneurysm; infective endocarditis

はじめに

modified Blalock–Taussig shunt(mBTS)閉塞は,時に致命的な低酸素血症を来しうる.その稀な誘因として感染が挙げられるが,症例報告が散見される程度であり1–7),その臨床像全体の把握は不十分である.治療方針に関しても定まった見解はない.mBTS感染性閉塞を来した自験6例の経過をもとに,臨床像の把握と治療方針の検討を行った.

症例提示(Table 1)

症例1

Fallot四徴(Tetralogy of Fallot: TOF),男児.前医で日齢22に胸骨正中切開で左mBTS(3.5 mm)が行われ,その後当院に紹介された.1歳1か月時の心臓カテーテル検査で左mBTS閉塞が判明した.肺血流はわずかな順行性血流と体肺動脈側副血管でまかなわれていた.この時点で肺動脈径も細かったため,mBTSを再度行う方針とし,1歳2か月時に右側開胸で右mBTS(4.0 mm)を行った.術後,抗血栓療法としてアスピリンを投与した.退院後まもなく胃腸炎症状をきたし,便培養からサルモネラ菌が検出されたため内服抗菌薬を1週間投与した.しかしその後も便培養からサルモネラ菌が持続検出され,時に発熱,消化器症状を来す状態が続き,術後4か月時に血液培養からもサルモネラ菌が検出された.人工物留置状態であるリスクを考慮し,感染性心内膜炎(IE)に準じた治療を行う方針とした.入院の上,計6週間の静注抗菌薬治療(セフォチアムを2週間投与したが炎症反応低下に乏しく,セフタジジム+ゲンタマイシンに変更して4週間投与)を行い,便培養および血液培養の陰転化を確認した.入院中から経皮的酸素飽和度(SpO2)が緩徐に低下し(入院時SpO2 70%台後半,退院前SpO2 70%台前半),聴診や経皮的心臓超音波検査で短絡血流の低下が疑われていた.退院後早期に心臓カテーテル検査を行い評価する予定としていた.退院後20日(1歳8か月時,右mBTS術後6か月),突然の不機嫌,嘔吐があり当院を受診した.SpO2 20%未満で,経皮的心臓超音波検査で短絡血流を確認できなかった.すみやかに人工呼吸器管理を開始し,SpO2 50%台に上昇した.心臓カテーテル検査で右mBTSの完全閉塞を確認し,mBTS感染性閉塞と診断した.まずは心臓カテーテル治療で再開通を図る方針とし,バルーン拡張術,ウロキナーゼ局所投与で開通を試みたが再開通は得られなかった.低酸素血症が持続したため同日体外膜型人工肺(ECMO)を装着し,翌日に右室流出路形成術,人工血管グラフト除去を行った.右室流出路形成は漏斗部心筋切除のみで,人工物は使用しなかった.除去した人工血管グラフトの培養からサルモネラ菌が検出された.計4週間の抗菌薬治療(セフタジジム4週間+ゲンタマイシン4週間)を行った.1歳11か月時に心内修復術を行った.

Table 1 Patient characteristics
CaseUnderlying congenital heart diseasesAge (months) mBTS/shunt obstructionAntithrombotic therapy after mBTSResults of blood coagulation tests at the time of diagnosis of mBTS obstructionSigns of infectionBacterial pathogen
1TOF14 / 20aspirinPT-INR 1.26, APTT 56.5 sec Fibrinogen 278 mg/dLbacteremiaSalmonella spp.
D-dimer 13.7 µg/mL
FDP 41.0 µg/mL
2cAVSD, PA1/2aspirin+dipyridamolePT-INR 1.42, APTT 42.8 sec Fibrinogen 251 mg/dLbacteremia pseudoaneurysmSerratia marcescens
D-dimer 2.8 µg/mL
FDP 5.1 µg/mL
3PAIVS0/2aspirin+dipyridamolePT-INR 1.10, APTT 41.7 sec Fibrinogen 297 mg/dLbacteremia pseudoaneurysmMRCNS
D-dimer 2.0 µg/mL
FDP 4.5 µg/mL
4TOF5/12aspirin→dipyridamolePT-INR 1.18, APTT 30.9 sec Fibrinogen 187 mg/dLbacteremiaStaphylococcus epidermidis
5TA(1b)1/4aspirinPT-INR 1.21, APTT 34.4 sec Fibrinogen 148 mg/dLbacteremiaMRCNS
6TAC7/10aspirinPT-INR 1.10, APTT 34.4 sec Fibrinogen 188 mg/dLbacteremia pseudoaneurysmMRCNS
D-dimer 1.9 µg/mL
FDP 3.9 µg/mL
cAVSD, complete atrioventricular septal defect; mBTS, modified Blalock–Taussig shunt; MRCNS, methicillin-resistant coagulase-negative staphylococci; PA, pulmonary atresia; PAIVS, pulmonary atresia with intact ventricular septum; TA, tricuspid atresia; TAC, truncus arteriosus communis; TOF, tetralogy of Fallot

症例2

完全型房室中隔欠損兼肺動脈閉鎖,男児.前医で上記心疾患と食道閉鎖症を診断され,日齢2に当院に搬送された.搬送同日に気管食道瘻離断,胃瘻造設術を行った.食道閉鎖症はいわゆるlong-gapであり,一期的な吻合が不可能であった.月齢1に胸骨正中切開で左mBTS(3.5 mm)を行った.術後,抗血栓療法としてアスピリンとジピリダモールを投与した.左mBTS術後25日に嚥下機能温存と食道延長術のために頸部食道瘻を増設した.左mBTS術後34日に発熱し,血液培養からセラチア菌が検出された.抗菌薬治療を開始したが,発熱3日後から低酸素血症が徐々に進行したため(それまではSpO2 80%台であったが,安静時SpO2 60–70%台,啼泣時SpO2 30%台),人工呼吸器管理を開始した.同日施行した心臓カテーテル検査(月齢2)で左mBTS閉塞と左mBTS近位側吻合部の仮性瘤が確認され(Fig. 1A),mBTS感染性閉塞と診断した.体肺動脈側副血管を認め,最低限の酸素化維持に寄与していると考えられた.治療方針の選択にあたり,(1)肺血流維持,(2)人工物使用を避けること,を旨に検討し,右original BTSを先行,酸素化の担保された状態で人工血管グラフト除去,仮性瘤切除を行う方針とした.両方向性Glenn手術(BDG)も検討したが,肺血管床が不十分であり,original BTSを選択した.敗血症およびそれに伴う播種性血管内凝固症候群の治療を行い,全身状態が安定した後に右側開胸で,直接右房アプローチによるveno-venous ECMO下に酸素化を維持した状態で右original BTSを行った.術中,肺動脈切開時に白褐色の液体が流失し,培養からセラチア菌が検出された.その後仮性瘤は増大したが(Fig. 1B),破裂は免れ経過観察可能であった.original BTSの10日後に胸骨正中切開で人工血管グラフト除去,仮性瘤切除を行った.計8週間の抗菌薬治療(肝機能障害等の副作用を生じたためセフタジジム,バンコマイシン,アミカシン,パニペネム/ベタミプロン,ホスホマイシン,メロペネム,フロモキセフを順次変更しながら併用,計8週間)を行った.本児はこの一連の治療を経て左肺動脈完全閉塞状態となった.次なる治療として右片肺Fontan手術もしくはRastelli手術を検討したが,肺の条件が不良であること,元の感染巣に人工血管を用いる手術であることを考慮し,いずれも困難と判断した.また食道閉鎖症根治術のためには右肺の圧排が必要であるが,右肺に大きく依存した血行動態下での長時間手術は不可能と判断した.3歳6か月まで同様の状態で経過観察し,転居に伴い当院での治療を終了した.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(1): 57-63 (2021)

Fig. 1 Angiographic and three-dimensional computed tomographic images of pseudoaneurysm

A) Angiographic image in case 2. Modified Blalock–Taussig shunt (mBTS) was almost completely obstructed (dotted arrowhead) and pseudoaneurysm (solid arrow) was formed at the proximal anastomotic site of the mBTS. B) Three-dimensional computed tomographic (3DCT) image 23 days after angiography in case 2. Pseudoaneurysm was markedly expanded (solid arrow). Right original BTS was represented (open arrow). C) Angiographic image in in case 3. Note almost completely obstructive mBTS (dotted arrowhead) and pseudoaneurysm (solid arrow) at the proximal anastomotic site of the mBTS, similar to case 2. D) 3DCT image 8 days after angiography in case 3. Note expanded pseudoaneurysm (solid arrow) and right original BTS (open arrow), also similar to case 2. E) 3DCT image in case 6. Pseudoaneurysm (solid arrow) was formed at the proximal anastomotic site of the mBTS. aAo, ascending aorta; ARSCA, aberrant right subclavian artery; dAo, descending aorta; Inn. A, innominate artery; LCCA, left common carotid artery; LSCA, left subclavian artery; RCCA, right common carotid artery

症例3

純型肺動脈閉鎖,女児.日齢11に行った心臓カテーテル検査結果から単心室修復の方針とした.日齢17に胸骨正中切開でBrock手術,左mBTS(3.5 mm)を行った.術後,抗血栓療法としてアスピリンとジピリダモールを投与した.退院時にはSpO2 80%台中盤であった.外来経過観察中,創部の残糸および周囲の発赤があり,皮膚表層創部感染と判断したが,経過観察のみで改善した.徐々に低酸素血症が進行したため(SpO2 70%前後),BTS狭窄を疑い月齢2に行った心臓カテーテル検査で左mBTS閉塞と左mBTS近位側吻合部の仮性瘤が確認された(Fig. 1C).平均右肺静脈楔入圧10 mmHg,肺血管抵抗=2.93 Wood unit·m2, PA index 237 mm/m2であった.心臓カテーテル検査時に提出した血液培養からメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistant coagulase-negative staphylococci: MRCNS)が検出され,mBTS感染性閉塞と診断した.症例2と同様の治療戦略とし,先行して右側開胸で右original BTSを行った.その後仮性瘤は増大傾向であったが破裂は免れ(Fig. 1D),original BTSの7日後に人工血管グラフト除去,仮性瘤切除を行った.提出した組織の培養からもMRCNSが検出された.計6週間の抗菌薬治療(バンコマイシン,テイコプラニン,リネゾリドを副作用のため順に変更して計6週間)を行った.月齢8にBDGを,1歳8か月時にFontan手術を行った.

症例4

TOF,男児.月齢5に胸骨正中切開で右mBTS(4.0 mm)を行った.術後,抗血栓療法としてアスピリンを投与したが,肝機能障害のためジピリダモールに変更して投与継続した.その後低酸素血症の進行はなく推移した.一度胃腸炎症状を呈した以外には感染症罹患はなかった.心内修復術を見据えて1歳0か月時に行った心臓カテーテル検査で右mBTSの完全閉塞が判明した.仮性瘤は認めなかった.順行性血流のみで肺血流はまかなえていると判断し,transannular patchを用いた心内修復術を行う方針とした.1歳3か月時に予定手術を行ったが,人工血管グラフトを結紮した際に白褐色の液体が流出し,迅速検査でグラム陽性球菌が検出され,mBTS感染性閉塞と診断した(のちに培養から表皮ブドウ球菌が検出された).この状況で人工物を用いた手術は望ましくないと判断し,人工血管グラフト除去のみで手術終了した.計4週間の抗菌薬治療(セファゾリン4週間+ゲンタマイシン1週間)を行った.以後感染は問題とならず,酸素化も経過観察可能な範囲であった.1歳6か月で心内修復術を行った.

症例5

三尖弁閉鎖(Ib型),男児.月齢1に胸骨正中切開で右mBTS(3.5 mm)を行った.術後,抗血栓療法としてアスピリンを投与した.術後,SpO2 70%台と酸素吸入下でも低酸素血症の状態であり,また両側肺動脈径が細かったため,mBTSを追加して将来のFontan循環に向けて肺血管床拡大を図る方針とした.月齢3に胸骨正中切開で左mBTS(3.5 mm)を追加した.術後,酸素使用下でSpO2 80%前後であった.経過中に発熱等の感染を示唆する症状はなかった.術後24日目(月齢4)の造影CT検査で右mBTS閉塞が判明した.仮性瘤は認めなかった.1)BDG, 2)BTS再開通もしくは再建,を選択肢に挙げて治療方針を検討した.この時点でもなお両側肺動脈径が細く,肺血管床成長を待ってからBDGに進むことが望ましいと判断し,後者を選択した.侵襲度を考慮して心臓カテーテル治療による右mBTS再開通を図る方針とした.右mBTSは完全閉塞していたが,バルーン拡張術により再開通が得られた.心臓カテーテル治療中,バルーン拡張術に先立ちmBTS近傍で採血した血液培養からMRCNSが検出されたことが心臓カテーテル治療翌日に判明した.mBTS感染性閉塞と診断し,計6週間の抗菌薬治療(バンコマイシン6週間+リファンピシン6週間+ゲンタマイシン2週間)を行った.血液培養からは心臓カテーテル治療2日後まで持続してMRCNSが検出され,以後陰転化した.月齢10にBDGを行ったが,右mBTSはその時点まで問題なく開存が得られていた.現在Fontan手術待機中である.

症例6

総動脈幹遺残,大動脈弓離断,右鎖骨下動脈起始異常(aberrant right subclavian artery: ARSCA),男児.

日齢10に両側肺動脈絞扼術,月齢3に大動脈弓修復術と姑息的右室流出路形成術(ringed PTFE 6 mm)をいずれも胸骨正中切開で行った.術後,抗血栓療法としてアスピリンを投与した.その後左肺動脈狭窄が指摘され,肺動脈成長を促すために左側開胸で左mBTS(3.5 mm)を月齢7に行い,術後もアスピリン投与を継続した.退院時SpO2は80%台中盤であった.退院後,気道感染により3日間発熱したが,それ以外に感染症状はなかった.月齢10の定期外来受診時にSpO2 60%台の低酸素血症を認めた.造影CT検査で左mBTS閉塞と左mBTS近位側吻合部の仮性瘤が判明した(Fig. 1E).また血液培養からMRCNSが検出され,mBTS感染性閉塞と診断した.症例2・3で行ったoriginal BTSによる治療戦略はARSCAが過去の手術で既に離断されており不可能であるため,右室肺動脈導管のサイズアップを行う方針とした.人工物使用となるが,代替手段がなくやむを得ないと判断した.鎮静下に高流量鼻カニュラ酸素療法を行い待機し,準緊急で右室肺動脈導管のサイズアップ(ringed PTFE 7 mm),人工血管グラフト除去,仮性瘤切除を行った.計6週間の抗菌薬治療(バンコマイシン6週間+リファンピシン6週間)を行った.現在外来経過観察中である.

倫理的配慮

この研究と論文発表について,当院倫理審査委員会の承認を受けている(承認番号2020015).

考察

mBTS感染性閉塞を来した自験6例の経過をもとに,その臨床像と治療方針に関して考察を行った.

mBTS閉塞判明時点で感染が関与していると判断したのは,閉塞前にそれぞれサルモネラ菌・セラチア菌の菌血症に罹患していた症例1, 2の2例のみであった.残りの症例では閉塞判明後の精査で感染性閉塞が判明した.症例3, 5, 6ではmBTS閉塞判明後に提出した血液培養の結果で,症例4では術中所見で初めて感染の関与を認識した.症例3では皮膚表層創部感染,症例4では胃腸炎,症例6では気道感染が経過中にあったが,いずれも症状としては軽微であった.これらの症例では,mBTS閉塞に対する感染の関与を閉塞判明時点で想定することが困難である.症例3, 5, 6では症例1, 2の経験を元にmBTS閉塞判明直後に血液培養検査を提出し,mBTS感染性閉塞の診断に至ったが,症例4では心内修復術時の術中所見で初めてmBTS感染性閉塞の診断に至り,術式変更を余儀なくされた.mBTS感染性閉塞例では,閉塞判明前に閉塞との関連を疑う病歴の乏しい症例もある.一般的に,mBTS閉塞の原因として常に感染を念頭に置く必要がある.また,逆に感染を起こした児が低酸素血症などのmBTS閉塞を疑う臨床所見を示した場合には,早期に造影CTや心臓カテーテル検査などの画像評価を行い,mBTSの開存に関する評価を行う必要がある.症例1でサルモネラ菌血症入院中に低酸素血症を認め,mBTS狭窄を疑っていたものの画像評価が遅れたために,結果としてECMOを導入せざるを得ない状況を招いたことは反省すべき点であった.

症例2, 3, 6でmBTS近位側吻合部の仮性瘤を認めた(Fig. 1).感染性mBTS閉塞に伴うmBTS近位側吻合部の感染性仮性瘤はこれまでも報告されており1–7),感染の関与を示唆する重要な所見となる.

mBTS感染性閉塞に対する治療方針の要点は,(1)低酸素血症への対応,(2)新たな肺血流供給源の確立,(3)人工物を使用しない術式,(4)感染巣除去,である(Table 2).(1)低酸素血症への対応に関しては,自験例では1例でECMO装着を要し,2例で人工呼吸器管理を行った.高流量鼻カニュラ酸素療法と経鼻酸素投与を行ったのが各1例,介入なく経過観察したのが1例であった.低酸素血症の程度に応じて,適切な介入を行う必要がある.(2)(3)新たな肺血流供給源を,人工物を使用しない術式で確立する必要がある.症例1では漏斗部心筋切除のみの右室流出路形成により,症例2, 3ではoriginal BTSにより人工物は使用せず肺血流を確保した.症例4, 5ではmBTS閉塞時点で感染性閉塞と診断していなかったが,症例4では肺動脈順行性血流のみで,症例5では心臓カテーテル治療によるmBTS再開通により肺血流供給源を確保したため,新規の人工物は使用しなかった.症例6ではARSCAが過去の手術で既に離断されておりoriginal BTSが不可能であるため,右室肺動脈導管のサイズアップを行う方針とした.代替手段がないため,本症例ではやむを得ず人工物を使用した.(4)症例5を除き,感染巣除去(人工血管グラフト除去,仮性瘤切除)を行った.症例5では,mBTS閉塞が判明した際に感染性閉塞の可能性を疑っておらず,心臓カテーテル治療を行いmBTSが再開通した.心臓カテーテル治療時に提出した血液培養検査で初めてmBTS感染性閉塞の診断がついたため,その後結局人工血管グラフト除去はせずに抗菌薬治療を行った.感染巣除去は治療の肝であり,mBTS閉塞が判明した際には,感染性閉塞を念頭に置く必要がある.

Table 2 Treatment
CaseUnderlying congenital heart diseasesAntibiotic therapy (duration)Removal of focus of infectionNewly added source of pulmonary flowStaged operationUse of prosthetic material
1TOFCTM (2 wks), CAZ+GM (4 wks) CAZ+GM (4 wks)shunt graftRVOTR (myocardial resection)
2cAVSD, PACAZ, VCM, AMK, PAPM/BP FOM, MEPM, FMOX (total 8 wks)shunt graft pseudoaneurysmoriginal BTS
3PAIVSVCM, TEIC, LZD (total 6 wks)shunt graft pseudoaneurysmoriginal BTS
4TOFCEZ (4 wks)+GM (1 wk)shunt graft
5TA(1b)VCM+RFP (6 wks)+GM (2 wks)cathter intervention: recanalization of mBTS
6TACVCM+RFP (6 wks)shunt graft pseudoaneurysmLarger-sized RV-PA conduit
AMK, amikacin; cAVSD, complete atrioventricular septal defect; CAZ, ceftazidime; CEZ, cefazolin; CTM, cefotiam; FMOX, flomoxef; FOM, fosfomycin; GM, gentamicin; LZD, linezolid; mBTS, modified Blalock–Taussig shunt; MEPM, meropenem; MRCNS, methicillin-resistant coagulase-negative staphylococci; PA, pulmonary atresia; PAIVS, pulmonary atresia with intact ventricular septum; PAPM/BP, panipenem/betamipron; RFP, rifampicin; RVOTR, right ventricular outflow tract reconstruction; RV-PA, right ventricle-pulmonary artery; TA, tricuspid atresia; TAC, truncus arteriosus communis; TEIC, teicoplanin; TOF, tetralogy of Fallot; VCM, vancomycin

治療方針に関しては,上記(1)~(4)を基本とし,個々の症例で最適な手段を検討する必要がある.感染性mBTS閉塞に対する肺血流維持の方法としてmBTS再建1, 4),BDG施行3, 5)などの報告がある.Carvalhoらは感染性mBTS閉塞後,別部位にmBTS再建を行ったものの再度感染性閉塞を起こし死亡した症例を報告し,人工物を用いた手術後には反復感染の危険性が高くなることに警鐘を鳴らしている4).当院から,症例2, 3で行った側開胸によるoriginal BTSを使用した段階手術による治療戦略を報告している8).閉塞したBTSと対側の側開胸手術によるoriginal BTSにより術野汚染を避け,かつ人工物を使用せずに肺血流を確保する手段として有用であると考えられる.ただし待機期間に仮性瘤破裂のリスクを伴うため,仮性瘤のサイズの評価を密に行うことと,状況が許す限り段階手術の間隔を短くすることが必要である.また仮性瘤形成下での側開胸手術は術中瘤破裂への対応が困難となるため,その点も加味して適応を十分に検討する必要がある.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

著者の役割

山田佑也は筆頭著者として論文作成を行った.鈴木孝典,伊藤諒一,郷清貴,大島康徳,鬼頭真知子,森鼻栄治,河井悟は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.安田和志は論文内容に関する直接的指導を行った.

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