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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(1): 27-28 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.27

Editorial CommentEditorial Comment

小児心臓カテーテル検査における放射線被ばく目に見えない合併症Radiation Exposure in Pediatric Cardiac Catheterization: Invisible Complications

兵庫県立こども病院循環器内科Department of Cardiology, Hyogo Prefectural Kobe Children’s Hospital ◇ Kobe, Japan

発行日:2021年4月1日Published: April 1, 2021
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近年,先天性心疾患の診断において,心エコー,CT,MRIなどの低侵襲な検査機器の進歩・普及により,カテーテル検査の件数は減少傾向となっている.しかし,一方で,他の検査では代用できない複雑な形態を,より高い精度での評価が必要な症例や,難易度の高いカテーテル治療が必要な症例は増加しており,1件あたりの被ばく量としては増加傾向にあるといえる.しかし,私自身,小児循環器科医としてカテーテル検査を始めるにあたって,放射線被ばくについて講義を受けたり,教科書でしっかりと勉強した経験はなく,また,若い先生方に十分な指導をしてきたとは決していえない.放射線被ばくの問題は,「大事なこと」との認識はあるが,実際の診療の現場においては,出血・不整脈・アレルギー・血管損傷・デバイス脱落,などの合併症対策と比べると,優先順位的には低いのではないかと思われる.それは,すぐその場において目に見えるかたちでの合併症として表に出てこないからであろう.われわれ小児循環器科医,特にカテーテル治療に携わる医師は,クリティカルな心疾患を治療すると同時に,放射線被ばくによって将来発生するかもしれない悪性腫瘍を予防する責任と使命を担っていることを忘れてはならない.一方で,正確な診断と安全な治療を行うために必要な画質を担保することも当然必要なことであり,As Low AS Reasonable Achievable(ALARA)の概念1)に基づき,あらゆる手段を用いて,放射線被ばくを低減する努力をすべきである.北米においては,近年,小児循環器領域における被ばくのモニタリング・低減への取り組み等に関する報告が多数なされている2–5)

実臨床において,放射線を用いる検査および治療における標準的かつ正当化・最適化された被ばく線量の情報があれば,それを目安に計画を立てることができる.医療被ばく研究情報を共有して連携するための組織として設立されたJ-RIME(Japan Network for Research and Informartion on Medical Expusure)がその活動の一環として,2014年にワーキンググループを立ち上げて,本邦における診断参考レベル(Diagnostic Reference Level; DRL)設定の取り組みを始めた.そして2015年にわが国初のDRL(DRLs 2015)が策定され,昨年,DRLs 2020へ改定された6).現在では各国でDRLを設定し運用することが国際的基準となっている.このDRLs 2020の中に,小児心臓領域の診断カテーテル検査とIVRについて,DRL値が示されているが,1歳未満,1~5歳,5~10歳,10~15歳というように年齢区分によるDRL値(AK, DAP)が設定されている.非常に参考となる指標ではあるが,年齢区分の幅が広いこと,先天性心疾患症例では年齢に比して体格が小さい症例が多いことなどを考えると,真田論文7)が提唱するDAP/BWで基準を設定するほうが理にかなっていると思われる.当院では今後,放射線被ばく低減の取り組みのひとつとして,過去の症例のDAP値を参考にして,各疾患や治療内容におけるDRL値(DAP/BW)を設定し,その50%および80%に達した時点で放射線技師から術者に報告することを検討している.

われわれが放射線被ばく低減のためになすべきもっとも重要なことは,放射線被ばくへの意識改革であると考える.自施設のアンギオ装置の,デフォルトの透視・撮影のフレームレートがいくらに設定されているかを答えられる術者はどれくらいいるだろうか?症例や手技毎にフレームレートを変更したり,透視画像の保存を積極的に行いできるだけ撮影を減らす工夫をしている術者はどれくらいいるだろうか?本論文は,放射線被ばくの低減に関する我々の意識改革につながるという意味において,貴重な論文であると考える.あわせて,今後,本邦における小児の心臓カテーテル検査・治療の適正な被ばく線量に関する研究がなされることを期待したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 真田和哉,ほか:小児心臓カテーテルにおける年代と技術の変遷に伴う被ばく低減の取り組みと成果—面積線量積/体重比によるモニタリングの有用性—.日小児循環器会誌2021; 37: 18–26

引用文献References

1) Justino H: The ALARA concept in pediatric cardiac catheterization: Techniques and tactics for managing radiation dose. Pediatr Radiol 2006; 36 (Suppl2): 146–153

2) Ghelani SJ, Glatz AC, David S, et al: at al: Radiation dose benchmarks during cardiac catheterization for congenital heart disease in the United States. JACC Cardiovasc Interv 2014; 9: 1060–1069

3) Patel C, Grossman M, Shabanova V, et al: Reducing radiation exposure in cardiac catheterizations for congenital heart disease. Pediatr Cardiol 2019; 40: 638–649

4) Quinn BP, Armstrong AK, Bauser-Heaton HD, et al: Congenital Cardiac Catheterization Project on Outcomes-Quality Improvement (C3PO-QI): Radiation risk categories in cardiac catheterization for congenital heart disease: A tool to aid in the evaluation of radiation outcomes. Pediatr Cardiol 2019; 40: 445–453

5) Quinn BP, Cevallos P, Armstrong A, et al: Longitudinal improvements in radiation exposure in cardiac catheterization for congenital heart disease: A prospective multicenter C3PO-QI study. Circ Cardiovasc Interv 2020; 13: e008172

6) 医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME) : National diagnostic reference levels in Japan (2020) —Japan DRLs 2020—. http://www.radher.jp/J-RIME/report/JapanDRL2020_jp.pdf

7) 真田和哉,金 成海,石垣瑞彦,ほか:小児心臓カテーテルにおける年代と技術の変遷に伴う被ばく低減の取り組みと成果—面積線量積/体重比によるモニタリングの有用性—.日小児循環器会誌2021; 37: 18–26

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