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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(3): 239-245 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.239

症例報告Case Report

完全大血管転位症に合併した新生児壊死性腸炎後に新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症を発症した1例A Case of Transposition of the Great Arteries that Led to the Development of Non-IgE-Mediated Gastrointestinal Food Allergy after a Neonatal Necrotizing Enterocolitis Complication

順天堂大学医学部小児科Departments of Pediatrics, Juntendo University Faculty of Medicine ◇ Tokyo, Japan

受付日:2021年1月15日Received: January 15, 2021
受理日:2021年4月30日Accepted: April 30, 2021
発行日:2021年11月1日Published: November 1, 2021
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新生児壊死性腸炎(neonatal necrotizing enterocolitis: NEC)は新生児期から管理を要する先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)児において重要な合併症の一つである.一方,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症は嘔吐・下痢・血便・腹部膨満などの消化器症状を呈することが多いが,稀に消化管穿孔やNECなどを合併する重症例も散見する.また,CHDと新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の関連についても報告され,特に腸管血流が低下する血行動態の先天性心疾患では新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の発症のリスクとされている.症例は完全大血管転位症I型の女児で,経腸管栄養を開始した後に日齢8で血便,ショックを呈し,先天性心疾患に合併したNECと診断した.保存的治療で症状は軽快したが,大血管スイッチ術後に母乳・人工乳を再開した際に消化器症状を認め,血液検査にて末梢血好酸球数増多と牛乳蛋白に対するアレルゲン特異的リンパ球刺激試験(allergen-specific lymphocyte stimulation test: ALST)の陽性,その後に加水分解乳に変更し症状が改善したことから,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の関与が考えられた.先天性心疾患例でNECの炎症後,経腸栄養開始に併って消化器症状を認めた際には,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の関与も考慮し,診断と治療を進めていくことが重要であると考えられる.

Neonatal necrotizing enterocolitis (NEC) is a serious complication associated with congenital heart disease (CHD). Non-IgE-mediated gastrointestinal food allergy (non-IgE-GI-FA) in neonates and infants manifests as digestive symptoms, including emesis, diarrhea, melena, and abdominal distension, with occasional intestinal perforation and NEC. Previous studies showed the relationship between CHD and non-IgE-GI-FA, which suggests that a decrease in intestinal blood flow can be a risk factor of non-IgE-GI-FA in neonates and infants with CHD. We report the case of a neonate with transposition of the great arteries who developed NEC before an arterial switch operation (ASO) and non-IgE-GI-FA after the operation. The patient presented with bloody stools after the start of formula feeding and was diagnosed with NEC on the basis of abdominal radiography findings. After recovery from NEC, the patient underwent ASO. However, the patient presented with abdominal distension after formula feeding was restarted and was diagnosed with non-IgE-GI-FA on the basis of the findings of eosinophilia and positivity in an allergen-specific lymphocyte stimulation test. This demonstrates that postoperative digestive symptoms impose the possibility of non-IgE-GI-FA in neonates with CHD, especially in those with an NEC complication. Therefore, we infer that if gastrointestinal complications occur in patients with severe CHD, the possibility of non-IgE-GI-FA should be considered.

Key words: transposition of the great artery; non-IgE-mediated gastrointestinal food allergy; neonatal necrotizing enterocolitis; congenital heart disease

はじめに

新生児壊死性腸炎(neonatal necrotizing enterocolitis: NEC)は新生児期から管理を要する先天性心疾患の児において重要な合併症の一つである1, 2).一方,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症は嘔吐・下痢・血便・腹部膨満などの消化器症状を呈することが多いが,体重増加不良・哺乳力低下などの非特異的な症状のみで発症した症例では診断に苦慮することがあるのに対し,消化管穿孔やNECなどを合併した重症例の報告も散見される3–5).また,先天性心疾患が新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の発症リスクであるとされている6)

今回,我々は完全大血管転位症I型の患児で,経腸管栄養を開始した後に血便,ショックを呈し,NECを合併し,その後の経過で新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症を発症した症例を経験した.重症の先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)では虚血によりNECを発症することがあるだけでなく,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の頻度が高いこと,更に新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症によりNECなどの重症な消化管合併症を合併する可能性があることを留意する必要があり,報告する.

症例

症例

日齢8,女児

母体歴

4経妊3経産.慢性C型肝炎のため消化器内科通院中

母体妊娠経過

妊娠27週に前医でCHDを疑われ,精査目的に当院へ紹介受診となった.妊娠29週での胎児超音波にて完全大血管転位症(transposition of the great arteries : TGA)I型の診断,前回帝王切開の適応で予定帝王切開による出生となった.

出生後経過

在胎37週5日,出生体重は2,840 g,アプガースコアは1分値4点,5分値7点で,出生時の室内気における経皮的酸素飽和度(SpO2)は上肢で75%,下肢で80%であった.身体所見は顔貌異常なく,胸部で陥没呼吸を軽度認める以外に異常所見はみられず,皮膚には全身にチアノーゼを認めたほか,末梢冷感もみられた.

心臓超音波検査でTGA I型,心房中隔欠損症,動脈管開存症(patent ductus arteriosus : PDA)と診断し,プロスタグランジンE1-CD(PGE1-CD)製剤の持続投与(10 ng/kg/分)を開始した.心房中隔欠損症は6 mmあり,十分な心房間交通であると判断した.

日齢1にPDA 4 mmでほぼ左–右短絡となり,SpO2が上下肢ともに94%まで上昇,血圧86/28 mmHgと拡張期血圧の低下を認め,胸部X線にてうっ血所見を呈したため窒素ガス吸入による低酸素換気療法と利尿剤の投与を開始し,PGE1-CDは5 ng/kg/分に減量した.また生後6時間で人工乳による経腸栄養を開始し,日齢4より母乳の併用を行ったが,軽微な症状を含め腹部症状は認めなかった.日齢7に術前評価目的に胸部造影CT検査を施行したところ,日齢8に腹部膨満,血便,血圧低下,およびショック症状を呈した.腹部単純X線像では,小腸の腸管壁内気腫像を認めたが腹腔内に遊離ガス像はみられず(Fig. 1a),血液検査では,白血球数24,500/µL(好酸球数0/µL),CRP 1.07 mg/dLと炎症反応の上昇を認めたため,NEC(Bell分類II期)および敗血症と診断した.経腸栄養を中止し気管内挿管,人工呼吸管理,カテコラミン製剤,抗菌薬(MEPM, VCM, TAZ/PIPC),ガンマグロブリン製剤の投与を行ったところ症状出現から17時間後には血便は消失,腹部単純X線検査の腸管壁内気腫像は改善した.日齢13に抗菌薬を中止し,同日に心臓カテーテル検査による冠動脈走行の診断(Shaher分類4型)を行い,日齢14に大血管スイッチ術を施行した(Fig. 2).

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Fig. 1 Abdominal X-ray

(a) Abdominal radiograph obtained at day 8 showed pneumatosis intestinalis at arrows. At 8 days of age. (b) Abdominal radiograph obtained at day 26 showed partial small intestinal gas deficiency area, whereas colon gas was not obscure, suggesting poor small intestinal peristalsis and fluid retention.

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Fig. 2 Clinical course of the patient (at day of age 0–12)

The patient with transposition of the great arteries who developed NEC presented with bloody stools after starting formula feeding and was diagnosed with NEC based on abdominal X-ray findings before an arterial switch operation.

bpm, beats per minute; CRP, C-reactive protein; DOA, Dopamine; DOB, Dobutamine; HR, heart rate; IVIG, Intravenous Immunoglobulin; UV, urine volume; WBC, white blood cell; WQ, water quantity.

術後の経過は良好で,日齢15(術後1日)に抜管,日齢16にカテコラミン製剤を中止した.便は粘液便であったが血便はなく,日齢20より人工乳による経腸栄養を再開した.その後の便性は水様だが1日2回程度であり,便量や便回数の増加は認めなかったものの,腹部膨満の症状が出現し,胃内残渣が多く経腸栄養を進めることができなかった(Fig. 3).日齢26の腹部単純X線像でも,部分的な小腸ガス欠損域を認め,それに対し結腸ガスが目立たないことから小腸蠕動不良と腸液貯留を示唆する所見と判断した(Fig. 1b).NEC後の消化管狭窄病変の鑑別を行うため,上部消化管造影検査を施行し,胃の蠕動低下を認めたが,造影1時間後,3時間後,8時間後のX線像で小腸・結腸の通過障害は認めず,狭窄性病変もみられなかった.血液検査では,末梢血好酸球数が増多(1,251/µL)を示したことから,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症を疑い高度加水分解乳(ニューMA-1®:森永乳業)に変更した.同日に提出した非特異的IgE:<3 U/mLと牛乳・α–ラクトアルブミン・β–ラクトグロブリン・カゼインの抗原特異的IgEは低値であったが,アレルゲン特異的リンパ球刺激試験(allergen-specific lymphocyte stimulation test: ALST)ではラクトフェリン:SI(Stimulation Index)=5.07(カットオフ値2.62),β–ラクトグロブリン:SI=3.03(カットオフ値2.10)が高値であった(Table 1).高度加水分解乳に変更後は順調にミルクの増量が可能となり良好な体重増加が得られたため,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症と診断した.日齢62に退院し現在外来での定期受診を行っているが,消化器症状の再燃はなく経過は良好である.

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Fig. 3 Clinical course after arterial switch operation

The patient underwent an arterial switch operation after recovery from NEC, the patient presented with abdominal distension after restarting formula feeding and was diagnosed with non-IgE-GI-FA. Symptoms improved after the use of casein-hydrolyzed formula, and the body weight gain was improved. bpm, beats per minute; CRP, C-reactive protein; DOA, Dopamine; DOB, Dobutamine; HR, heart rate; UV, urine volume; WBC, white blood cell; WQ, water quantity.

Table 1 Results of RAST, RIST and ALST
RASTRIST
AntigensClassTiter (U/mL)Titer (U/mL)
Milk00.11Non-specific IgE<3
Casein00.10
α-lactalbumin00.12
β-lactoglobulin00.10
ALST
AntigensMeasured value (cpm)Stimulation indexCut-off index
Control835
κ-casein10431.251.58
Lactoferrin42325.072.62
α-lactalbumin7530.902.27
β-lactoglobulin25343.032.10
RAST, radioallergosorbent test; RIST, radioimmunosorbent test; IgE, immunoglobulin E: ALST, allergen-specific lymphocyte stimulation test.

考察

高肺血流による心不全を合併したTGA I型の術前にNECを合併し,大動脈スイッチ術後に新生児・乳児蛋白誘発胃腸症を合併した新生児例を経験した.CHDに関連した血行動態的な腸管の虚血を背景として,経腸栄養開始後,新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の重症型としてNECを生じた可能性と,NECによる虚血が生じた腸管粘膜から続発性の蛋白誘発胃腸症を発症した可能性が考えられた.

NECはびまん性かつ進行性に消化管粘膜から粘膜下にかけ様々な程度の壊死を生じることを特徴とする.特に,未熟性の強い早産児では,短腸症候群を合併することがあり,成長や神経発達等の長期予後にも影響する重篤な消化管合併症である.成熟児では腸管虚血を生じる様々な誘因(心疾患,新生児仮死,動脈カテーテルの留置など)が関与して発症し,NECを発症した成熟児の7.6~38%がCHDを有する1, 2, 7).一方で,ショックや低酸素のエピソード,拡張期血圧の低下,左室流出路病変,Blalock–Taussigシャント術後などがCHD児におけるNECのリスクとされている2, 8)

新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症は新生児期もしくは乳児期にミルクまたは母乳の開始後に発症し,嘔吐・下痢・血便・腹部膨満といった消化器症状を認める疾患であるが,体重増加不良・哺乳力低下などの非特異的な症状のみを呈し診断に苦慮することも少なくない9–11).非IgE依存性アレルギーで細胞性免疫に関わるものが多いとされ,food protein-induced enterocolitis syndrome, allergic proctocolitis, enteropathy(FPIES, FPIAP, FPE)を中心にいくつかの疾患概念を含んでいる10).抗原提示細胞やアレルゲン特異的リンパ球,好酸球,患部の上皮細胞等が関与し発症すると考えられているが詳細な機序は未だ不詳で,胎内感作を示唆する報告もみられる12).この疾患は新生児・乳児非IgE依存性食物蛋白誘発性胃腸症や新生児・乳児消化管アレルギーと呼称されることもあるが,本稿では診療ガイドラインに則り,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症で統一し記載している10).新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の一部の症例では重篤な症状を呈することがあり,厚生労働省研究班のコホートによると,176名中,15名でイレウス,ショック,輸血を必要とする下血,DIC,および深刻な体重増加不良などが報告されている13).また,消化管穿孔や腸閉塞を呈し,外科手術を要した症例やNECを発症した症例の報告も散見された3–5)

一方で,CHDと新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の関連についても報告されており,2009年に実施された東京都の全数調査では総出生数に対する新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の発症率は約0.21%であったのに対し,三角らの報告では手術を要する先天性心疾患の児における新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の発症率は1.1%と高値を示した6).腸管血流を規定する拡張期血圧が低下するような血行動態のCHDが新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の発症リスクとなるとされており,拡張期血圧の低下により虚血が生じた腸管粘膜から食物蛋白が過剰吸収されることで免疫応答を惹起し,アレルギーを発症したことが原因と推測されている6).新生児消化管疾患に対する手術療法も本症のリスク因子とされており,消化管粘膜の損傷による物理的・免疫学的バリア機構の破綻や炎症性変化と腸管拡張による抗原透過性の亢進により,経腸管感染が惹起されると推測される3, 4).以上より,本症例では,物理的な腸管粘膜の損傷と虚血による影響の違いはあるものの,同様の機序が発症に関与したことが想定された.CHDに合併した新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の詳細な経過がわかる報告は非常に少ないが,動脈管依存性CHD, Blalock–Taussigシャント術後,肺血流増加型心疾患で合併を報告されており6),拡張期血圧の低下により虚血・腸管粘膜の損傷が誘因であるならば,前述のCHDにおけるNECのリスクがそのままCHDにおける新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の発症リスクに当てはまる可能性がある.また,先天性心疾患に合併した新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症と正常児に発症した新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の相違点について検討をした報告はないが,CHDのない児に発症する新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の半数は生後7日以内で14),心疾患に合併する症例の報告の多くは生後1週間以降である6).虚血による腸管粘膜の損傷が誘因となった後に発症するため,発症の時期が遅い可能性が考えられた.

本症例では大血管スイッチ術前の日齢8と,術後に人工乳・母乳を再開した日齢20以降の2回の消化器症状のイベントがある.前者のイベントについては動脈管依存性CHDの術前であること,本症例にとっては侵襲的検査である造影CTの翌日に発症したこと,典型的な新生児壊死性腸炎の症状と検査所見であったため,CHDに合併した虚血が原因のNEC(Bell分類II期)と診断した.しかし,前述の通り新生児・乳児蛋白誘発胃腸症によるNECの報告やCHDと新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症との関連の報告もあり,それらの可能性についても除外することは容易ではない3–5).新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の重症型としてのNECであった場合,本症例では日齢8に突然発症したため回避することは困難であったと考えるが,NECを含めた腹部症状を呈した場合は常に新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の関与の可能性を考慮することがその後の管理において重要であると考える.後者のイベントにおいては,術前に腸管の虚血をきたす循環動態で,かつ重篤な消化管の症状の合併があり新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症をきたしやすい背景があったこと,検査所見や大血管スイッチ術により血行動態が正常化した後で術後経過も良好であったこと,また人工乳・母乳の再開で消化器症状を認めたことより新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症が原因であると考え鑑別を進めた.新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の診断は,①症状や病歴より本症を疑う.②他の重大な疾患,代表的な疾患を除外する.③検査(末梢血・生化学検査,末梢血好酸球,特異的IgE抗体検出,超音波検査,胸腹部単純X線検査,ALST,便粘液好酸球細胞診など)を行う.④治療乳へ変更し症状消失の確認による治療的診断を行う.⑤確定診断のための負荷試験を行う.の5つのステップを踏んで成される10).検査についてはALSTの陽性率は70~80%とされるが,健常者や他疾患でも陽性例がみられるためALSTの陽性所見のみで新生児・乳児蛋白誘発胃腸症と診断することは一般的ではないが,有用性について述べられた報告も多い15, 16).負荷試験に関しては,本症例では施行できていないが,経腸栄養(人工乳・母乳)開始後の臨床経過,ラクトフェリンとβ–ラクトグロブリンのALST陽性や末梢血好酸球数増多などの検査所見,高度加水分解乳により症状が改善したことから臨床的に新生児・乳児蛋白誘発胃腸症と診断した.

本症例はTGA I型の高肺血流による心不全や,NECおよび新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の各疾患が複雑にからみあっている.前述の通りCHD児におけるNECのリスクがそのまま新生児・乳児蛋白誘発胃腸症のリスクとなる可能性がある.今後は先天性心疾患にNECを疑わせる症状を認めた場合は新生児・乳児蛋白誘発胃腸症の関与の可能性も同時に考慮する必要があり,症状改善後の経腸栄養開始に伴う消化器症状においても十分留意する必要があると考えられた.

結語

本症例は,TGA I型の術前管理中の経腸栄養を開始後にNECを合併し,大血管スイッチ術により血行動態が正常化した後の経腸栄養の再開後にも消化器症状が出現したため,臨床経過と検査所見から新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症と診断した1例を経験した.先天性心疾患例で消化器症状を認めた際には,新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の関与も考慮し,診断と治療を進めていくことが重要であると考えられた.

利益相反

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反事項はありません.

付記

本稿の要旨は,第655回日本小児科学会東京都地方会で発表した.

著者役割

永田万純は筆頭著者として論文作成を行った.若月寿子は論文内容に関する直接的な指導を行った.松井こと子は症例の診断・治療に関与し,データの解釈に関与した.神保圭佑は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.古川岳史は診断・治療に関与し,データ収集・解釈に関与,論文内容に関する直接的な指導を行った.福永英生は治療のリーダーとして関与した.工藤孝広は論文の重要な知的内容に関わる批判的校閲に関与した.高橋健は論文内容に関する指導を行った.稀代雅彦は論文内容に関する指導を行った.清水俊明は論文の総合的な指導に関与した.

引用文献References

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