日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(2): 141-143 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.141

Editorial CommentEditorial Comment

小児心臓移植後のPost-Transplant Lymphoproliferative Disorders (PTLD)Post-Transplant Lymphoproliferative Disorders (PTLD) in Pediatric Heart Transplantation

国立循環器病研究センター移植医療部Department of Transplant Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

発行日:2021年8月1日Published: August 1, 2021
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はじめに

移植後リンパ球増殖症Post-Transplant Lymphoproliferative Disorders(PTLD)は,小児臓器移植後に発生する悪性腫瘍の90%以上を占め,遠隔成績に左右する重要な合併症である.本症は拒絶反応を抑制するために免疫抑制薬を回避できない心臓移植後に発症率が高く(6~10%),心臓移植では免疫抑制薬を生涯中止できないので,肝臓移植後に比べて予後不良である.治療戦略も複雑な疾患である.PTLDは非移植患者の悪性リンパ腫に類似しているが,臨床症状,腫瘍化するリンパ球の型,組織型も多彩である.その他の危険因子として,急性拒絶反応の頻度が多いこと,抗胸腺細胞抗体製剤の使用,移植前EBV抗体陰性,およびシクロスポリン(CSA)の多量投与があげられている1, 2).一方,小児期PTLDの90%以上がEpstein-Barrウイルス(EBV)に起因するB細胞型であるが,日本では成人のEBV保有率が欧米に比して高く,ドナー・レシピエントミスマッチ,移植後の初感染のリスクが高いので,欧米以上に発症率・重症化率が高く,本症を克服することが我が国の小児心臓移植の成績を向上させるのに回避できない課題である.

PTLDの治療法

免疫抑制剤の使用によりT細胞機能が低下し,EBV感染細胞が生存できることがPTLD発生の1つの機序として考えられている.したがってPTLDの治療については,免疫抑制剤の減量をまず行う.しかし,心臓や肺の場合には免疫抑制剤を中止することは不可能で,減量しただけでも拒絶反応を引き起こし死亡する例も少なくない1, 2)ので,心臓移植の場合には,可能な限りの減量を行ったうえで,他の薬剤を併用するしかない.治療は,一般的な悪性リンパ腫に使用される化学療法と,B細胞型の場合はリツキシマブが有効である.

PTLDの再発予防とmTOR阻害剤の応用

心臓移植患者では,免疫抑制剤を減量しすぎると,拒絶反応や移植後冠動脈硬化症で死亡する可能性があり,カルシニュリン阻害剤(CNI)の代替薬が必要である.mTOR阻害剤であるエベロリムス(EVL)はPTLD様Bリンパ球の増殖を強力にin vitroおよびin vivoで抑制することが報告3)されていたので,我々は小児心臓移植後のPTLDの化学療法後の免疫抑制の維持に使用し,有効であることを世界に先駆けて報告した4).現在では,CNI代替薬としてEVLが用いられているが,後述するようにEVL投与例にもPTLDは発症するので注意を要する.

わが国における心臓移植後PTLDの現状

AMED免疫アレルギー疾患等実用化研究事業(移植医療技術開発研究分野)「小児心臓移植後の移植後リンパ球増殖性疾患の診断及び治療法の開発に関する臨床的研究」で調べた範囲では,2018年末までに心臓移植を受けた日本人590例を調査し,成人15例,小児20例にPTLDの発症を認めた.成人4例(国内:全死亡28例中2例,国外:全死亡14例中2例),小児5例(国内:全死亡2例中0例,国外全死亡17例中5例)が死亡している(Table 1).9例のPTLD関連死亡の死因については,成人2例,小児3例はPTLD(小児1例は再発)のため,成人,小児各1例は免疫抑制剤の漸減を契機に拒絶反応を発症し,最終的に移植後冠動脈硬化症のため,小児1例は化学療法後の血球貪食症候群,成人1例は突然死で死亡している(うち3人はリツキシマブの登場前).心臓移植症例の死亡例は61例のうち9例がPTLD関連死亡であることを考えると,PTLDが日本人においても心臓移植後の予後を左右する合併症であると考えられる.

Table 1 日本人の心臓移植後のPTLD発症数と死亡数
渡航心臓移植(N=182) 1988.10~2018.10国内心臓移植(N=402) 1999.2~2018.10
総数成人小児成人小児
5912338632
死亡数1417282
PTLD発症519101
PTLD関連死亡2520

著者らの小児心臓移植後のPTLDの経験

著者が大阪大学と国立循環器病研究センターで経験した小児心臓移植後のPTLD発症例10例では,男女5例ずつで,発症時年齢は平均6歳10か月(EBV関連10例は全て10歳未満),移植後からPTLD発症までの期間は平均2年6か月(T細胞型の1例を除き10年未満)であった.初発症状は発熱7例,腹痛8例,下痢3例で,T細胞型の1例のみサイレント(胸部X線で腫瘍発見)であった.ドナーのEBV抗体陽性例が8例(4例はレシピエント陰性),6例でPTLD発症時にEBC-PCRが高値であった.移植後の維持免疫療法は,タクロリムス9例,エベロリムス2例であった.全例で生検を行い,Diffuse large B cell 4例,Polymorphicが2例,Early lesionが2例,EBV関連平滑筋腫1例,Monomorphic T cellが1例であった.B細胞型の8例でリツキシマブを投与し,平滑筋腫の1例を除き,CHOP他の化学療法を行った.Early lesionの1例は免疫抑制薬の変更を,T細胞型の1例は化学療法を行った.B細胞型の5例は完解したが,1例はPTLD完解後に貪食症候群に陥り死亡した.2例はPTLDの急性期に多臓器不全となり死亡した.平滑筋腫の1例で完解は得られず,発症後3年で死亡した.

末梢血のEBV感染細胞同定解析について

心臓移植の領域においても,リツキシマブの登場により,B細胞型PTLDの成績は向上したが,乳幼児期発症のPTLDは病状の進行が早く,生検を待って治療すると,すでに全身状態が悪化していて,強力な化学療法を行うことができずに死亡してしまうことがある.そこで,石橋らの論文5)のように,生検の実施と並行して,末梢血のEBV感染細胞の有無を検索し,感染細胞を同定することは今後期待される治療である.今留ら6)のグループは,早期から末梢血EBV感染細胞の同定解析に着手し,造血幹細胞移植や肝臓移植で有効性を明らかにしてきた.ただ,末梢血感染細胞と腫瘍内増殖細胞が一致しない可能性や,末梢血ではPTLDの病期や悪性度を判定することはできないので,リツキシマブとの併用化学療法を選択することはできないので,並行して生検を行い,病理組織学的に腫瘍細胞を同定することが重要である.また,腸管全体を冒すような全身性のPTLDでは過剰にリツキシマブや化学療法を行うと,腫瘍崩壊症候群や腸管の多発穿孔を起こすこともあるので,PETを含めた画像診断を並行して行うことが重要である.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.石橋誠二郎,ほか:末梢血のEBウイルス感染細胞同定解析に基づき早期に治療開始できた心臓移植後リンパ増殖性疾患の一例.日小児循環器会誌2021; 37: 133–140

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