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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 37(2): 104-105 (2021)
doi:10.9794/jspccs.37.104

Editorial CommentEditorial Comment

学校心臓検診における地域独自のシステムUnique Regional System of Heart Disease Screening in Schools

九州大学病院小児科Department of Pediatrics, Kyushu University Hospital ◇ Fukuoka, Japan

発行日:2021年8月1日Published: August 1, 2021
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我が国における児童生徒の心臓検診は,昭和48年の学校保健法施行規則の改正により,学校における定期健康診断の項目としてその実施が義務付けられるようになった.そして平成7年より小学校,中学校,高等学校の1年生全員に対する心電図検査の実施が義務付けられた.一般的な学校心臓検診におけるおよその流れを示す1)Fig. 1).学校心臓検診の目的は,①心疾患の発見や早期診断をすること,②心疾患をもつ児童生徒に適切な治療を受けさせるように指示すること,③心疾患児に日常生活の適切な指導を行い児童生徒のQOLを高め,生涯を通じてできるだけ健康な生活を送ることができるように児童生徒を援助すること,④心臓突然死を予防すること,⑤心臓検診を通して児童生徒に心疾患などに関する健康教育を行うことなどである1).この我が国独自の検診システムは児童生徒の学校突然死の予防に確実な成果を上げており,世界に誇るシステムとなっている.

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Fig. 1 心臓検診の流れ1)

しかしこの優れた検診システムの実施方法について,およその流れはあるものの,具体的な指示や統一された方法はなく,開始から50年近くが経過しようとしている現在においても各自治体が独自の工夫を凝らし,様々な実施形態となっているのが実際である.このような状況下で全国の学校心臓検診が一様に上記目的を達成するために,統一された判断・抽出・管理基準が設けられており,“2016年版学校心臓検診のガイドライン”や“2次検診対象者抽出のガイドライン2019年改訂”などが策定されている1, 2).とはいえ,例えば心電図診断に関しては普段から小児診療に携わり,小児心電図の特徴をよく理解している医師が行うのが最良であることに異論はないだろう.ところが地域によっては小児心電図の判読に精通している医師が少なく,専門ではない医師が判読せざるをえない場合もあり得る.日本学校保健会による“平成25年度学校生活における健康管理に関する調査”では,小学校および中学校の1次検診で心電図を判読した医師は小児科医が約30%,内科医が約45%,小児科・内科医以外の医師が11%となっていた3)Fig. 2).多くの自治体で学校心臓検診は地域の医師会が中心的な立場を担い,小児循環器医のみならず循環器内科医,一般内科医などが広く実施者となって担当しているのが実情である.

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Fig. 2 一次検診の心電図判読医3)

川村らは鹿児島市独自の学校心臓検診スクリーニングシステムを紹介,精度を解析し,その独特な方法と有効性について報告している4).鹿児島市の学校心臓検診システムの特徴は,①1次検診の判定を集団判読会とダブルチェック方式で行っていること,②その全てを小児診療に精通している小児循環器医が実施していることである.1次検診の目的の一つは,疾患を可能な限りもれなく発見することである1).鹿児島市の心臓検診の1次検診抽出率はダブルチェック方式および集団討議導入後に有意に低下したが,2次検診の有病率は有意に上昇し,心検有病率の低下は見られていなかった.上記1次検診の目的に照らし合わせた場合,鹿児島市のシステムは効率よくその目的を達成できているのではないかと推察する.またこのダブルチェック方式によって,経験の浅い小児循環器医も積極的に検診に参加できる機会が与えられ,後進の育成にも一役買っていることは特筆すべきである.おそらくベテランの小児循環器医のみであれば心臓検診に必要な人員が賄えず,普段小児の診療にあまり携わっていない医師も検診の実施者に加わらざるをえなくなるのではないかと思われる.このダブルチェック方式があるからこそ,鹿児島市は小児循環器医のみによる検診システムが確立されているのであろう.鹿児島市が20年近い歳月をかけて作り上げてきた本方式は,全国的に統一された心臓検診の方策がないために生まれた独自の産物であり,一つのモデル方式として他の自治体においても参考とされたい.

2020年度はコロナ禍という未曾有の事態のため,当初の予定どおりの学校心臓検診の実施が困難となり,全国の自治体は大いに苦労されたことと思う.筆者の所属する地域の学校心臓検診においても,実施時期がずれ込んだり,集団検診を個別検診に変更したりするなど,過去にない検診体制となった.児童生徒の命を守るこの素晴らしい学校心臓検診制度を維持するためにも,川村論文の出稿とコロナ禍という社会情勢を契機に,我々小児循環器医は学校心臓検診制度のあり方について再考してみてもよいかもしれない.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 川村順平,ほか:鹿児島市学校心臓検診スクリーニングシステム精度の検討.日小児循環器会誌2021; 37: 96–103

引用文献References

1) 住友直方,石川広己,泉田直己,ほか:2016年版学校心臓検診のガイドライン.日本循環器学会 日本小児循環器学会

2) 鮎沢 衛,岩本眞理,加藤愛章,ほか:2次検診対象者抽出のガイドライン—1次検診の心電図所見から—(2019年改訂).日小児循環器会誌2019; 35(S3): S3.1–S3.12

3) 公益財団法人日本学校保健会.平成25年度学校生活における健康管理に関する調査事業報告書.http://www.gakkohoken.jp/book/ebook/ebook_H260030/H260030.pdf(2021年4月1日閲覧)

4) 川村順平,野村裕一,塩川直宏,ほか:鹿児島市学校心臓検診スクリーニングシステム精度の検討.日小児循環器会誌2021; 37: 96–103

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