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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(1): 92-93 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.92

Editorial CommentEditorial Comment

心外導管型フォンタン手術の導管は将来入れ替えが必要となるのか?Do We Need to Replace a Conduit during Adulthood among Patients after the Extracardiac Fontan Operation?

独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院小児科Department of Pediatrics, Kyushu Hospital, Japan Community Healthcare Organization ◇ Fukuoka, Japan

発行日:2020年3月1日Published: March 1, 2020
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多くの小児循環器医・心臓外科医は心外導管型フォンタン手術を受けた患者やその家族から「導管は成長したら入れ替えが必要となるのか?」という類の質問を受けた経験があるに違いない.そして「これまでの経験からは成人になるまで入れ替えることはない」などと返答しつつも少なからず心のどこかで憂いがあることも事実であろう.満尾らの,心外導管型フォンタン術後遠隔期の導管狭窄に対して導管再置換を行った2例報告1)は,私たちが共有すべき貴重な報告だと考える.

本邦では1990年代前半から心外導管型フォンタン術が広まり,初期に治療を受けた患者はおよそ30年が経過しようとしている.Nakanoらは心外導管型フォンタン500例の遠隔期を報告し本邦における最大コホートと思われる.そのなかで導管再置換が必要であった症例は500例中1例であったと報告しており実際に導管再置換が必要な症例は極めて稀であると考えられる2).心外導管はポリテトラフルオロエチレン製人工血管が主流であり,その径は18 mmあるいは16 mmが頻用される.そもそも導管径18 mmは成人の下大静脈平均径に由来し,フォンタン手術の低年齢・低体重化の中でやむを得ず16 mm径が使用されるようになった3).このような幼児期に体内に留置された導管の運命は果たしてどうなるのであろうか.

体格成長に伴う導管の変形

幼児期から学童期,そして成人期へ至る体格成長のなかで,その心外導管の形態変化に関してはいくつかの報告がある.Ochiaiらは心外導管型フォンタン術を平均年齢3歳(平均身長93 cm,平均体重12 kg)で実施し,術後5年経過した時点での(平均身長121 cm,平均体重22 kg)血管造影による観察では上大静脈と下大静脈ともに体格に応じて伸長が見られ,特に導管吻合部では下大静脈側の自己組織伸長が特徴であったと報告している4).しかしこれまでのところ適切な導管長は知られていない5).またChoらは導管断面積の経時的変化を検討し,術後10年経過すると18 mm径導管では断面積は平均24%減少していたと報告している6).以上から心外導管は成長により下大静脈吻合部の自己組織が伸長するものの,導管自体も長軸方向へ引き延ばされて断面積が減少すると考えられる.そうかと言って体格に見合わないほどの太い導管も血流のよどみを生じてしまうので望ましくないとも考えられており,下大静脈径に見合った適切な導管径を選択すべきだという報告もある5).満尾らの報告では成長による導管断面積の減少が狭窄を助長するのではないか考察しているが,2症例とも導管の部分的狭窄であるため導管伸長が直接的に狭窄を発生したとは考えにくく,体格の成長そのものの狭窄への影響は少ないのかもしれない.

導管内の血流のよどみ・血栓

満尾らの報告や既報によると心外導管の狭窄部位は非常に類似しており,いずれも導管小彎側に狭窄が生じている1, 8).このことは導管のたわみが部分的屈曲を生じている可能性を示唆する.近年はコンピュータを用いた流体シミュレーションや位相コントラスト法を用いた4D-flow MRIによる血流解析が進歩しており,心外導管型フォンタン手術後の血流解析に臨床応用されつつある7).心外導管狭窄の血流解析においては藤田らの報告が興味深い8).満尾らの報告と類似した心外導管狭窄フォンタン術後症例において4D-flow MRIにより血流解析を行ったところ,狭窄部のエネルギー損失は極僅かであったものの壁ずり応力は上昇していたとしている.エネルギー損失がなく血流速度や圧較差としての変化はほとんどないため,心臓カテーテル検査では有意な圧較差は生じないと考える.満尾らの2例においてもフォンタン術後初期の心臓カテーテル検査で導管屈曲を認識しているもののその前後で圧較差をほとんど認めず導管置換の必要はないという判断をしている.しかしいずれの症例も経年的に狭窄は進行している.フォンタン手術後では潜在的な凝固異常や内皮機能障害は周知であり,導管内の部分的な壁ずり応力上昇による内膜肥厚や内皮機能障害による壁在血栓形成などがさらに進行してくる可能性がある.満尾らの報告には残念ながら狭窄部の組織学的な検討がなされていなかったが,自験例において狭窄部位の内膜生検を行ったところ基質化した白色血栓であったことから,前述の推察が裏付けられる.

導管入れ替えのタイミング

それでは圧較差を生じるほどではない導管屈曲を診断した場合にどのようにすべきであろうか.フォンタン手術関連の肝臓病や蛋白漏出腸症などの合併症は憂慮すべきであり,それらを回避したいという思いは私たちを積極的な導管再置換へと向かわせる.一方,実際のエネルギー損失はほとんどないことから,そのような導管狭窄自体が先述の合併症に直接的に関与するものではないと冷静に推察することもできる.満尾らの症例2は下大静脈圧が26 mmHgへ上昇しているため積極的治療の対象と考えられるが,症例1は下大静脈圧15 mmHgであり,もしペースメーカー交換が必要でなかったならば導管置換をするかどうかの判断は難しい.心臓カテーテル検査のみならず心臓MRI検査など各診断モダリティーを利用し個別に適応評価してゆく必要があるだろう.また,2症例ともに導管と心房壁の剥離は比較的スムーズであったようだが,非常に強固に癒着しているような症例に遭遇することもあるかもしれないため,技術的な困難さも念頭におく必要がある.

心外導管型フォンタン術において将来の成長を考慮して過剰に「長い」あるいは「太い」導管を留置すると,導管小彎側に屈曲を生じ,同部位への壁ずり応力上昇から内膜肥厚や血栓形成が促されて経年的に狭窄が進行してくるものと考えられる.術前シミュレーション技術は日々進歩しており,適切な人工導管の形状・径・長さの選択には,個別の治療計画が必要であろう9).将来導管再置換ゼロを目指したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.満尾博,ほか:心外導管型フォンタン手術後遠隔期に導管狭窄をきたした二例.日小児循環器会誌2020; 36: 84–89

引用文献References

1) 満尾 博,帯刀英樹,坂本一郎,ほか:心外導管型フォンタン手術後遠隔期に導管狭窄をきたした二例.日小児循環器会誌2020; 36: 84–89

2) Nakano T, Kado H, Tatewaki H, et al: Results of extracardiac conduit total cavopulmonary connection in 500 patients. Eur J Cardiothorac Surg 2015; 48: 825–832

3) Marcelletti CF, Iorio FS, Abella RF: Late results of extracardiac Fontan repair. Semin Thorac Cardiovasc Surg Pediatr Card Surg Annu 1999; 2: 131–142

4) Ochiai Y, Imoto Y, Sakamoto M, et al: Longitudinal growth of the autologous vessels above and below the Gore-Tex graft after the extracardiac conduit Fontan procedure. Eur J Cardiothorac Surg 2010; 37: 996–1001

5) Alexi-Meskishvili V, Ovroutski S, Ewert P, et al: Optimal conduit size for extracardiac Fontan operation. Eur J Cardiothorac Surg 2000; 18: 690–695

6) Cho S, Kim WH, Choi ES, et al: Outcomes after extracardiac Fontan procedure with a 16-mm polytetrafluoroethylene conduit. Eur J Cardiothorac Surg 2018; 53: 269–275

7) 板谷慶一,宮路 鑑,小原邦義,ほか:Fontan循環の流体シミュレーション—現状と展望—.日小児循環器会誌2010; 26: 39–48

8) 藤田修平,山岸正明,宮崎隆子,ほか:4D flow MRIを用いた血行動態評価が有用であったTCPC術後導管屈曲,蛋白漏出性胃腸症の1例.日小児循環器会誌2018; 34: 197–204

9) Siallagan D, Loke YH, Olivieri L, et al: Virtual surgical planning, flow simulation, and 3-dimensional electrospinning of patient-specific grafts to optimize Fontan hemodynamics. J Thorac Cardiovasc Surg 2018; 155: 1734–1742

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