日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(1): 79-80 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.79

Editorial CommentEditorial Comment

全冠動脈孔閉鎖を合併した肺動脈閉鎖症に対するAo-RVシャントのPhysiologyを考えるPhysiology of Ao-RV Shunt in Patient with PA-IVS and Aortocoronary Atresia

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences ◇ Okayama, Japan

発行日:2020年3月1日Published: March 1, 2020
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この論文1)を最初に査読した際に頭をよぎったのは,左心低形成症候群に対する第1期手術時のハイブリット管理における逆行性BTシャント2),それから新生児エプスタイン病におけるサーキュラーシャント3)であった.どちらも,その血行動態を理解することが難しく,また臨床での判断やマネージメントに難渋するという共通点がある.逆行性BTシャントは一見すると非常に興味深いアイデアと思うが,そもそも逆行性BTシャントにおいて,血流がどちら向きが優位か(脳血流や冠血流がstealされている可能性はあるか)不明である.根本的なところを言えば,大動脈閉鎖で動脈管ステント留置により大動脈弓への逆行性の血流が阻害されることが危惧される症例は,そもそも動脈管ステントの適応外とも言える.エブスタイン病にしてもサーキュラーシャントにより,肺高血圧や右室機能,肺動脈弁閉鎖が機能的か器質的かなど判断に難渋する場合は,動脈管を閉じる方向で経過を見ることで,その後の治療方針を決定することができる.これら2つは全く異なる疾患であるが,シャントという非生理的な血流が存在することで,患者の血行動態が複雑化し,ひいては適切な治療方針を選択できない可能性があるという点で本症例と共通すると考えた.では,肺動脈閉鎖症で全冠動脈孔閉鎖を合併する症例にBTシャントとAo-RVシャントが並存することでどのような循環生理が生まれるのであろうか.

本症例1)において全冠動脈孔閉鎖により生直後より心筋虚血のサインが出現していることから,冠血流を確保することは何よりもまず優先されることとなる.著者らが述べているようにBASを施行することで多少RVへの流入血の酸素飽和度が上昇すると考えられるが多くは期待できない.日本においては新生児での心臓移植は現実的でなく,また冠動脈バイパスも技術的な面や長期における開存の点からも選択は難しく,最終的にはAo-RVシャント3)の選択となるであろう.血行動態を考えるとき,まずBTシャントは既知の通り,拡張期にも順行性の血流があるため,大動脈拡張期圧は低下する.このことは全冠動脈孔閉鎖症例の冠血流にはあまり影響はないと考える.しかしここにAo-RVシャントが追加されると一気に複雑化する.Ao-RVシャントの存在により,収縮期はover systemicのRVから大動脈への血流が,拡張期は大動脈からRVへの血流が優位となると推測される.拡張期にRVへ酸素化血が流入することにより,(この患者の冠血流の血流パターンが正常心の左冠動脈と同じと仮定されるのであれば)冠動脈の血流が増加し心筋虚血も解除される,という理論が成立する.本症例の実際のデータを見ると,心臓カテーテル検査にて実際のRVEDPは13 mmHgと高く,同時測定の大動脈拡張期圧は(BTシャント施行前の状態で)25 mmHgとなっており予想よりもその圧差は少ない.さらにBTシャント後の大動脈拡張期圧はさらに低下している可能性もあり,拡張期にシャントの中でどちら向きに血流が優位に流れているかは推測が難しい(この点が,逆行性BTシャントと類似している).この点に関しては本文ではエコーによる拡張末期の順行性冠血流を提示し証明している.しかしながら,Ao-RVシャント施行から6か月後にAo-RVシャントの閉塞を来たしており,これがBTシャントとAo-RVシャントの併存による特異な血行動態が根本的な原因,つまりrun-offに問題があってシャント血流が減った結果なのか,著者が述べているようにAo-RVシャントのサイズの問題から狭窄を来し,ひいては閉塞を来たしたのかは定かではない.

本症例1)の循環生理を理解するにはどのようにしたらよいだろうか?コンピュータ解析による血行動態のシミュレーションも一つの案と考えた.BTシャントとAo-RVシャントが併存する状態において,大動脈から肺動脈,および大動脈から右室(この場合,正常の右室でなく低形成で,さらにその先には冠動脈があるが)という2つの異なる後負荷(血管抵抗)がある状態で,2つの異なるシャント血流がどのようになっているか,是非とも知りたいと考えた.

査読に際してあまりにも循環生理に固執してしまったが,臨床の面から考えれば,非常に困難な本症例を救命した著者のチームに賛辞を送りたい.またこのようなケースに際しても,エコー検査による血流評価を行うなど,生理学的な観点から常に治療方針が論理的に整合性があるかを検証しながら治療した点は小児循環器に携る医師の模範と言える.本報告から,1)全冠動脈孔閉鎖を伴った肺動脈閉鎖症にAo-RVシャントという治療のオプションがあることを学ぶのはもちろんだが,2)先天性心疾患においては常に解剖と生理に基づいた論理的思考を持って治療にあたることが重要である,と再認識したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.吉井公浩,ほか:全冠動脈孔閉鎖を伴う純型肺動脈閉鎖症に対するAo-RVシャントの新たな治療戦略—Ao-RVシャントの有用性を類洞交通血流の変化で評価—.日小児循環器会誌2020; 36: 72–78

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