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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(4): 344-345 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.344

Editorial CommentEditorial Comment

QT延長経過観察例の遺伝子検査適応判断The Indication of Genetic Testing for the Children with Long QT Intervals

北海道大学大学院小児発達医学分野Department of Pediatrics, Hokkaido University Graduate School of Medicine ◇ Hokkaido, Japan

発行日:2020年12月1日Published: December 1, 2020
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今号に青木らの論文1)が掲載されている.一度はQT延長症候群(LQTS)1–3の遺伝子変異が否定されたが,根気強く運動負荷試験を施行し,機能的2 : 1房室ブロック所見を契機に遺伝学的診断を得た貴重な報告である.遺伝子検査結果をどのように解釈し,テーラーメード医療に活用するかという課題にも言及しているが,これには膨大な知識と専門性が求められる.本稿では学校心臓検診で抽出されたQT延長例の経過観察を行ううえで知っておくべきポイント,特に遺伝子検査適応評価について考える.

LQTSの臨床診断にはSchwartzのリスクスコアが用いられ,初期評価のみならず,経過観察のうえでも受診ごとに変化しうる指標として有用である.2012年の改訂で運動負荷試験回復期4分のQTc≧480 msecの項目が加わり,合計スコア3.5以上でLQTS臨床診断確実とする.また,HRS/EHRA/APHRSステートメント(2013年)によれば,リスクスコア≧3.5のほかに,関連遺伝子の病的変異,または繰り返し12誘導でQTc≧500 msec,いずれかの場合にも臨床診断する.また遺伝子変異を認めず,説明のつかない失神例でQTc 480~499 msecの場合も臨床診断しうる2).学校心臓検診でQT延長と抽出されるのは小学1年生で0.3/1,000人,中学1年生で0.93/1,000人と報告される3).HRS/EHRAの遺伝子診断に関するステートメント(2011年)4)では,

  • 推奨クラスIが
    1. 循環器医が臨床経過,家族歴,心電図(安静12誘導,運動またはカテコラミン負荷試験)で強く疑う例
    2. QT延長要因がなく,一連の12誘導でQTc>480 msec(未成年)または>500 msec(成人)で無症状例
    3. 発端者に同定された遺伝子変異に対する,家族または適切な血縁者の変異特異的遺伝子診断
  • クラスIIbが
    • 一連の12誘導で480≧QTc>460 msec(未成年)または500≧QTc>480 msec(成人)の無症状例とされる.

以上から,遺伝子検査適応判断においては下記の12誘導所見,運動ならびにカテコラミン負荷試験結果に対する判断が重要となる.

12誘導心電図

遺伝子検査適応クラスIの2.のように,小児では反復してQTc>480 msecであれば適応とするが,経過観察上重要なのは,QT間隔の性差・年齢による変化である.一因に性ホルモンの関与があり,テストステロンはQT間隔を短縮,不整脈を抑制,エストラジオールはQT間隔を延長,不整脈を誘発する.そのため,QTc測定によるスコアリング最適時期は男児が思春期発来直前の10歳頃,女児が発来後の12~14歳頃と推定されている5).重要年齢時を意識した受診ごとのスコアリングが肝要で,見逃しやすいのが相対的徐脈とalternans T waveである.

各型の心電図波形の特徴を評価することは,避けるべき心イベント誘因予測のために重要であり,心室筋細胞の活動電位に関わるイオンチャネルの理解は,抗不整脈薬薬効理解の一助ともなる.−90 mVの静止膜電位から脱分極するための内向き電流を生じるNaチャネル(コード遺伝子SCN5A : LQT3),脱分極状態維持のために内向きCa電流を生じるL型Caチャネル(CACNA1C : LQT8)と静止膜電位まで再分極させようとする外向きKrチャネル(KCNH2 : LQT2),Ksチャネル(KCNQ1 : LQT1)の鬩ぎ合いでプラトー相を形成後,静止膜電位まで再分極,これを次の脱分極まで維持するK1チャネル(KCNJ2 : LQT7)という一連の過程である.

運動負荷試験

LQTSでは心拍数増加に対するQT短縮が不十分で,負荷終了後もQTc延長が遷延するため,回復後期のQTc延長を認める.回復期QTc推移は各型により異なり,LQT1では回復期を通じてbroad-based T波を示すQTc延長,Tpec(T波頂点からT波週末部までの時間)増加を認める.LQT2では回復早期でのQTc延長は乏しく,後期で二峰性T波を示すQTc延長が多い.LQT3ではLQT2と同様に後期でQTc延長を認めるか,あるいはQTc延長が乏しい6).その他に青木論文で記述されているLQT8の2 : 1房室ブロックが重要である.

カテコラミン負荷試験

潜在性LQT1診断に有用で,運動負荷困難例でも施行可能という利点がある.12誘導を記録しながらエピネフリン0.1 µg/kgをボーラス投与,以後0.1 µg/kg/min持続投与を5分間行う.エピネフリンを中止しさらに5分間心電図記録を行う.投与開始前,開始後1~2分でRR間隔が最短の最大効果時と,3~5分の定常状態にてQTcを計測する.LQT1では定常状態で奇異性QT延長(投与開始前と定常状態のQTc差≧35 msec)が認められる.認められなければ投与開始前と最大効果時のQTc差>80 msecでLQT2の可能性,それもなければLQT3または正常と判断する7)

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.青木晴香,ほか:全エクソン解析によりCACNA1C遺伝子バリアントが同定された心外合併症のない(非Timothy型)QT延長症候群(LQT8).日小児循環器会誌2020; 36: 334–343

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