日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(4): 313-320 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.313

原著Original

親と離れて暮らす成人先天性心疾患患者の特徴Characteristics of Adults with Congenital Heart Disease Living Apart from Parents

1横浜市立大学大学院医学研究科看護学専攻Department of Nursing, Graduate School of Medicine, Yokohama City University ◇ Kanagawa, Japan

2愛媛大学大学院医学系研究科地域小児・周産期学講座Department of Regional Pediatrics and Perinatology, Graduate School of Medicine, Ehime University ◇ Ehime, Japan

3国立成育医療研究センター循環器科Division of Cardiology, National Center for Child Health and Development ◇ Tokyo, Japan

4兵庫県立こども病院循環器内科Department of Cardiology, Hyogo Prefectural Kobe Children’s Hospital ◇ Hyogo, Japan

5聖路加国際病院心血管センターCardiovascular Center, St. Luke’s International Hospital ◇ Tokyo, Japan

6国際医療福祉大学成田病院小児科Department of Pediatrics, International University of Health and Welfare ◇ Chiba, Japan

7国立循環器病研究センター教育推進部・小児循環器内科部Department of Education and Research Promotion, Department of Pediatric Cardiology, National Cerebral and Cardiovascular Center ◇ Osaka, Japan

受付日:2020年6月9日Received: June 9, 2020
受理日:2020年8月27日Accepted: August 27, 2020
発行日:2020年12月1日Published: December 1, 2020
HTMLPDFEPUB3

背景:成人先天性心疾患患者にとって社会的自立は課題となっている.社会的自立にはさまざまな指標があるが,本研究では親と離れて暮らすことを自立の一指標とし,それに関連する要因を検討した.

方法: 20歳以上の患者会所属者を対象に自記式質問紙を配布し回答を得た.親と離れて暮らすことに関連する要因についてロジスティック回帰分析を使用して分析を行った.

結果:対象者1,626名のうち373名から有効回答を得た.親と離れて暮らしている者は135名(36.2%),親と一緒に暮らしている者は237名(63.5%)であり,就労率は61.9%であった.全対象者,および就業者を対象としたロジスティック回帰分析では,親と離れて暮らすことに関連する要因として,疾患重症度,学歴,雇用状況が挙げられた.

結論:成人先天性心疾患患者が親と離れて暮らすには,疾患重症度が低いこと,学歴が高いこと,雇用状況が正規雇用であることが重要であると示唆された.

Background: Social independence is one of the most important factors among adults with congenital heart disease. Social independence has various definitions. Based on previous studies, the indicators of independence in this population include employment and marital status. In this study, we focused on living apart from parents as an indicator of the ability to live independently even after the death of parents among adults with congenital heart disease.

Methods: A cross-sectional questionnaire survey was conducted, and a logistic regression analysis was performed to identify factors associated with living apart from parents.

Results: Valid responses were obtained from 373 participants. Of them, 237 (63.5%) lived with their parents, and 135 (36.2%) lived apart from their parents. The employment rate was 61.9%. Using a multivariate logistic regression analysis, disease complexity, educational level, and employment status were found to be independent factors for living apart from parents among adults with congenital heart disease.

Conclusion: The important factors associated with living apart from parents among adults with congenital heart disease were low disease severity, high educational level, and regular employment status.

Key words: congenital heart disease; education; employment; social independence; transition

背景

先天性心疾患患者は,治療成績の向上により成人期に達することが可能となり1),進学や就労といった社会的自立が注目されるようになった2).社会的自立は,先天性心疾患以外の小児期発症慢性疾患でも注目されており,2015年には小児慢性特定疾病児童等移行期医療支援モデル事業が開始され,2019年には患者への自立支援として各県で移行期医療支援センターの設置が通知された.政府は2005年に若者の包括的な自立支援方策に関する検討会報告3)において,社会的自立には,精神的自立・職業的自立・経済的自立の3つの課題があるとしており,2008年には障害者に対する支援として,障害者雇用や就労支援を展開していく4)としている.

先天性心疾患患者の社会的自立のうち,精神的自立に関しては,自立心が低く,親への心理的依存心が高いと報告されており5),職業的自立に関しては,男性で常勤者が少なく,女性で未就業者が多いことや6),未就業者は生活の質が低いことが指摘されている7, 8).経済的自立に関しては,通院頻度の多さ,年収の低さ,障害年金受給が問題となっており,就労環境と経済的問題が患者の心理的苦痛となっていることが指摘されている9)

先天性心疾患患者の親を対象に,自立に対する親の望みを調査した研究10)では,青年期の患者に望む自立の内容として,健康の自己管理ができること,社会的に自立すること,感染を予防することが挙げられており,なかでも社会的自立に関しては,「進学,一人暮らし,就職,アルバイト,自分で生活する,健康な人と同じように生活する」が挙げられている.また,身体障害者手帳をもつ成人先天性心疾患患者を対象にした研究9)においても,社会生活に関して「親が亡くなった後自立できるか」に不安や困難感を抱える患者が多いことが示されている.

成人先天性心疾患患者が親が亡くなった後,自分で生活できるかは,社会的自立における精神的自立・職業的自立・経済的自立全てを反映した複合的な指標と言える.しかし,先行研究では就業に影響する要因は報告されているが,親が亡くなった後,自分で生活できるか否かに関する報告は存在しない.そこで本研究では,現時点で親と離れて暮らす成人先天性心疾患患者は,親が亡くなった後も自立して生活できる可能性が高いと想定し,その割合,および関連する要因を検討することを目的とした.

方法

対象者

全国心臓病の子どもを守る会会員,およびその内部組織である全国心臓病友の会の会員(以下,患者会)のうち,20歳以上であり,調査への協力に同意した者を対象とした.質問紙への回答は原則として患者本人に依頼し,精神発達遅滞等の理由により回答が困難な場合はその家族へ依頼した.なお,心臓病の子どもを守る会は1963年に設立され,心臓病児者の医療制度の改善と社会保障および教育制度の充実を目的とする組織である.

研究デザインと調査期間

本研究は自記式質問紙を用いて調査を行った.研究事務局より患者会各支部へ調査票を郵送し,各支部が適格基準を満たす所属会員宛に調査票を郵送した.質問紙の返送をもって,研究協力の同意とした.調査期間は2013年6月~10月であった.

調査内容

対象者基礎情報として,性別,年齢,疾患名,自己申告によるNew York Heart Association(以下,NYHA)分類,婚姻状況,学歴(高等学校卒業以下,短期大学・専門学校卒業以上,現在学生の場合は見込まれる最終学歴)を,社会保障制度の利用状況について身体障害者手帳の有無,療育手帳の有無,障害基礎年金受給の有無を尋ねた.また現在の雇用状況(正規雇用,非正規雇用,福祉的就労・その他,働いていない,主婦,学生)について,正規雇用・非正規雇用で働いている者には障害者雇用制度の利用の有無,業務内容(軽労作・事務作業,中労作・立ち仕事,重労作・力仕事),週平均の労働時間,および昨年1年間の年収(0~199万円,200~399万円,400万円以上)を尋ねた.

本研究の主要アウトカムである「親と離れて暮らすこと」については,親との別居の有無で回答を得た.

分析方法

各調査項目について記述統計量を算出した.疾患重症度は米国心臓協会/米国心臓病学会の基準11)に基づき,自記式質問紙に記載された疾患名と術式から軽症・中等症・重症の3群に分類した.さらに,対象者背景で最終学歴を学生と答えた者は,見込まれる学歴によって高等学校以下,短大・専門学校以上の2群に分類した.

次いで,全対象者について「親と離れて暮らすこと」を従属変数,「性別」「年齢」「疾患重症度」「最終学歴」「雇用状況」を独立変数として強制投入し,多変量ロジスティック回帰分析を行った.なお,「婚姻状況」は雇用状況における選択肢の一つである「主婦」と関連が強かったため,独立変数からは除外した.

さらに,独立変数のうち「雇用状況」が「親と離れて暮らすこと」に強く関連していると想定されたため,正規雇用と非正規雇用で就労しているもの(以下就業者)の対象者基礎情報について記述統計量を算出した.そのうえで,どのような雇用状況にある者が親と離れて暮らす傾向にあるかを検討するため,「親と離れて暮らすこと」を従属変数,「性別」「年齢」「婚姻状況」「学歴」「疾患重症度」「雇用枠」「雇用状況」「年収」を独立変数として強制投入し多変量ロジスティック回帰分析を行った.

すべての解析は両側検定とし,有意水準は5%とした.統計解析はIBM SPSS Statistics ver.26.0を用いた.

倫理面への配慮

本研究は,研究者の所属施設の倫理委員会の承認を受けた上で実施した(承認番号:2798).調査は無記名であり,返送後はIDを付与して個人が特定できないように配慮した.また,協力者には患者会関係者を含む第三者には明かさないこと,調査への参加は自由意思であり調査協力をしないことによる不利益は生じないことを趣意書にて説明し,質問紙の返送をもって同意を得た.

結果

対象者背景(Table 1)

Table 1 Characteristics of the all participants (N=373)
n
Mean age, yrs30.6SD: 9.7
GenderMale17747.5
Female19652.5
Disease complexitySimple349.1
Mild12633.8
Great21357.1
NYHAI13937.3
II10628.4
III・IV12533.5
NA30.8
Educational level≤High school12032.2
>High school20555.0
Student4712.6
NA10.3
Employment statusFull-time13636.5
Part-time7620.4
Unemployed7219.3
Student4712.6
Homemaker205.4
Other (Sheltered workshop, etc...)195.1
NA30.8
Marital statusMarried8723.3
Not married28576.4
NA10.3
Living apart from parentsYes13536.2
No23763.5
NA10.3
Psysical disability certificateReceiving30581.8
Not receiving6517.4
NA30.8
Rehabilitation certificateReceiving297.8
Not receiving32286.3
NA225.9
Basic disability pensionReceiving12934.6
Not receiving23061.7
NA143.8
Values are n (%) unless otherwise indicated.
NA, not available; NYHA, New York Heart Association functional class

患者会を通じて1,626名に質問紙を配布し,373名から有効回答を得た(有効回答率22.9%).対象者の年齢は平均30.6歳(標準偏差9.7),性別は男性177名(47.5%),女性196名(52.5%),疾患重症度は軽症34名(9.1%),中等症126名(33.8%),重症213名(57.1%)であり,親と離れて暮らしている者135名(36.2%),親と一緒に暮らしている者237名(63.5%)であった.

就労しているものは231名おり,雇用状況は正規雇用136名(36.5%),非正規雇用76名(20.4%),福祉的就労・その他19名(5.1%)であった.未就業者は72名(19.3%),主婦は20名(5.4%),学生は47名(12.6%)であった.就労率は61.9%であった.

全対象における親と離れて暮らすことに関連する要因

373名の全員を対象としたロジスティック回帰分析の結果,親と離れて暮らすことに関連する要因は,疾患重症度が低いこと(軽症OR: 3.13 95%CI: 1.30–7.54,中等症OR: 2.22 95%CI: 1.28–3.87),学歴が短大・専門学校卒以上であること(OR: 2.77 95%CI: 1.45–5.28),雇用状況が正規雇用,主婦,学生であること(正規雇用OR: 7.50 95%CI: 3.08–18.24,主婦OR: 29.34 95%CI: 6.51–132.26,学生OR: 3.39 95%CI: 1.08–10.66)であった(Table 2).

Table 2 Factors associated living apart from parents among all participants (n=363 in N=373 all subjects)
Variable (reference)OR95% CIp Value
Gender (Male)Female1.160.68–1.980.580
Age1.031.00–1.060.070
Disease complexity (Great)Simple3.131.30–7.540.011
Mild2.221.28–3.870.005
Educational level (≤High School)>High school2.771.45–5.280.002
Employment status (Unemployed)Regular7.503.08–18.240.000
Non-regular2.180.83–5.780.115
Housemaker29.346.51–132.260.000
Student3.391.08–10.660.037
Other0.500.06–4.530.540
Hosmer–Lemeshow test (p=0.328). Overall correctly classified percentage was 74.7%. All variables were inputted with the force entry method; reference categories stated in parentheses.
CI, confidence interval; OR, odds ratio

就業者における親と離れて暮らすことに関連する要因

就業者(212名)のうち,一般雇用枠で採用されている者は113名,障害者雇用枠で採用されている者は91名であった.特に,身体障害者手帳取得者のうち,障害者雇用枠で就労している者は90名(55.9%)であった(Table 3).

Table 3 Characteristics of the employed participants according to the use of employment system for the disabled (n=204)
Use of the employment system for the disabledp Value
No (n=113)Yes (n=91)
nn
Mean age, yrs33.0SD: 9.228.2SD: 5.50.000
GenderMale5451.45148.60.241
Female5959.64040.4
Disease complexitySimple2095.214.80.000
Mild4763.52736.5
Great4642.26357.8
NYHA (n=203)I6770.52829.50.000
II2846.73253.3
III/IV1735.43164.6
Educational level≤High school2853.82446.20.795
>High school8555.96744.1
Employment statusRegular7758.35541.70.253
Non-regular3650.03650
Annual income (n=199)≤ 2 million yen3949.44050.60.057
< 2 million yen4554.23845.8
≥ 4 million yen2670.31129.7
Job description (n=203)Office work5745.26954.80.000
Standing work4466.72233.3
Hard labor11100.000.0
Working hours (per week) (n=165)Mean±SD38.114.536.810.30.505
Marital status (n=203)Married4271.21728.80.004
Not married7149.37350.7
Living apart from parents (n=203)No5247.35852.70.014
Yes6064.53335.5
Psysical disability certificateReceiving7144.19055.90.000
Not receiving4297.712.3
Basic disability pension (n=193)Yes1531.93268.10.000
No9162.35537.7
Values are n (%) unless otherwise indicated.
NYHA, New York Heart Association functional class

就業者のみを対象としたロジスティック回帰分析の結果,親と離れて暮らすことに関連する要因は,年齢が低いこと(OR: 0.91 95%CI: 0.85–0.96),結婚していること(OR: 23.30 95%CI: 7.38–73.58),学歴が短大・専門学校卒以上であること(OR: 2.85 95%CI: 1.15–7.06),疾患重症度が低いこと(軽症OR: 5.69 95%CI: 1.52–21.33,中等症OR: 3.06 95%CI: 1.35–6.96),正規雇用であること(OR: 2.68 95%CI: 1.03–6.96)であった(Table 4).

Table 4 Factors associated living apart from parents among employed participants (n=197 in N=212 employed participants)
Variable (reference)OR95%CIp Value
Gender (Male)Female1.390.64–3.010.400
Age0.910.85–0.960.001
Marital status (Not married)Married23.307.38–73.580.000
Educational level (≤High School)>High school2.851.15–7.060.023
Disease complexity (Great)Simple5.691.52–21.330.010
Mild3.061.35–6.960.008
Use of the employment system for the disabled (Yes)No1.250.58–2.690.575
Employment status (Non-regular)Regular2.681.03–6.960.044
Annual income1.430.79–2.580.241
Hosmer–Lemeshow test (p=0.141). Overall correctly classified percentage was 77.2%. All variables were inputted with the force entry method; reference categories stated in parentheses.
CI, confidence interval; OR, odds ratio

考察

本研究では現時点で親と離れて暮らす成人先天性心疾患患者は,親が亡くなった後も自立して生活できる可能性が高いと想定し,その割合および関連要因を探索した.親と離れて暮らす成人先天性心疾患患者の割合は36.2%であった.親と離れて暮らすことに関連する要因は,全対象者では疾患重症度が低いこと,学歴が短大・専門学校卒以上であること,雇用状況が正規雇用,主婦または学生であることであり,就業者では年齢が若いこと,結婚していること,学歴が短大・専門学校卒以上であること,疾患重症度が低いこと,正規雇用であることであった.以上より,成人先天性心疾患患者が親と離れて暮らすためには,疾患重症度,学歴,雇用状況が重要であることが示唆された.

対象者の特徴

本研究では,親と一緒に暮らしている者は63.5%であった.日本の未婚者における両親との同居率は,20歳から34歳の45.8%,35歳から44歳では16.3%と報告されており12),本研究の対象者は国民標準値と比較して同居率が高かった.欧米でも,患者集団の親との同居率は一般集団に比して高いことや,年金が主な収入源となっている患者が一定数おり,社会的依存度が高いことが報告されている13).また,疾患重症度が重症の者が全体の半数以上を占めていながらも,学生を除いた就労率は61.9%であった.世界15か国の成人先天性心疾患患者を対象とした研究8)では,疾患重症度が重症の者は25.6%,就労率は63.7%と報告されており,本研究では疾患重症度が高い傾向にあるものの,就労率が高いという特徴が見られた.

親と離れて暮らすことに関連する要因

対象者全体および正規雇用・非正規雇用での就業者を対象とした2つのロジスティック回帰分析で共通する親と離れて暮らすことに関連する要因は,疾患重症度,学歴,雇用状況であった.

学歴について

本研究対象者は55.0%が専門学校・短期大学以上の教育を受けていたが,日本全体では,専門学校・短期大学以上の高等教育を受ける者は81.5%とされており14),本研究対象者は一般集団と比して進学率が低かった.先天性心疾患患者の学歴については,疾患重症度が軽症のものは重症のものに比べて学歴が高いことや15, 16),学歴が就労と関連していることが先行研究で示されている17, 18).特に疾患重症度が重症なものは長期の入院による学業中断や,身体的に長時間の学習ができず,周囲についていくことができないといったことが考えられる.また,学校側の受け入れ状況や通学自体の負担により進学先が限定される場合もある.義務教育期間中は特別支援学級や通級指導,院内学級など学習が中断しないための支援があり,病気やけがにより長期入院した児への学習指導実施率は52.1%と報告されている19).一方で義務教育期間後の支援は一部の自治体やNPO法人の取り組みに限られており,学習指導実施率は28.1%となっている19).義務教育後も希望に応じ学習支援を受けられるよう,全国的な支援が必要と考えられる.

就労について

全対象者を含めた分析では未就業者より正規雇用者が,就業者に限った分析では非正規雇用者よりも正規雇用者が親と離れて暮らす傾向にあった.小児がん患者を対象とした研究でも,自立して暮らしている患者は正規雇用率が高いと言われている20).また,先天性心疾患患者の非就業に関する要因にはNYHAが高いことや,うっ血性心不全の既往があることも報告されている18).このことから,正規雇用で働くには病状が安定していることがまずは重要と考えられた.

また就業者を対象としたロジスティック回帰分析では,年齢が上がると親と同居する傾向がみられた.本研究は横断調査であり,年齢上昇に伴う親との同居率の低下の経時的変化は不明であるが,1つの要因として,病状の変化が考えられる.成人先天性心疾患患者は加齢に伴い,身体機能の低下だけでなく,続発症を経験する.年齢と就労の関係については,年齢の上昇に伴い就業時の身体症状や,就労時間の調整の必要性,作業速度の調整の必要性が増すこと18)や,就労率が低くなること15)が報告されており,先天性心疾患患者の就労の促進要因には同僚や雇用者との良好な関係や復職の機会が必要とされている21).以上より,年齢が上がり,身体機能の低下があっても働き続けることができる就労環境が必要であることが考えられた.

障害に応じた環境については,障害者雇用制度がある.障害者雇用は,雇用者が障害があることを知ったうえで雇用するため,被雇用者は障害特性や体調への配慮を受けやすくなる.本研究では,身体障害者手帳を持っている者の半数以上が障害者雇用制度を利用していた.障害者雇用については2016年に改正障害者雇用促進法のなかで障害者差別禁止指針22)として障害者であることを理由とする賃金や配置,昇進などでの差別を禁止している.本結果では一般雇用と障害者雇用の比較で年収や労働時間に有意差はなく,障害者雇用で重労作を行っているものもいなかった.さらに就業者を対象としたロジスティック回帰分析では障害者雇用と一般雇用では親との別居に有意差はなかった.この結果から障害者雇用により,先天性心疾患患者が無理なく就労でき,親からの自立につながる可能性が示唆された.

社会的自立に必要な支援

医療者にできる先天性心疾患患者の社会的自立への支援は,移行期支援が主となっており,疾患に関する理解やセルフケア支援が主に行われている.これは職業選択および就業の前段階として示されている「健康管理」「日常生活管理」「対人技能」の獲得23)とも共通点があり,移行期支援が患者の就労の基礎となる可能性も考えられる.一方,先行研究では就労に関する医療者との会話は,先天性心疾患患者が望むよりも遅いタイミングで行われていることが報告されている24).医療者は移行期医療の先に就労があることを意識し,身体面を考慮した進学・職業選択や,障害者手帳を利用した障害者雇用制度に関して情報提供していくことも必要である.また,自立のためには幼少期からの家族の働きかけや,セルフケア能力が重要とされており25),移行期となってから支援を開始するのではなく,幼少期からの働きかけも必要であろう.

本研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,患者会を対象とした調査であり,有効回答率が22.9%と低かったことが挙げられる.成人先天性心疾患対策委員会(循環器内科ネットワーク)の疾患分布26)では,上位3位を占める軽症・中等症者が全体の53.2%を占めるが,本研究での軽症・中等症者は42.9%と少なく,重症者が多いため一般化可能性や集団代表性が低いこと,疾患に関する情報が自己報告であり正確でない可能性がある.また,社会的自立は1つの指標で測ることはできず,本結果から学歴と就労,社会的自立の間の因果関係を述べることもできない.今後は患者会に限らず外来受診患者などを対象にした調査を行っていくこと,親との同居や就労,雇用状況など経時的な推移を調査し,具体的な支援につなげていく事が望まれる.

また対象者の7.8%は療育手帳を有していた.本研究では「手帳の有無」ではなく「障害者雇用制度利用の有無」に着目したため,身体障害者手帳,療育手帳の受給にかかわらず「手帳の有無」はロジスティック回帰分析における説明変数には含めなかった.しかし知的障害など重複障害のある患者では,一般就労が難しい人もいる.今後は親との別居だけでなく社会参加の機会や,障害年金などの所得保障の観点から自立を評価していく必要がある.

結語

本研究では,社会的自立の1指標として,親と離れて暮らすことを設定し,その関連要因を探索した.その結果,学歴の高さ,一般雇用・障害者雇用を問わず正規雇用されていることの重要性が示された.先天性心疾患患者の社会的自立には,患者自身や周囲の人間が,精神的自立・職業的自立・経済的自立の3つの課題に対し,身体能力を鑑みながらどのような自立を目指すのか人生計画をしていくことが必要であり,医療者としては自立に向けて疾患に関する情報を幼少期から情報提供することや,生涯にわたる疾患管理の必要性など,身体面から患者と家族のサポートをすることが必要と考えられる.

謝辞Acknowledgments

本調査にご協力いただきました全国心臓病の子どもを守る会会員,および全国心臓病友の会の会員の皆様に深く御礼を申し上げます.なお,本研究は,厚生労働省循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業「成人に達した先天性心疾患の診療体制の確立に向けた総合的研究(研究代表者:国立循環器病センター白石公)」の一環として行われた.

利益相反

日本小児循環器学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

著者の役割

秋山直美と落合亮太はデータの統計学的解析とデータ解釈および論文原稿作成を、檜垣高史,賀藤均,城戸佐知子,丹羽公一郎,中西敏雄,白石公は原稿のデータ解釈および批判的推敲を実施し,全ての著者が研究コンセプトと実施,原稿の最終承認および研究結果の発表決定に関わった.

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11) Warnes CA, Williams RG, Bashore TM, et al: ACC/AHA 2008 guidelines for the management of adults with congenital heart disease: A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Develop Guidelines on the Management of Adults With Congenital Heart Disease). Developed in Collaboration With the American Society of Echocardiography, Heart Rhythm Society, International Society for Adult Congenital Heart Disease, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, and Society of Thoracic Surgeons. J Am Coll Cardiol 2008; 52: e143–e263

12) 総務省「統計研究研修所」:親と同居の未婚者の最近の状況(2016年).https://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/parasi16.pdf(2020年3月1日閲覧)

13) Kokkonen J, Paavilainen T: Social adaptation of young adults with congenital heart disease. Int J Cardiol 1992; 36: 23–29

14) 文部科学省:平成30年度学校基本調査.https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/12/25/1407449_1.pdf(2020年3月22日閲覧)

15) Pfitzer C, Helm PC, Rosenthal LM, et al: Educational level and employment status in adults with congenital heart disease. Cardiol Young 2017; 28: 32–38

16) Karsenty C, Maury P, Blot-Souletie N, et al: The medical history of adults with complex congenital heart disease affects their social development and professional activity. Arch Cardiovasc Dis 2015; 108: 589–597

17) Kamphuis M, Vogels T, Ottenkamp J, et al: Employment in adults with congenital heart disease. Arch Pediatr Adolesc Med 2002; 156: 1143–1148

18) Sluman MA, Apers S, Sluiter JK, et al: APPROACH-IS consortium, the International Society for Adult Congenital Heart Disease (ISACHD): Education as important predictor for successful employment in adults with congenital heart disease worldwide. Congenit Heart Dis 2019; 14: 362–371

19) 長期入院児童生徒に対する教育支援に関する実態調査の概要.https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/__icsFiles/afieldfile/2015/05/26/1358251_02_1.pdf(2020年7月20日閲覧)

20) Brinkman TM, Ness KK, Li Z, et al: Attainment of functional and social independence in adult survivors of pediatric CNS tumors: A report from the St Jude lifetime cohort study. J Clin Oncol 2018; 36: 2762–2769

21) Sluman MA, de Man S, Mulder BJ, et al: Occupational challenges of young adult patients with congenital heart disease. Neth Heart J 2014; 22: 216–224

22) 厚生労働省:改正障害者雇用促進法.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html(2020年3月22日閲覧)

23) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター職業リハビリテーション部:2019年度版就業支援ハンドブック.改訂版,千葉,2019, p 16

24) Deng LX, Gleason LP, Awh K, et al: Too little too late?: Communication with patients with congenital heart disease about challenges of adult life. Congenit Heart Dis 2019; 14: 534–540

25) Beacham BL, Deatrick JA: Health care autonomy in children with chronic conditions: implications for self-care and family management. Nurs Clin North Am 2013; 48: 305–317

26) 現時点での登録症例情報 成人先天性心疾患対策委員会(循環器内科ネットワーク).https://www.jncvd-achd.jp/registry/current/(2020年6月9日閲覧)

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