Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(4): 287-293 (2020)
doi:10.9794/jspccs.36.287

原著Original

他院からの相談に見る難治性乳び胸治療の問題点中枢性リンパ管疾患の治療戦略Analysis of Intractable Chylothorax Treatments during Consultations from Other Hospitals: A Treatment Strategy for Central Lymphatic Diseases

1埼玉県立小児医療センター形成外科Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Saitama Children’s Medical Center ◇ Saitama, Japan

2東京大学小児外科Department of Pediatric Surgery, The University of Tokyo ◇ Tokyo, Japan

受付日:2020年6月9日Received: June 9, 2020
受理日:2020年7月6日Accepted: July 6, 2020
発行日:2020年12月1日Published: December 1, 2020
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背景:術後乳び胸に代表される中枢性リンパ管疾患は,胸管などの中枢リンパ管に起因したリンパ流の障害で,難治化が問題となる.新たな概念や治療法が報告されるなかで,特殊治療を専門とする一部の医師に総合的な相談が寄せられている.本研究は,中枢性リンパ管疾患に関するコンサルトの実状を明らかにすることを目的とした.

方法:2016年5月からの4年間に,本疾患の診療に関する相談案件を対象とした.相談元病院の地方区分,病院種類,医師の専門科,相談症例の特徴,主たるコンサルト内容を後方視的に検討した.

結果:対象は全38件であった.経年的に件数は増加し,相談元の内訳として関東地方,大学病院,小児循環器関連医師が多く,術後胸水の症例が最も多かった.一方で意外なことに,地方や病院種類・専門科にかかわらず,手術の執刀依頼よりも治療方針そのものに関する相談が多くみられた.

結論:中枢性リンパ管疾患の診療にあたり,治療戦略の構築が重要と考えられた.われわれの診療フローチャートを一案として示す.

Background: Lymph flow disorder in the central lymph pathway is referred to as central lymphatic disease. This disorder can be intractable and can present as postoperative chylothorax. Although novel concepts and treatments have been reported, some specialists were generally asked about ideas beyond their specialties. Hence, the current study aimed to validate the ideas that emerged from these consultations.

Material and Methods: We analyzed the consultations handled by our team from May 2016 to May 2020. All data about the location and characteristics of the consulted hospitals, specialty of the consulting physician, and aim of the consultations (operation request, treatment plan, testing details, and nutrition) were retrospectively assessed.

Results: In total, 38 consultations were evaluated. We observed an annual increment in the number of cases. The majority of questioners were in the Kanto region, university hospitals, and pediatric cardiologist, about postoperative chylothorax. Notably, the consultations primarily aimed to discuss treatment plans rather than operative requests.

Conclusion: A standardized therapeutic strategy for central lymphatic disease should be established. Thus, a proposal for such a treatment approach was presented in our strategy flowchart.

Key words: postoperative chylothorax; central lymph disease; lymphatic venous anastomosis; interventional radiology; treatment strategy

背景

リンパ管は全身に広く分布し,免疫,体液コントロールなどを担う重要臓器である.リンパ液は末梢から段階を経て合流し,中枢経路である乳び槽や胸管を通って静脈に回収されるが,中枢経路に原因があってリンパ液が漏出する病態は特に中枢性リンパ管疾患と呼ばれる.心臓手術などの術後乳び胸以外にも,腹水,蛋白漏出性胃腸症など様々な病態をきたし,全身状態の悪化を伴い難治となりやすい.

近年,診断技術が発展したことで中枢性リンパ管疾患の検査および治療は種々の新たなアプローチが開発され,リンパ流に基づいた治療が可能となってきた.われわれは形成外科としての専門性を活かし,顕微鏡下のリンパ管静脈吻合術を中心として,本疾患に対する治療介入の結果を報告してきた.しかし,いまだに病態の理解,検査方法や治療方針は一般化されておらず,特に難治症例の治療方針に関して,われわれのような院外の専門家に電話や電子メールなどで相談するケースが増加している.

本研究では,中枢性リンパ管疾患の病態理解・検査・治療方針の標準化を目指す一端として,本疾患の問題に直面している病院の特徴や医師の専門科,疑問点を明らかにすることを目的に,これまでに他院から寄せられたコンサルト内容について後方視的に検討した.

方法

2016年5月から2020年4月までの期間に,リンパ管疾患の診療に関して他院医師よりコンサルトされたものを対象とした.中枢性リンパ管疾患に位置づけられる乳び胸水,乳び腹水,乳び心嚢液,蛋白漏出性胃腸症を含むもののみを対象とし,浮腫やリンパ管腫などの末梢性疾患のみで中枢性障害を含まないものは除外した.また,一連のやり取りが複数回に及ぶ場合であっても1件として計上し,別症例や別内容でのコンサルトが同一施設からあったものは各々を別件として算出した.電話による通話のみなどの理由で,内容が後方視的に確認できないものは除外した.

評価項目として,相談元病院の地方区分(北海道,東北,関東,中部,近畿,中国,四国,九州沖縄),病院種類(大学病院,専門病院,総合病院),医師の専門科,コンサルト時点での相談症例の年(月)齢,先天奇形,遺伝疾患,症状,手術内容,コンサルト内容(手術加療依頼,治療方針,検査方法,内科治療,栄養),われわれの対応を検討した.コンサルト内容は初回連絡中に複数項目の内容を含む場合には,それぞれを別項目として算出したが,後から追加された項目は除外した.

結果

リンパ管疾患に関する相談件数は,4年間(48か月間)で合計47件であった.そのうち,中枢性リンパ管疾患を含まない末梢リンパ管疾患のみを対象とした9件を除外した38件が本研究の対象となった.コンサルト件数は毎年増加し,2019年度が最多の19件(38件中,50%)であった(Fig. 1).

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Fig. 1 Yearly change of consult cases

Number of cases increased over years, from 2016 to 2019 (12 months each, started in May).

相談元は全国20施設であった.地方別分布で見ると,全体の半数以上である13施設(20施設中,65%)が関東地方であったが,中部地方以西の各地方も1施設以上みられた.また病院種類として,大学病院が最も多く11施設(20施設中,55%),次いで専門病院(小児専門病院および循環器専門病院)7施設(35%),総合病院は比較的少なく2施設(10%)であった(Fig. 2).

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Fig. 2 Characters and regions of consulter hospitals

Although, the majority was in Kanto region, hospitals distributed 6 regions out of 8 in Japan.

病院ごとのコンサルト回数に関しては,11施設(20施設中,55%)からは単回で,半数近い9施設(45%)から複数回のコンサルトがあった.複数回のコンサルトがあった病院も関東地方に最も多く(9施設中7施設,78%),中部地方,近畿地方にも各1施設(11%)みられた.

医師の専門科は循環器系(小児循環器内科,小児心臓血管外科)に多く,のべ17名(38名中,45%)であったが,なかでも小児循環器内科14名(37%)が最多であった.続いて集中治療系(集中治療科,新生児科)と小児系(小児科,小児外科)がそれぞれ10名(26%),9名(24%),形成外科は2名(5%)で最も少なかった(Fig. 3).

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Fig. 3 Specialty of consulters

Cardiology was the majority, however various other specialists consulted.

相談症例は,コンサルト38件のうち,症例を含まなかった1件を除いて,全件1症例ずつであったため,合計37症例であった.年齢は生後2日から18歳(平均2歳6か月)であったが,そのうち約半数の18症例(38症例中,49%)が生後3か月以下で,全体として乳児が多かった.

症状で最も多くみられたのは胸水で33症例(37症例中,89%)であった.続いて腹水(6症例,16%),全身性浮腫(4症例,11%)があり,乳び心嚢液,蛋白漏出性胃腸症を来した症例もみられた.また,先天性心疾患として左心低形成症候群11症例(37症例中,30%)のほか,総肺静脈還流異常症と大動脈縮窄症が各4症例(11%)と多く,多数の症例で心臓外科手術が施行されていた(37症例中28症例,76%)が,手術歴,先天奇形ともにない症例も認めた(Table 1).

Table 1 List of consult cases
NoAgeMalformationsGenetic disorderSymptomsSurgeriesConsult purpose
10MCardiac (detail unknown)21trisomyPE, Ascitis, EdemaPDA ligationPlan, Test
20MPE, EdemaOperation, Plan
30MCoANoonanPECoA repairPlan, Test
40MHLHSPEPA bandingOperation
51MHLHSPE, AscitisCardiac (detail unknown)Operation, Plan
61MPE, EdemaOperation
71MCardiac (detail unknown)21trisomyPE, EdemaPDA ligationOperation, Plan
81MCardiac (detail unknown)PEPA bandingPlan, Test
91M21trisomyPEPlan, Test
101MCardiac (detail unknown)PECardiac (detail unknown)Plan, Test
111MPEPlan
121MPENeutrition
131MAscitisOperation, Plan
142MCardiac (detail unknown)PE, AscitisCardiac (detail unknown)Plan
152Mesophageal atresiaPEEsophageal atresia repairTest
162MHLHSPENorwoodOperation
172MTAPVR, esophageal atresiaPETAPVR repairOperation
182MCoAPECoA repairOperation
192MEbstein, Cardiac (detail unknown)PECardiac (detail unknown)Operation
202MTAPVRPETAPVR repairOperation
213MHLHSPENorwoodOperation, Plan
223MCardiac (detail unknown)PECardiac (detail unknown)Operation
233MCardiac (detail unknown)PEPDA ligationOperation, Plan
243MPEOperation
253Mesophageal atresia18trisomyAscitis, PericardialPDA ligation, PA bandingPlan, Test
265MHLHSPEGlennPlan
276MHLHSPENorwood, PA bandingPlan, Test
289MCardiac (detail unknown)PE, PericardialRastelliOperation
291YAscitisTest
301YTAPVRPETAPVR repairOperation
312YpolyductylePECoA repairOperation, Plan
322YHLHS, TAPVRPEFontanTest
335YCoAPECoA repairPlan
347YHLHSPEFontanPlan, Test
359YHLHSPEFontanPlan, Test
3613YHLHSPEFontanOperation, Plan
3718YHLHSPLEFontanPlan
The consult purpose were classified into four categories; Operation was direct request of surgical operation, Plan indicates consult about treatment planning and/ or strategy of cases, Test was question about concrete testing methods (how to do MR lymphography, etc), and Nutrition was about questions of dose/ timing of restart in fasting case. Note the consulters aimed to discuss treatment plans, not simply request for surgical operations. M=months-old, Y=years-old. CoA, coarctation of aorta; HLHS, hypoplastic left heart syndrome; PA, pulmonary artery; PDA, patent ductus arteriosus; PE, pleural effusion; PLE, protein losing enteropathy; TAPVR, total anomalous pulmonary venous return.

コンサルト内容では,意外なことに執刀依頼19件(38件中,50%)よりも方針の相談が多く(23件,61%),半数を超えていた.栄養や薬物療法に関する問い合わせは1件のみであった(3%).各コンサルトへの対応として,手術の執刀,具体的治療方針の提示,検査手技の詳細を伝えるなど,当初のコンサルト内容に沿ったものが大半であった(38件中34件,90%).一方で執刀依頼があったもののうち,4件(19件中,21%)は患者の急激な全身状態悪化や治療方針の大きな転換などによる理由で,われわれが実際に治療を施行することはなかった(Table 1).

考察

中枢性リンパ管疾患としての乳び胸水や乳び腹水などの診療では,新たな検査や治療方法の開発・実用化に伴って選択肢が増え,検査や治療の優先順位に混乱が生じている.そこで本研究は新規治療を専門にするわれわれへの相談内容から,臨床現場で中枢性リンパ管疾患に対する診療を行うなかでの疑問点を有する病院・医師,疑問の内容を明らかにすることを目的とした.

結果として,関東地方,大学病院,小児循環器科医からのコンサルト,および乳児期症例,治療・検査を含めた治療方針に関する相談内容が多かった.一方で地方や病院種類・担当科にかかわらずコンサルトの内容は類似しており,本疾患に対する標準的な治療戦略の必要性が示唆された.

中枢性リンパ管疾患は,胎児水腫として出生直後からみられることもあるが1),心臓外科手術術後,なかでもFontan関連術後の症例に多く6%程度発生するとされる2).自然軽快例や保存加療による治療効果が認められることも多く,施設間で治療方針は異なるが,難治化すると治療方法が限られ,入院日数の延長,発育発達障害などが問題となる3)

本疾患の治療として一般的なものに,MCTミルクや絶食による栄養管理のほか4),サンドスタチンやステロイドなどの薬物療法5)に加えて,対症療法としての胸腔ドレーン留置,胸腔腹腔シャント術,根治を目的とした胸膜癒着術,胸管結紮術が行われているが侵襲の大きさに比して成功率が高いとは言えない6, 7)

一方でリンパ流の評価法の発展を契機に,流路の正常化というコンセプトに基づいて根治を目指す各種の治療法が報告されてきた8).リンパ流路を可視化する方法として,従来から使用されるリンパ管シンチグラフィーの低解像度を補うように9),鼠径リンパ節の穿刺によるアプローチを用いたリンパ管造影法10, 11),その応用として開発され動的に詳細な深部のリンパ流が評価可能であるダイナミックMRリンパ管造影検査(magnetic resonance lymphangiography; MRL)1)が可能となった.また,これらの検査方法の発展に伴って新たな治療である,透視下治療(interventional radiology; IVR)分野の胸管塞栓術12)や,微小血管吻合(microsurgery)の技術を用いてリンパ流路にバイパスを作成するリンパ管静脈吻合術(lymphatic venous anastomosis; LVA)13)が報告された.しかし個々の可能性は報告されてきたものの,治療方針の策定に関して明言された報告はみられない.

臨床現場での問題点の抽出を目的とした本研究においても,治療方針に関するコンサルト内容が執刀依頼よりも多く,また医師の専門科としても循環器系・集中治療系・小児系などの治療方針の策定に関わる医師数が,執刀医となる形成外科よりも圧倒的に多かった.さらに,病院種類としても一部の特殊病院に限定された疾患ではなく,様々な専門科の医師が関わっており,各科の医師が協力して治療を行うにあたって共通の認識を持つことが重要と考えられた.以上の理由から,私見を含んでいるものの,われわれの考える中枢性リンパ管疾患の治療戦略を明示することには意義があると考えられた.

われわれの考える,中枢性リンパ管疾患の治療戦略

一般に中枢性リンパ管疾患は先天性・外傷性・静脈鬱滞性の大きく3つに分類されてきたが,われわれは治療の適応決定にあたりこの診断に固執していない.なぜなら,診断と治療が1対1での対応をしていないこと,過去に報告されたように14–16)混合性の病態をきたす症例を少なからず経験したからである.例えばFontan術後の乳び胸症例の病態把握にあたりリンパ管造影検査を施行すると,リンパ液の漏出点が指摘できない一方で,胸管のリンパ液通過性が悪く,胸腔のみならず腹部以下にもリンパ液の鬱滞・逆流所見を示す症例がある.このような症例の診断としては外傷性ではなく先天性と静脈鬱滞性の混合した病態と考えることが妥当であろう.つまり先天的な要因が背景にあるなかで,術後の静脈圧の上昇などが加わることで発症する,先天性と静脈鬱滞性の混合した病態は存在する.

われわれはむしろ治療法に即したリンパ流の評価が必須と考えている.本疾患に対するリンパ流に基づいた治療法は,いわばバイパス作成による「流す」方法か,IVRによる「つめる」方法に大別されるため,鬱滞が原因であれば「流す」,破綻が原因であれば「つめる」のが原則として良いと考えている.したがって中枢リンパ管内のリンパ液動態を画像所見で判断する必要がある.すなわちリンパ流に鬱滞および逆流が確認されればバイパスを作成するリンパ管静脈吻合術を,順行性に流れているが破綻していることが原因であればIVRによる塞栓術を施行する.そのため,まずはリンパ液の逆流所見,漏出の程度,漏出部位を評価した上で,治療方針を決定する.

具体的な検査法として,リンパ液逆流性の評価には全体像を把握しやすいものとしてシンチグラフィーを第一選択としている.シンチグラフィーは検査方法として再現性が高く,手技による結果の違いが少なく,ほぼ全例に施行できる点が利点である.加えて体表の逆流程度,つまり四肢や体幹などの末梢部分におけるリンパ浮腫併発の評価については,インドシアニングリーンを用いたリンパ管蛍光造影検査(ICG)を用いることが多い.ICGもシンチグラフィー同様に手技としては簡便で,皮下に少量の造影剤を注入するだけで可能なため,再現性が高い.放射線暴露の心配もなく,新生児期から適応できることに加え,他のリンパ流の検査方法と比較しても最も低侵襲に行える方法であるため,われわれは中枢性リンパ管疾患の病態把握に応用している.ただし,観察のタイミング,観察部位や結果の評価にあたり経験を要するため,補助的な検査法と考えている.MRLは中枢リンパ流が詳細かつ動的に観察できるため有効な検査法であり,米国の熟練した施設などでは新生児期から適応としているが,現在の実施可能施設は少ない.鼠径リンパ節を穿刺したのち造影剤を注入しながら撮影するため,術者および放射線技師の習熟が必要である.われわれの経験でも5歳以下では特に術者に求められる習熟度は高く,可能であれば撮影を試みるが,特に新生児などの症例では侵襲も無視できないため,現時点では必須の検査項目と考えていない.Savlaら15)はMRLの画像所見を用いて,乳び胸の病態を胸管の外傷,pulmonary lymphatic perfusion syndrome(PLPS),central lymphatic flow disorder(CLFD)に分類しているが,CLFDがわれわれの考える鬱滞および逆流性の病態に近い.

特に中枢性リンパ管の出口である静脈角に血栓などを生じている場合,概ね全例で全身へリンパ液が逆流するが,この病態に対しては,頚部(静脈角部)のリンパ管静脈吻合術が有効である13).また,静脈角の閉塞を認めないリンパ液逆流性の病態では末梢でのリンパ管静脈吻合術を検討する.特に吻合を行うことの多い大腿部や頸部の体表まで逆流が確認される症例では,比較的良い適応と考えている.しかし末梢の静脈圧が高い症例の場合には,作成したバイパスを通じて有効にリンパ液が静脈内に回収されにくく治療効果を期待しづらい場合もあるため,IVR治療を考慮する.リンパ管静脈吻合術は生後1週間,体重2,500 g程度あれば適応と考えている.

IVR治療はコイルなどを用いた胸管塞栓術とリピオドールリンパ管造影法が代表的である.胸管塞栓は有効性・即効性は高いが,特に専門的な技術を要し,乳児などでは難易度が高い17).術後速やかに側副路が発達することにより胸管本幹を塞栓しても合併症は少ないとされる一方で,下肢などの末梢にリンパ鬱滞・逆流を併発し難治性リンパ浮腫となることもある.対してリピオドールリンパ管造影法はリンパ管の画像検査法として以前より行われてきた方法で,粘性の高い造影剤であるリピオドールが直接漏出点を塞ぐ,または漏出点で胸膜に局所的な癒着を起こすことで術後胸水に対して低侵襲に治療効果が得られるとされている18, 19).しかし右左シャントを有する症例では,リンパ管から静脈を通過した造影剤が左心系を通じて体循環に流入し脳梗塞を起こすことが報告されているため20),われわれは禁忌としている.したがってリピオドール造影法は症状が胸水のみで量が比較的少なく,右左シャントを有しない場合に限って適応としている.顕微鏡による拡大視野下では特に小さな新生児であっても鼠径リンパ節の穿刺が可能なことが多いため,リピオドールリンパ管造影法は体重1,000 g以上を適応としている.

なお,治療方針の前提として,不要な手術侵襲を避けるべく,われわれは過去の報告に準じて3)保存加療1か月で改善に乏しい症例を対象としている.また,乳びではない難治性胸水では正常なリンパ流を活用した別のアプローチが有効なこともあるため21),胸水の性状および細胞数,リンパ球分画などの検査値を用いる乳びの評価は省いてはならないと考えている(Fig. 4).

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 36(4): 287-293 (2020)

Fig. 4 Flowchart of treatment strategy for central lymphatic disorder resistant to preservation therapies

Flow oriented treatments were plannable with the present flowchart. Briefly, lymphatic venous anastomosis (LVA) is suitable for lymph recurrent cases, to create bypass from lymph to vein, at venous angle or peripherally. On the other hand, interventional radiological approach, such as thoracic duct embolization, and lipiodol lymphography were effective for antegrade lymphatic leakage. LVA, lymphatic venous anastomosis

本研究の抱える限界として,全例調査ではなく,著者らが受けたコンサルトを対象としたことによるバイアスが考えられる.つまり面識のある医師や施設であれば比較的容易に連絡できる一方で,面識がなければコンサルトはしづらいと予想される.実際にわれわれの所属する関東地方からの相談件数が最も多かった.しかし数は少ないものの,各地方から類似のコンサルトが複数あり,当該疾患およびその新規治療への関心は日本全国に及ぶと考えられた.また,われわれとは専門科の異なる医師からの相談件数が圧倒的に多く,なかでも数の多かった小児循環器系医師にとって本疾患に対する具体的な治療方針の策定は,無視できない問題であることが考えられた.

結論

中枢性リンパ管疾患は病態の理解が進み,検査や治療法に選択肢が増えてきた.一方で病院種類・担当科を超えて全国的に類似した相談が多くみられ,本疾患に対する標準的な治療戦略の構築が必要と考えられた.

利益相反

すべての著者は開示すべき利益相反はない.

著者の役割

加藤 基:プロトコール作成,データ集計,データ解釈,論文原稿作成,研究発表決定

加藤怜子:データ解釈補助,論文原稿作成補助

渡辺あずさ:研究指導

渡邊彰二:研究指導

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