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Anomalous unilateral single pulmonary vein（AUSPV）は，片側の肺静脈の一部と左房との交通が途絶し，拡張・蛇行した還流静脈を経て残りの同側肺静脈に合流し1本の肺静脈となり左房へと交通する肺静脈異常である．極めて稀な疾患であり，河内論文を含めこれまでに34例の報告がある1）．画像診断上は肺動静脈瘻，シミター症候群，部分肺静脈還流異常症，肺静脈瘤，肺結節性病変などに似た所見を示すことがあり，これら様々な疾患との鑑別を要する．AUSPVの多くが無症状で基本的に治療の対象にならないことから，本疾患の存在を知っておくことと，上記の鑑別疾患と区別をすることが臨床上重要である．
AUSPVの大多数が成人期にみつかり，肺動静脈瘻の疑いで受診をすることが最も多い2–4）．AUSPVと肺動静脈瘻の鑑別の一助となる所見に，Tokunagaらが提唱する“Pine-needle sign”がある5）．肺動静脈瘻では，AUSPVや先天性肺静脈閉鎖などの他の類似画像所見を示す疾患と比べて，動脈と静脈がより平行かつ直線的に並走しており，先端のnidusと2本の血管をあわせて「松葉」のように見えるというものである．感度，特異度100％で肺動静脈瘻を他の類似疾患と鑑別できるとのことであり，有用な指標の1つと思われる．肺動静脈瘻はシャントを生じるのに対して，AUSPVは生じないのでこの区別は治療方針決定の上でも大切である．
AUSPVと鑑別を要する重要な疾患に，シミター症候群がある．シミター症候群は部分肺静脈還流異常症の1つであり，肺静脈の一部が左房ではなく下大静脈に還流し，胸部X線写真では特徴的なscimitar signがみられる．AUSPVとシミター症候群は，片側（多くは右側）の肺低形成を合併することが多いなど共通点が多く，発生学的にも類似した機序が推測されている．これまでのAUSPVの報告の44％において，胸部X線写真でscimitar signを認めており，AUSPVを“scimitar variant”, “pseudo-scimitar syndrome”などと表現している報告もある6）．“scimitar sign”はシミター症候群に特徴的な所見ではあるが特異的ではないので，本所見に飛びつくと診断を間違える可能性があり注意を要する．AUSPVとシミター症候群を区別する上で有用な所見として，ReyらはAUSPVではscimitar signがシミター症候群よりも高い位置にみられることを挙げている7）．
その他にAUSPVと類似した画像所見を示す疾患に，肺静脈瘤がある8）．肺静脈瘤は破裂や閉塞による死亡の報告があるが，AUSPVにはないので，両者の鑑別は重要である．河内論文にもある通り，Bartramらの診断基準が鑑別に有用である1, 9）．その他に肺内の結節性病変を疑われたAUSPVの報告や10），右上肺静脈の部分肺静脈還流異常症を疑われAUSPVであった報告もあり7），拡大した還流静脈の形態によって様々な胸部X線写真所見を取りうる．
AUSPV自体にシャントや狭窄などの血行動態的な問題はなく，その大多数が無症状である．一部に労作時息切れや血痰といった症状を認めることがあるが，その機序については明らかになっていない6）．過去にAUSPVに治療介入をした報告はなく，基本的に外科治療やインターベンションの対象とはならない．河内論文はAUSPVに加えて対側の肺静脈狭窄を認めたさらに稀な報告であるが，対側の肺静脈狭窄が比較的軽症であり，肺高血圧もなく無症状であることなどから経過観察の方針となっている．実際にその後1年の経過でも変化なく，妥当な方針であったと考える．AUSPVという疾患概念と紛らわしい鑑別診断を頭に入れておくことが，適切な治療方針の決定と不要な検査の負担を避けるために重要であると考える．
注記：本稿は，次の論文のEditorial Commentである．河内 遼，ほか：先天性片側肺静脈狭窄に対側のAnomalous Unilateral Single Pulmonary Veinを合併した1例．日本小児循環器会誌 2020; 36: 152–156
1) 河内 遼，東 浩二，佐藤純一，ほか：先天性片側肺静脈狭窄に対側のAnomalous Unilateral Single pulmonary Veinを合併した1例．日小児循環器会誌2020; 36: 152–156
2) Lin CT, Zimmerman SL, Mitchell SE, et al: Pulmonary venous anomalies causing misdiagnosis of pulmonary arteriovenous malformations. Clin Imaging 2018; 47: 96–100
3) Chun HJ, Kim HW, Park JK: Pulmonary varix associated with an anomalous unilateral single pulmonary vein mimicking pulmonary arterio-venous malformation. Eur J Cardiothorac Surg 2015; 47: 747
4) Koyama K, Sano G, Hata Y, et al: An anomalous unilateral single pulmonary vein associated with a bone morphogenetic protein receptor II gene mutation. Intern Med 2014; 53: 461–466
5) Tokunaga K, Kubo T, Yamaoka T, et al: Can the “pine-needle sign” on computed tomography be used to differentiate pulmonary arteriovenous malformation from its mimics?: Analysis based on dynamic contrast-enhanced chest computed tomography in adults. Eur J Radiol 2017; 95: 314–318
6) Odenthal C, Sarikwal A: Anomalous unilateral single pulmonary vein versus scimitar syndrome: Comparison of two paediatric cases and a review of the literature. J Med Imaging Radiat Oncol 2012; 56: 247–254
7) Rey C, Vaksmann G, Francart C: Anomalous unilateral single pulmonary vein mimicking partial anomalous pulmonary venous return. Cathet Cardiovasc Diagn 1986; 12: 330–333
8) Hasuo K, Numaguchi Y, Kishikawa T, et al: Anomalous unilateral single pulmonary vein mimicking pulmonary varices. Chest 1981; 79: 602–604
9) Bartram O, Strickland B: Pulmonary varices. Proc R Soc Med 1971; 64: 839
10) Goudarzi M, Sabouri S, Fayazi N, et al: Anomalous unilateral single pulmonary vein mimicking pulmonary nodules on HRCT of the lungs and scimitar syndrome on chest radiograph: multidetector CT findings. J Thorac Imaging 2009; 24: 142–146
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