Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(2): 70-81 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.70

ReviewReview

心臓と心筋細胞の初期発生研究Cardiac Progenitor Cells and Heart Development in the Early Stage Embryo

1大阪大学大学院医学系研究科小児科学Department of Pediatrics, Osaka University Graduate School of Medicine ◇ Osaka, Japan

2ロンドン大学クイーンメアリー校バーツアンドロンドン医歯学部ウイリアムハーベイ研究所トランスレーショナル治療学Translational Medicine and Therapeutics, William Harvey Research Institute, Barts and The London School of Medicine and Dentistry, Queen Mary University of London ◇ London, England

3大阪大学大学院医学系研究科心臓再生医療学Department of Cardiac Regeneration and Therapeutics, Osaka University Graduate School of Medicine ◇ Osaka, Japan

4京都府立医科大学医学部医学科解剖学教室Division of Anatomy and Developmental Biology, Kyoto Prefectural University of Medicine ◇ Kyoto, Japan

発行日:2019年5月1日Published: May 1, 2019
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心臓原基は側板中胚葉の前方領域に形成される心臓前駆細胞に由来するとされる.しかし原腸陥入の結果発生する中胚葉細胞において,一体どの細胞がどのタイミングで心臓前駆細胞になるように運命づけられるのか?また,どのようにして心臓を構成する細胞の系譜分け(心室筋,心房筋,刺激伝導系,心内膜細胞,心筋線維芽細胞,平滑筋細胞や内皮細胞)や,位置分け(右心室か左心室か)がなされているのか?このような細胞系譜の運命決定のメカニズムについて,これまでは多くが謎に包まれていた.これらの疑問に答えを出すことは,今後,多能性幹細胞(ES/iPS細胞)などを用いた心臓再生医療やin vitroでの創薬モデルを発展させるためには非常に重要な知見となる.私達はこれまで特に心筋前駆細胞の運命決定にかかわる分子メカニズムについて研究を行ってきた.この総説では,心筋細胞を始めとする心臓構成細胞が,「いつ」「どのようにして」「どの」細胞になるのかという細胞運命を決定する機序の解明に少しでも近づくために私達がこれまで行ってきた研究成果を紹介し,今後の心臓初期発生研究の方向性と臨床応用の可能性に関し議論したい.

Heart cells developmentally originate from cardiac progenitor cells (CPCs) populating in the heart field, which is located in the most anterior part of the lateral plate mesoderm. The molecular mechanisms underlying the determination of which cell type a CPC will develop into (ventricular cardiomyocyte, atrial cardiomyocyte, conducting system, cardiac fibroblast, smooth muscle cell, or endothelial cell) remain largely unknown. Additionally, the factors controlling the decision regarding which specific anatomical structure in the heart a cell will develop into, are still unknown. In this review, we discuss our recent progress in the study of CPCs, how they are specified, and how they differentiate. We also discuss future perspectives of cardiac development and potential therapeutic applications.

Key words: heart development; cardiac progenitor cells; iPS cells; single cell expression profiling

心臓初期発生のながれ

心臓は脊椎動物において初めに形成される臓器である.原腸陥入によって形成される中胚葉細胞の中で,心臓原基に寄与する心臓中胚葉細胞と見なし得る側板中胚葉の細胞集団は,原始線条の前方領域から生じるとされる.これら心臓中胚葉細胞は,さらに前方領域に移動し側板中胚葉の最も前方の位置を占めるようになる.そこで心臓前駆細胞としてのアイデンティティを確立し,将来の心臓を形成する心臓領域を形成する.心臓領域は,将来の心房の一部と左心室を形成する一次心臓領域と,将来の心房の一部,右心室,流出路,を形成する二次心臓領域に区別されると考えられている1, 2).胚前方に三日月状に配置されている心臓前駆細胞の集団はCardiac Crescentと呼ばれ,歴史的には心臓原基である原始心筒を構成するようになる細胞集団として認識されてきた.これらは,次第に胚の正中側に移動し,そこで原始心筒を形成する.この原始心筒は尾側が将来の心房(流入路)であり,頭側が将来の大血管(流出路)を形成することとなる.その後,この心臓の「チューブ」が,弧を描くように右方へルーピングし,心室部分がバルーニングすることにより,我々のよく知る心臓の心房心室形態を形成する(Fig. 1A, 1B).この非常にダイナミックな形態形成のステップに伴い,真っ先に心臓を形成する主たる細胞である心筋細胞の分化がまずは進行し,心臓は自律的な収縮を始める.自律収縮開始直後には,たった数層の心筋細胞で構成されていた心筋壁は,心筋細胞の増殖とともにその厚みを増し,やがて緻密層と肉柱層に分かれるようになる.心室壁の成熟と機を同じくして,房室中隔や房室弁,流出路などが秩序だって形成されていき,多くの先天性心疾患の発生にも関わる重要な構造形成のステップが進行していく3).小児心臓外科医や小児循環器医の多くの先生方は,先天性心疾患の発症と密接に関わる発生異常やそのメカニズムに,より興味を持つことが多いとが思われるが,本稿では敢えてその部分は割愛し,心臓の初期発生に着目していくことにする.

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Fig. 1 Early heart development in the human and mouse embryos

(A) Schematic images of early stage development of the human heart (modified from Shiraishi I. Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 2018; 34(3): 88-98). Various transcriptional factors are expressed sequentially. Each transcriptional factor promotes cardiac specification in a coordinated manner. (B) Whole mount in-situ hybridization for Nkx2.5 in embryonic day (E) 7.5 and for Nppa in E8.5 somite stage embryo. Nkx2.5 staining clearly delineates the cardiac crescent. The images of Nppa staining show the looping heart tube.

心筋細胞の分化と運命決定

心臓を構成する細胞のうちで最も重要でありかつ注目度の高いのは心筋細胞であろう.心筋細胞は他の細胞と異なり,自律的に細胞収縮と弛緩とを繰り返し行うという特性を有している.では,将来心筋細胞となるべき細胞は,いつどの時点でそのような運命を獲得するのであろうか?また,一口に心筋細胞と言っても,心房筋細胞や刺激伝導系心筋細胞は,心室筋細胞とは明らかに異なる特性を有しているが,これらはいつの時点で運命が分かれるのだろうか?さらには,左心室心筋細胞と右心室心筋細胞は発生学的に起源が異なるのだろうか?

このような非常に興味深いクエスチョンに対する基礎研究は,ヒト胚では倫理上の観点から実施が困難であるため,まずは直視下で観察可能で,様々な操作のあとも発生を継続的に観察できるニワトリ胚,次には遺伝子改変がしやすく心臓形態がヒトと非常によく似ているマウス胚を用いて,多くの発生生物学者や小児循環器医などによって基礎研究が進んできた.これまでの研究から,MESP1という転写因子を発現する中胚葉細胞の一部が心筋に分化することが明らかになっている.しかし,MESP1を発現した細胞は心筋細胞だけではなく,血管内皮細胞や血管平滑筋細胞,また胎盤を構成する胚体外中胚葉などを含む心臓以外の細胞へも分化することがわかっている4, 5).このMESP1を発現した中胚葉細胞の中で,その後にNKX2.5という転写因子を発現する細胞集団から心筋細胞は発生してくるということが判明している.この細胞集団は,ほぼ将来の心臓に寄与するため,これらNKX2.5陽性の中胚葉成分が心臓前駆細胞であると考えられてきた.さらに心臓発生に重要な役割を果たす転写因子として,TBX5, GAT Aファミリー,ISLET-1, HAND1/2, MEF2Cなど多くの転写因子が相互に作用しながら心筋細胞分化に関わっていることが明らかになってきた(Fig. 1A).しかし,マウス胚における心臓領域の中で,これらの細胞集団が正確にどのような時系列でNKX2.5を始めとする心臓発生に重要な転写因子を発現し,その後,心臓のどこの細胞に寄与するのかということはまだまだ不明な点も多い.

単一細胞の網羅的遺伝子発現解析と遺伝子改変マウスを用いた細胞系譜追跡が明らかにした心筋細胞の運命決定プロセス

そこで私達はまず,心臓領域において心筋細胞への運命決定が行われる過程で,心臓前駆細胞1個1個の遺伝子発現プロファイルがどのように推移(変化)するのかを解析をすることにした.マウスの心臓中胚葉が形成される胎生6日から心臓領域が形成される胎生8日の胚を用いて,顕微鏡下で将来心臓へ寄与する細胞が存在する部位を単離したのち単一細胞へと分離し,単一細胞由来のcDNAライブラリを作成した(Fig. 2A).当時は現在と異なり単一細胞由来cDNAライブラリ作成はあまり広くは行われておらず,細胞を一つ一つマイクロキャピラリーピペットで採取しては,手作業でcDNA作成を行っていた6).しかし,熟練すると現在の機械作業よりも効率よく低コピー遺伝子も拾い上げることができた.1,000を超える単一細胞cDNAライブラリの発現解析の中で,私達は心臓領域が形成される直前の状態で,心臓前駆細胞はNkx2.5のみが発現している細胞集団と,Tbx5だけが発現している集団,そしてNkx2.5Tbx5が両方とも発現している集団に分かれることを見いだした.興味深いことに,時間経過(胚の発生)が進むと共に,Tbx5単独陽性の細胞集団は減り,Nkx2.5/Tbx5両方陽性の集団に置き換えられていくことが明らかになった.これは,Nkx2.5単独陽性の細胞集団はそのままで存在し,Tbx5単独陽性の細胞は経時的にNkx2.5も発現してくるものと考えられた(Fig. 2B).そこで,実際の胚における空間的発現パターンを解析するため,該当する発生段階での胚を用いて,Nkx2.5Tbx5のWhole mount in situ hybridizationと免疫組織染色を行った.すると,Nkx2.5Tbx5を包含する領域で発現してcardiac crescentに分布しており,解剖学的な位置関係から,Tbx5陽性細胞は一次心臓領域,Nkx2.5陽性/Tbx5陰性細胞が二次心臓領域を形成しているものと考えられた.当時においては,Nkx2.5陽性の二次心臓領域は心筋細胞と平滑筋細胞,内皮細胞といった心臓を構成する複数の細胞種に分化できる多分化能を有する心臓前駆細胞であることはすでに報告されていたが7),一次心臓領域の心臓前駆細胞についての詳細な解析はまだ行われていなかった.そこで私達は,このTbx5単独陽性細胞が一次心臓領域の相当するのかを確認するために,将来の心臓のどの領域,どの細胞種に寄与するのかを調べることにした.そこでBacterial Artificial Chromosome(BAC)を活用したBAC Tbx5-CreERT2トランスジェニックマウスを作成し,まずはCreERT2遺伝子カセットが内在性のTbx5と同様の発現パターンをとることを確かめた.このBAC Tbx5-CreERT2トランスジェニックマウスをRosa26-eYFP Creレポーターマウスと掛け合わせることにより,Tbx5発現細胞の細胞系譜追跡実験を行った.この方法は発生生物学などの分野ではよく用いられている方法であるが,これら2種類のマウスをかけ合わせて妊娠させた後,目的のタイミング(今回は心臓前駆細胞が形成されている胎生7日目)に,母体マウスにタモキシフェンを投与すると,その時点でTBX5を発現している細胞が蛍光タンパクeYFPで標識されるというものである(Fig. 2C8).タモキシフェンの効果は経口投与であれば24時間以内に消失するため,その間にTBX5を発現していた細胞のみが,その後(例えば出生直前)においても蛍光標識されているため,標的細胞が将来どの臓器のどの細胞に分化し,どのように分布しているのかを同定することができる.この方法で,私達はTBX5陽性の心筋前駆細胞が,心臓が完全に形成された胎生15日に,心臓内のどの場所のどの細胞に分化しているのかを検討した.TBX5陽性細胞は,予想通り,一次心臓領域の概念と完全に一致して,心房の一部と左心室に寄与していた(Fig. 2D).驚いたことに,それまで一般的には心臓前駆細胞は多分化能を有すると考えられていたが,TBX5陽性一次心臓領域前駆細胞は心筋にしか分化していなかった.血管内皮細胞や平滑筋細胞,心内膜細胞には寄与していなかったのである.刺激伝導系心筋細胞については,TBX5陽性心筋前駆細胞は,洞結節には寄与していなかったものの,房室結節やヒス束の一部に分化することも明らかになった(Fig. 2E)すなわち,左心室と右心室の心筋細胞は,心臓が拍動を始めるより遥か前,原始心筒ができるよりもさらに前からすでにその運命は決定しているということである.最近の報告では,一次心臓領域と二次心臓領域の心臓前駆細胞ではMesp1の発現時期が異なっており,原腸陥入の初期にすでに運命決定がなされているのであるとする興味深い報告もある9).また,心室中隔ではTBX5陽性であった心筋前駆細胞は主に左室側に存在し中央部分はまだら状になっていた.これは臨床的観点からは非常に興味深いことだが,心室中隔の心筋は左心室(一次心臓領域由来)だけではなく,右心室(二次心臓領域)の心筋細胞とのミックスであり,より左心室側は左心室の,右心室側は右心室の心筋で構成されているということを,この実験結果は示唆している.実際,心筋症の患者などで心室中隔中央を境にしてエコー輝度が異なる(そして境界線はそれほど明瞭ではない)患者を見ることがあるが,それはヒトにおいても一次心臓領域と二次心臓領域の発生過程がマウスと類似していることを示しているのかもしれない.以上の結果をまとめると,心臓中胚葉内でTBX5を発現した心筋前駆細胞は,純粋に心筋細胞にのみ分化するという心筋前駆細胞であり,左心室,両心房の一部,刺激伝導系の一部に寄与するということが明らかになった.

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Fig. 2 Lineage tracing of Tbx5 cardiac progenitor cells in mouse embryos

(A) Single-cell derived cDNA in the cardiac field of early mouse embryos. (B) Subpopulation shift in cardiac progenitor cells from E7.0 to E8.5 embryos. Embryological stages are classified as early allantoic bud stage (EB), late allantoic bud stage (LB), early head-fold stage (EHF), and somite stage, based on morphology (Downs and Davies, 1993). (C) Schematic images of YFP labeling by Cre-ERT recombination with tamoxifen administration. Cre binds the modified estrogen receptor, which can be activated by tamoxifen. With tamoxifen administration, Cre recombinase is transferred into the nucleus where YFP begins to be permanently expressed. (D) Lineage trace experiment demonstrates that Tbx5+ (eYFP+) cardiac progenitors contribute to the left ventricle (LV), and the right (RA) and left (LA) atria. (E) Immunohistochemistry determines that Tbx5+ cardiac progenitors only contribute to cardiomyocytes, including the His bundle, but not the sinus node. (F) Schematic images of Nkx2.5 and Tbx5 cardiac progenitor differentiation. Nkx2.5/Tbx5 first heart field progenitors only differentiate into cardiomyocytes, whereas Nkx2.5/Tbx5neg second heart field progenitors are pluripotent.

次に私達は,上記のような心筋細胞分化における系譜決定が生体内における細胞間相互作用や位置情報のような細胞外からの外的シグナルの影響を受けるのか,それとも細胞自律的(cell autonomous)な現象であるのかを知るために,完全に培養皿上での実験,すなわちマウスES細胞を用いた心筋細胞分化誘導系を用いて検証することにした.まずは先の実験で用いた,Tbx5-CreERT2マウスとRosa26-eYFPマウスを交配させた胚からES細胞を樹立した.このES細胞を心筋細胞に分化誘導する過程でタモキシフェンを培地中に添加すると,その時点でTBX5を発現している細胞をeYFPでマーキングすることができる.最終的に分化した細胞について,心筋細胞,内皮細胞,平滑筋細胞のマーカーで染めてみると,TBX5を発現した細胞はやはり心筋細胞にのみ分化していることが判明した.また,そのうち一部はHCN4陽性の刺激伝導系心筋細胞へと分化していた.すなわち,ES細胞での系においても生体内と同様,TBX5を発現した心筋前駆細胞はもはや心筋細胞にしか分化しないということが示された10)

以上の結果を総合すると,心筋細胞の初期分化においてNKX2.5陽性TBX5陰性の細胞集団は二次心臓領域の心筋前駆細胞であり,心筋細胞だけでなく血管内皮細胞や平滑筋細胞にも分化することができる複数の分化能を保持した前駆細胞である.それに対してNKX2.5陽性TBX5陽性の細胞集団は一次心臓領域を形成し心筋細胞にしか分化しない前駆細胞であると考えられる(Fig. 2F).

心筋前駆細胞特異的表面マーカーの探索と同定

これまで,心臓の初期発生や心筋細胞分化の基礎研究は,上記の私達の実験のように,遺伝子改変マウスやマウスES細胞,あるいはヒトES細胞を用いて行われてきた.これらは非常に強力で魅力的なツールではあるが,さらに詳細な研究をすすめるためには心筋前駆細胞に特異的な細胞表面マーカーの同定が重要である.これまで知られてきた心筋前駆細胞で発現しているタンパク,例えばNKX2.5, TBX5, MEF2c, ISLET-1, GAT A4などであるが,これらは転写因子であり細胞内で発現している.したがって,これらに対する特異的抗体を用いて細胞を生きたまま染めることはできない.また,これらの転写因子が発現している細胞でGFPやYFPのような蛍光タンパクを発現させるためには人為的な遺伝子改変が必要であるし,人工的な遺伝子改変による蛍光マーカータンパクの発現が,完全に自然の(ありのままの)発現パターンを模倣できているという保証はない.そこで私達は,心筋前駆細胞特異的な表面マーカーを同定しようと考えた.これまで,心臓前駆細胞を標識するための表面マーカーとしては,前駆細胞には非特異的なFLK-1(KDR)とPDGFRAを組み合わる方法などが報告されていた11).しかし,これらの表面マーカーで認識される心臓前駆細胞は,各々のマーカーが非特異であるがゆえに,心筋細胞だけでなく血管内皮細胞や平滑筋細胞にも分化する多分化能を有する細胞であり,純粋に心筋細胞にのみ分化するというものでもなかった.もし,心筋前駆細胞特異的な細胞表面マーカーが同定できれば,FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)などを用いて,容易に心筋前駆細胞のみを,生きた状態で集めることができる.また,心筋前駆細胞を継続的に培養し,生物学的な解析をすることが可能になる.

そこで私達は,先の実験で集めたマウス初期胚の単一心臓前駆細胞由来のcDNAライブラリから心筋前駆細胞で特異的に発現している候補遺伝子をピックアップするべく解析することにした.次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)により,心筋前駆細胞の表面で発現している膜タンパクをコードしている遺伝子を絞り込み,それらが実際にマウス初期胚の心臓前駆領域で発現しているのかどうかを,Whole mount in situ hybridization法や免疫組織染色などを行うことで確認するスクリーニングを行った.すると,30余りの候補遺伝子のうちの一つGfra2(Glial cell derived neurotrophic factor Family Receptor Alpha 2)が,心臓前駆領域で特異的に発現していることが明らかになった(Fig. 3A).非常に興味深いことに,GFRA2はその名のとおり,グリア細胞由来神経栄養因子の受容体のファミリーに属するタンパクであり,これまで中胚葉,特に心臓の発生過程において(心臓の自律神経終末においては発現しているが)発現しているなどということは予想もされていない遺伝子であった.次に,GFRA2のタンパクレベルでの発現の確認のため,そしてより詳細に生体内での空間的発現部位を解析するため,マウス胚切片に対しての免疫組織染色による解析を行った.抗GFRA2抗体と一次心臓領域のマーカーとしてTBX5,二次心臓領域のマーカーとしてISLET-1,両者を含む領域に発現するNKX2.5についても免疫組織染色を行い,このGFRA2は一次と二次心臓前駆領域の両方で発現していることを明らかにした(Fig. 3B).

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Fig. 3 GFRA2 specifically marks cardiac progenitors in mice and humans

(A) Whole mount in-situ hybridization reveals Gfra2 expression in early mouse embryo cardiac fields. (B) Sequential section immunohistochemistry reveals GFRA2 marking both first (FHF) and second heart field (SHF) progenitors in the mouse embryo. (C) Quantitative real-time PCR analysis reveals transient Gfra2 expression just prior to the initiation of spontaneous beating of ES cell derived cardiomyocytes. (D) FACS-purified GFRA2 cardiac progenitors from differentiated human ES cells differentiate into spontaneously beating cardiomyocytes.

それでは,このGFRA2はin vitro,すなわちマウスES細胞あるいはヒトES/iPS細胞の心筋細胞分化誘導過程でどのような発現パターンを示すのであろうか.それぞれの心筋細胞分化誘導系においてGfra2の発現量を定量的リアルタイムPCR法にて調べてみたところ,心筋細胞が分化して自律的収縮を開始する直前に発現のピークを迎えることが判明した(Fig. 3C).すなわち,ES/iPS細胞においてもGfra2は心筋細胞としてのアイデンティティである自律収縮を開始する直前,すなわち心筋前駆細胞のステージでGfra2は発現のピークを迎えるのではないかと思われた.それでは,GFRA2に対する抗体を用いることでFACSを行い,心筋前駆細胞を高純度で収集することはできるのであろうか?私達は,マウスES細胞,そしてヒトES細胞から心筋細胞へと分化していく過程において,GFRA2陽性の細胞集団をFACSを用いて収集し,それらを継続的に培養することで,最終的にどのような細胞に分化するのかを調べてみることとした.先に述べたようにGFRA2はグリア細胞など外胚葉で発現している可能性があるので,それらを除外するために,中胚葉細胞の表面マーカーとしてPDGFRAを用いて共染色し,中胚葉細胞の中でGFRA2を発現している細胞のみを収集した.さらに,その細胞を5日間継続して培養してみた.すると,ほぼすべての細胞が心筋トロポニンT陽性の自律収縮する心筋細胞に分化することがわかった(Fig. 3D).すなわちGFRA2は心筋前駆細胞の表面マーカーとして,マウスES細胞とヒトES/iPS細胞を用いた系においても利用可能であることが示された.

さらに追加の解析として,マウスES細胞を用いた心筋分化誘導系においてGFRA2の発現時系列を日々詳細に調べてみると,分化誘導開始4日目頃からすでに発現しており,どうやら心筋細胞へと完全に分化が決定された状態よりも前のステージから発現しているらしきことが判明した.そこで,上述したこの時期の心臓前駆細胞の表面マーカーであるFLK-1(KDR),PDGFRAとGFRA2の関連性を調べてみることとした12).この3つのタンパクで共染色してみると,FLK-1(KDR)弱陽性+PDGFRA陽性という,既報において心臓前駆細胞とされていた細胞集団の約3割でGFRA2は発現していることが判明した.この結果は,既報の非特異的マーカーの組み合わせではまだ心筋細胞へと分化する能力を持つ前駆細胞としての純度は高くない(せいぜい30%程度)であることを示唆している.この細胞集団をFACSで分離して継続培養すると,心筋細胞のみならず,血管内皮細胞,平滑筋細胞にも分化することが判明した.

以上の結果をまとめると,GFRA2は心筋分化の初期段階では多分化能を有する心臓前駆細胞で発現しており,後期段階では心筋細胞になる運命がすでに決定した心筋前駆細胞で発現していることが示された13)

GFRA2が心筋細胞分化に果たす役割

上述した研究により,私達は新たな心筋前駆細胞表面マーカーとしてGFRA2を同定したわけだが,はたしてGFRA2は心筋細胞の分化過程において何らかの役割を果たしているのだろうか?という次の疑問が浮かび上がった.これを調べるために,私達は,マウスES細胞においてGfra2をノックアウトした細胞系統を作成することにした.近年のノックアウト動物やノックアウト細胞などを作成するための遺伝子改変技術の進歩は素晴らしいものがある.私達は当時報告されて間もなかったCRISPR/Cas9を用いてノックアウトES細胞を作成することとした14).表現型がoff-target効果によるものではないことを明確にするために,異なる部位に変異の入った複数のラインを作成し,それらを心筋細胞へと分化誘導してみたが,特に心筋細胞の分化効率に変化は見られなかった.それでは,GFRA2は心筋前駆細胞の表面で発現はしているが,特に何もしていないのであろうか?いや,まだ結論を出すには早すぎると私達は考えた.GFRA2は,名前のとおりファミリー受容体である.神経の領域ではよく研究されているが,GFRA1~4までが知られており,RETというチロシンキナーゼ受容体と共役して細胞内にシグナルを伝達している.さらにそれぞれが異なるリガンドを持っており,GFRA1はGDNF, GFRA2はNEURTURIN, GFRA3はARTEMIN, GFRA4はPERSEPHINとされている.このうち,GFRA1とGFRA2では機能的な冗長性が知られており,GDNFとNEURTURINはGFRA1と2の両方の受容体に作用することが知られている15, 16)

そこで私達はGfra2だけでなくGfra1とのダブルノックアウトES細胞を作成して心筋細胞へと分化誘導してみた.すると,Gfra1/2ダブルノックアウトES細胞は著しく心筋細胞への分化効率が低下することが判明した.対してGfra1単独ノックアウトES細胞はGfra2単独ノックアウトES細胞を同じく,特に心筋細胞分化効率は影響を受けなかった(Fig. 4A).さらに私達はそれぞれの受容体のリガンドであるGDNFNeurturinのノックアウトES細胞とそれらのダブルノックアウトES細胞も作成して同様に心筋細胞への分化効率を調べたが,これらも全く影響を受けていなかった.さらに興味深いことに,Gfra1Gfra2と共役するRetのノックアウトES細胞においても心筋細胞分化は影響を受けていなかった.これらのことを総合すると,GFRA2は心筋細胞分化に重要な役割を担っているが,それはGFRA1によって補完できるものであり,かつこれまで神経領域において知られていた共役受容体RETを介さない心臓特異的な新たなシグナル経路が心筋細胞分化には関係している可能性が示唆された.

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Fig. 4 Knock-out experiments demonstrate GFRA2’s important role in cardiac development

(A) Flow cytometry (left panel) and immunocytochemical analysis (right panel) reveal the difficulty for Gfra1/2 double knock-out (DKO) ES cells to differentiate into cardiac troponin T positive cardiomyocytes. (B) Gfra1/2 DKO mouse hearts reveal a thin compaction layer resembling non-compaction cardiomyopathy. Wild type control and heterozygous mutants have normal heart structures.

ではES細胞だけでなく,生体内における心臓発生においてもGFRA2は心筋細胞分化に重要な役割を果たしているのであろうか.そこで私達はGfra1/2ダブルノックアウトマウスを作成して解析することとした.従来,ダブルノックアウトマウスの作成には多くの時間と費用がかかるものであったが,CRISPR/Cas9による遺伝子改変技術の進歩により,当時,ワンステップでのノックアウトマウス作成方法がちょうど公表された直後であった17).そこで私達もその方法を用いてノックアウトマウスを作成することにした.受精卵に直接CRISPR/Cas9を導入する実験に関しては,当初は英国国立医学研究所(現フランシス・クリック研究所)のTim Mohun研究室に,引き続いて大阪大学生命機能研究科の佐々木洋研究室との共同研究で行った.実験前の仮説としては,私達のES細胞の実験結果から,心臓そのものが発生しないのではないかと考えていたが,胎生8.5日の時点できちんとルーピングした心臓を形態的に認めることができた.しかし,この時期の心筋で発現している心房性ナトリウム利尿ペプチド(Nppa)の発現は認められず,正常な心筋細胞分化過程に何らかの遅延や障害が起きていることが推察された.次に出生直前の胎生17.5日の心臓を確認してみると,非常に面白いことにGfra1/2ダブルノックアウトマウスにおいては心筋緻密層の菲薄化が見られ,あたかも心筋緻密化障害のような所見が得られた(Fig. 4B).実際,心筋のcompaction stepに関係しているとされるNOTCHシグナルの低下がダブルノックアウトマウス胚においては確認できた18, 19).8.5日の変異マウス胚で観察されたNppa発現が低下していたのは,このNotchシグナルの異常による効果と考えられた.残念なことに,このダブルノックアウトマウスは腎臓の無発生も合併することから出生後は致死であるため20),生後の心機能などの解析は不可能であった.以上の結果から,GFRA2はマウス生体内の心臓発生においても重要な役割を果たしていることが確認できた13)

心筋細胞分化研究は心疾患病態の解明につながるか

ここまでに述べた私達の研究は,心臓初期発生のメカニズム解析につながるだけでなく,期せずして心筋緻密化障害を呈するマウスが作成されるなど,心筋細胞分化や心臓の初期発生についての基礎研究が,心疾患の病態解明に役立つ可能性が示唆された.ES細胞や疾患特異的iPS細胞を用いて心筋細胞へと分化誘導する研究は,一般的には先天性心疾患の病態解明に用いるのは困難と考えられており(これまでのところ,培養皿上では立体的で複雑な心形態は再現できないので),心筋症などのサルコメア異常,あるいは不整脈などのチャネル異常疾患に対する病態研究との親和性が高い.以前,私達は心筋細胞分化誘導系を用いてNoonan症候群に関連する肥大型心筋症の病態解明についての研究を行っていたのでそれについても紹介したい21)

よく知られているようにNoonan症候群とその関連疾患では肥大型心筋症を合併しやすい.私達は自験例でPtpn11遺伝子におけるQ510Eという新たな遺伝子変異を報告した22).その患者が重度の肥大型心筋症を乳児期早期から呈していたこと,さらには心筋病理の所見として,マクロ(心エコー等)での心筋肥大の程度に比して,組織での心筋細胞肥大がそれほど強度ではないことから,Noonan症候群に関連する肥大型心筋症の病態は,通常のサルコメア遺伝子変異による肥大型心筋症と異なり,単なる細胞肥大や間質線維化だけでは説明がつかないのではないかと感じていた.そこでマウスEmbryonic Carcinoma(EC)細胞からの心筋細胞分化誘導系を用いて,Q510E遺伝子変異を導入することで,疾患病態の解明につながらないかと考えた.実際,Q510E変異を導入した細胞では,心筋細胞への分化誘導が通常よりも遅延し,その分,増殖力を有した心筋前駆細胞が長く存在することが示された.また,分化した心筋細胞自身も有意に肥大していることを見いだした(Fig. 5).これには,AktシグナルやWnt-βCateninシグナルの異常が関係していることも明らかにした.すなわち,Q510E変異によるNoonan症候群における肥大型心筋症では,増殖力を有する心筋前駆細胞が長く残存することによる心筋細胞の数的増加と,1個1個の心筋細胞の細胞肥大による影響が相乗的に作用することで,重度の肥大型心筋症を呈する可能性が示唆された.私達の実験は,培養皿上での心筋細胞分化誘導系を用いた研究結果であったが,最近,東京大学小児科の中釜先生,犬塚先生らのグループにより,実際の患者心筋検体においても,増殖力を有する心筋細胞が多く残存していることが報告され,私達のマウスでの実験結果と同様のことが,実際にヒト生体内においても起きていることが示された23).このように,私達がよく見る先天性心疾患における形態発生だけでなく,様々な心疾患においても,心臓初期発生,心筋細胞分化に関する基礎研究が,臨床につながる成果を生み出す可能性が広がっている.

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Fig. 5 Cardiomyocyte differentiation assay in LEOPARD syndrome (Noonan syndrome with multiple lentigines) type Q510E mutation

(A) Immunocytochemistry for α-actinin (red) demonstrates that the LEOPARD type Q510E mutant reveals a significant delay in cardiomyocyte differentiation compared to wild type (WT) and Noonan type D61N mutation. (B) More proliferative premature cardiac progenitors remain in the Q510E mutation than in D61N and controls. (C) Differentiated cardiomyocytes in the Q510E mutation are larger than others, indicating hypertrophic change in Q510E cardiomyocytes.

心臓と心筋細胞の初期発生研究を心臓再生医療に活かす

心臓初期発生における基礎研究は,「いつどのようにして心臓を構成する細胞が,どの部分になるように運命を決定されるのか?」という純粋な学術的疑問を解決するという点で,非常にエキサイティングなものであることは確かである.しかし,このような基礎研究で得られた知見を,目の前の患者さんたちの治療としてどのように活かすのか,という視点も臨床医としては重視すべき点である.実際,これまで得られてきたin vitroにおけるES/iPS細胞から心筋細胞への分化過程を制御する様々なシグナル経路の知見は,心臓再生医療における細胞移植療法の細胞ソースをいかに効率よく手に入れるかという方法論に応用されてきた.古典的には,多能性幹細胞から心筋細胞を得るにはhanging drop法と呼ばれる,胚葉体を形成して,その後に自然発生的に分化してくる心筋細胞を収集する(当然それ以外の細胞が多く混在する)という方法が用いられてきた.しかしこの方法は培養条件,特に培地に添加する血清(通常はウシ胎仔血清が用いられる)のバッチによって分化効率が大きく左右されることが多く,また動物血清を用いることから臨床に使用する細胞としては不適格であった.そこで,特に2000年代に入ってからの多くの研究により,多能性幹細胞から心筋細胞を誘導するのに重要な役割を果たしている多くの転写因子や成長因子が明らかになり,それらの成長因子製剤を適切な時期に適切な量,添加することによって安定的に心筋細胞を効率よく分化誘導することが可能になってきた.例えば,多能性幹細胞から側板中胚葉を誘導する因子としてBMPとActivin/Nodalシグナルが重要であることが明らかとなり,それらの至適濃度の組み合わせを検討することによって,心臓前駆細胞をより効率よく分化誘導する方法が報告された24).さらに心筋前駆細胞のexpansionと心筋細胞のidentityの獲得にはcanonical Wntシグナルの阻害が重要であることが明らかにされ,適切な時期にcanonical Wntシグナル阻害剤を添加することでより効率よく心筋細胞が得られるようになった25).現在の主な心筋細胞分化誘導プロトコルはこれらの知見を生かして開発されている.また,生物由来製剤を用いずに効率よく心筋細胞を分化誘導する方法論についても進歩が見られる26).さらには,心筋細胞とそれ以外の細胞の代謝活性に違いに注目するなど,でき上がった心筋細胞を純化する様々な方法の開発により,現在ではより高純度で,より大量に心筋細胞を分化誘導することが可能となった27).このようにして得られた心筋細胞は,例えば心筋細胞シートのように再生医療材料として用いることが可能になる28).しかし,多能性幹細胞から分化誘導した心筋細胞を用いた心筋再生治療にはいくつかの乗り越えなければならない大きな問題が依然として存在する.例えば,混在する未分化な(=腫瘍形成の可能性のある)細胞を完全に排除するためには多くの注意と労力を払わなければならない.また,細胞移植治療においては,どのような細胞デリバリーの方法であっても(例えば,シートにして貼付する,冠動脈から注入する,あるいは直接心筋に注入するなど),ほとんどの細胞は短期間のうちに死滅し,生着率は非常に低いという点も問題である.これらに加えて,現在のところ分化誘導された心筋細胞は,成熟した心筋細胞ではなくいわば胎児心筋に近い心筋細胞であることも分かっている29).これらの問題を解決するためには,心筋細胞の初期分化だけではなく,生体内で起きている,胎児心筋から成熟心筋へのmaturationのステップについても理解しなければならない.

そもそもヒトを始めとする哺乳類において,心筋細胞は胎児期には分裂するが,出生後その分裂能力は急速に失われる.このことはよく知られているものの,なぜこのようなことが起きるのだろうか?心筋細胞内に起きる出生後の変化(成熟過程)として知られている現象は,いくつかある.まず核内の遺伝子量が倍増し多核の細胞が増えるということが知られている.2核や4核の細胞のこともあるし,核は1つであっても4倍体,8倍体のこともある30).このような細胞分裂を伴わない遺伝子複製は,マウスでは出生後4日目がピークとなり10日目までにほぼすべての心筋細胞が多核あるいは倍数体となる31).この変化は,おそらく出生後に心筋細胞が分裂能を失うことと相関しており(酵母など様々な細胞の実験で,多核あるいは倍数体の細胞は分裂しにくいことが知られている),また,この変化は心筋細胞の細胞容積が大きくなるために必要なことだと思われる.単純に考えて,より大きな細胞の維持には,より多くの遺伝子転写とタンパク翻訳が必要だからだと理解されているが,特に植物学の分野では昔から4倍体やそれ以上の倍数体の植物は2倍体に比べて細胞が大きくなる(すなわち大きな果実が収穫できる)ことが知られている.また,それ以外の心筋細胞の変化としては,胎児期には細胞の全周性に発現していたコネキシンやラミニンなど細胞間伝達や細胞接着に関わるタンパクの発現部位の局在が変化して,心筋細胞はrod状の形態をとるようになり,タテヨコの極性を持つようになる32).また,エネルギー代謝も変化して,解糖系メインからβ酸化がメインとなる33).一つの重要な研究として,最近,出生後の酸素濃度の上昇が活性酸素種(ROS)やそれによるDNAダメージを介して,心筋細胞の分裂停止に重要な役割を果たしていることが報告された34).このように,出生前後における心筋細胞の劇的な生理学的変化が,どのようなメカニズムで起きるのかということを明らかにすることは,今後の心臓再生医療への応用において非常に重要な知見となるであろう35)

おわりに

近年,特に循環器分野における再生医療への期待が非常に高まっているが,応用ばかりを考えていても大きなブレークスルーには繋がりにくい.基礎となる発生生物学,幹細胞生物学に力を入れることが,遠回りなようで,より多くの患者さんを救う治療法の開発になくてはならないことであると考える.臨床の視点を持っている小児循環器医,小児心臓外科医の先生方にも,積極的に基礎研究に取り組んで頂ければと感じている.

利益相反

本稿において開示すべき利益相反はありません.

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