日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(3): 186-187 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.186

Editorial CommentEditorial Comment

18q-症候群と心疾患Deletions of Chromosome 18q and Congenital Heart Disease

大阪市立総合医療センター小児医療センターDepartment of Pediatric Cardiology, Osaka City General Hospital ◇ Osaka, Japan

発行日:2019年9月1日Published: September 1, 2019
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18q欠失症候群(18q-症候群)は,18番染色体長腕の一部欠失を原因とする染色体異常症で,De Grouchyらの最初の報告1)以降,現在までに300例以上の報告がある.発生頻度は約40,000出生に1例と考えられている.

臨床像として頻度の高いものとして,低身長,小頭症,筋緊張低下,発達遅滞,特異的顔貌(顔面正中の低形成,奥まった目,carp-shaped mouth),大きな対耳輪や外耳道閉鎖・難聴,口唇口蓋裂,外性器異常,足変形,細長い指・母指付着異常,先天性心疾患などがあげられる2–5).発達遅滞の程度は様々(IQ 40–85)で,軽度の発達遅滞や学習障害のみとの報告がある一方,半数以上がIQ 30–50であるという報告もある4, 5).血中IgAの低値や先天性大脳白質形成不全(18q23にあるMelin basic protein(MBP)遺伝子の欠失)との関連も報告されている.このように多彩な異常を呈するものの,生命予後は比較的良好とされている.18q-症候群の表現型は多彩であり,欠失領域が大きいほど症状が強いとされ,表現型と欠失部位遺伝子との関連が明らかになりつつある2, 3, 6)

18q-症候群における先天性心疾患の合併頻度は,およそ24~36%とされる2, 6, 7).van Trierらによると,肺動脈弁異常が47%と最も多く,次いで心房中隔欠損が26%,また大動脈弁狭窄も16%に見られたと報告されている.その他心室中隔欠損,肥大型心筋症,肺静脈還流異常,Ebstein奇形などが報告されているが,心疾患の内訳は多岐にわたり,一定の傾向はないと述べている.また,心疾患を有する患者は18番染色体長腕の最末端部の欠失を共通の特徴としており,そのなかでもNFATC1遺伝子が肺動脈弁異常を含め心疾患の発症に関与している可能性を指摘している6).またVersacciらはファロー四徴を伴わない肺動脈弁欠損・肺動脈拡大に,大動脈弁狭窄や大動脈拡大を合併した3例を報告し,一部にはマルファン症候群に見られる心外症状を呈し,マルファン症候群に類似した結合組織の異常の可能性を指摘している7)

早津論文は,青年期に達するまで比較的安定していたが大動脈弁閉鎖不全の進行で心臓手術が施行された18q-症候群の1例を報告している8).このなかで筆者らは,18q-症候群の臨床像や,欠失の程度と重症度の関係などをまとめて紹介し,また手術適応や機械弁の選択について,家族と話し合いのなかで,様々な点を考慮し治療方針を決定した経緯を示している8).染色体異常その他の基礎疾患に合併した心疾患患者の診療を行う臨床医にとって,参考となる貴重な報告と考える.また大動脈弁や大動脈壁の組織所見で,ムコ多糖類の沈着とともに中膜の弾性線維の伸延化や途絶・消失が認められ,これらはMarfan症候群の大動脈壁の病理組織学的所見と類似するものとしている.Versacciらの報告も踏まえ,18q-症候群における結合組織の脆弱性の可能性を指摘しており興味深い.

染色体異常と先天性心疾患について

先天性心疾患の成因の全容は明らかではないが,(1)染色体異常(2)単一遺伝子疾患(3)外的・環境因子(4)多因子遺伝の4つに大別される9).染色体異常のうち,21トリソミーや22q11.2欠失症候群など患者数が多く,心疾患の発生頻度が高いものについては,心疾患への対応も確立されつつある10).一方,予後不良な疾患とされる18トリソミーなども,従来は心疾患に対する積極的な介入は行われてこなかったが,近年は画一的な対応ではなく,個々の症例に応じた対応が求められつつある10–13).このような状況下で,染色体異常のうち患者数が少ないものや心疾患を含め予後が明らかでないものについては,臨床現場でその対応に苦慮することも多い.治療方針については,主治医の考えや各施設の方針に委ねられている部分が大きいが,早津論文のように,画一的な対応ではなく,家族とも相談の上,個々の症例に応じた細やかな対応を行うことが極めて重要である.また正しい診断や管理のためには心疾患の症状にとどまらず,心臓以外の多彩な表現型に気を配ることが役立つ場合がある9).一方,染色体検査についても,一般的なG分染法やFISH法のみならず,アレイCGH法などの新しい遺伝学的手法を取り入れることで,今後心疾患発生のkeyとなる遺伝子の解明に繋がる可能性がある.

染色体異常に合併した心疾患患者については,早津論文のように,各症例を1例ずつ詳細に検討・記録し,それらの情報を地道に蓄積してゆく姿勢が我々小児循環器医に求められている.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 早津幸弘,ほか:18q-症候群に対する大動脈弁置換術の一例.日小児循環器会誌2019; 35: 179–185

引用文献References

1) De Grouchy J, Royer P, Salmon C, et al: Partial deletion of the long arms of the chromosome 18. Pathol Biol (Paris) 1964; 12: 579–582

2) Cody JD, Ghidoni PD, DuPont BR, et al: Congenital anomalies and anthropometry of 42 individuals with deletions of chromosome 18q. Am J Med Genet 1999; 85: 455–462

3) Cody JD, Sebold C, Heard P, et al: Consequences of chromsome 18q deletions. Am J Med Genet C Semin Med Genet 2015; 169: 265–280

4) Jones KL: Smith’s Recognizable Patterns of Human Malformation, 7th ed. Elsevier-Saunders, 2013, pp 64–65

5) Rimoin DL, Pyeritz RE, Korf BR: Emery and Rimoin’s Principles and Practice of Medical Genetics, 6th ed. Academic Press, 2013, pp 1058–1082

6) van Trier DC, Feenstra I, Bot P, et al: Cardiac anomalies in individuals with the 18q deletion syndrome: Report of a child with Ebstein anomaly and review of the literature. Eur J Med Genet 2013; 56: 426–431

7) Versacci P, Digilio MC, Sauer U, Dallapiccola B, et al: Absent pulmonary valve with intact ventricular septum and patent ductus arteriosus: A specific cardiac phenotype associated with deletion 18q syndrome. Am J Med Genet 2005; 138A: 185–186

8) 早津幸弘,安達 理,長沼政亮,ほか:18q-症候群に対する大動脈弁置換術の一例.日小児循環器会誌2019; 35: 179–185

9) 山岸敬幸:生涯先天性心疾患—先天性心疾患の成因・発生から成人期,そして次世代への影響—.日小児循環器会誌2010; 26: 29–32

10) 城尾邦隆:症候群と先天性心疾患—染色体異常から単一遺伝子病へ—.日小児循環器会誌2010; 26: 4–18

11) Graham EM, Bradley SM, Shirali GS, et al: Effectiveness of cardiac surgery in trisomies 13 and 18 (from the Pediatric Cardiac Care Consortium). Am J Cardiol 2004; 93: 801–803

12) Yamagishi H: Cardiovascular surgery for congenital heart disease associated with trisomy 18. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2010; 58: 217–219

13) 江原英治,村上洋介,中村香絵,ほか:先天性心疾患に対して手術介入を行った18トリソミーの検討.日小児循環器会誌2015; 31: 254–264

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