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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(3): 153-163 (2019)
doi:10.9794/jspccs.35.153

ReviewReview

心疾患患児の急性期循環管理Intensive Care for Patients with Congenital Heart Diseases

静岡県立こども病院循環器集中治療科Department of Cardiac Intensive Care, Shizuoka Children’s Hospital ◇ Shizuoka, Japan

発行日:2019年9月1日Published: September 1, 2019
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急性期循環管理の基本は酸素消費に見合った酸素供給を行うことである.なかでも先天性心疾患は呼吸と循環が密接に結びついており,呼吸循環の相互作用と生理学の理解が必要不可欠である.また同じ病名であっても患者ごとに血行動態に差異があり,各個人に合わせた循環管理を行う必要がある.しかし酸素消費と供給のバランスを整えるという原則は同じであり,体温管理・鎮静鎮痛・人工呼吸などで酸素消費を,血管作動薬,肺体血流比制御,ペーシングなどで酸素供給をコントロールする.これらの評価・介入は手術前後であっても基本は同一である.また重症児の治療においては神経・感染・栄養などの全身管理も非常に重要であり,患者管理を担当する者はこれらにも精通していなければならない.「循環器集中治療」は小児循環器のなかの「急性期管理の専門分野」として認識すべきsubspecialtyである.

There is a close relationship between the pulmonary and systemic circulations (i.e., cardiopulmonary interaction) in patients with congenital heart diseases. Consequently, a deep understanding of respiratory and cardiac physiology is mandatory. Every patient has different hemodynamics even if they have the same diagnosis, thereby necessitating individualized therapy. Cardiac intensive care is the subspecialty of pediatric cardiology in which acutely ill patients receive care. A requirement of such intensive care is to maintain the balance between oxygen demand and oxygen consumption: to control demand, you can adjust body temperature and use sedatives, muscle relaxants, and artificial ventilation and to control oxygen supply, you can adjust inotropes, vasodilators, and ratio of pulmonary to systemic blood flow. These cardiorespiratory principles are essentially the same before and after corrective surgery. Additionally, neurological, infectious, and nutritional issues are relevant; therefore, cardiac intensivists must be familiar with both cardiac and non-cardiac issues.

Key words: pediatric cardiac intensive care; cardiac intensivist; perioperative management; cardiopulmonary interaction; non-cardiac issue

はじめに

小児心疾患は疾患のバリエーションが多岐にわたり,同一疾患名であっても患者ごとの血行動態に大きな差異がある.そのため一口に循環管理といっても疾患ごとのルーチン対応では不十分であり,症例ごとに個別の対応が求められる1).また成人に比べて極めて密接に循環と呼吸が関係しており,特に急性期管理においては呼吸循環生理の理解が必須である.実際のICU管理では,他にも水分電解質,感染,鎮静,栄養などの様々な項目を考慮する必要があるが,本稿では若手の小児循環器科医向けに,急性期循環管理&呼吸管理に絞って病態生理を中心に概説する.

I. 総論:LOSを中心に

細胞が活動を維持していくために必須となるのがATPであり,その源がglucoseと酸素である.十分な循環の元ではTCAサイクルを用いた好気性代謝が行われ,glucose 1分子あたり32分子のATPを生産している.酸素供給が酸素消費を下回るとこの好気性代謝が回らなくなり,嫌気性代謝を生じるようになり(これがLOS, Low cardiac Output Syndromeの本質である)最終的にはアシドーシスから死に至る2).心疾患患児においてもこの原則は同じであり,急性期の循環が十分かどうかという話は,酸素消費に酸素供給が追いついているかどうかと換言できる.以下,この観点から循環管理を見てみたい.

1. 酸素供給の観点から

酸素供給量(ḊO2)は血液中の酸素含有量(CaO2)と心拍出量(CO)の積,すなわちḊO2=CaO2×COとなる.このḊO2を増やそうとした場合,心拍出量を上げるか酸素含有量を上げるかの二通りのアプローチがある.

1)心拍出量

まず心拍出量について考えてみる.心拍出量(CO)は1回拍出量(SV)と心拍数(HR)の積であるので,CO=SV×HRとなる.

①1回拍出量

このうちSVは拡張末期容量(EDV)と収縮末期容量(ESV)の差でありSV=EDV−ESVと表される.十分なSVを得るためには適切なEDVがあることと,ESVが十分に小さいことが必要となることがわかる.EDVは血管内水分量と心室の拡張能により規定され,ESVは収縮能と後負荷により規定される.この両者の関係と心室の収縮能・拡張能を簡潔に表すのがPVループである3).具体的な応用は各論で述べるが,常にPVループをイメージしておくと術前後の血行動態の変化,およびどこに対して介入が必要なのかを理解しやすい.

②並列循環(parallel circulation)

二心室型循環であれば心拍出量=体循環に送り出される血液量であるが,Norwood+BTS後や肺動脈閉鎖+BTS後などのいわゆる並列循環(parallel circulation)の場合は考慮すべき項目が増える.

Fig. 1のような単心室シャント術後のモデルを考えてみたい.肺血流をQp,体血流をQsとすると心拍出量(CO)はQp+Qsとなる.肺体血流比(Qp/Qs)を1 : 1とすると,体循環Qsに1の血液を送る場合,心室は2の血液を駆出しなければならず,非常に効率の悪い循環であることがわかる.反対に心拍出量は一定であっても肺体血流比を変えれば,体循環に送り出される血液量を変化させることができる.心拍出量が2のままであっても肺体血流比が1 : 1なら体循環には1送られるだけだが,1 : 2であれば1.33の血液が体循環に回ることになる.しかし肺血流は少なくなるためトレードオフとして酸素飽和度は低くなる.このように並列循環の管理においては,肺血流と体血流のバランスを取り適度な酸素化を保ちつつ体循環を維持することが大原則となる.

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Fig. 1 Blood and oxygen transportation in a single ventricle

See text for details. CO: cardiac output, Qp: pulmonary blood flow, Qs: systemic blood flow, CaO2: oxygen contents in arterial blood. CpvO2: oxygen contents in pulmonary venous blood, CsvO2: oxygen contents in systemic venous blood, CV̇O2: oxygen consumption, SV̇O2: oxygen uptake.

もう少し詳しく,この単心室シャント術後モデルに酸素の動きを追加してみる(イタリック体).酸素供給量(ḊO2)は動脈血酸素含有量(CaO2)×体血流量(Qs)であり,体全体での酸素消費(CV̇O2)を引いた残りが体静脈から帰ってくる酸素含有量となるので CaO 2 ×Qs C V ˙ O 2 = CsvO 2 ×Qs また肺に送られる酸素はCaO2×肺血流量(Qp)であり肺により酸素が血液に取り込まれた(SV̇O2)結果帰ってくるのがCpvO2·Qpなので CaO 2 ×Qp+ S V ˙ O 2 = CpvO 2 ×Qp となる.

これらをまとめるとḊO2 D ˙ O 2 = CaO 2 Qs= 1 1+ Qp / Qs CO CpvO 2 1 Qp / Qs C V ˙ O 2 と表され,酸素消費量,肺静脈血酸素飽和度が一定とすると,ḊO2はQp/Qs,心拍出量の二つの変数によって規定されることがわかる.Barneaらはこのモデルを使って単心室循環のḊO2をコンピューターシミュレーションを用いて計算し,最大ḊO2を得るQp/Qsは肺動脈血酸素飽和度や心拍出量によって様々に変化することを示した4).ベッドサイドで用いる計算式としては複雑すぎるが,考え方は有用であり応用範囲が広い.実際のケースでの応用例を示す.

【症例 日齢4, HLHS(MA/AA)Norwood+BTS術後】

手術当日夜,HR180台,BP=58/28, CVP=13 mmHg,高乳酸血症となり末梢循環不良.SpO2=75%であった.

まず動脈血酸素飽和度(SaO2)と混合静脈血酸素飽和度(SMVO2)を測定する.混合静脈血はSVCカテーテルからサンプリングを行いその値を代用する(SSVCO2≒SMVO2).この血行動態では右心室内で体静脈・肺静脈が完全に混ざり合うため,肺静脈血酸素飽和度をSPVO2,肺動脈血酸素飽和度をSPAO2とおくと肺体血流比(Qp/Qs)は Qp/Qs=(SaO2−SSVCO2)/(SPVO2−SPAO2)となる.

ここで二つの状況を考えてみる.

  1. シナリオ① SaO2=75%,SSVCO2=30%であった場合.
    • SPVO2=98%とするとSPAO2=SaO2=75%なので,Qp/Qs=(75%−30%)/(98%−75%)≒2.0となる.この場合はQp/Qs=2の高肺血流状態と推測できるため,肺血管抵抗を上げ体血管抵抗を下げて肺体血流比を小さくすることで体血流の増加が期待できる.
  2. シナリオ② SaO2=75%,SSVCO2=47%であった場合.
    • 同様にSPVO2=98%とすると,Qp/Qs=(75%−47%)/(98%−75%)≒1.2と計算できる.この場合は高肺血流でないにもかかわらず循環不全が生じており,心拍出量が少ないことによるLOSであることが推察でき,ベッドサイドでは心拍出量そのものを増やす対応(強心剤↑や補液↑など)が必要となる.

このように並列循環の急性期管理ではSpO2や表面上のバイタルサインが同じであっても,内面でどういった血行動態の変化が生じているのか,多くのパラメーターを考えねばならないことがわかる.

実際にベッドサイドでQp/Qsを変化させるためには肺血管抵抗,体血管抵抗をコントロールすることになる.肺血管抵抗を上昇させる手段として,高二酸化炭素血症,アシドーシス,吸入FiO2を低下させる(窒素付加による低酸素療法),胸腔内圧(平均気道内圧)を上昇させる,などがある.これに対して体血管抵抗を下げる手段として,PDE3阻害剤,ニトロ製剤,α阻害剤,末梢温の上昇,などが挙げられる5)

しかしこれらの薬剤・手法も体血管,肺血管どちらか片方にのみ作用することは稀で,実際には両方に作用することがほとんどである.例えば呼吸循環相互関係ではPaCO2が肺血管抵抗に与える影響が注目されがちだが,実際にはPaCO2の体血管抵抗に与える影響も非常に大きい.Liらの報告によると,Norwood術後の患児らでPaCO2を段階的に上昇させたところ,体血管抵抗が下がり体血流と酸素運搬能は増加したが,肺血管抵抗および肺血流そのものに有意な変化はなかった.同時にNIRS(Near InfraRed Spectroscopy)で測定したところ脳血流は増加していたが腸管血流は低下していた.これらの結果をもとにPaCO2上昇による体血流の増加は肺血管抵抗の増加によるものではなく,体血管抵抗,特に脳血管抵抗の低下によりもたらされていると結論づけている6).ベッドサイドでも調節換気下でPaCO2を貯留させると血圧が下がり末梢循環が改善することをしばしば経験するが,その理論的な裏付けといえよう.

また心室中隔欠損症などのシャント型疾患では薬剤に対するQp/Qsの変化はある程度報告されているが,並列循環ではほとんど報告がない.ブタでの実験ではあるが,Riordanらは肺動脈閉鎖+BT(Blalock–Taussig)シャント術後の状態を作り,dopamine, dobutamine, epinephrineを投与しQp/QsおよびḊO2の変化を調べた.その結果,二心室循環では体血管抵抗を下げるはずのdobutamineが,この単心室モデルではQp/Qsを増加させḊO2が減少したことを報告している7)

一般的に言われている反応性は原則として捉える程度にとどめ,実際には治療介入に対する患児の反応をその都度見ていく必要があるだろう.また重症患者ではSPVO2を90%台と仮定できないような肺実質に問題がある場面(無気肺はもちろん,TAPVC+PVO合併例やHLHS+rFOなど)にもしばしば遭遇する.SPVO2の変化もQp/QsとḊO2の関係に大きく影響を及ぼし,SaO2が低くても高肺血流といったことが十分にありうるため注意が必要である.

③Rhythm

心拍出量のもう一つの規定因子である心拍数についても考えてみる.小児,特に新生児や乳児では,成人に比較して心拍出量が心拍数に大きく依存する.そのため徐脈が循環に与える影響が非常に大きいが,元々の心拍数が早いため心拍数を上げる余地があまりなく予備能が小さい.さらに疾患によっては固有の血行動態のため心拍数によって1回拍出量が大きく変動する.そのためトータルでの心拍出量がどう変化しているか,を常に考慮する必要がある.例えばTAPVC術後などの左室拡張末期容量(LVEDV)が小さい心臓であれば,必要な心拍出量をかせぐために頻脈が必要となることが多く,Fontan術後など心室拡張時間が必要な血行動態では,頻脈にすると逆にSVが低下しトータルでの心拍出量が低下するといったことが起こる.また僧帽弁狭窄では心拍数を増加させると狭窄が増悪し,左房圧上昇から肺静脈うっ血が顕在化することもあり,この観点からの考慮も必要である.さらに心筋には一定の心拍数で収縮力がピークに達するという前負荷,後負荷に依存しない特性(force-frequency relationship)があり,心筋の状態や疾患により反応性が異なるため,心拍出量が最大になる至適心拍数を決める時にはこれらの特性を考慮すべきである.

心拍数だけでなく心房心室収縮のタイミングも重要である.心房収縮は心拍出量に大きく影響し,術後急性期にはA-V intervalを少し変えるだけでCVPや血圧が大きく変動することが多い.またATやJETなどの頻脈性不整脈もよく起こるが8),胸部誘導では診断が困難なことがある.そのような場合には心房リードを直接心電図計に接続すると,心房電位がはっきり描出され診断が容易になる9)Fig. 2は胸部誘導心電図ではっきりしなかったJETが心房リード心電図により,心房電位が明確になりJETと診断できた例である.

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Fig. 2 Electrocardiogram in patient with junctional ectopic tachycardia

Lead V2 and V3 are connected to atrial wires. Atrial activity (▲) is clearly seen in V2 and V3, but that is not obvious in regular pericardial lead V1 and V4 (top and bottom). Notice ventricular activity (▽) is faster than atrial activity.

心室の収縮パターンも極めて大切である.心停止を要した手術や刺激伝導系の近くを操作する手術の後は,一時的に脚ブロックを生じ心室収縮のパターンが変化して同期性が悪化することがある.特に心室間交通が残存しているような場合,互いにdamping chamberとなるため心拍出量に対する効率が極めて悪くなる.このような場合には,積極的に心室ペーシングを行って効率の良い収縮パターンを探る.ベッドサイドではペースメーカーの設定を変化させて血圧,中心静脈圧,心エコーなどを見ながら最も心拍出量がありそうなポイントを見極めることになる.

2)酸素含有量

酸素供給量は酸素含有量と心拍出量の積であった.ここまでは心拍出量を中心に考えてきたが,酸素供給量を決定するもう一つの項目,酸素含有量(CaO2)についても考えてみる.

酸素は主に血液中のヘモグロビンに付着して運搬されるが一部は血液中に溶解もする.一般に血液1 dL中に含まれる酸素含有量(CaO2)はCaO2=1.36×Hb(g/dL)×酸素飽和度(%)+0.0031×酸素分圧(mmHg)という式で表される.

CaO2を上げるためには酸素飽和度,Hb濃度,酸素分圧のいずれかを上昇させればよいわけだが,このなかでも特に影響の大きいHb濃度について考えてみる.今,心拍出量3.0 L/min/m2,Hb10 g/dLの二心室循環の患児がいるとする.話を簡単にするため血液に溶解する酸素量は無視する.肺の酸素化が正常でSpvO2=SaO2=98%とするとCaO2は1.36×10×0.98=13.33 mLとなり,ḊO2=CO×CaO2=3×1.36×10×0.98≒40 mLとなる.ここで輸血を行いHbを15 g/dLまで上げると,ḊO2は3×1.36×15×0.98≒60 mLとなり単純に1.5倍となる.このように二心室循環であれば単純にḊO2はHb濃度に比例して増加する.

今度は単心室疾患のシャント術後患児を考えてみたい.上の例と同様に溶存酸素は無視しSpvO2は98%,単純化のためQp/Qsは1,輸血によりこの比率,酸素消費量,心拍出量は変化しないものと仮定する.まずAoの酸素飽和度をxとおくとこれは肺静脈と混合静脈血が1 : 1で合わさったものなので,混合静脈血の酸素飽和度をSvO2とすると,x=(98+SvO2)/2となる.

SvO2はAoの酸素含有量から末梢での酸素消費量を引いたものに比例し,一般的な条件下ではおよそSaO2−SvO2=25となる.すると先ほどの動脈血酸素飽和度xは X= S pv O 2 +( X25 ) 2 と表される.これを解くとX(SaO2)=73となり,安定した状態のシャント循環のSaO2は73であることがわかる.

SaO2とSvO2の差はHbの増加に反比例して低下する,つまり SaO 2 SvO 2 X= VO 2 COHb という関係になるため,輸血をしてHbを1.5倍に上げると,SaO2−SvO2は1.5分の1倍,25×1/1.5=17となる.

先ほどの動脈血酸素飽和度の式は X= S pv O 2 +( X17 ) 2 と変化し,これを解くとX(SaO2)=81となる.(肺体血流比が変わらなくても輸血のみでSaO2が上昇していることに注意)Qsは一定でSaO2が73から81へと1.1倍,Hbが1.5倍なのでḊO2としては1.1×1.5=1.67倍となる.実際にはSaO2が上昇する分SvO2がさらに上昇するため,ḊO2はこの計算結果以上に上昇する.

このように単心室型疾患群ではCaO2の増加がSaO2を上昇させるため,輸血がḊO2の上昇に与える影響は二心室疾患以上に大きくなる.同様にSaO2が低値の時,心拍出量を増加させるだけでSaO2は上昇する.実際,単心室循環において輸血によってSaO2,NIRS,拡張期圧が有意に上昇することが報告されている10)

Hbが高いほうが同じḊO2を得るための心拍出量は少なくて済む,という考え方のもと,小児の心臓手術後,特に単心室系疾患では伝統的に高いHbレベルを保つ管理が多くの施設で行われてきた11).しかしHbがいくつ以下であれば輸血すべきという明確な指標は存在せず,常に議論の対象となってきたが,近年輸血を制限しても予後に影響を与えないとする報告が散見されるようになってきた.Willemsらは非チアノーゼ性心疾患を,輸血を厳密に制限した群と許容した群に分け,両群間でICU滞在期間や28日死亡率に有意差がなかったことを示した12).また単心室循環を含む乳児においても同様のstudyがなされ,輸血を制限した群もしなかった群も死亡率やICU滞在期間に有意差がなかったことが報告されている13).無輸血手術と同様,患児の安全性をどこまで担保するか,という考え方の問題でもあり,各施設や医師により相違があって当然である.ただ世界的に輸血を必要最小限にする方向に動いていることは確かであり,この群においても今後さらなる調査・検証が必要だろう.

2. 酸素消費の観点から

ここまで酸素供給側から見てきたが,酸素供給と酸素消費のアンバランスという点から考えると,酸素消費を減らすというアプローチも大切である.

1)体温・鎮静・疼痛管理

体温が1度上昇すると酸素消費量は約13%増加することが知られており14),先天性心疾患患児の酸素消費量も術後早期に体温とともに上昇することが示されている15).不用意な体温上昇を避け,酸素消費量を抑制するために中枢温を積極的に下げることは有効なLOSの治療手段となる16)

また患児の疼痛を可能な限り少なくすることは人道的に当然であるが,痛みによる不必要な興奮も酸素消費を上昇させるため,酸素消費量をコントロールするという観点からも疼痛管理は必須である.

骨格筋の筋緊張維持や呼吸運動のためにも酸素は消費されており,筋弛緩薬の投与や人工呼吸管理(後述)によりこれらの酸素消費も減らすことができる.人工呼吸器とのファイティングも当然酸素消費量を上昇させるため,適切な鎮静が必要である.このように心拍出量が少ない状況下では深鎮静や筋弛緩もLOSの治療として有効である.

2)人工呼吸管理

左心不全ではLVEDPおよびLAP上昇による肺うっ血のため肺コンプライアンスが低下し,さらに胸郭浮腫や胸水が重なると胸壁コンプライアンスも低下する.また気道浮腫が増悪すれば気道抵抗も上昇する.患児はこれらに打ち勝って換気を行わなければならないため,心不全患者では基本的に呼吸仕事量(WOB)は上昇する.人工呼吸管理はこの呼吸仕事量を減らすため,LOSの状態では大きな効果を示す.また左室心筋のwall stress=後負荷は左室内圧(=体血圧)と左室外圧(=胸腔内圧)の差に比例するため,左心系では胸腔内圧が上昇すれば後負荷軽減となる.つまり陽圧呼吸は心室補助の一役となる.これに対して右心系では心室も肺循環も同一の胸腔内に存在するため,胸腔内圧上昇はそのまま右室後負荷増加となり,また体静脈還流も阻害するため陽圧呼吸により右室の心拍出量は低下する17)

特に右心バイパス系では,肺動脈血流および肺静脈血流が体静脈圧に依存し,心室へ前負荷がかかりにくい状態となっており,胸腔内圧上昇が心拍出量に大きく悪影響を及ぼす18).そのため周術期には可能な限り肺血管抵抗を下げる管理,つまり自発呼吸を出す&早期抜管が大原則となる19).人工呼吸管理を継続せざるをえない状況であってもPEEPや平均気道内圧を低めに保つのが基本だが,過度に気道内圧を低くして無気肺を生じても低酸素性血管攣縮が生じ肺血管抵抗は上昇する.逆に過膨張となると有効肺血管床が減少するため肺血管抵抗を上昇させる.肺血管抵抗は肺容量がFRC(機能的残気量)に等しい時に最も低くなることが知られており,適切なPEEPをかけて肺容量を保つことが重要である20)

II. 各論:主要心疾患/手術の循環動態と周術期管理のポイント

ここまでLOSを中心に総論を述べてきたが,各疾患ごとの理解も当然必要である.なかでも特に肺循環や水分管理に注意が必要な疾患群の周術期管理について,生理学的な観点から簡単にレビューする.

1. 心室中隔欠損症(VSD)

欠損孔を通して左室→右室への心室内シャントが生じるため,右室と肺動脈が高圧となり肺血流が増加する.肺静脈還流も増加するため,左房容量負荷&圧上昇,左室容量負荷↑となり肺うっ血が生じる.また肺動脈が高肺血流および高圧にさらされるため,時間経過とともに肺血管床が障害され,肺血管抵抗が上昇する.肺血流増加に伴う肺動脈拡大により,気道圧迫症状や気管・気管支軟化を生じることもある.根治術後はシャントがなくなるため,肺血流も体血流も正常化するが,術前の肺血管床障害の程度によっては術後肺高血圧が持続する場合がある.

周術期には人工心肺の影響で血管内皮細胞が障害されており21),吸引や覚醒などの刺激で肺血管抵抗が上昇しやすい.近年では少なくなったものの,未熟児や21トリソミーの患児などでは術前の肺血管抵抗が高く反応性が大きいケースも多く,急激な肺動脈圧上昇→右心室の拍出量低下→左心室の拍出量低下となる「PHクライシス」を生じることがある.文字通り生命の危機的状況であり,迅速な対応が必要である.具体的には肺血管抵抗を下げる治療(100%酸素による過換気,NO投与,重炭酸投与によるpH上昇,深鎮静など)と右心室を補助する治療(輸液,強心剤投与)を同時進行で行い,後負荷の増大に右室が適応できるようにして心拍出量を保つ.

2. PAB(Pulmonary artery banding)術後

大きな心室中隔欠損症や肺血流制限のない単心室など,根治が困難だが放置すれば高肺血流&肺高血圧が進行する疾患に対して,肺血流を制限して肺血管床を守り,体循環を保つために行われる.比較的低侵襲と見なされがちだが,右室にとってはもちろん左室にとっても急激に後負荷が増加する負担の大きな手術である.

術前は高肺血流であり肺静脈還流が多いため,左心室の容量負荷は非常に大きく拡張末期圧も高い.また大動脈と肺動脈の二系統の出口があるため,後負荷が小さくSVが大きい,Fig. 3A: loop1のようなPVループとなる.PAB術後は肺血流が制限され肺静脈還流が減るため心室容量負荷は軽減される(EDV1→EDV2).それに伴い拡張末期圧も低下する(EDP1→EDP2)が,後負荷は大きく上昇し(Ea1→Ea2),loop2のようなPVループとなる.主に新生児期に行われる手術だが新生児心筋は後負荷増加に弱いこともあり,肺血流制限による心室効率の改善以上にSV減少によるLOSを来すことが多い(SV1→SV2).

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Fig. 3 Change of hemodynamics in PAB

A: Pressure-Volume loop pre and post PAB. After PAB, PV-loop changed from loop1 to loop2. Volume overload to the ventricle decreased from EDV1 to EDV2. Notice arterial elastance increased (Ea1→Ea2) and stroke volume decreased (SV1→SV2). B: Pressure-Volume loop post-PAB and therapeutic intervention. Vasodilator decreased arterial elastance (Ea2→Ea3) as well as blood pressure (SBP1→SBP2), but increase cardiac output by argumentation of stroke volume (SV2→SV3). Ea: arterial elastance, EDP: end-diastolic pressure, EDV: end-diastolic volume, SBP: systemic blood pressure, SV: stroke volume

ここで血圧が許容する範囲で(Fig. 3B: SBP1→SBP2)血管拡張剤を積極的に用いて後負荷(体血管抵抗)を下げると(Ea2→Ea3),SVは大きく改善する(SV2→SV3).

また心室の容量負荷が急激に低下するため,収縮末期容量も小さくなり(ESV3)周術期に弁下狭窄が顕在化することがある.特に単心室疾患でのPABでは,心室内腔の狭小化に伴う流出路狭窄が進行することがあり注意を要する22).dynamicな狭窄が認められたら積極的に強心剤は減量・中止し,場合によってはβブロッカーを用いて過収縮を抑え,流出路を確保する.房室弁逆流を伴った児では容量負荷減少による弁逆流軽減と後負荷増加による弁逆流増加,どちらも生じうるのでこれらも術後早期の評価が必要である.

3. ファロー四徴症(TOF)

肺血流減少型疾患の代表であり,右室流出路狭窄により肺血流が減少して肺静脈還流も減少,左房左室への前負荷が減るため左心系は基本的に小さめとなる.体重が小さく根治手術が困難な場合,左心室の大きさに懸念があったり肺動脈の発達が悪い場合にはBTシャント手術を行う.

二心室根治手術を行った場合,左室が小さめの症例では術後に左室拡張末期圧(LVEDP)が上昇しやすく,肺うっ血を生じたり1回拍出量低下によるLOSを来しやすい.右室も術前から肥厚しておりコンプライアンスが悪く,特に乳児期早期の症例では拡張末期容量を保つために高めのCVPを要することが多い.さらに重症になるとrestrictive physiologyと言われる,右室が導管としてしか機能しないFontan循環類似の血行動態を呈することがある23).右室拡張障害&左室容量が小さいことによる相乗効果で基本的に1回拍出量は少なく,術後は高いHRを要することが多い.また両心室とも容量負荷に対する圧変化が大きいため,VSDリークなどの残存病変が血行動態に与える影響が大きい.心拍出量が増加すると体静脈還流が増加し,右室前負荷増加および右室拡張末期圧上昇により右心不全症状を増悪させるため,意図的に強心剤や血管拡張剤の使用を制限し心拍出量を抑える管理が必要となることもある.房室ブロックやJET(junctional ectopic tachycardia)などの不整脈の出現頻度も高い.

4. Blalock–Taussigシャント術後

上記のファロー四徴症や肺動脈閉鎖などに対して肺血流を増加・確保するために行われる.左心室のサイズに懸念がある時や肺動脈の発達が悪い時などに,肺血流を増加させて肺動脈および左室の成長を促す(肺静脈還流を増加させる)ために行う.ファロー等で筋性狭窄が主体の肺血流減少型疾患群では,シャントにより心室容量が増加し流出路狭窄の程度が軽くなることも多く,当初の想定以上に肺血流が増加することがある.また順行性血流とシャント血流が拮抗し血栓形成の素因となるため,十分な抗凝固療法が必要である.

肺動脈閉鎖や大動脈閉鎖に対するシャント後は総論で述べた並列循環と言われる効率の悪い血行動態となる.心拍出量は一定であっても肺体血流比が変われば体循環の血液量が変化するため,体血管抵抗と肺血管抵抗のコントロールが非常に大切となる.人工心肺離脱直後に安定したバランスであっても,ICU帰室後は肺血管抵抗が時間単位で大きく変化するため,肺血流過多・過少のどちらにも傾きうる.SaO2高値は肺血流過多・体血流過少を表すため要注意だが,混合静脈血や肺静脈血の酸素飽和度が低値の場合にはSaO2が低くても実際には肺血流過多ということもあり,多くの項目を考慮しつつ総合的に判断する必要がある.

5. Glenn, Fontan術後

1)Glenn術後

基本的に並列循環である術前と比較して,心室容量負荷が大きく軽減される.容量負荷減少のために心室内腔,BVFが狭小化して流出路狭窄が顕在化することがしばしば報告されている.あらかじめDKSが行われている症例はよいが,術前に問題ないと判断されている症例でも,術直後に流出路狭窄が急激に進行することがあり24),容量負荷軽減の影響は常に念頭におく必要がある.また右心バイパス術前には高頻度で体肺側副血行路が存在する25).術前に心臓カテーテル検査による評価および側副血行路に対するコイル塞栓が行われていることが多いが26),想定以上に体肺側副血行路による容量負荷が残り,術後心機能に影響を及ぼす場合がある.

これらの問題がなければ,術前後で循環効率がよくなるため基本的にLOSで困ることは少ない.また血圧も高めであり周術期に降圧剤を必要とすることが多い27).この術後高血圧の原因は明らかになっていないが,循環効率の上昇やSVC圧上昇の影響と思われる脳幹部でのvasopressinやコルチゾルなどの内分泌系の異常28)の関与が言われている.脳灌流圧を保つためにSVC圧上昇に対して代償的に体血圧を上昇させている可能性もあるが,術後の高血圧をnitroprussideで降下させても脳血流や酸素化は悪化しないことが明らかになっており29),必要に応じた血圧コントロールはためらわずに行うべきであろう.

時に術後低酸素血症で難渋することがあるが,その場合はチェックすべき項目が非常に多い.胸部レントゲンで無気肺などの大きな問題がないことを確認し,続いてSVC-IVCの圧格差を評価する.その圧差(≒肺循環系の抵抗)が大きければエコーでGlenn経路(SVCからPA吻合部,PVまで)に物理的な狭窄がないかどうかを確認する.解剖学的に懸念があれば造影CTを速やかに施行する.SVCの血流パターンも大切で,条件の悪いGlennでは陽圧換気時にSVCに逆行を認めることがしばしばある.この場合は末梢側でV-V側副血行路が発達していることが予想され,さらにコントラストエコーやカテーテルによる評価,コイル塞栓が必要になる.解剖学的な狭窄が除外されて肺血管抵抗の問題ということがはっきりすればNO吸入はよい適応である30).右心バイパス系に対するNO吸入には懐疑的な説もあるが31),このような肺血管抵抗が高い症例ではよく反応することが多い32)

早期抜管が原則だが33),循環不全や換気能力不足のため人工呼吸管理の継続が避けられない場合もある.総論で触れたように圧設定に関しては低めに保ちたいが,無気肺や肺の過膨張は逆に肺血管抵抗を上昇させるため,このバランスを考慮した呼吸管理が求められる.また換気量に関しては,CO2に対する反応が異なる脳循環と肺循環が直列となるため,肺血流を増加させるには過換気で管理するほうがよいのか,低換気で管理すべきなのかが議論となっていた.この疑問に対してBradleyらは過換気にすると体循環の酸素化が悪化し,逆に低換気にすると改善することを示した34,35).またHoskoteらもCO2を意図的に高めに保ち脳血管抵抗を下げることで酸素化が改善することを報告している36).人工呼吸管理を続けざるを得ず酸素化に難渋するような症例では,CO2を高めに保つ管理も試してみる価値があるだろう.APRV(Airway pressure release ventilation,自発呼吸を出しつつ高いPEEPをかける人工換気モード)も患者の自発呼吸を残すため右心バイパス術後に有利に働くと考えられ37),V-Vシャントが発達した症例に対する応用例も報告されている38)

SVC-IVCの圧差(≒肺循環系の抵抗)が小さい場合には,心機能悪化や房室弁逆流による低心拍出症候群のため混合静脈血の酸素飽和度が低い可能性を考えてSVCガスを確認する.それが正常範囲内であれば肺静脈血の酸素飽和度が低いことが予想されるため肺動静脈瘻の除外にコントラストエコーを行う.コントラストが下大静脈や肝静脈で陽性となりV-V側副血行路の存在が明らかになることもある.

実際にはこれらの病変が同時に存在して理論通りに切り分けができないことがしばしばあるが,混合静脈血,肺静脈血,肺体血流の考え方を応用していけば論理的にアプローチでき,ベッドサイドで確定診断や次の介入が決定できることが多い.小児循環器医としての腕の見せ所であろう.

2)Fontan術後

Fontan術後は体静脈圧が上昇するため胸腹水の漏出が多く,初期に多量の輸液を必要とすることが多い.軽度の脱水でも肺血流減少から心室前負荷減少をきたしLOSにつながるため,水分管理には十分注意する.同様に血管拡張剤も静脈分布容量を増加させて心室への前負荷を減らすため,慎重に使用する必要がある.呼吸管理は早期抜管が原則だが無気肺や肺の過膨張とのバランスを考慮する必要があることはGlenn術後と同様である.前負荷がかかりにくく十分な心室拡張時間が必要であり,JETなどの頻脈性不整脈が血行動態に大きな影響を及ぼす.

6. 完全大血管転位(dTGA)

解剖学的な分類や血行動態の詳細は成書にゆずり,VSDのないシンプルな大血管転位(TGA1型)について考えてみる.

術前は左心室が低圧系である肺循環を担っている,Fig. 4A: loop1のような圧の低いEmaxの小さなPVループとなる.スイッチ術後はこの左心室が高圧系である体循環に血液を送り出さなければならなくなるため,左心室に対する後負荷が急激に増大し(Ea1→Ea2),SVが低下(SV1→SV2)してLOSとなる(loop2).出生直後は生理的肺高血圧により比較的LV圧が保たれているが,経時的にEmaxが下がるため,通常生後2~3週間以内に手術を行う必要がある39, 40).左心機能には常に注意を払い,術後の循環介入(Fig. 4B)の主ターゲットは不十分な左室収縮のため,積極的に強心剤を用いてEmaxを上げ(Emax1→Emax3),血管拡張剤を使用して後負荷軽減を行うと(Ea2→Ea3),loop3のようになりSVを増加させることができる(SV2→SV3).比較的侵襲の大きな新生児手術ということもありcapillary leakを来しやすく,一定の前負荷を維持するために相応の輸液が必要になることが多い.循環不全時や低心機能時に冠動脈の確認が必須なことは当然であるが,不整脈が冠動脈病変の初発症状のこともあるため,経時的な心電図変化には十分な注意が必要である.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(3): 153-163 (2019)

Fig. 4 Change of hemodynamics in TGA

A: Pressure-Volume loop pre- and post-ASO. Emax1 is low because LV sustains pulmonary circulation but SV1 is enough to maintain systemic perfusion. After the operation, arterial elastance increase (Ea1→Ea2) and stroke volume decrease (SV1→SV2) B: Pressure-Volume loop post-ASO and therapeutic intervention. Inotropic support increase contractility (Emax1→Emax3), which is the primary target after ASO. Vasodilator decreased arterial elastance (Ea2→Ea3) and increase stroke volume (SV2→SV3). ASO: arterial switch operation, Ea: arterial elastance, EDV: end-diastolic volume, Emax: maximal elastance, SV: stroke volume

7. 総肺静脈還流異常(TAPVC)

術前は肺静脈血がすべて右心系に還流するため,右房右室の容量負荷と肺動脈血流が増大し(Fig. 5A),それに伴い肺高血圧となる.左心系には心房間交通を介した血液が届くのみであり左心房,左心室は小さめである.肺静脈狭窄があれば可及的速やかに手術が必要であり,ない場合でも肺静脈うっ血を増悪させることなく,手術まで全身状態を維持することが術前管理の基本となる.高濃度酸素や人工呼吸管理が必要となることも多いが,肺血管抵抗を低下させる治療は肺うっ血を増悪させる可能性があることを常に念頭におく必要がある41)

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 35(3): 153-163 (2019)

Fig. 5 Change of hemodynamics in TAPVC

A: Pressure-Volume loop pre- and post-TAPVC repair. Because all pulmonary venous flow return to right side of the heart, RVEDV is very large (EDV1). After the repair, RV receives only the systemic venous return and RVEDV decreases (EDV2). B: Pressure-Volume loop post-TAPVC repair and therapeutic intervention. After the operation, there is no residual shunt. LV must handle the same amount of the blood pushed from RV (LVSV2=RVSV2). Because LVEDPVR is quite steep, LVEDP increase with the small change of RVSV or LVEDV. EDPVR: end-diastolic pressure volume relationship, Ea: arterial elastance, EDV: end-diastolic volume, Emax: maximal elastance, LVEDP: left ventricle end-diastolic pressure, LVSV: left venticle stroke volume, RVEDP: right ventricle end-diastolic pressure, RVSV: right ventricle stroke volume

術後,特に最初の数日間はPHクライシスを生じる可能性が高いため,深鎮静,アルカローシス寄りの呼吸管理や必要に応じてNO吸入を行うなど,積極的に肺血管抵抗を下げる管理を行う.特に術前に肺静脈狭窄を合併した症例では肺静脈壁の線維性肥厚などの器質的変化を生じていることも多く,治療抵抗性のPHクライシスに難渋することがある.またこの群では多くの場合肺実質障害を伴っており,酸素化も障害されることが多い.また胎児期からの静脈うっ血による影響と思われるリンパ管拡張が高率に認められ42),重度肺静脈狭窄例では術後難治性胸水が遷延し,その後気胸を繰り返すことを時に経験する.

血行動態的には,右室の容量負荷が減り右室の仕事量は減るが(Fig. 5A: RVSV1→RVSV2),左室容量が小さいためPHによる左室前負荷不足と相まってLOSを生じやすい.RVのコンプライアンスに比較して左室のコンプライアンスが非常に悪く(Fig. 5B: RV-EDPVRに比較しLV-EDPVRが急峻となる),またLVEDPも高くなる.右室の拍出が増えるとその分左室への還流が増え(LVEDV増加),LVEDPが大きく上昇する.また循環血液量が増えても(LVEDV増加),LVEDPが上昇し肺うっ血が増悪する.最重症例では1回拍出量が少ないことによるLOSがベースにあるため,心拍出量を稼ぐために高レートのペーシングが有効なことが多いが,1回拍出量を保つためにはかなりの前負荷,血管内volumeが必要となり,肺うっ血もすぐに生じるため呼吸水分管理に難渋することが多い.術前後の血行動態の変化,呼吸状態,水分バランスを考えて対応する必要がある.

おわりに:これからの循環器集中治療

先天性心疾患の領域では伝統的に小児循環器科医が術前を,心臓外科医が術後を診ていることが多かった.確かに出血やドーレン管理など術後特有の問題もあるが,急性期管理で最も重要なのは目の前の患者の呼吸循環動態を脳灌流,腎灌流なども含めて迅速に評価し,必要な対応や処置を決定することである.そこに手術前・手術後という区別はなく,「急性期管理」という時間軸のカテゴリーで捉えるべきものではないだろうか?

近年,小児循環器領域の中でもさらに専門分化が進み,心エコーの専門家やインターベンションの専門家といったsubspecialtyが確立されつつある.専門性という点から見ると,「循環器集中治療」はICU内で自分の持っている知識・技術を総動員して迅速に診断・治療するという「循環器急性管理の専門領域」であり,ひとつのsubspecialtyとして日本で認知されるようになるのも遠い先の話ではないだろう.この急性期管理の面白さに魅せられた若手循環器医がますます増えてくることを期待している.本稿がその一助になれば幸いである.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

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