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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(2): 75-76 (2018)
doi:10.9794/jspccs.34.75

Editorial CommentEditorial Comment

WPW症候群での心エコー検査はどこまで必要か?Echocardiography in WPW Syndrome

筑波大学医学医療系小児科Department of Child Health, Faculty of Medicine, University of Tsukuba, Ibaraki, Japan

発行日:2018年3月1日Published: March 1, 2018
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Wolff–Parkinson–White症候群(WPW症候群)は房室副伝導路(Accessory Pathway: AP)により心電図ではΔ波を呈し,房室回帰性頻拍の原因となる,比較的頻度の高い疾患である.一部では不応期の短いAPのために心房細動から心室細動を来すために突然死の原因にもなり,一部ではAPにより早期に心室の一部が興奮するために心室内同期不全から心機能低下を来すことが知られている.藤田らはWPW症候群の房室回帰性頻拍に対するカテーテルアブレーション治療の前後での心エコー検査所見の変化について報告している1).その解析の中で,明らかな心機能低下のない症例においても,顕性WPW症候群は潜在性WPW症候群に比べて左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction: LVEF)が小さく,APの位置にかかわらず潜在的に心機能低下があることが示された.この結果を踏まえると,WPW症候群での心機能低下は稀なもので,特殊な症例に限られたものであると一般的に認識されているが,その認識を改めることが必要となる可能性がある.

日本においては学校心臓検診があるために,無症候性のWPW症候群が多数発見される.頻拍の既往がない症例においても,二次検診以降では心エコー検査を実施することが推奨されている.心エコー検査はWPW症候群を合併する肥大型心筋症,左室心筋緻密化障害やEbstein病などの器質的心疾患の有無の確認が主目的とされ,初回の検査で“明らかな異常”がなければ,敢えて繰り返し施行していないのが実状ではないだろうか.WPW症候群の管理における心エコー検査の臨床的意義について考察する.

心エコー検査による副伝導路の位置推定

APにより,His-Purkinje系を介した通常の興奮よりも早期に心室の弁輪側の端の一部が興奮し始めるため,心室の収縮様式は通常とは異なってくる.その収縮様式の違いを心筋の動きとして捉え,APの位置を推定することを主目的とした心エコー検査の研究が以前より進められてきた2).M-mode法,B-mode法,組織ドプラ法,2D speckle tracking法と心エコーの進歩により,APの位置推定の精度は上昇してきていたが,全例で明らかな異常な心室収縮様式が見いだされるわけではなかった2).一方で,心不全に対する心臓再同期療法の普及に伴い,心室内での同期不全の有無を認識することが重要視され,その評価法として心エコー機器,技術も進歩し,以前には捉えることのできなかった軽微な心室内同期不全も検出できるようになってきた.近年臨床の場で使用開始された3D Speckle tracking法もAPの位置推定にも応用され,右側のAPも含め,早期に収縮する心室の部位を立体的な位置として特定することが可能となってきている3).未だに何を以って同期不全とするかは議論があるが,これらの研究の結果から,顕性WPW症候群では,程度の差はあるが,全例で右室内,左室内の同期不全があることがわかってきた.

心室内同期不全と心機能低下

どのような症例で心機能低下を来すのか?が臨床上重要であるが,これまでの報告4–6)では,心機能低下を来していたのは右側のAPを有する症例に限られている.なぜ右側のAPで心機能低下を来すのか?については,未だ詳細は不明ではあるが,右室ペーシングにおける心機能低下の機序と同様であると推測されている.右側の副伝導路では,異常な中隔の壁運動から心室内同期不全を来たし,その結果として細胞,構造のリモデリングが進行することで心機能低下を来すと考えられている7).APを有する症例における心機能低下の頻度は,小規模な検討のみだが,Tomaskeらの報告では,右側のAPを有する34例のうちLVEFが55%未満と低下していたのが19例(56%)と高率にみられた8).藤田らの報告では,LVEF 55%未満と低下していたのは右側のAPを有する6例のうち2例(33%)とその割合は低くなるが1),いずれもカテーテルアブレーションを施行された症例を対象とした研究であり,学校心臓検診で発見される無症候性のWPW症候群で遭遇する心機能低下症例の頻度についてのデータはない.また藤田らの報告では,右側に限らず左側のAPを有する症例でもカテーテルアブレーション治療後にLVEFの上昇がみられ,顕性WPW症候群では潜在性WPW症候群に比べLVEFは低値であった点は特筆すべき結果である1).左側のAPの症例も含め,顕性WPW症候群では潜在的な心機能低下を有することを示唆する結果だが,いずれもLVEFは55%以上であり,その程度の低下は臨床的な意義がないのでは?という疑問が湧いてくる.APによる心機能低下が進行性の病態でなければ問題ないが,初期に心室同期不全があった症例が,段階的に心機能低下が進行する過程を観察された症例も報告されている4).初診時の心エコー検査で心機能低下のない症例はその後も心機能低下を来さない,とは限らないことを示しており,心エコー検査をどの程度の頻度で繰り返すべきか悩ませる報告である.

どのように心エコー検査を施行するか?

これまであまり気に留めることなく施行していたWPW症候群の心エコー検査であるかも知れないが,顕性WPW症候群において,心室内同期不全はほぼ全例で存在している,心機能低下を来す症例は必ずしも非常に稀ではない,と認識しておく必要がある.注意深くWPW症候群の心エコー検査を実施すると,軽微な心室内同期不全が見いだされ,心機能低下に進行する症例を早期に発見できる可能性がある.しかし,現状において全ての顕性WPW症候群を対象としてspeckle tracking法も含めた詳細な心エコー検査を行うのは非現実的である.幸い,APによる心機能低下は,カテーテルアブレーション治療などでAP離断ができれば可逆的であることが多く,早期に発見できなくても,適切な治療介入を行えば問題ないと考えられている.今後の技術の進歩で,より容易に心室内同期不全,心機能低下を検出できるようになると,WPW症候群の心エコー検査の臨床的な立ち位置が変わってくるのかも知れない.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 藤田修平,ほか:Wolff–Parkinson–White症候群における心室早期興奮が心機能に及ぼす影響.日小児循環器会誌2018; 34: 63–71

引用文献References

1) 藤田修平,中川 亮,西田圭吾:Wolff–Parkinson–White症候群における心室早期興奮が心機能におよぼす影響.日小児循環器会誌2018; 34: 63–71

2) Cai Q, Shuraih M, Nagueh SF: The use of echocardiography in Wolff–Parkinson–White syndrome. Int J Cardiovasc Imaging 2012; 28: 725–734

3) Ishizu T, Seo Y, Igarashi M, et al: Noninvasive localization of accessory pathways in Wolff–Parkinson–White syndrome by three-dimensional speckle tracking echocardiography. Circ Cardiovasc Imaging 2016; 9: e004532

4) Udink ten Cate FE, Kruessell MA, Wagner K, et al: Dilated cardiomyopathy in children with ventricular preexcitation: The location of the accessory pathway is predictive of this association. J Electrocardiol 2010; 43: 146–154

5) Suzuki Y, Suzuki T, Imai Y, et al: An infant with heart failure due to ventricular dyssynchrony and refractory tachycardia caused by a right anterolateral accessory pathway. Cardiology 2012; 123: 108–112

6) Fukunaga H, Akimoto K, Furukawa T, et al: Improvement in non-tachycardia-induced cardiac failure after radiofrequency catheter ablation in a child with a right-sided accessory pathway. Heart Vessels 2013; 28: 802–807

7) Udink Ten Cate FE, Wiesner N, Trieschmann U, et al: Dyssynchronous ventricular activation in asymptomatic Wolff–Parkinson–White syndrome: A risk factor for development of dilated cardiomyopathy. Indian Pacing Electrophysiol J 2010; 10: 248–256

8) Tomaske M, Janousek J, Razek V, et al: Adverse effects of Wolff–Parkinson–White syndrome with right septal or posteroseptal accessory pathways on cardiac function. Europace 2008; 10: 181–189

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