日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(4): 207-211 (2018)
doi:10.9794/jspccs.34.207

症例報告Case Report

心房壁フラップを用いて左心房直接還流型の左上大静脈再建を行った不完全型房室中隔欠損症の一例Reconstruction Using a Right Atrial Wall Flap for a Case of Left Superior Vena Cava Draining into the Left Atrium with an Incomplete Atrioventricular Septal Defect

1福島県立医科大学医学部心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Fukushima Medical University ◇ Fukushima, Japan

2福島県立医科大学医学部小児科Department of Pediatrics, Fukushima Medical University ◇ Fukushima, Japan

受付日:2018年4月17日Received: April 17, 2018
受理日:2018年7月10日Accepted: July 10, 2018
発行日:2018年12月20日Published: December 20, 2018
HTMLPDFEPUB3

左上大静脈(left superior vena cava: LSVC)が左側心房に直接還流する場合の二心室修復ではLSVCの対処が必要となるが,血行再建の明確な基準はなく確立した再建方法もない.左側心房直接還流型の左上大静脈を有する不完全型房室中隔欠損症に対し,心内修復に加えて右側心房壁フラップを用いたLSVC再建を行った.症例は10か月,体重8.8 kgの女児で,チアノーゼと心不全を来し入院した.診断は両側上大静脈,単心房,不完全型房室中隔欠損症,左側房室弁逆流,動脈管開存症であった.血管造影上はLSVC優位であり,バルーンカテーテルを用いたLSVC閉塞試験では,圧が6 mmHgから38 mmHgへと上昇したため,単純結紮は危険と判断し,再建する方針とした.心内修復後に右側心房前壁をLSVC方向にフラップ状に切開のうえ展開し,LSVC後壁を作成した.前側は新鮮自己心膜を用いて再建した.術後LSVC圧の上昇はなく経過順調だった.右側心房壁フラップを用いたLSVC再建は一つの方法であると考えられた.

Reconstruction of the left superior vena cava (LSVC) is required in biventricular repair when the LSVC drains directly into the left atrium. However, the criteria for reconstruction and a standard method have not been established. We report a case of successful concomitant intra-cardiac repair and LSVC reconstruction using the right atrial wall flap. A 10-month-old girl with a common atrium, an incomplete atrioventricular septal defect, left atrioventricular valve regurgitation, and patent ductus arteriosus presented with severe cyanosis and heart failure. Preoperative angiography showed each superior vena cava (SVC) draining directly into the ipsilateral atrium, with the LSVC larger than the right SVC. With balloon catheter occlusion of the LSVC, the pressure in the LSVC increased from 6 mmHg to 38 mmHg, so simple ligation of the LSVC was considered to be high risk. After intra-cardiac repair, the posterior wall of the LSVC was reconstructed using an atrial wall flap created from the anterior wall of the right side atrium. The anterior wall of the LSVC was enlarged using a fresh autologous pericardial patch. The postoperative recovery was uneventful, with no venous congestion. Reconstruction using an atrial wall flap offers an alternative surgical method for treating patients with a common atrium into which the LSVC drains directly into the left side.

Key words: persistent left superior vena cava; congenital heart disease; atrial wall flap repair; incomplete atrioventricular septal defect

はじめに

左上大静脈(Left Superior Vena Cava: LSVC)の左側心房への直接還流を伴う心疾患の二心室修復では,心内修復に加えてLSVCへの対処が必要となる.左右上大静脈間に無名静脈や十分な側副血行路が存在する場合は単純結紮が可能となるが,左右交通がない場合や,LSVCが優位である場合は,心内修復に加えてLSVCの再建が必要となる.LSVC再建には心内再建法と心外再建法があるが,その選択の確立した基準はない.LSVCの左側心房への直接還流を伴う,単心房,不完全型房室中隔欠損症,左側房室弁逆流,動脈管開存症の10か月の女児に対し,心内修復に加え右側心房壁フラップを用いたLSVC再建を施行したので報告する.

症例

症例

10か月の女児.身長72.5 cm,体重8.8 kg.

現病歴

在胎26週に胎児発育不全のため当院小児科紹介となり,胎児心臓超音波検査上,単心房,不完全型房室中隔欠損症,左上大静脈遺残と診断された.在胎39週4日に自然分娩で出生.出生体重は2,882 g,酸素飽和度は90%前後で経過した.生後8か月ころから哺乳力低下と体重増加不良を認め,生後9か月の外来診察時には,陥没呼吸とチアノーゼ増悪を認めた.体表面心臓超音波検査上,房室弁逆流増悪と右心室拡大,肺高血圧所見を認めた.

検査所見

1)入院時現症

血圧は82/60 mmHg,心拍数は132 bpm,呼吸回数は30回/分で陥没呼吸を認めた.胸骨左縁第III~IV肋間にLevine 3/6の収縮期逆流性雑音と奔馬性調律を聴取した.チアノーゼを認め,経皮的動脈血酸素飽和度はroom airで78%であった.

2)血液検査所見

Hct値は47.2%と多血症を認め,AST値は47 IU/L, ALT値は26 IU/L, BUN 23 mg/dL, Creatinine 0.71 mg/dLであった.BNP値は2659.5 pg/mL(基準値18.4 pg/mL未満)と高値を示した.

3)心臓超音波検査

心房中隔はなく単心房形態で,両側上大静脈で無名静脈はなかった.LSVCは左側心房頭側に結合し,左右肺静脈は単心房中央部に還流,下大静脈は右側心房に還流していた.心室形態は正常で,右心室拡大があった.房室弁前尖と後尖間にはConnecting tongueが存在し,房室弁はSeparate orificesであり,不完全型房室中隔欠損症の形態であった.左側房室弁のCleftから中等度逆流と,右側房室弁から軽度逆流があり,動脈管開存を認めた.

4)造影CT検査

気管分岐や肺葉は正常で,腹部臓器にも異常はなく内臓錯位所見はなかった.両側SVCで,無名静脈は欠損しており,LSVCが太く造影された.LSVCは左心耳の頭側に結合し,左肺静脈開口部に近接していた(Fig. 1A, B).

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(4): 207-211 (2018)

Fig. 1 Preoperative computed tomography and angiographic study

(A) Upper view from preoperative 3-dimensional computed tomography. (B) Orifice of left upper pulmonary vein (LUPV) and LSVC located in proximity. (C) Venography revealed small RSVC without left brachiocephalic vein. (D) Venography revealed LSVC draining into the left side atrium directly. AAo: ascending aorta, mPA: main pulmonary artery, RAA: right atrial appendage.

5)心臓カテーテル検査

心不全症状が改善した後,心臓カテーテル検査を施行した.主肺動脈圧は38/13(28) mmHg,大動脈圧は80/53(65) mmHgと軽度の肺高血圧を認めた.肺小血管抵抗は1.6 Wood unit·m2,左右シャント率は76.2%,右左シャント率は32.0%,肺体血流比は3.0であった.造影上,左室拡張末期容積は100% of normal,右室拡張末期容積は203% of normalと右心室拡大を認めた.2度の左側房室弁逆流を認め,平均心房圧は5 mmHgであった.大動脈弁下に10 mmHgの圧較差を認めたが,左室造影上は有意な狭窄は認めなかった.両側上大静脈造影では,右SVC(Right SVC: RSVC)の直径は心房接合部で5.6 mmであり,LSVCは10.4 mmと左側優位であり(Fig. 1C, D),LSVCからの血流は左心室に有意に多く流入する所見を認めた.4Fr.wedgeカテーテルを用いて両側SVCのバルーン閉塞試験を行ったところ,カテーテル先端圧は閉塞前後でRSVCは5 mmHgから28 mmHgに上昇し,LSVCは6 mmHgから38 mmHgに上昇を認めた.5分間の経過で圧低下なく,バルーン閉塞後のLSVC造影ではRSVCへの側副血行路の発達は乏しかった.以上の結果から,心内修復手術に加えLSVC再建も必要と判断した.

手術所見

手術前に,左内頚静脈に圧モニタリングのため中心静脈カテーテルを挿入した.手術は胸骨正中切開で行った.左右心耳形態は正常であった.LSVCの一時的遮断を行ったところ36 mmHgまで上昇し,低下傾向もないため人工心肺中のドレナージと再建が必要と判断した.上行大動脈送血,両側上大静脈および下大静脈脱血,右上肺静脈からベントを挿入し人工心肺を確立した.動脈管は結紮した.完全体外循環とし,大動脈遮断,順行性に心筋保護液を注入し心停止とした.右側心房に切開を加え,内腔を観察すると冠静脈洞は正常,左右肺静脈はそれぞれ左側心房に還流していた.LSVCは左側心耳の頭側に結合し,心房開口部は左上肺静脈と近接しており,心内再建では左肺静脈狭窄の懸念があり,心外再建の方針とした.LSVCを心房合流部直上で横切し,心房側は縫合閉鎖した.半奇静脈は結紮離断し,LSVCは末梢まで剥離した.左側房室弁のcleftは閉鎖し,新鮮自己心膜を用いて冠静脈洞が右側に位置するよう心房中隔形成を行った.右側房室弁は水試験による逆流を認めず,操作は加えなかった.遮断解除後,LSVCを上行大動脈前方に受動したが,右側心耳との直接吻合は困難であり,LSVC直径の幅で不足する距離分の右側心房壁フラップを作成し外反展開しLSVC後壁と端々吻合することで後壁を作成した.前壁は新鮮自己心膜を補填することでLSVC再建を行った(Fig. 2).人工心肺離脱時の左内頚静脈圧は11 mmHgであり,右心房圧と同等であった.心膜採取部に心膜シート(expanded polytetrafluoroethylene: ePTFE)を補填し閉胸した.手術時間は4時間31分,大動脈遮断時間は79分であった.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(4): 207-211 (2018)

Fig. 2 Operative technique

(A) Asterisk indicating right atrial wall flap used to make the posterior wall of LSVC. (B) Double asterisk indicating fresh autologous pericardium patch used to reconstruct anterior wall of LSVC and atrial wall flap. (C) Intraoperative picture after LSVC reconstruction. AAo: ascending aorta, mPA: main pulmonary artery, RA: right atrium, RV: right ventricle.

術後経過

術後の心臓超音波検査上,肺高血圧所見を認め,一酸化窒素吸入療法を行った.術後2日目に人工呼吸器から離脱.術後5日目に胸部ドレーン抜去.術後6日目に一般病棟へ移動した.左内頚静脈圧は6~10 mmHgと上昇はなく,集中治療室退室時の圧は7 mmHgであった.術後16日目に退院した.術後半年の経過でLSVC血流は良好であった.

考察

左上大静脈遺残(persistent left superior vena cava: PLSVC)は胎生期の左前基本静脈(left anterior cardinal vein)が退化せずに発生する奇形で1),先天性心疾患のLSVCの合併頻度は2.3~4.3%程度1–3)とされ,このうち約70~80%で無名静脈が欠損する4).LSVCの多くは冠静脈洞を経由して右心房に還流するが,左心房に直接還流する場合や,Unroofed coronary sinus合併時には右左短絡から,チアノーゼや奇異性塞栓症1–4)をきたし外科的処置が必要となる.本例は,心内は単心房,不完全型房室中隔欠損症であったが,優位なLSVCの静脈血が左側心房から左心室に流入し,術前チアノーゼを強く認めた.

LSVCの左側心房還流に対する治療では,再建の必要性や側副血管の評価法,再建方法は一定の見解を得ていない.無名静脈が存在する場合や,両側SVC間に充分な交通静脈がある場合は単純結紮が可能となるが,結紮後に一時的な脳波異常や術後覚醒遅延を認めた報告もあり3),慎重な判断が求められる.再建の判断として,一時的閉塞試験による圧評価が行われ,結紮可能な上大静脈圧は30~35 mmHg4, 5)以下と報告される.de Levalら5)は30 mmHg以下を基準として12例に単純結紮を行い,脳合併症なく治療が可能と報告した.大沢ら2)はLSVCを閉塞した場合,徐々に左右上大静脈間の圧が均衡化することから側副静脈路の存在に着目し,閉塞試験による内圧測定よりも左右SVCの太さの比較が重要であり,左の2/3以上の径の右SVCが存在すれば単純結紮が可能であることを述べている.ただし,両側SVC間の静脈吻合系発達には個体差があり,血管抵抗が高い場合には圧低下に時間を要するとされる3).脳還流圧は平均動脈圧と平均頭蓋内圧(静脈圧)の差から求められるため6),血管抵抗が高い場合は頭蓋内圧上昇をきたし,特に術後低血圧時には圧の均衡化までの間,脳還流圧低下が持続する恐れがある.本症例ではRSVCは細径であり,一時的閉塞試験によってLSVC圧は38 mmHgに上昇し低下傾向はなかった.対側SVCへの交通静脈の発達もなく再建が必要と判断した.LSVC再建法には心内再建法5, 7)と心外再建法5, 9)が報告されている.心内再建法では自己心膜等の補填物を用いる心内バッフル作成法5)や,左心耳の心房中隔への内反縫合法7)が報告されている.心外再建法には,LSVCをRSVCに端側吻合する解剖学的再建法や,右心耳に吻合する方法がある9).解剖学的再建の場合はRSVC径が十分確保されている必要がある.LSVCを受動し再建する際には,無理のない再建ルートの選択が重要とされる1, 9).再建ルートは大動脈前方と後方ルートがあり,両上大静脈と上行大動脈の位置関係と形態から判断される.本症例ではLSVCが大動脈前方から背側に向かって走行し,大動脈後方のスペースが少なく,肺動脈拡大もあることから,大動脈前方ルートを選択した.LSVCは大動脈基部前方を走行するため,再手術時の損傷には注意が必要と考えている.吻合において距離が不足する場合は,自己組織を用いる方法としてLSVCと連続する左心房壁を切除しロール状に導管を作成する方法1)があるが,複雑な切開縫合線を必要とするため難易度も高い.本症例では右側心房壁に切開を加えフラップを作成し外反展開しLSVC後壁を形成した.前壁は新鮮自己心膜を補填し再建したが,Erek et al.9)はglutaraldehyde処理した自己心膜を用いて同様の術式を報告している.心房壁と自己組織の使用は抗血栓性に優れ,成長に対する期待が持てる.また,LSVCを切離し受動したうえで,心拍動下に不足する距離を評価し,適切な大きさの心房壁フラップ作成が可能であった.本法は手技的にも簡便であり再現性のある術式であると考えられる.

本症例では術後1年の経過では良好な血流が維持されているが,今後の観察が必要であると考えている.

利益相反

本論文において,開示すべき利益相反(COI)はない.

引用文献References

1) Shumacker HB Jr., King H, Waldhausen JA: The persistent left superior vena cava: Surgical implication, with special reference to caval drainage into the left atrium. Ann Surg 1967; 165: 797–805

2) 大沢幹夫,小助川克次,臼田多佳夫,ほか:左上大静脈遺残症とその血流処置—体外循環中の単純遮断と左房還流症における単純結紮術の安全性に関する再検討—.日胸外会誌 1976; 24: 1143–1156

3) 山田 学,藤井尚文,宮沢総介,ほか:左房へ還流する左上大静脈遺残症の血流処置—単純結紮術に関する考察—.日胸外会誌 1979; 27: 1448–1452

4) Freed MD, Rosenthal A, Bernhard WF: Balloon occlusion of a persistent left superior vena cava in the preoperative evaluation of systemic venous return. J Thorac Cardiovasc Surg 1973; 65: 835–839

5) de Leval MR, Ritter DG, McGoon DC, et al: Anomalous systemic venous connection, surgical considerations. Mayo Clin Proc 1975; 50: 599–610

6) 田中 晃,松谷雅生,清水輝夫,ほか:第4版EBMに基づく脳神経疾患の基本的治療方針.pp 726–732

7) Komai H, Naito Y, Fujiwara K: Operative technique for persistent left superior vena cava draining into the left atrium. Ann Thorac Surg 1996; 62: 1188–1190

8) Reddy VM, McElhinney DB, Hanley FL: Correction of left superior vena cava draining to the left atrium using extracardiac techniques. Ann Thorac Surg 1997; 63: 1800–1802

9) Erek E, Aydin S, Suzan D: Right atrial flap repair for left superior vena cava draining into left atrium. Thorac Cardiovasc Surg 2016; 64: 59–61

This page was created on 2018-08-13T14:57:11.603+09:00
This page was last modified on 2018-12-21T20:13:16.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。