日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 34(4): 163-164 (2018)
doi:10.9794/jspccs.34.163

巻頭言Preface

多様性を知り,柔軟性を学び,ぶれない芯を培うことの勧め留学を通して学んだことExperiencing Diversity, Developing Personal Flexibility and Building a Strong and Stable Mind: Things I Learned while Studying Abroad

順天堂大学小児科Department of Pediatrics, Juntendo University Faculty of Medicine ◇ Tokyo, Japan

発行日:2018年12月20日Published: December 20, 2018
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今回の巻頭言は,小児循環器学会の若い先生に向けてのメッセージです.特に,留学前の私と同じく,海外で生活できるか否かについて不安で留学を迷っている,まだ日本の大規模施設を経験していない先生方へのメッセージです.稀なケースレポートとして気楽に読んでいただければと思います.

いきなりですが,未知の世界に飛び込むという点では,自分の中では第三世界への単独行と最先端施設への留学は共通しており,驚くことに,実際に得たことも共通点が多いものでした.

自分が多様性と柔軟性を学ぶことの重要性を知ったのは,留学とは全く異なる,学生時代のチベット,ネパール,インドへの,一人放浪旅行からでした.ラマ僧の暴動で戒厳令が敷かれているチベットに入るため,公安の検問を突破するのに現地人に混じって5,200メートルの峠を越えたり,高山病で弱っている時に鳥葬の地域でチベットハゲワシに食べられそうになったり,コレラに罹患して病院に担ぎこまれたりするなかで,今まで先進国日本の生活しか知らず,世界の一面しか見ていなかったことに衝撃を受け,多様性を学ぶ大事さを思い知りました.同時に多様性のある未知の世界で生き残るには,柔軟性を持つことが重要であることも知り,その後今までずっと自分の中に座右の銘として残っております.

さて,自分が順天堂大学小児科に入局した当時は医局員の数は少なく,臨床業務をこなすことに精一杯の日々を送っておりました.必要に応じて海外の質の高い文献を読みながら,どのような集団がどのようにこれらの論文を完成させるのか,一生に一度は現場を見たいという思いはありました.しかし英会話能力はなく,日々の臨床業務だけで精一杯の自分にとって,留学は本当に遠い世界の話でした.ここで大変幸運なことに,留学は無理をしてでも行うべきであるとする主義を持つ当時の小児科の教授に,強く留学を勧められました.かなり躊躇したものの,放浪旅行を通じ,多様性を知り柔軟性を学ぶことを座右の銘とした自分にとって,医学においてもこれを実行する最良の機会であると判断しました.そして英語を喋れないままにカナダのトロントのHospital for Sick Children(HSC)に留学し,世界の小児循環器領域の超音波界の代表的存在であったSmallhorn教授に師事しました.

当時は,英語の試験もなく,書類提出でClinical Research Fellowになることが可能でした.超音波部門の夜間オンコール,手術中やカテーテル中の経食道超音波の補助など,恐ろしいことに英語が喋れないままに臨床面でも働いていました.あの当時お世話になった日本人の先生方には,今でも大変感謝しており,一生頭が上がりません.そして,まるで2014年のサッカーワールドカップの日本のように,試合は全敗だけれども,試合後のスタジアムの掃除だけはきちんとするような生活から開始して,徐々に様々なことを学んでいきました.留学して1年経過した時,Smallhorn教授がHSCからアルバータ大学に移動することとなり,大変幸運なことに一緒に連れて行っていただき,アルバータ大学で更に2年半を過ごしました.

Smallhorn教授からは具体的な超音波診断法や研究の方法から,研究への姿勢についてまで,様々なことを学びました.

研究の現場では,臨床面を重視しすぐに役に立つことにも,そうではないことに対しても膨大な労力が注ぎ込こまれていました.それまで形態診断と簡単な心機能評価のための臨床的な超音波しか知らなかった自分にとっては,驚く程多様性に満ちた世界でした.そして多様な世界では,柔軟な姿勢を持つSmallhorn教授が中心にいました.Smallhorn教授は1次元画像であるM-modeしか存在しない1980年代初頭から,遥か後に登場する3次元超音波の到来を予見していたそうです.そして1次元データによる心機能解析の時代から,各時代の方法の限界を知りつつも柔軟に考え,その時点で最良の方法でデータを解析し,研究を淡々と実行してきました.そこには,柔軟性の中にもぶれない芯を感じ,大変感銘を受け,多様性を知ることと柔軟性を学ぶことに加え,ぶれない芯を身に付けることが,自分の人生の第三の課題となりました.実際,アルバータ大学でSmallhorn教授と新しいプロジェクトを開始すると,常に何らかの障壁にぶつかりました.しかしSmallhorn教授は,前に進みながら常に細かい軌道修正を柔軟にしているような面があり,いつも笑顔とユーモアを保ち,障壁の間をするすると前に進んでいってしまいます.このような生き方もあるのかと感服しつつ,傍にいながら学びました.

日常生活でも学びは多くありました.人種の多様性のあるカナダでは,常に柔軟性が求められます.内容は物議を醸すのでここには書けませんが,他の宗教を信じるスタッフから,日本人として“絶対に負けられない戦い”を挑まれ,柔軟に芯を持ち,戦い抜いたこともありました.2018年サッカーワールドカップでの対ポーランド戦なみの,負けて前に進む戦術を用いたこともあります.

多様性の許容は日本文化の特質であり,真正面から対抗的にぶつからない柔軟性も日本人の行動の特質とされますが,これらをオーストラリア出身のカナダ人のSmallhorn教授から学んだことは,人種の壁についての自分の偏見も見事に壊してくれました.このように多様性,柔軟性,ぶれない芯について学び帰国しました.しかしながら,一つだけ加えておきますと,海外留学をしなくても,素晴らしい活動をしていらっしゃる先生方が大勢日本にいることに留学を通じて気付き,改めて自分の限界も思い知った次第です.

さて,若い先生方へのメッセージのまとめですが,海外留学という特殊な環境では,医学のみならず,全てのことにおいて多様性を知り,柔軟に対応することと,芯を持って行動することを求められる機会が多く存在し,その能力を伸ばせます.良きストレスは最良の教師です.私より英語能力が高く,日本で既に大規模施設の研修や研究の経験のある先生方が大勢留学に行かれると思いますが,皆様のレベルから,更に上に能力を伸ばす機会に恵まれると思います.日本小児循環器学会も,各専門性に分かれた多様性のある組織です.そこで,各先生が海外で培った能力を学会で発揮していただければ,更に好循環となり,幸運なことに海外留学に行かれた先生も,様々な事情があって行かれていない先生も,共に活発に発展していけるのではないでしょうか.

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