日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(1): 58-60 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.58

Editorial CommentEditorial Comment

急速に進行する肺炎を診たらWhat to Do to a Patient with Pneumonia Presenting with a Rapidly Worsening Respiratory and Circular Condition

国立成育医療研究センター循環器科National Center for Child Health and Development ◇ Tokyo, Japan

発行日:2017年1月1日Published: January 1, 2017
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佐藤論文は,非常に進行の速い市中肺炎に遭遇したら,起因菌として緑膿菌肺炎を疑うこと,そしてFontan循環の症例では,呼吸循環を維持することは難しく,補助循環を含めた集学的治療を適切に行うことが必要であると述べている.佐藤論文のポイントは①緑膿菌市中肺炎,②敗血症における心機能障害,③Fontan循環の呼吸管理,④ veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation: VA ECMOということになろう.

①緑膿菌市中肺炎

基礎疾患をもつ入院症例が,緑膿菌肺炎を発症することは稀ではない.悪性腫瘍や気管支拡張症などの基礎疾患をもつ症例の報告は散見される.例えば,本邦では特発性肺線維症の基礎疾患をもち,気管支炎または肺炎で初めて入院し,病原体が検出された症例のうち,緑膿菌はインフルエンザ桿菌についで2番目(4.1%)であったとの報告がある1).しかし健常者の市中肺炎となると非常に稀であり,Hatchetteらは過去の論文をレビューしても10論文しかないと報告している2).その10論文11症例の経過は急速に悪化し,予後も不良である.入院時約半数で低血圧を呈し,2/3で低酸素血症を呈し,入院後48時間以内に75%が挿管人工呼吸管理を要し,92%が菌血症を呈し,33%が死亡し,その中央値は入院後11時間であった.しかしその治療は,生存例に属する1例のみしか,入院時に緑膿菌に感受性のある抗菌薬を使用していなかった.Fineらの報告3)では,基礎疾患の有無は明らかではないが,33,148例の市中肺炎の症例中18例が緑膿菌肺炎であり,そのうち11例が死亡していた.基礎疾患の有無にかかわらず,その予後は不良である.その一方で,緑膿菌市中肺炎は抗酸菌性肺炎と同様のsubacuteな経過をたどるという報告もある4).感染経路は人から人へ感染する場合や,公衆浴場,プールなどで,吸引し感染する場合もある.前述の報告では,治療のポイントは急速に進行する肺炎では,起因菌として緑膿菌を疑い,緑膿菌に感受性のある多剤併用療法を行うことであると記述されている2).佐藤らは,当初ABPC/SBTで開始したが,急速に全身状態が悪化したため,緑膿菌肺炎の可能性を考慮し,すみやかにMEPM,その後CPFXに変更しており,この抗菌薬の早期変更が生存退院に大きく貢献した.

②敗血症における心筋障害

佐藤らが敗血症性心筋症と表現している敗血症における心筋障害の機序は,近年徐々に明らかにされている.TNFα, NOや活性酸素によるミトコンドリア障害,細胞のアポトーシス,心筋浮腫,β受容体のダウンレギュレーション,細胞内カルシウム輸送障害などで説明される.血行動態的には,初期には末梢血管抵抗の低下と心拍出量増加を認め,循環血液量は増加するが,左室の拡大は早期には起こらない.しかしその駆出分画は低下することがわかっている.心筋は敗血症初期より,構造的および機能的に障害されるため,心機能障害が直接的死因となることは少ないものの,心筋保護を念頭に置いた循環管理も必要となる5).心血管作動薬投与は,循環動態の安定化に必要であっても,その時期によっては,障害された心筋には相応の負荷となる可能性がある.そのため病期によっては,β遮断薬による心保護が敗血症による心筋障害での管理に有用である可能性もある6)

③Fontan循環の呼吸管理

Fontan循環の大きな特徴は肺循環への駆出心室が存在しないため,静脈血が直接肺動脈に流れ込むことである.この循環は呼吸様式や,骨格筋の収縮に大きく影響を受け,呼吸様式の変化,肺換気面積の減少,そして安静により,その循環動態が著しく変化する.そのためフォンタン循環の患者が肺炎や気管支炎を契機に,生命をも脅かされる事態に遭遇することは稀ではない.呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome: RDS)の呼吸管理は,呼気終末圧を高く保ち,低容量1回換気圧でプラトー圧を低く保つことが基本である7).この管理は肺循環にポンプが存在しないFontan循環に対して,好ましくない呼吸管理である.上述のごとく,Fontan循環の症例が重症呼吸器感染症に罹患した場合,呼吸循環のバランスを取って管理するのは容易でないことが推測される.

④VA ECMO

一般的に肺炎に対するECMOは高濃度酸素投与,高気道内圧など高い人工呼吸器設定による肺障害から肺を解放し“lung rest”の状態を作り出し,肺の回復を待つことが目的の1つであり,veno-venous ECMOを使用することが多い.今回の症例のような敗血症性ショックを合併したり,不整脈を合併したりし,心拍出量が低下した場合や,肺高血圧などを合併し,右心不全を来した場合はVA ECMOが導入される.敗血症の合併はECMOの禁忌ではない.ECMO管理の目的は,組織への十分な酸素を供給することである.きちんと全身の臓器に十分な血液量を確保し,その上で血流を調整することが望ましい.成人では補助流量2.0 L/分以上を目安とし,平均動脈圧60 mmHg以上で尿量が確保できる血圧を保ち,混合静脈血酸素飽和度60ないし70%以上を目標とする8).無侵襲混合血酸素飽和度監視システム(INVOS™)を用い,組織への酸素供給の状態も参考に管理するのも有用である.この目標に達しないときには,脈圧を維持する,すなわち大動脈弁の開放を目標とせず,ECMOの血流を減らしすぎないことが必要である.佐藤らの症例は1.0 L/分というかなり少ないECMO流量で管理されている.この流量でも末梢の酸素供給が維持できるだけの心拍出量があり,その上,良好なFontan循環の症例であったためと推測される.この流量で敗血症合併症例であることも留意すると,回路内の血栓形成への注意が必要であり,抗凝固療法も厳密に行う必要がある.そのためACT 200秒という比較的高値で管理する必要があった.

最後に

佐藤論文では,Fontan循環での肺炎,敗血症性ショックでも,ECMO導入の機を逃さず,適切に管理すれば,救命できることを示している.近年,補助循環装置の進歩により,急性心不全症例の救命率は上昇している.その一方で,ECMO導入に対する判断の遅れが致命的となったり,過剰な導入が,患者さん自身およびその家族にさらなる負担を強いることになったりする.小児循環器科医は,常にその適応,導入のタイミング,管理方法など,心臓外科医,集中治療医と連携,勉強,議論し,その結果を共有していくことが必要である.

引用文献References

1) Yamazaki R, Nishiyama O, Sano H, et al: Clinical features and outcomes of IPF patients hospitalized for pulmonary infection: A Japanese cohort study. PLoS One 2016; 11: e0168164

2) Hatchette TF, Gupta R, Marrie TJ: Pseudomonas aeruginosa community-acquired pneumonia in previously healthy adults. Case report and review of the literature. Clin Infect Dis 2000; 31: 1349–1356

3) Fine MJ, Smith MA, Carson CA, et al: Prognosis and outcomes of patients with community-acquired pneumonia: A meta-analysis. JAMA 1996; 275: 134–141

4) Gharabaghi MA, Abdollahi SM, Safavi E, et al: Community acquired Pseudomonas pneumonia in an immune competent host. BMJ Case Rep 2012; 2012: brc0120125673. doi:10.1136/bcr.01.2012.5673

5) 鈴木武志,芹田良平,森﨑 浩:敗血症における心機能障害—心筋保護とβ遮断薬の可能性—.日集中医誌2011; 18: 193–200

6) Ackland GL, Yao ST, Rudiger A, et al: Cardioprotection, attenuated systemic inflammation, and survival benefit of beta1-adrenoceptor blockade in severe sepsis in rats. Crit Care Med 2010; 38: 388–394

7) The Acute Respiratory Distress Syndrome Network: Ventilation with lower tidal volumes as compared with traditional tidal volumes for acute lung injury and the acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med 2000; 342: 1301–1308

8) 日本循環器学会.急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)2013/9/20更新版.Available from http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 佐藤 誠,ほか:緑膿菌市中肺炎に敗血症性ショックを合併しVA ECMOで救命したFontan術後の1例.日小児循環器会誌2017; 33: 50–57

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