日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(6): 450-452 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.450

Editorial CommentEditorial Comment

小児心疾患患者の成人移行における社会保障の課題:大津論文に対するEditorial CommentIssues of Social Security in Adult Transition of Pediatric Patients with Heart Disease: Editorial Comment on Otsu’s Thesis

自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児手術・集中治療部Pediatric Operating Suite and Intensive Care Unit, Jichi Children’s Medical Center Tochigi ◇ Tochigi, Japan

発行日:2017年11月1日Published: November 1, 2017
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はじめに

医療の発達によって,本邦では先天性心疾患生産児の約95%が成人期を迎えることができるようになった.成人先天性心疾患(adult congenital heart disease: ACHD)患者は1万人/年近く増加しているとされ,先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)の成人患者数は約45万人にのぼり,既に小児患者数を上回ったとされている1).日本成人先天性心疾患学会では,2018年1月に第20回学術集会の開催が予定されている.この20年間でFontan循環に代表される,術後の先天性心疾患という新しい疾患の概念が生まれ,多くの研究によって各疾患の病態が少しずつ明らかになってきた.診断技術の進歩や薬剤の開発等に伴い,ACHDに対する適切な内科的および外科的治療・管理法も徐々に確立されつつあるが,長期予後については不明な点が多い.また一部の先進的なセンターを除き,多くの施設においてACHD患者の診療体制構築は途上にある.

医療者でさえこの新しい疾患の理解と対応に苦慮している状況であるから,ACHD患者が自分の疾患について十分に理解することは至難ともいえる.ほとんどのACHDが一生を通じた管理を要するとされているが,継続的な診療の必要性を理解せず受診や薬剤内服を自己中断してしまい,病状が悪化して緊急で医療機関を訪れるケースも多い.こうした疾患についての理解不足から診療の継続がはかれない症例がある一方で,主として経済的理由から必要な医療を受けることが困難になる症例もみられ,患者への支援が重要な問題になっている.前述の日本成人先天性心疾患学会学術集会でも,「患者支援」が活発に検討されており,今後ますます重要なテーマになると考えられる.

社会支援の制度

大津論文では,小児心疾患患者が成人移行した際に必要となる社会支援について,症例を通じて,主に医療費助成といった社会保障制度の観点から検討されている2).医療者,特に本学会の3/4を占める小児科・小児循環器科医に対して(1)成人期の社会保障制度の概要を示し,(2)医療ソーシャルワーカー等専門職との連携を促し,患者が時機を失することなく最適な支援を享受できることを目指している.

社会保障とは,憲法第25条に定められた「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」,いわゆる「生存権」を保障するものである.ACHD患者が対象になる社会保障の制度には,医療費に関する公的医療保険制度(高額療養費制度あり),公的医療費助成制度のほか,各種の手当や年金,税金の減免,障害者総合支援法に基づく障害者福祉サービス,補助・援助制度等多岐にわたり,各法律・制度の目的によって対象者を決定する基準が異なっている.各制度に関する法律は度々改定され,サービスや費用の負担も変わっている.国から地方自治体への実施主体の移管や,都道府県や市町村が独自に行う制度があることから,居住地域によって受給可能な制度の内容が異なっている.そのため,年齢,疾病や重症度,治療,身体障害者手帳の有無や等級,居住地域等により,どの制度に該当するのか非常に分かりづらい.「縦割り行政」のため,行政の窓口では管轄の制度以外は分からないことが多く,制度の全体像を把握することは困難である.いずれの制度も,利用者が申請しないと受け取ることができない「申請主義」であるため,知らないうちに申請の機会を逃してしまうこともある3).こうした状況のもと,個々の患者・家族にとって最適な支援を提供するためには,ソーシャルワーカー等専門職による情報の提供が必要となる.ACHD患者の診療を行う基幹病院では,患者の相談窓口が設けられ,医療ソーシャルワーカーによる支援体制が整えられていることが多い.

複雑な社会保障制度を理解するため,大津論文では社会支援移行の基本として「①小児慢性特定疾病から指定難病へ,②障害児福祉手当,特別児童扶養手当から障害年金への切り替え」が示されている2).2015年から難病患者への医療費助成制度が大きく変わり,指定難病の対象疾患も56疾病から306疾病に拡大された.心血管疾患は,従来心筋症等のわずかな疾病に限られていたが,多くの疾病が追加され,心血管疾患を合併することの多い染色体異常や単一遺伝子疾患も含まれるようになった.指定された疾患のうち,直近6か月間の最も悪い状態がNYHAII度以上の患者を対象とするが,高額な医療費が継続する場合は重症度にかかわらず対象となる.大津が指摘するように,指定難病と認定されれば対象疾病に関連する経済的負担は大きく軽減されるため,速やかに手続きを進めることが重要である.

よりよい患者支援のために

実際の医療現場で,支援を必要とする患者・家族の存在をいち早く察知し,ソーシャルワーカー等専門職の適切な介入に繋げるにはどうすればよいであろうか.大津は「困難事象の把握を意識した問診が重要」であると述べている2).患者が初めて病院を受診した際,リスクを抽出できるようチェックリストをつくっておくことや,患者・家族に接した医療者が「気がかりな点」を遅滞なくソーシャルワーカーに連絡する院内の体制構築は有用であろう.医師が,自らの処方する薬剤の価格や,診療にかかる費用のおおよそについて認識しておくことも重要である.よりよい患者支援を目指し,各病院で様々な方策が講じられているが,いずれも関連多職種のスタッフが患者支援に対する共通認識のもと,円滑に連携できるように院内の体制を整えておくこと,各部署/スタッフが日頃からよくコミュニケーションをはかっておくことに集約されるであろう.

社会保障制度のほかにも,診療のうえで考慮すべき支援は多い1, 3).就労しているACHD患者は,受診にあたり勤務を休まねばならない.立場の弱い雇用条件の患者にとって度重なる欠勤は大きな問題となるため,来院回数を減らす配慮が必要かもしれない.最近では,患者を中心に据え,関連多科を1日で受診できる「ワンストップ診療」を行う施設もみられる.緊急性の乏しい入院検査/治療では,仕事の繁忙期を避ける配慮も重要である.

大津は考察の中で「知的障害を有する成人患者で,高齢の両親の健康状態悪化により生活が困窮して受診困難」になった症例への介入経験についても報告している.診療継続困難の原因が,高齢化や貧困といった社会問題と深く関連している事例で,「地域との連携」の重要性を指摘している2).また大津は,ACHD患者が心臓病以外の身体的問題や社会生活上の多くの問題を抱えていることも指摘している2)

現在のACHDに関する知識や診療の技術および社会保障の制度は,本学会等の先輩方が患者・家族とともに多大なる努力・苦労のもと築きあげてこられたものである.患者・家族の視点に立ったよい制度をつくっていくために,「全国心臓病の子どもを守る会」や「心臓病者友の会(心友会)」に代表される患者・家族会等との協働も重要である.行政に対して働きかけるには相応の戦略を要するため,本学会が日本成人先天性心疾患学会等の関連学会と連携し,患者・家族会とともに要望を訴えていく必要がある.

まとめ

新しい疾患概念であるACHDの診療に携わる私たち医療者は,まさに「フロンティア」に臨んでいるといえる.大津論文のような症例の蓄積が,これからのACHD診療の礎になっていく.私たちは,目の前の患者・家族をしっかりと支えていくと同時に,次世代の患者・家族と医療者に対する責務を負っているともいえる.「一人ひとりの患者さんと家族に真摯に向き合っているか?」—大津論文は全ての医療者に多くのメッセージを発信している.

利益相反

日本小児循環器学会の定める,利益相反に関する開示項目はありません.

引用文献References

1) 日本循環器学会,日本胸部外科学会,日本産科婦人科学会,ほか:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_niwa_h.pdf

2) 大津幸枝,増谷 聡,岩本洋一,ほか:小児先天性心疾患患者の成人移行に必要な社会支援の最適化—2事例報告—.日小児循環器会誌 2017; 33: 444–447

3) 全国心臓病の子どもを守る会:心臓病児者を支える社会保障制度.一般社団法人 全国心臓病の子どもを守る会(編):心臓病児者の幸せのために 病気と制度の解説 新版.東京,2016, pp 290–323

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.大津幸枝,ほか:小児心疾患患者の成人移行に必要な社会支援の最適化:2事例報告.日小児循環器会誌 2017; 33: 444–447

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