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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(5): 404-408 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.404

症例報告Case Report

大動脈弓離断症術後遠隔期に発生した胸部大動脈瘤の一例A Case of Thoracic Aortic Aneurysm Years after Repair of Interrupted Aortic Arch

1独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, Japan Community Health Care Organization Kyushu Hospital ◇ Fukuoka, Japan

2独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院小児循環器科Department of Pediatric Cardiology, Japan Community Health Care Organization Kyushu Hospital ◇ Fukuoka, Japan

受付日:2017年6月11日Received: June 11, 2017
受理日:2017年8月25日Accepted: August 25, 2017
発行日:2017年9月1日Published: September 1, 2017
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症例は29歳男性で,出生後,大動脈弓離断症A型,心室中隔欠損症と診断された.5生日に左側開胸でBlalock–Park法による大動脈弓再建術が施行され,吻合部再狭窄に対し1歳時に再度左側開胸でDacronパッチによる狭窄部の拡大形成術を施行した.術後約20年目よりDacronパッチによる拡大形成術部位が瘤化し,最大短径45 mmへ拡大した.3回目の左側開胸手術であったが,大腿静脈–動脈バイパスによる部分体外循環下での大動脈瘤切除および人工血管置換術を施行した.

We present the case of a 29-year-old man who was born with an interrupted aortic arch type A and a ventricular septal defect. At 5 days after birth, he underwent the Blalock–Park aortoplasty through a left thoracotomy. However, when he was one year old, stenosis was noted at the anastomotic site, and the Dacron patch aortoplasty was performed to enlarge the site. Approximately 20 years after the Dacron patch aortoplasty, a thoracic aortic aneurysm was detected at the patch enlargement site which reached a maximum diameter of 45 mm. Although this was the third recurrent left thoracotomy, we successfully performed aneurysmectomy and graft replacement of the thoracic aorta using femorofemoral bypass.

Key words: Blalock–Park procedure; interrupted aortic arch; aortoplasty; thoracic aneurysm

緒言

大動脈弓離断症A型に対するBlalock–Park法1)による大動脈弓再建術後の吻合部再狭窄に対し,1年後にDacronパッチによる狭窄部の拡大形成術を施行するも,術後遠隔期に瘤化し,29歳時に左側開胸による人工血管置換術に至った症例を経験した.大動脈瘤発生までの経過,治療介入の時期・方法に関して示唆を含んだ症例であったため,文献的考察をふまえて報告する.

症例提示

症例

29歳,男性.

現病歴

在胎40週,体重3,412 gで仮死なく出生後,大動脈弓離断症A型,心室中隔欠損症と診断された.他院で生後5日に大動脈弓再建が左側開胸によるBlalock–Park法で行われ,引き続き生後25日に心室中隔欠損閉鎖術が施行された.その後,大動脈弓吻合部再狭窄に対し,当院で1歳1か月時に左側開胸によるDacronパッチによる拡大形成術(狭窄部を上下へ縦切開し,対角線2.8×1.5 cmの菱形パッチを5–0ポリプロピレン連続縫合で縫着)を施行し,血圧の上下肢差は消失した.以来,経過観察中は無症状であったが,24歳時の胸部X線写真で左第一弓の拡大が見られ,26歳時のCT検査で胸部下行大動脈に最大短径45 mmの紡錘状大動脈瘤を認め,治療介入までの3年間に49 mmへ拡大した.患者家族の希望による3施設のセカンドオピニオン受診を経て,当院での左側開胸による胸部大動脈瘤切除,人工血管置換術目的に入院となった.

入院時現症

身長160 cm,体重52 kg.血圧:右上肢120/66 mmHg,左上肢80/59 mmHg,下肢133/63 mmHg.

術前胸部X線所見

心胸郭比47%,正常肺血管陰影.経時的な左第一弓の拡大を認めた.

術前心臓超音波検査

大動脈弁は二尖弁で,2度の逆流あり.左室容積,壁厚,収縮能は駆出率67.5%で正常範囲であった.

術前CT検査

胸部下行大動脈に,長さ63 mmにわたる最大短径49 mmの紡錘状の大動脈瘤を認めた.血管壁に石灰化所見は見られなかった(Fig. 1a, b).

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Fig. 1 Preoperative three-dimensional computed tomography

(a) Anteroposterior view. (b) Left lateral view. A large fusiform thoracic aortic aneurysm is noted. The white arrow points to the site of insertion of the previous Dacron patch.

手術所見および術後経過

右下半側臥位とし,体外循環送脱血路として右大腿動静脈を確保.先行手術により左第4–5肋骨が癒合していたため,第5肋間にて開胸し,第5肋骨は肋骨剪刀を用い前方で切断した.壁側胸膜と左肺尖部の癒着が強固でかつ非常に術野が深かったため,呼吸器外科医により,第6肋間よりポートを挿入し,胸腔鏡補助下の良好な視野で大動脈瘤中枢側および瘤壁と肺の癒着剥離を行った.大動脈瘤小弯側の動脈管組織を離断したところ下行大動脈の受動性が得られ,中枢側の大動脈弓(解剖学的左鎖骨下動脈)に遮断鉗子の入るスペースを得た.遠位側の下行大動脈にはほとんど癒着を認めなかった(Fig. 2a).ヘパリン全身投与後,送脱血管を右大腿動静脈へ挿入し(送血:ソーリンスタッカート体外循環用カニューレ5.2 mm,脱血:エドワーズ体外循環カニューレ22 Fr),femorofemoral(F-F)bypassによる部分体外循環を開始した.単純遮断下に大動脈瘤を切除後,20 mmのストレート人工血管(トリプレックス®,テルモ社製)を用いて人工血管置換術を行った.中枢側の大動脈壁はもともとBlalock–Park法として用いた左鎖骨下動脈であり薄く,全周性にフェルトストリップを巻き,4–0ポリプロピレン連続縫合にて人工血管と端端吻合を行った.遠位側の下行大動脈壁の性状は良好であり,同様に端端吻合を行った.瘤壁は動脈硬化性病変なく菲薄化しており,切除した大動脈瘤大弯側のほぼ中央に小さい菱形のDacronパッチを認めた(Fig. 2b).肺の剥離面は吸収性組織補強材(ネオベール®シートタイプ,京都医療設計)貼付,生体組織接着剤(ボルヒール®,化学及血清療法研究所)散布にて修復した.脊髄虚血予防として,手術前日に第4, 5腰椎の間から脊髄ドレナージチューブを挿入し,術中は運動誘発電位のモニタリングを行った.直腸温は36°C台前半以下を維持した.自己血800 mLを使用し,他家血輸血はなかった.

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Fig. 2 Intraoperative pictures

(a) A large thoracic aortic aneurysm (white asterisk) is noted. (b) The aneurysm was repaired with a 20 mm straight Triplex® graft (black asterisk). The previously inserted Dacron patch (arrow) is seen at the greater curvature of the aneurysmal wall.

術後1日目に人工呼吸器を離脱し,術後4日目に一般病棟へ帰室した.脊髄虚血所見は認めなかった.乳糜胸水が見られ,食事・飲水制限による保存的加療を行い,術後7日目に左胸腔ドレーンを抜去した.術後25日目に退院となったが,左反回神経麻痺による嗄声,嚥下障害が遷延し,術後9か月時に喉頭形成術を行った.現在,術後3年が経過しており,順調に外来観察中である.

術後CT検査

人工血管吻合部に異常所見を認めなかった.

病理組織検査

大動脈瘤壁は菲薄化していた.内膜の線維性肥厚,硝子化,石灰化を認めた.中膜はほとんど消失し,線維化,硝子化を伴いごくわずかに残存するのみであった.外膜は線維化,フィブリン析出,血管の増生を認めた(Fig. 3).

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Fig. 3 Histological examination using Elastica van Gieson staining

Histological examination of the aortic wall shows thinning of the aortic wall to approximately 2 mm in diameter. The intima shows fibrous thickening, hyalinization (asterisk), and calcification. The media seems to have almost disappeared due to fibrosis and hyalinization. The adventitia shows fibrosis, fibrin deposition, and neovascularization of the vasa vasorum. The scale bar indicates 500 µm.

考察

心室中隔欠損症を伴う大動脈弓離断症複合に対する外科治療は,現在では多くの施設で一期的修復術,すなわち胸部正中切開での直接吻合による大動脈弓再建および心室中隔欠損閉鎖が施行されている2).しかし,術前状態によっては,人工心肺を用いずに左側開胸で大動脈弓再建と肺動脈絞扼術を先行する二期的修復術が選択されることがあり,大動脈弓再建は直接吻合のほかに,A型離断症では左鎖骨下動脈を用いたBlalock–Park法,B型離断症ではCarotid artery turndown法など3),いずれの術式においても補填物を用いない大動脈弓再建が目指されてきた.現在では数多くの成人到達例が見られるようになった一方で,成長が期待できる自己組織による大動脈弓再建によっても術後遠隔期に一定の頻度で大動脈弓狭窄や拡大病変が生じる2, 3).これらの病変形成に至った病因は多岐にわたり,治療介入時期や方法,治療に伴う合併症予防に対して,個々の症例に応じた詳細な検討を行う必要がある.

本症例ではBlalock–Park法による大動脈弓再建術後の大動脈縮窄に対するパッチ拡大形成部の瘤化を約20年後から認めたが,危険因子として1957年に始まったDacronパッチ拡大形成術との因果関係が指摘されている.BackerらはDacronパッチ拡大形成術後の大動脈瘤発生は586例中70例(11.9%)であったのに対し,PTFEパッチ拡大形成術後は稀で326例中1例(0.3%)であったと報告し4),Parksらが1976~87年に施行されたパッチ拡大形成術症例39例の遠隔期の大動脈瘤破裂が10例(うち死亡6例)であったと報告した5)ことなどが,いったん発生した大動脈瘤への重大な警鐘となり,CTまたはMRI撮影による術後の定期的画像検査が推奨されるようになった.大動脈瘤の発生機序は解明されておらず,Dacronパッチと自己組織とのcompliance mismatchやDacronパッチに対する炎症反応が想定されている6).本症例では,Dacronパッチ形成部を中心とした大動脈弓部大弯側の瘤化であり,また大動脈瘤壁の病理組織所見では炎症細胞の浸潤はなく,前述の発生機序を積極的に支持する所見ではなかった.また中膜の破壊消失を呈すものの血管壁三層構造の途絶はないことから真性瘤であったが,鎖骨下動脈に由来した特異的な所見も指摘できず,病因の結論には至らなかった.

次に,本症例では成人体格の3回目の左再開胸の癒着剥離,大動脈瘤中枢側へのアプローチの困難が予測されたため,ステントグラフト治療の検討を行った.本邦における「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版)」7)では「弓部大動脈瘤に対する血管内治療は,高齢あるいは外科手術ハイリスク症例においてのみ容認されるべきである」とされ,「欧米でのエビデンスを強く反映した」ガイドラインとなっている.先天性心疾患症例の大動脈弓形成術後の大動脈瘤に対するステントグラフト治療の試みは主に欧州からの報告が散見され,いずれも症例数は少ないものの良好な成績が報告されている(手術死亡率0~12.5%).しかし,taperingの強い大動脈弓に対するcustom-madeグラフトの使用や,頭頸部分枝再建にfenestration法が行われるなど,本邦ではデバイスや術式が十分には普及していない.また,アクセス血管への治療介入を必要とした症例や,瘤径の縮小が得られない症例(25%)も見られ8),さらにステントグラフトのmigration,エンドリーク,耐久性,頸部分枝へバイパスされた人工血管の開存率などの遠隔成績は全く不明であり,確実な治療法とは言い難いのが現状である.本症例は左鎖骨下動脈に由来するtaperingと強い屈曲のある大動脈弓形態であることから,左総頸動脈への非解剖学的パイパスを行った上で,ステントグラフト中枢landing zoneを左総頸動脈の中枢側に取る必要が生じる.先述のステントグラフト治療の不確実性に加え,先行手術により左鎖骨下動脈および左椎骨動脈を犠牲にされているため脳合併症の危険性が低くないことから,耐術能の見込める若年者に対する再開胸下での人工血管置換術に比し,十分な優位性はないと判断した.

最後に,今回施行した胸部下行大動脈瘤手術について検討する.まず,胸骨正中切開アプローチでは,健常な下行大動脈までの距離が遠くなるため末梢側吻合が困難と判断し,左側開胸アプローチによる再手術を選択した.3度目の開胸による剥離困難や瘤中枢側の壁性状不良に備え,open proximal法による中枢側吻合の準備を行ったが9),幸いに部分体外循環下での単純遮断による人工血管置換術が施行可能であった.一方で,胸膜損傷・乳糜胸・左反回神経麻痺など,治療を要する合併症が発生した.また術後3年間のCT検査では問題はないものの,解剖学的左鎖骨下動脈への人工血管中枢側吻合部位の瘤化の懸念は残っており,今後も慎重な経過観察が必要である.

結語

Blalock–Park法による大動脈弓形成術後の吻合部狭窄に対し,Dacronパッチ拡大形成術が施行された長期遠隔期に,Dacronパッチ拡大形成術の部位に大動脈瘤を発生した症例を経験した.3回目の左側開胸アプローチでもF-F bypass補助下に,大動脈瘤切除,人工血管置換術を施行できたが,合併症の発生を認め,人工血管吻合部に対する遠隔期の懸念は残った.デバイスの開発とともにステントグラフト治療の適応が拡大する一方で,成人先天性心疾患患者においては,年齢や先行手術の術式からステントグラフトグラフト治療が現時点では第一選択とならない症例が存在する.病変確認時点における最善の治療方法を,個々の症例に応じて慎重に検討する必要がある.

利益相反

本論文について,開示すべき利益相反(COI)はない.

引用文献References

1) Blalock A, Park EA: The surgical treatment of experimental coarctation of the aorta. Ann Surg 1944; 119: 445–452

2) Hussein A, Iyengar AJ, Jones B, et al: Twenty-three years of single-stage end-to-side anastomosis repair of interrupted aortic arches. J Thorac Cardiovasc Surg 2010; 139: 942–949, 949, discussion, 948

3) Todman SH, Eltayeb O, Ruzmetov M, et al: Outcomes of interrupted aortic arch repair using the carotid artery turn down. J Thorac Cardiovasc Surg 2013; 145: 176–182

4) Backer CL, Paape K, Zales VR, et al: Coarctation of the aorta. Circulation 1995; 92 Suppl: 132–136

5) Parks WJ, Ngo TD, Plauth WH Jr., et al: Incidence of aneurysm formation after Dacron patch aortoplasty repair for coarctation of the aorta: Long-term results and assessment utilizing magnetic resonance angiography with three-dimensional surface rendering. J Am Coll Cardiol 1995; 26: 266–271

6) Cramer JW, Ginde S, Bartz PJ, et al: Aortic aneurysms remain a significant source of morbidity and mortality after use of Dacron® pacth aortoplasty to repair coarctation of the aorta: results from a single center. Pediatr Cardiol 2013; 34: 296–301

7) 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告):大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版).http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_h.pdf

8) Zipfel B, Ewert P, Buz S, et al: Endovascular stent-graft repair of late pseudoaneurysms after surgery for aortic coarctation. Ann Thorac Surg 2011; 91: 85–91

9) Yoshimura N, Yamaguchi M, Oshima Y, et al: Reoperation for interrupted aortic arch with the use of retrograde cerebral perfusion. Ann Thorac Surg 2001; 72: 1744–1746

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