日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(4): 343-344 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.343

追悼文追悼文

故 佐地勉先生を偲んで

東邦大学医学部小児科学講座

発行日:2017年7月1日Published: July 1, 2017
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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(4): 343-344 (2017)

「ただ呆然とするばかり.」佐地先生が永眠されたことがまだ現実のこととは思えない,私の現在の心情を表わすのに最も適切な言葉です.本年3月下旬に膵臓がんであると知らされた後,私達が何もできずおろおろしながら2か月間を過ごすうちに佐地勉先生は静かにこの世を去って行かれました.最も近くにいた筈の私も,初めて病室へお見舞い伺うことができたのはご逝去される僅か3時間前のことでした.

故佐地勉先生は昭和51年3月東邦大学医学部をご卒業後,指導が厳しいことで有名だった故中山健太郎先生(小児血液学)主宰の小児科学教室に入局されました.当時,医局内には循環器を志す先輩がいらっしゃらなかったそうで,東京女子医科大学心臓血圧研究所で高尾篤良先生(故人)や昭和59年に当教室教授に就任された松尾準雄先生(故人),米国USC附属Los Angeles小児病院Heart CenterのResearch FellowとしてDr. Masato Takahashiなどご高名な先生方のご指導を仰ぎ,平成9年4月に当教室の教授に就任されました.その後も勢力的に学究的活動に打ち込まれ,平成28年3月に定年退職されるまで驚異的とも言える数多の業績を積み上げて,学会などでの要職の数々をこなされてきたことは皆様ご存知の通りです().私が最初に佐地先生にご挨拶したのは昭和59年12月で,その後当教室に移籍して以来30年以上にわたって篤いご指導をいただいて参りました.小児科医・小児循環器科医として育んでいただいただけでなく,LAの佐地先生の親戚宅へ一緒に宿泊させていただいたことなど,今こうしていても公私にわたる数え切れない思い出がまさに溢れるように蘇ってきます.

表 故佐地勉先生の業績の一部
・日本循環器学会ガイドライン委員
肺高血圧(初版・改訂・再改定)
急性・劇症心筋炎(初版・改訂)
川崎病の心血管後遺症(初版・改訂)
成人先天性心疾患
心疾患の遺伝カウンセリング
小児期心疾患の薬物療法(班長)
・日本小児循環器学会ガイドライン委員
急性期川崎病治療ガイドライン
心不全の薬物療法
シナジス投与ガイドライン
小児肺高血圧ガイドライン(班長)

私自身が仕事に疲れた時や論文を書く手が止まった時,いつも思い出す言葉があります.「夜10時過ぎに疲れて医局へ戻ってきた時に,『今日はもういいや』と言う気持ちを振り払って1行でも筆を進めないと論文は仕上がらない」佐地先生ご自身のお仕事ぶりはその言葉通りの日々で,研究活動の幅広さと奥深さは改めてご紹介申し上げるまでもなく,肺高血圧,川崎病,心筋炎,先天性心疾患など多岐に亘ります.特に若年者の肺高血圧については,特異的肺動脈拡張薬が開発される前から勢力的に研究を進めた結果,日本だけでなくアジアをリードし,欧米の権威ある専門家と良い意味での競争をしながら,日本の先頭を走って標準的治療の確立に貢献されました.1996年に佐地先生自ら米国へ同道し実現した,患者さんのご両親をドナーとする生体肺葉移植はエポック・メーキングな治療であり,国内で小児に初めて生体肺葉移植が行われる5年も前のことでした.幸い,この患者さんは今でもご両親ともども元気でお過ごしになっていて,定職につかれ立派に社会貢献をなさっています.この他にも,様々な困難を乗り越えて経皮的肺動脈弁拡大術,肺高血圧に対するNO吸入,Epoprostenol持続静注療法,川崎病に対するInfliximab静注療法などを次々と日本に導入されてきました.日本の小児循環器医療のbreak throughとなる先進的研究と臨床的成功の一部始終を驚嘆しながら目の当たりにしてきた筆者は大変な幸せ者であった,と今改めてひしひしと感じています.

そんな佐地先生の特筆すべき点は,研修医や学生教育にとりわけ熱心で,長時間にわたり懇切丁寧に指導されていたことだと思っています.ある時,佐地先生が学会発表の指導を研修医になさっていた際に,研修医がパニックに陥り不遜な態度をとったことがありました.後刻,「あの態度をよく我慢されましたね」と私が水を向けると「これからずっと付き合っていかなければならない医局員だ.頭ごなしに叱りつけたらその時点で人間関係の糸が切れてしまう.」とおっしゃったことが印象に残っています.そんなお人柄があったからこそ,学内関係者だけでなく,友人と呼ぶに相応しい国内外の優れた研究者・臨床医との広大なネットワークを構築しえたのではないでしょうか.

追悼文を終えるにあたり,当講座医局員一同,そして全国の諸先生と共に故佐地勉先生のご冥福を心からお祈り申し挙げたいと思います.長い間お世話になりました.どうぞ安らかにお眠り下さい.合掌.

平成29年7月

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