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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(2): 156-162 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.156

ReviewReview

房室弁疾患の外科治療Surgery for Congenital Atrioventricular Valve Disease

富山大学大学院医学薬学研究部外科学(呼吸・循環・総合外科)講座Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences, Department of Cardiothoracic Surgery, University of Toyama ◇ Toyama, Japan

発行日:2017年3月1日Published: March 1, 2017
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先天性房室弁疾患の外科治療には未解決な問題が多く,challengingな領域である.

【先天性僧帽弁膜症】形態異常が多岐にわたること,ほかの心疾患を合併する頻度が高いことから,治療に難渋する疾患群である.弁形成術が第一選択であるが,形成が不可能な高度の病変に対しては人工弁置換術が選択される.弁置換術後は,身体の発育に応じて人工弁のサイズアップが必要となる.

【房室中隔欠損症】左側房室弁狭窄を招来することなくいかに逆流を防止するかが問題となる.房室中隔欠損の弁形成の成否は房室弁を左右に正しく分割できるか否かにかかっており,正しい分割が行われないと,弁形成は決して成功しない.

【単心室症例に合併する房室弁疾患】房室弁逆流の存在は,Fontan型手術を目指す単心室症例の予後を著しく悪化させる.特に新生児や乳児早期から手術介入を要する高度の房室弁病変の治療は非常に困難である.弁形成術の成績は不良で,症例によっては人工弁置換を選択したほうが良好な結果が得られることもある.

【Ebstein病】 2004年,da Silvaらにより報告されたCone reconstructionは術直後から遠隔期まで,三尖弁逆流が良好に制御され,今後,本疾患に対する標準術式となることが期待される.

Surgery for atrioventricular valve disease in infants and children has been a major therapeutic challenge for many years.

[Congenital mitral valve disease] It poses special clinical and technical difficulties that include a wide spectrum of morphologic abnormalities, high prevalence of associated cardiac anomalies, and small experience at each institute. Although conservative procedures may obviously be preferred procedures of choice, mitral valve replacement should be considered the procedure of choice in patients with severe deformities wherein conservative surgical treatment is unfeasible. Mitral valve replacement carries the disadvantage of requiring repeat valve replacement for relative prosthetic valve obstruction because of somatic growth.

[Atrioventricular septal defect] It is important to maintain or create two-competent, nonstenotic atrioventricular valves. Effective atrioventricular valve repair depends on adequate septation.

[Atrioventricular valve disease in patients with functional single ventricle] Surgery for patients with a functional single ventricle who have atrioventricular valve regurgitation remains a clinical challenge. Neonates or early infants who require surgical treatment of atrioventricular regurgitation still have poor outcomes. Although valve repair is preferable, prosthetic valve replacement should be considered when valve repair is questionable.

[Ebstein’s anomaly] Cone reconstruction of the tricuspid valve results in central blood flow through the tricuspid orifice and full coaptation of the leaflets. This technique can be performed with low mortality and morbidity. Early and long-term outcomes are favorable.

Key words: congenital mitral valve disease; atrioventricular septal defect; univentricular heart; Ebstein’s anomaly

はじめに

先天性房室弁疾患の外科治療には未解決な問題が多く,challengingな領域である.対象となる疾患,房室弁形態,手術手技等は多岐にわたる(Table 1).外科治療に際して,それぞれの疾患の稀少性,弁形態の多様性,併存疾患による循環動態の特殊性,患児の年齢や成長を考慮した手術介入時期や術式の選択等,しばしば複雑かつ困難な問題が生じてくる.今回は,代表的な先天性房室弁疾患として先天性僧帽弁膜症,房室中隔欠損症,単心室症例に合併する房室弁病変,Ebstein病について概説する.

Table 1 Surgery for congenital atrioventricular valve disease
Left side atrioventricular valve disease
Biventricular anatomy
Congenital mitral valve disease
Atrioventricular septal defect
Tricuspid insufficiency in patients with corrected transposition of the great arteries (Ebstein like lesion)
Single-ventricular physiology
Common atrioventricular valve disease
Tricuspid valve disease
Mitral valve disease
Right side atrioventricular valve disease
Ebstein’s anomaly
Congenital tricuspid valve disease

先天性僧帽弁膜症

1. 僧帽弁形成術

先天性僧帽弁疾患は比較的稀な疾患で,まとまったシリーズの報告はそれほど多くないが,形態の異常が多岐にわたること,ほかの心疾患を合併する頻度が高いことから,しばしば治療に難渋する疾患群である1–4).合併する心疾患としては心房中隔欠損,心室中隔欠損,大動脈縮窄の頻度が高い1, 2, 5).僧帽弁を構成するコンポーネントとして弁輪,弁組織,腱索,乳頭筋があり,それぞれの形態異常が単独もしくは複数か所存在する.先天性僧帽弁膜症の病変に関してはCarpentierら1)による詳細な観察,分類がなされているが,後天性弁膜症と異なり弁下組織の形態異常が多いことが特徴である(Table 2).弁形成手技に関してもCarpentierら1)を中心に数多くの手技が報告されてきた(Table 3)が,そもそも心臓自体が小さいこと,弁下組織の複雑な形態異常が多いことなどから弁形成術は決して容易ではなく,外科医の力量に負うところが多かった.近年,小児の先天性僧帽弁膜症に対してもePTFE糸を用いた人工腱索が導入され良好な成績が報告されるようになった5).以下に代表的な僧帽弁形成手技としてKay-Reed法による弁輪縫縮術とePTFE糸を用いた人工腱索について概説する.

Table 2 Mitral valve lesions
Type of lesionsChauvaud1)Yoshimura2)Oppido3)
Type I: Normal leaflet motion
Annular dilatation73025
Cleft leaflet18624
Leaflet defect6
Type II: Leaflet prolapse
Chordal elongation4613
Papillary muscle elongation248
Absence of chordae99
Type III: Restricted leaflet motion
A: Normal papillary muscle
Commissure papillary fusion8112
Short chordae7
B: Abnormal papillary muscle
Parachute mitral valve53
Hammock mitral valve122
Papillary muscle hypoplasia31
Table 3 Techniques of mitral valve repair
Technique of repairChauvaud1)Yoshimura2)Stellin4)
Annuloplasty
Carpentier prosthetic ring706
Plication of the commissures6304
Plication of the annulus520
Semicircular suture5
Cleft suture without patch14621
Pericardial patch enlargement
Anterior leaflet14
Posterior leaflet8
Redundant valvular tissue removal14
Chordal shortening4689
Papillary muscle shortening2410
Chordal transposition12
Artificial chordae3
Commissurotomy15115
Splitting of papillary muscle13335
Fenestration of papillary muscle9
a)Kay-Reed法による弁輪縫縮術

小児に対する僧帽弁輪縫縮術としてはKay法,Reed法6)Fig. 1)が最も有用である.弁輪が拡大し,前尖–後尖間のcoaptationが不良となり逆流を生じている場合,より逆流の多い交連,場合によっては両交連を縫縮する.筆者はプレジェット付き4–0ネスポーレン糸®を用いてマットレス縫合による弁輪縫縮を行うReed法を好んで行っている.前後尖間の交連尖を縫い潰して前後尖間の距離を縮める.弁輪から3~5 mm離して刺入→弁輪から刺出→交連尖を挟み込むように弁輪から刺入→弁輪から3~5 mm離して刺出という具合に運針する.このReed法のマットレス縫合の上を補強する目的でKay法によるfigure of “8” sutureを追加する方法も報告されている.Kay-Reed法による弁輪縫縮術は比較的容易に行うことのできる手技で一定の効果が得られ,かつ弁輪の成長を妨げない有用な方法であると考えられる.

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Fig. 1 Mitral annuloplasty: Reed technique

When the sutures are placed and tied as illustrated, the anterior leaflet is advanced toward the posterior leaflet resulting in the adequate coaptation. This technique can be performed easily, and expected long-term durability.

b)ePTFE糸を用いた人工腱索

弁下組織の病変に対しては,古くから多くの術式が行われてきた.特に腱索・乳頭筋の延長による前尖の逸脱が多くみられることから,腱索短縮や乳頭筋短縮等が代表的な形成手技であった.しかしこれらの術式はミリ単位での長さの調節が難しく,やり直しもきかないため,難易度の高いかつ効果が不確実な術式でもあった.1990年代に入り,それまで成人領域で広く行われていたePTFE糸を用いた人工腱索が小児例にも行われるようになり,良好な中期成績が報告されるようになった.「成長しない」人工腱索を小児に使用することの是非に関しては議論のあるところではあるが,予想以上に良好な長期成績が期待されている.実際に本術式を行うにあたって,最も難しい点は「適切な長さの決定」である.成人例に比較して弁輪,弁尖,左室容積が小さく,人工腱索の長さを決定することが困難であるばかりでなく,結紮時に結び目がずれてしまったり,大きな結び目が小さな弁尖の動きを阻害する可能性が危惧される.筆者はMatsumoto, Kadoらの方法5)に準じて乳頭筋側で結紮する方法を採用している.弁尖から刺入したePTFE糸を乳頭筋側に刺出させ,小さなプレジェットに通し,弁尖が乳頭筋に密着するところまでプレジェットごとePTFE糸を引き上げたうえで対側の弁尖の高さで結紮する(Fig. 2).長さの決定が容易で,結び目のずれや結び目による弁尖の可動制限の心配もない良い方法である.

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Fig. 2 Mitral valve repair: Artificial chordae tendineae

A double-armed mattress ePTFE suture (CV-5®) was passed through the free edge of the leaflet and through papillary muscle. The sutures were then passed through a small pledget, where the sutures emerged from the papillary muscle. This suture was drawn until the leaflet was drawn to the papillary muscle.The knot was then tied at the level of the opposing normal leaflet. The new chordae were then pulled back through the papillary muscle until the pledget came up against the muscle.

2. 僧帽弁置換術

外科治療としては当然ながら弁形成術が第一選択術式となるが,形成が不可能な複雑で高度の弁病変に対しては人工弁置換術が選択される2).弁輪が狭小で心拍出量が少ない小児特に幼若な乳児例には,そもそも最小サイズの人工弁すら移植困難であり,手術に際して工夫が必要であること,過大な人工弁を挿入した際には血栓弁が生じやすいこと,抗凝固療法が困難であること等の問題がある.また人工弁置換術後は,身体の発育に応じて順次,人工弁のサイズアップが必要となる2, 7, 8)

a)人工弁の挿入手技

小児に対しては耐久性,石灰化の問題から通常は機械弁が選択される.術後の心機能低下を考慮し,最低でも後尖とその弁下組織を温存することが望ましい9).本来の弁輪に移植することができない場合,弁座にePTFE人工血管等を縫着してスカートとし,左房壁に縫着する方法10)もある.

b)血栓弁と抗凝固療法

患児の成長を考慮して可及的弁口面積の大きな人工弁を挿入しておきたいところではあるが,そもそも人工弁を通過する血液の量が少なく,血栓弁の発症が危惧される.特に乳児例においては血栓弁が生じて一葉が閉鎖してしまっても無症状で経過することもあり,注意を要する.早期に発見された場合はウロキナーゼによる血栓溶解療法が有効である2)が,発見が遅れた場合は再弁置換術を余儀なくされることになる.抗凝固療法はワルファリン®を中心に行われるが,効果に個人差があること,思春期以降のコンプライアンスの低下等さまざまな問題がある.

c)身体の発育に応じた人工弁のサイズアップ

小児期に人工弁置換術が行われた場合,身体成長に起因する人工弁の相対的狭小化は避けられず,必要に応じた人工弁のサイズアップを行わなければならない2, 7, 8).心不全を来した症例に対する再弁置換術のリスクは高く11),患児の全身状態が悪化する前の適切なタイミングで再弁置換術を行う必要がある.再弁置換術の適応やタイミングに関するまとまった報告は少ないが,Yoshimuraら2)は19 mm以下の人工弁が挿入されている場合,体表面積が弁置換手術時の2倍,体重が3倍の時点で再弁置換術が行われたと報告し,Henaineら7)は心エコー上,人工弁での平均圧格差が16.8 mmHgで再弁置換術が行われたと報告している.いずれも再弁置換術時の死亡例はなく,2~3サイズ大きな人工弁が挿入可能であったと報告している2, 7)

房室中隔欠損症

心内膜床の発育不全によって房室接合部に生じる一連の形態異常で先天性心疾患の約3%にみられる.本症の形態的特徴として房室中隔の欠損,房室弁の形成異常,心室中隔のscooping,左室流出路の延長,房室結節~刺激伝導路近位部の下方偏位等が挙げられる.詳細は成書12)を参照していただき,本稿では本症の房室弁に対する外科治療について概説する.

1. 不完全型房室中隔欠損症

共通房室弁におけるbridging leafletがconnecting tongueによって癒合し,左右2つの房室弁に分割されている.左側房室弁(僧帽弁)前尖にはcleftが存在する12).外科治療を行うにあたり,左側房室弁狭窄を招来することなくいかに逆流を防止するかが問題となる.不完全型房室中隔欠損の手術は一見単純で容易な手術と考えられがちであるが,房室弁の左右分割線が最初から決まってしまっており,状況に応じて分割線を設定し直すことができないこと,弁や弁下組織の先天異常の頻度が多いことなどから,意外に遠隔期の遺残病変や再手術が多い.Aubertら13)は208例の不完全型房室中隔欠損症例を検討し,術後遠隔期4例に僧帽弁形成術,6例に僧帽弁置換術が行われ,術後20年での再手術回避率は83.0%であったと報告している.本症に対する僧帽弁の処置はcleft縫合である.必ず弁下組織を観察し,異常所見の有無を確認する.アンバランスな乳頭筋を有する症例ではcleft先端の位置決めが難しく,先端の位置を誤ると僧帽弁逆流がコントロールできなくなる.

2. 完全型房室中隔欠損症

房室弁は左右に分割されておらず共通房室弁形態である.Connecting tongueは形成されず心室中隔のcrest上に直接付着する弁尖組織が欠如し,大きな心室中隔欠損(VSD)が存在する12).完全型房室中隔欠損の弁形成の成否はVSDパッチにより房室弁を正しく分割できるか否かにかかっており,正しい分割が行われないと,その後の形成は決して成功しない.Superior bridging leafletとinferior bridging leafletを用いて左側房室弁(僧帽弁)前尖を形成する.以下に注意点を述べる.

1)VSDパッチの幅が大き過ぎるとsuperior bridging leafletとinferior bridging leafletの隙間が大きくなり,房室弁のcoaptationが浅くなる.VSDパッチの幅はVSD前後径の80%程度とする.

2)VSDパッチの高さが高すぎると房室弁が押し上げられ,房室弁のcoaptationが浅くなる.VSDパッチの高さはVSDの深さの80%以下とする.

3)Superior bridging leafletとinferior bridging leafletとの接合部(cleftの基部になる)のapposition zoneは深くした方がよい.VSDパッチの上縁に小さな切れ込みを入れておくとapposition zoneを深くすることができる.

4)左右分割線を正しく設定する(Fig. 3).特にinferior leafletの分割線が左側に寄りすぎると僧帽弁前尖組織が足りなくなって逆流が制御できなくなる.Cleft縫合を何度やり直しても逆流が残存する場合は分割線を右側(三尖弁側)に移動させることによって逆流が消失することもある.

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Fig. 3 Septation of the common atrioventricular valve

Adequate atrioventricular valve repair depends on adequate septation.

単心室症例に合併する房室弁病変

房室弁逆流の存在は,Fontan型手術を目指す単心室症例の予後を著しく悪化させる.特に共通房室弁形態もしくは三尖弁形態で,新生児や乳児早期から手術介入を要する高度の房室弁病変の治療は非常に困難である14–17).Nakataら14)は房室弁形成術を施行した機能的単心室65例(isomerism heart: 31,左心低形成症候群:12)について検討し,手術時期はGlenn前21例,Glenn時もしくはFontan前29例,Fontan時もしくはFontan後15例で,5年生存率70%,房室弁への再手術もしくは中等度以上の弁逆流再発回避率は5年で39%であったと報告している.主として交連部の弁輪縫縮,交連もしくはcleft縫合,edge to edge repair等が多用されているが,特にisomerism heartでは弁病変が複雑で逆流の制御は困難である.Nakataら14)は38例がFontan手術に到達したが,初回弁形成術時の体重が4 kg未満であった症例は予後不良であったと述べている.Andoら15)は三尖弁もしくは共通房室弁形成術を施行した機能的単心室49例のうち,edge to edge repairを行った22例と行わなかった27例を比較検討し,edge to edge repairについて報告している.Edge to edge repairを行った群では重症例が多く含まれていたにもかかわらず,術後は95.5%の症例で逆流がmild以下に減少したのに対して,edge to edge repairを行わなかった群では術後の逆流がmild以下に減少した症例は48.4%にとどまり,遠隔期においてもedge to edge repairを行った群のほうが良好な弁機能を保つことができたと報告している.

機能的単心室特にisomerism heartの場合,弁病変が高度で弁逆流を良好に制御することは非常に困難である.以前は単心室症例に対する房室弁置換術の成績は極めて不良で「単心室症例に人工弁置換術は行うべきではない」というのが定説であったが,最近では心機能が低下する前に人工弁置換術を行い逆流を止めてしまったほうがむしろ良好に経過する症例も見られるようになってきた14–17).右心バイパス症例においては房室弁を通過する血液の量が少なく,比較的小さな人工弁でも身体の成長に伴う相対的狭小化をきたしにくいことも人工弁置換の長所といえる.乳児早期から高度の逆流を呈する重症例に対しては弁形成術を繰り返すよりもある程度の時期に人工弁置換術を行うという治療戦略も,今後は考慮してもよいのではないかと考えられる.

Ebstein病

三尖弁と右室流入部の形成異常であり,主として中隔尖や後尖,稀に前尖の一部が本来の弁輪よりも右室側から起始する.腱索や乳頭筋の形成も不良で,弁尖は心室壁に貼り付き弁機能不全を呈する.本症はスペクトラムが広く,新生児期に三尖弁を閉鎖して一心室修復を目指す症例から,三尖弁逆流を制御し,二心室修復を行う症例まで様々である18).本稿では後者に対する弁形成術について概説する.

a)Carpentier手術

Ebstein病に対してはこれまで,Hardy, Danielson, Quaegebeur, Carpentier, Hetzerなど数多くの術式が提唱されてきた.これらのうち,小児例に対してもっとも一般的に用いられてきたのはCarpentier手術である.本術式は,1)前尖と後尖を弁輪より切り離し,可動性を得るために癒合した腱索の切離や必要に応じて弁尖の開窓を行う,2)心房化右室を縦軸方向に縫縮する,3)縫縮された弁輪に前尖と後尖を時計方向に回転させて縫着する,という3つの操作を行う19)

b)Cone reconstruction

2004年,da Silvaら20)により報告された術式である.Carpentier手術の基本的な概念は踏襲し,前尖と後尖を弁輪より切り離し,可動性を得るために癒合した腱索の切離や必要に応じて弁尖の開窓を行うが,中隔尖も可及的に剥離・受動して,先端が心尖に固定された円錐(cone)を形成する.縦方向に縫縮された弁輪にconeを縫着する.da Silvaら20)は中隔尖も可及的に使用してconeを形成することにより,三尖弁の中心を血液が通過し,かつ良好なcoaptationを得ることができると述べている.Cone reconstructionは術直後から遠隔期まで,三尖弁逆流が良好に制御され,今後,本疾患に対する標準術式となるのではないかと期待される(Fig. 4).

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Fig. 4 Cone reconstruction

Cone-shaped valve which is attached to the right ventricular apex was reconstructed with anterior and posterior leaflets. In some cases, septal leaflet can be used to create a wider cone. The new valvular annulus is constructed at the anatomically correct level.

まとめ

先天性僧帽弁膜症,房室中隔欠損症,単心室症例における房室弁病変,Ebstein病に対する外科治療の概略について記載した.小児の房室弁疾患外科治療においては房室弁形成術が中心となる.複雑かつ多岐にわたる形態異常,合併心疾患による循環動態への影響,患児の年齢や成長を考慮した術式の選択等問題点が多く,手術成績も決して良好とはいえない.今後の発展が望まれる領域である.

利益相反

本論文について開示すべき利益相反(COI)はない.

引用文献References

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