Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 33(2): 125-134 (2017)
doi:10.9794/jspccs.33.125

ReviewReview

不整脈:学校心臓検診で診断される不整脈の管理と治療The Management and Therapy for Arrhythmias Extracted from School-based Cardiovascular Screening

大阪市立総合医療センター小児不整脈科Pediatric Electrophysiology, Pediatric Medical Care Center, Osaka City General Hospital ◇ Osaka, Japan

発行日:2017年3月1日Published: March 1, 2017
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学校心臓検診で抽出される不整脈は無自覚・無症状の疾患がその大勢を占め,その管理に苦慮することは多い.本稿では学校心臓検診で抽出される,心室性期外収縮(PVC),QT延長症候群(LQT),WPW症候群について概説する.PVCは多くが治療介入の必要がない良性の不整脈である.カテコラミン誘発性多型心室頻拍(CPVT)の鑑別が問題となるが,CPVTは安静時PVCを認めないことが多く検診で抽出されるPVCにCPVTが含まれることは稀である.LQTはトレッドミル検査やホルター検査で精査を行う.補正式はFridericia補正が推奨されている.LQTが疑われる場合,運動制限,予防内服治療,遺伝子検査について検討が必要となる.WPWはΔ波で診断される心房と心室をつなぐ副伝導路による疾患だが,Δ波を有する早期興奮症候群の中で束枝と心室をつなぐ副伝導路(FVP)との鑑別が問題となる.FVPは頻拍発作や突然死のリスクのない疾患であり,疾患概念を理解しておくことは重要である.

Arrhythmias extracted from school-based cardiovascular screening accounts for a large number of asymptomatic diseases, and there are many cases where it is difficult to manage them. In this article, we outline the premature ventricular contractions (PVCs), long QT syndrome (LQT), and WPW syndrome extracted from school-based cardiovascular screening. PVCs are a form of benign arrhythmia, many of which do not require drug treatment or intervention. Although a differential diagnosis of catecholamine-induced polymorphic ventricular tachycardia (CPVT) is problematic, CPVT does not often exhibit PVCs at rest, and it is rarely is CPVT detected by PVCs extracted by screening. LQT is examined by treadmill tests and Holter recordings. The Fridericia correction is recommended for the correction formula. If LQT is suspected, exercise limitations, preventive medication, and genetic testing should be considered. Although WPW is a disease caused by an accessory pathway connecting the atrium and ventricle diagnosed by a Δ wave, the distinction between a fasciculoventricular pathway (FVP) and WPW syndrome becomes problematic. FVPs are a disease free from the risk of tachycardias and sudden death and it is important to understand the concept of the disease.

Key words: school-based cardiovascular screening; premature ventricular contraction; long QT syndrome; WPW syndrome; fasciculoventricular pathway

はじめに

学校心臓検診は,昭和48年の学校保健法施行規則の改正により,定期健康診断の項目としてその実施が義務づけられた.平成6年には学校保健法施行規則が一部改正され,小・中・高等学校の1年生全員に心電図検査が義務づけられて,日本全国で施行されている.世界的に見ても貴重な評価に値するシステムとなっている.

学校心臓検診で抽出される不整脈はその性質上,無自覚・無症状で診断される症例が大勢を占める.家族も児童が不整脈を有しているという自覚がなく,その管理や指導に苦慮することは多い.

東京都の2009年の資料1)によると,東京都内の公立小学校1年生・中学校1年生,都立高校1年生の3学年の合計89,099人の中から抽出された心電図異常は616人(0.69%)と報告されている.心室期外収縮が370人(60%)で最も多く,WPW症候群118人(19%),心房期外収縮29人(4.7%),完全右脚ブロック27人(4.3%),2度房室ブロック18人(2.9%),QT延長症候群15人(2.4%),1度房室ブロック14人(2.2%)と続く(Fig. 1).本稿ではその中で管理に苦慮することの多い心室期外収縮,QT延長症候群,WPW症候群の管理と治療について概説する.

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Fig. 1 Electrocardiogram abnormalities from first-grade public elementary school, first-grade public junior high school, first-grade public high school in Tokyo 2009

Among 89,099 students, 616 students, 0.69% are extracted. Modified from Table 4 in Reference 1).

心室期外収縮

心室期外収縮(premature ventricular conduction,以下PVC)は,学校心臓検診で診断される代表的な疾患である.ほとんどの症例は無自覚,無症状で診断される.経過観察中にPVCが減少,消失することもある.大多数が治療介入や運動制限の必要がない良性の不整脈であるが,経過観察中,心室頻拍に移行する症例が稀にある.またPVCの頻度が20~30%と多い症例では頻拍誘発性心筋症に移行する症例もあることが報告されており,注意が必要である2).運動後やホルター検査で2~5連発が確認される場合は,運動制限について管理に苦慮することも多い.

カテコラミン誘発多形心室頻拍(CPVT)の鑑別が問題となるが,CPVTは安静時にはPVCを認めない症例が多く,学校検診で抽出されるPVCにCPVTが含まれることは稀である.

症例1:4歳女児

4歳のPVC多発症例で軽度心機能低下を認めた症例を呈示する.

もともと疲れやすい子だという印象を家族が持っていた.3歳検診でPVCと診断され近医でホルター検査を施行された.PVCは総心拍数の26%で,連発はなく,BNP値は48 pg/mLであったが,半年後にBNPを再検したところ,220 pg/mLまで上昇していたため,βブロッカーの投与を開始された.

2か月後の再検で,BNP 145 pg/mL,胸部エックス線写真でCTR 59%と心拡大傾向を認め,ホルター心電図でもPVCの頻度が48%と進行していたため,本院に紹介された.ホルター心電図ではほぼ終日二段脈の状態で,心エコー検査ではLVDd 38.1 mm(正常の118%,Z-scoreは1.3),FS 28%と軽度低下していた.血液検査でBNPは233 pg/mLと高値を認めた.胸部エックス線写真はCTR 50%でうっ血所見は認めなかった.

カテーテルアブレーション治療を行い,右室流出路のPVC最早期興奮部位への通電によりPVCは消失し,以後再発を認めなかった.1か月後BNPは14.7 pg/mLまで低下して以降は悪化することはなく,心エコーのFSも正常化した(Fig. 2).

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Fig. 2 Clinical data of Case 1

(A) Twelve-lead electrocardiograms in Case 1. Bigeminy right ventricle outflow PVC are observed. (B) Ablation procedure in Case 1. Right oblique (RAO) and left oblique (LAO) projections showing the site of successful ablation. (C) Transition of BNP and FS from pre ablation, and after 1 month, 3 month, 1 year.

頻拍誘発性心筋症(TIC: Tachycardia Induced Cardiomyopathy)とは,頻拍自体が心機能を低下させ,心不全を引き起こす病態である.拡張型心筋症に類似した病態を呈するが,不整脈を治療すれば,心筋症は治癒する.TICを起こす不整脈として,PJRT(permanent form of junctional reciprocating tachycardia, slow accessory pathwayを伴うタイプ),非通常型房室結節リエントリー頻拍(Atrioventricular Nodal Reentrant Tachycardia: AVNRT fast/slow uncommon type),異所性心房頻拍,心室期外収縮,非持続性心室頻拍等が報告されている.

Tanらは,動物実験モデルの検討で,PVCの頻度が25%を越えると心機能が低下する傾向を認め,50%では全例が心機能低下を示したと報告している3)

Zhongらは,PVCに対するカテーテルアブレーション治療と抗不整脈薬の比較検討を行っている.PVCの頻度が1,000回/24時間以上の510症例を対象として,40%をアブレーション治療,60%を抗不整脈薬で治療を行った結果を解析し,アブレーション治療は抗不整脈治療よりもPVCを減少させ,LVEFを改善させたと報告している4)

Zebulonらは,頻度が25%以上のPVC小児症例36例(8か月~18歳)の検討を報告している.心機能低下をFS 28%以下,LVIDd Z-score >2.2と定義して検討した結果,19%に心機能低下を認めた.一方16%が自然経過で10%以下の頻度に減少したとも報告している.成人で報告されているよりも高い頻度で心機能低下を認めているが,症例数が少ないこと,また小児では自然軽快することもあることから,今後さらに検討を続けることが必要と結論づけている5)

症例2:11歳男児(小学6年生)

次に,PVCで経過観察中に心室頻拍を発症した症例を呈示する.

小学1年生の心臓検診でPVCを指摘された.トレッドミル検査で運動中にPVCが消失することを確認され,以降小学5年生まで毎年トレッドミル検査をしながら管理区分「E可」で経過観察されてきた.ホルター検査は一度も施行されていなかった.小学4年生時に,1年に1~2回の動悸と眼前暗黒感が出現した.小学5年生時に動悸の頻度が増加したが,小学6年生になるまで本人の訴えがなく,家族や学校検診施行医師は症状を把握していなかった.小学6年生の学校検診時に初めて動悸症状があることが判明し,三次検診として受診した前医でトレッドミル検査に加えてホルター検査施行.トレッドミル検査では運動によるPVCの消失が確認されたが,同日行われたホルター検査で,心拍数230から245 bpmの心室頻拍が最長50秒持続している所見が確認された(Fig. 3).動悸症状は心室頻拍出現児に一致していた.1日の総心拍数は12.5万回で,PVCの数は31,718拍(25%)で3連発以上の連発が251回認めた.胸部エックス線写真で肺うっ血はなく,心拡大も認めず,心エコーでも心機能低下所見は認めなかった.症状を有する心室頻拍症例でありアブレーション治療の適応と判断し,全身麻酔下にカテーテルアブレーション治療を施行した.持続する心室頻拍は誘発されなかったが,非持続性心室頻拍,PVCは安定して確認できたため,PVCをmappingし,右室流出路のPVC最早期興奮部位に通電した.1回の通電でPVCは消失し,その後再発せず治療を終了した.その後心室頻拍は消失し,PVCの頻度も1か月後のホルター検査で766回/日,0.9%,4か月後のホルター検査で59回/日,0.09%と問題ないレベルまで低下した.

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Fig. 3 Clinical data of Case 2

(A) sustained VT recorded at Holter ECG in Case 2. VT rate is 230–245 bpm, and sustained 50 s. (B) Parameters of same Holter ECG.

本症例は,PVCに対してどのような基準でホルター検査をするべきかどうかという問題も提起している.安静時心電図とトレッドミル検査のみで経過観察されているPVC症例は非常に多い.むしろ本症例のような経過をとるケースは極めて稀であり,全例にホルター検査をする必要はないと考えられるが,検査を行う目安は明らかにはされていない.胸痛,動悸などの症状を有する場合はホルター検査が施行されていると思うが,その他にホルター検査を行う一つの目安として安静時心電図やトレッドミル検査で2段脈,3段脈を認める場合は,ホルター心電図検査の追加を考慮してもよいかもしれない.

安静時や運動後の3連発から5連発程度の非持続性心室頻拍の学校生活での管理も難しい問題である.成人では虚血性心疾患後の非持続性心室頻拍が問題になることが多く,リスクファクターである.また肥大型心筋症の非持続性心室頻拍はリスクが高いと報告されている6)が,先天性心疾患術後症例の非持続性心室頻拍のリスクは低いとする報告もある7).学校心臓検診で検出される,基礎心疾患を有さない小児の,安静時や運動後の非持続性心室頻拍のリスクは不明である.筆者らはあまり過度な運動制限にならないよう管理することを心がけているが,今後の検討が必要である.

QT延長症候群

QT延長症候群も,無症状で学校心臓検診で抽出され,個々の症例で管理に苦慮することの多い疾患である.心電図自動解析で補正QT時間(QTc)が450 msを越えると「疑い」として抽出されることが多い.以前はQT時間をRR間隔の平方根で補正するBazett補正(QTcB)が使用されていたが,学童では心拍数が高いと過大評価することがあり,2013年のガイドラインからはRR間隔の三乗根で補正するFridericia補正(QTcF)によるスクリーニングが推奨されている8)

さらに自動診断機器ではT終末点の決定に微分法を採用することが多く,QT時間はマニュアル計測(接線法)より長めになる.児童生徒のQTc時間を微分法と接線法で比較すると微分法が20 ms程度長いとされている9).Hazekiらは,接線法によるQTcFの診断基準として,小学1年生は430,中学1年は445,高校1年生は男児が440,女児が455を推奨している10).大阪市の学校心臓検診一次検診では自動計測のQTcF 450,接線法ではV5誘導,II誘導の計測で,小学1年生430,中学1年生440,高校1年生男児440,女児450を基準として抽出している.

2011年に改訂されたSchwartzらの診断基準も診断の参考にする.Schwartzらの診断基準のQTc時間はBazett補正で示されている.安静時QTcBに加えて,運動負荷後4分のQTcBが480以上で加点される.またnotched T wave, T-wave alternans(T波交互脈),失神,先天性聾の有無,家族歴が診断基準項目として採用されている11).ホルター検査による深夜や明け方のQT時間の延長も診断に役立つことがある.成人では薬物負荷テストとしてエピネフリン負荷テストが鑑別に有用であると報告されているが,小児を対象とした報告では検出率が低かったと報告されている12).QT延長症候群は遺伝子異常により発症することが知られており,現在確認されている遺伝子異常の種類は13種類に及んでいる.その多くはtype 1, 2, 3であり,この3つで約9割を占めるとされている.typeにより危険因子が異なることが知られており,type 1では運動,特に水泳が誘因になるとされている.type 2は目覚まし時計や電話,こどもの泣き声など,精神的ストレスが誘因となる.type 3は睡眠時など安静時に心室頻拍を発症するとされている.LQT7(Andersen–Tawil症候群)は,安静時から多形性心室期外収縮,2方向性心室頻拍がみられ,骨格異常や周期性四肢麻痺を合併する.

2008年から遺伝子検査の保険診療が承認された.遺伝子診断料は4000点で,3割負担の場合は12,000円の自己負担で検査が可能である.大阪市立総合医療センターでも2012年から院内で遺伝子診断が可能となり,QT延長症候群の診断と予防のため活用している.

QT延長症候群は心室頻拍・心室細動を発症するまでは全く自覚症状がなく,心室頻拍・心室細動を来すと生命予後に直接影響する疾患である.そのため学校心臓検診ではQT延長症候群を正常として偽陰性に誤診することを防ぐため,QTcFがボーダーラインの症例も疑い症例として抽出される.

QTcFがボーダーラインで,運動後にQT時間がさらに延長する,もしくはホルター検査で明け方など時間帯によってQT時間が延長する,顔面冷水検査で徐拍化によりQTが異常延長するといった所見を認めない場合は,特に運動制限や予防投薬は行わず,年1回の経過観察をしている.QT延長症候群と診断された症例に対して遺伝子検査を行うかどうかは,遺伝子異常が確認された場合のその後の人生に及ぼす影響の可能性を十分説明をした上で,希望される場合は検査を行っている.診断後の遺伝カウンセリングによる精神面への配慮も重要である.

症例3:12歳,中学1年生,女児

QT延長症候群の溺水,AED蘇生症例を呈示する.

中学1年生の心臓検診一次検診でQT延長症候群疑いと診断され,精密検査を指示されていた.1次検診の6日後,学校の水泳授業中に溺水しているのを児童が発見し,心肺蘇生が開始された.AED作動により心拍は再開したが,意識は回復しなかった.集中治療が開始され,肺水腫に対して3日間の心肺補助循環を,9日間の人工呼吸管理を必要としたが,中枢神経に後遺症を残さずに,22日後に退院した.心電図のQT時間は480 ms(QTcB 500 ms, QTcF 490 ms).遺伝子検査でLQT1と診断され,βブロッカーの予防内服を開始した.AEDのレンタル,水泳禁止,マラソン,体育も制限して経過観察している.その後現在まで6年間は,心室頻拍,心室細動を認めることなく経過している.

全く無症状で元気に過ごしていた女児が心室頻拍,心室細動を発症すると致死的イベントとなる.突然死を防ぐためにできるだけ予防に努めるとともに児の学校生活,社会生活にできるだけ影響を与えないよう配慮することも大切である.予防医学の観点から,QT延長症候群を扱っていくことが重要と考えている.

顕性WPW症候群

顕性WPW症候群(以下WPW)も学校心臓検診で診断される無症状の疾患の一つであるが,頻拍発作が問題となる疾患である.心房細動による突然死のリスクもあるがその頻度は低い.WPW全体の約0.1%,もしくはそれ以下と報告されている13).近年,右側副伝導路や中隔副伝導路を有するWPWにおいて,心室収縮の非同期(dyssynchrony)による心機能低下症例や心筋虚血を疑う所見を有するWPW症例がまれに存在することが報告されている14, 15)

頻拍発作を起こすWPWに対する治療は,薬物療法とアブレーション治療が行われている.アブレーション治療はリスクのある治療だが,4歳以上,15 kg以上であれば比較的安全に行うことができる16).2012年に報告された無症候性若年者WPWの管理に関するPACES/HRS Expert Consensus Statementでは,WPWに対するアブレーション治療の成功率は90~100%,再発率は10%前後,リスクとして房室ブロックが0.9%,血栓が0.6~0.8%,冠動脈障害が0.8~1.3%と記載されている13)

筆者らは4歳以下の頻拍発作症例は,薬物療法で頻拍発作を抑制する治療を行っている.WPWの頻拍発作予防目的の薬物療法は,first choiceとしてβブロッカーが選択されることが多いが,コントロール不良の症例では,副伝導路の伝導遮断として作用するフレカイニドが有効なことが多い.筆者らは体表面積当たり80 mgから使用開始し,150 mg/m2まで増量して使用している.高用量になるとQRS幅が広くなり,催不整脈作用が懸念されるため,血中濃度を確認しながら使用することが重要である.ミルク哺乳後に内服すると吸収が妨げられ,血中濃度が十分に上昇しないことが知られており,乳児の場合,ミルクの時間とずらして内服するよう家族に指導する必要がある.

新生児期や乳児期早期のWPWの頻拍発作は1歳までに副伝導路の伝導が途絶し頻拍発作を起こさなくなることもある.筆者らは4歳前後で予防内服治療を中止し,その後頻拍発作を認める場合はアブレーション治療を施行している.家族の希望がある場合は4歳の時点で電気生理検査を施行し,副伝導路の伝導が確認される場合は,アブレーション治療を行っている.

アブレーション治療を行う場合,副伝導路の位置推定は重要である.副伝導路の位置は,心電図の波形,Δ波の形状から推測が可能である.Arruda分類がよく使用されている17).概括的に分類するとV1がrS patternの時は,三尖弁輪自由壁側の副伝導路,V1がQS patternの場合は中隔の副伝導路,V1がRs patternの時は,僧帽弁輪自由壁から後壁の副伝導路のことが多い.僧帽弁側の副伝導路は,カテーテルを到達させるために,心房中隔穿刺,もしくは大動脈経由でアプローチする必要があるが,成功率は高く,再発率は低い13).三尖弁輪側の副伝導路は,下大静脈からのアプローチが可能だが,カテーテルの固定が困難なことが多く,成功率は僧帽弁輪側よりも低く,再発も多い.Belhassenらは左側壁の副伝導路のアブレーション成功率は96.0%,再発率は5.0%,右側壁の副伝導路の成功率は93.9%,再発率は24.2%と報告している18).中隔の副伝導路は,His電位記録部位より上方の前中隔,His電位記録部位から冠状静脈洞入口部上縁の中中隔,それより後方の後中隔に分類される.後中隔は三尖弁輪や僧帽弁輪の副伝導路と同様の手技で比較的安全にアブレーション治療することが可能であるが,前中隔,中中隔の副伝導路は房室ブロックのリスクが高い手技となる.高周波通電では房室ブロックを一度来すとすぐに通電を中止しても回復しないことがあるため,中中隔,前中隔の副伝導路が疑われる場合は適応を厳しくする必要がある.

クライオアブレーション治療は,−80°Cのcryoablation modeで治療を行うが,その前段階として,cryomapping modeでアブレーション至適部位を検索することができることが特徴の一つである.−30~−50°Cのcryomapping modeで房室伝導障害を来した場合は,冷却をただちに中止することで房室伝導機能を回復させることができる.房室伝導が保たれて副伝導路のみ伝導遮断される場所を同定してから−80°Cのcryoablation modeに移行することにより,房室ブロックのリスクを減らすことが可能となり,前中隔,中中隔の副伝導路の治療に有用である.ヨーロッパ,アメリカでは2001年から使用可能であったが,日本でも2016年4月からクライオアブレーション治療が薬事承認され使用可能になった.しかし現時点では保険償還は房室結節リエントリー頻拍に対してのみとなっており,WPWに対しての使用は適応外使用となる.今後WPWに対しても保険償還がされることを期待する.

束枝心室副伝導路(fasciculoventricular pathway, FVP)

筆者らは2014年に,学校心臓検診でWPWと診断される症例の中で,QRS幅が120 ms以下のnarrow QRS波形を呈する症例を抽出すると,その76%が早期興奮症候群の一つである束枝心室副伝導路(FVP)であったと報告した19).FVPは頻拍発作や突然死のリスクのない疾患で,管理区分は「管理不要」となる(Fig. 4).WPWとFVPの鑑別には,ATPテストが有用である.洞調律中にATP(アデホス)を0.3~0.4 mg/kg静注し房室伝導を抑制して,QRS波形の変化を観察する.WPW症候群の場合は,PR時間が変化せず,QRS波形が副伝導路由来のwide QRSに変化する.FVPの場合は,房室伝導blockによりQRSが脱落する,もしくはQRS波形が変化せずPR時間が延長する(Fig. 5).大阪の学校心臓検診でWPWと診断された症例の中からQRS幅120 ms以下の症例を抽出すると,その76%がFVPであった(Table 1, Fig. 6).全国でも学校心臓検診でWPWとして経過観察されている無症状のnarrow QRS Δ波症例の中に,多数のFVP症例が潜在している可能性がある.

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Fig. 4 A schematic diagram showing accessory pathway localization in WPW and FVP

An atrioventricular pathway (AVP) in WPW syndrome is depicted in green, and an FVP connecting the His bundle branches to the ventricle is shown in blue. Electrocardiographic pre-excitation arising from these accessory pathways is detected as a delta wave in both conditions. In FVP, tachycardia and sudden death due to atrial fibrillation are rare, because the tachycardia circuit is not induced without an AVP.

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Fig. 5 Differentiating FVP from WPW by ATP stress test

(A) Response to ATP stress testing in a patient with WPW. In response to rapid intravenous (iv) administration of 0.3 mg/kg adenosine triphosphate (ATP), ventricular excitation arising from the atrioventricular pathway (AVP) became dominant, with delayed conduction and interruption at the AV node, resulting in a wider QRS complex. PR and PQ intervals remained unchanged. (B) Response to ATP (0.3 mg/kg, iv) in a patient with a FVP. Interruption of AV conduction led to an AV block without a change in the QRS waveform. (C) In another FVP patient, interruption of AV conduction was incomplete, and only the PR interval was prolonged without a change in the QRS waveform.

Table 1 Differentiating FVP from WPW, Study population
In Osaka CityIn other cities
No. of children screened in 2 years41,576N/A
Diagnosed with WPW syndrome32N/A
QRS >12012N/A
QRS ≤12020N/A
Presented to our hospital19N/A
QRS >1208N/A
QRS ≤120*1119
Citated from Reference 17)
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Fig. 6 Percentage of WPW and FVP based on ECG profiles by adenosine stress tests

Among the pediatric patients who were diagnosed with WPW syndrome and had a QRS width of ≤120 ms, 76.7% had a FVP.

FVPはV1でrS patternを呈するtype B,もしくはV1でQS patternを呈するtype Cで9割から10割認めるが,V1でRs patternを呈するtype Aでは,逆に9割がFVPではなく,WPWであった(Fig. 7).

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Fig. 7 Classification of patients according to the WPW categories

In type A patients with a left-sided accessory pathway, all six cases had WPW syndrome. In type B patients with a right-sided accessory pathway, all 12 cases had FVP. In type C patients with a septal accessory pathway, 11 out of 12 cases had FVP and 1 out of 12 had WPW syndrome.

ATP負荷テストは外来でも施行可能であるが,一過性の胸痛,胸部違和感を伴う侵襲的な検査方法である.ATPが喘息を誘発することがあるため,喘息症例には施行することができない.他の鑑別方法として,ホルター検査が有用なことがある.WPWの場合,夜間の徐拍化したときのQRS波形は房室伝導が抑制され,副伝導路由来のQRS優位のwide QRS波形となる.日中の中程度の心拍数の時のQRS波形や高心拍数の時のQRS波形と比較して,QRS波形が変化している場合,FVPではなくWPWと診断することができる.また一つでも心房性期外収縮(PAC)を認めた場合,PACの時のQRS波形がwide QRSになっていれば,WPWと診断できる(Fig. 8).この変化は,WPWのQRS波形が副伝導路由来のQRSと房室伝導由来のQRS波形とのfusionであることによるものである.FVPの場合,房室伝導の変化によってQRS波形は変化しないので,心拍数による変化やPACによる変化は認めない.

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Fig. 8 Holter ECGs of a patient with WPW

(A) The delta wave becomes more prominent at the minimum heart rate range due to decreased AV conduction, and the QRS waveform changes with the heart rate. (B) When one premature atrial contraction is detected, differential diagnosis is possible based on the change in the QRS waveform; a wider QRS complex indicates WPW.

理論的にはトレッドミル検査でも鑑別可能であるが,筆者らの検討ではトレッドミル検査では検査前にすでに房室伝導が亢進していてWPWでもQRS波形がnarrowになってしまい,運動後も明らかなQRS波形の変化を認めないことが多く,鑑別のための検査としては有用ではないと考えている.

2016年,PACES/HRS合同の小児のアブレーション治療に対するexpert consensusにおいて,WPWに対するアブレーション治療のガイドラインclass 3の項目に,初めてFVPの記載が付け加えられた20).今後FVPとWPWの鑑別診断の重要性は増してくる.FVPとWPWを12誘導心電図のみで鑑別することは困難な症例も存在する.12誘導心電図のみで鑑別診断を行うアルゴリズム作成は今後の検討課題と考えている.

おわりに

学校心臓検診で診断される不整脈の中から,PVC, QT延長症候群,WPWについて概説した.PVCは良性で致死的になることはほぼないと考えられるが,QT延長症候群は致死的なイベントが発生する疾患であり,予防医学の観点に立ち,個々の症例ごとに十分検討して管理していくことが重要である.WPWについては,管理の必要がない束枝心室副伝導路(FVP)が認知され,WPWとして管理されることが今後減っていくことを期待している.

利益相反

本稿について,開示すべき利益相反(COI)はない.

引用文献References

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