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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(1): 54-55 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.54

Editorial CommentEditorial Comment

鈍的心臓外傷Blunt Chest Trauma

マレーシア国立循環器センター心臓血管外科Department of Cardiovascular Surgery, National Heart Institute of Malaysia (Institut Jantung Negara) ◇ Malaysia

発行日:2016年1月1日Published: January 1, 2016
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鈍的胸部外傷の原因として代表的なものは交通外傷であり,それらのうち20%に心臓外傷が認められると言われている1).そしてそれら心臓外傷は鈍的胸部外傷による単独発症例は少なく,多発外傷例における合併例がほとんどである.しかしながら多発外傷の中でも心臓外傷が直接死因と関係する場合(45~76%)は少なくない2).そうした鈍的心臓外傷における直接死亡原因としては非穿通性心臓外傷(心破裂)が最も多く,右心房大静脈付近,右心室,左房肺静脈流入部付近などが最も多く認められる部分である.そうした場合には迅速な開胸による直接修復術を必要とし,時には人工心肺使下に行う必要もある.またこれら多くの非穿通性心臓外傷の場合,来院時生命徴候を認めるものが少なく早急な対応(Emergency Room Thoracotomy)が求められる.一方修復時人工心肺を必要と判断した場合には頭部,腹部,整形外科的合併も含めた考慮が必要となり,時にはヘパリンコーティングPCPSによる非ヘパリン手術が有効な手段の一つとなる.損傷部位に対する予想が困難な場合,左開胸術より正中切開による到達が望ましい.

さて鈍的心臓外傷による致死的要因として心に留めておきたいのが心臓震盪である.またその約半数が接触プレーの多いスポーツあるいはボールを使用するスポーツ外傷として発症することが多く,室内等での遊びの中での発症も25%認められる3).またスポーツによる心臓震盪の65%が25歳以下に,そして26%が10歳以下に発症すると報告されており比較的低年齢児に多く見られるのが特徴である3).このように小児領域において軽微な外力による鈍的外傷には十分注意が必要であり,直接死因と関連すると予想される鈍的心臓外傷において迅速かつ的確な診断治療は非常に大切である.

一方直接的死亡原因には至らない鈍的胸部外傷による心臓外傷として弁膜障害,冠動脈障害,伝導障害そして心室中隔障害があげられる.ただこれらの所見も重度心不全を引き起こす可能性があることは言うまでもない.

そして今回原田らによって報告された鈍的胸部外傷による心室中隔欠損(Traumatic VSD)の発生率は一般的に5.5%と言われており,単独発症となるとさらにその数字は0.9%と低くなり比較的稀な外傷疾病の一つである4, 5).その多くは交通外傷における多発合併の一つとして発症場合が多く,単独発症の場合は転倒などが多くの原因となる.鈍的外傷によるTraumatic VSDの初回報告は1847年に初回外科的治療報告は1955年にされている6).その発生機序は大きく二つあり,一つは急性期発症に多く見られる心室拡張末期における胸骨—脊椎間での圧迫により生じたTraumatic VSD,もう一つは遅延発症例によく見られる受傷後心筋内微小血管構築障害による心筋融解壊死すなわち心筋挫傷によるものである.後者は心筋梗塞後に起こる心室中隔穿孔と病態が類似する5, 7)

このような発症機序により一般的に受傷後発症時期は様々であり,本報告例のように遅延発症する多くの場合は新たな心雑音により発見される場合が多く,軽微な鈍的外傷においても心雑音の変化に対する観察は重要である.また鈍的胸部外傷後心電図異常に対してその部位における冠動脈造影にて異常所見がない場合には,心筋内微小血管構築障害による心筋挫傷が最も強く疑われ心筋シンチグラフィによる診断が有用である場合がある.一方直後に見られなかった心電図異常も胸部外傷後胸部外傷後48時間以内に出現する場合もあるとも言われ,外傷後に心電図の経時的観察が重要とされる.逆に過去のTraumatic VSDの症例に対して下壁梗塞様の変化が心電図上見られた場合でも,それら異常所見は受傷時から2~3カ月後までに次第に改善したり正常化する場合もあると言われている8).このように受傷後検査結果は様々であり経時的な心エコー検査と合わせて経過観察を行うことが重要である.また先に述べたように多くのTraumatic VSDにおいて胸部多発外傷を伴う場合が多いため初期治療処置後の浮腫,ドレーン留置等によりエコーwindowが限られ十分な診断ができない場合がある.そのような場合にはcardiac MRI, CT検査等が診断に有効である.

遅発性Traumatic VSD外科治療の必要性に関しては,1)自覚症状がなく短絡量(Qp/Qs<2.0)が少なければ,内科的経過観察を行う.数年の経過観察の中でこのような鈍的外傷後比較的小さな心室中隔穿孔に対しては自然閉鎖例も報告されている9).2)短絡量が比較的多く(>2.0)自覚症状がない場合は数カ月の経過観察を経て外科的閉鎖の検討が好ましい.多くの場合この観察期間により中隔穿孔辺縁の繊維化が進みより安全で的確な外科的閉鎖を可能にする場合が多い.3)短絡量が多く血行動態も不安定な場合は,比較的早期の外科的治療介入を必要とする.発症部位に関しては主に膜様部中隔によく発症すると言われており10, 11),その場合は通常の右心房アプローチによる閉鎖が選択される.しかし筋性部欠損の場合は,右室切開よりも左室切開からのアプローチによる閉鎖の方が適していると言われている.閉鎖方法はVSDの大きさ部位に関係なくパッチ閉鎖が推奨される.また一部繊維化していない辺縁が認められる場合にはSandwich techniqueを用いた閉鎖方法も有効である12).そして海外では同様な状態に対して経カテーテル的閉鎖も治療方法の一つとして選択されている13).一方外科治療において残存VSDを認めることがありその原因として縫合部位の心室中隔がいまだ壊死状態にあって繊維化していないため再度VSDが生じたことが考えられる.したがって心筋壊死部位が十分に線維組織に置換する受傷後6~8週間あるいは2カ月が外科手術の至適時期である14)

以上より,今回原田らによって報告された小児鈍的胸部外傷によるTraumatic VSDに対する治療は地域病院との連携も含め非常に適切に行われており,敬意を表したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 原田雄章,ほか:鈍的外傷による心室中隔穿孔に対して手術を行った一例.日小児循環器会誌2016; 32: 50–53

引用文献References

1) Ozay B, Ozer N, Ketenci B, et al: Unsuspected location of a ventricular septal defect after blunt chest trauma. Thorac Cardiovasc Surg 2008; 56: 110–111

2) Turan AA, Karayel FA, Akyildiz E, et al: Cardiac injuries caused by blunt trauma: an autopsy based assessment of the injury pattern. J Forensic Sci 2010; 55: 82–84

3) Maron BJ, Estes NA 3rd: Commotio cordis. N Engl J Med 2010; 362: 917–927

4) Parmley LF, Manion WC, Mattingly TW: Nonpenetrating traumatic injury of the heart. Circulation 1958; 18: 371–396

5) Olsovsky MR, Topaz O, DiSciascio G, et al: Acute traumatic ventricular septal rupture. Am Heart J 1996; 131: 1039–1041

6) Campbell GS, Vernier R, Varco RL, et al: Traumatic ventricular septal defect; report of two cases. J Thorac Surg 1959; 37: 496–501

7) Amorim MJ, Almeida J, Santos A, et al: Atrioventricular septal defect following blunt chest trauma. Eur J Cardiothorac Surg 1999; 16: 679–682

8) Pollock BE, Markelz RA, Shuey HE: Isolated traumatic rupture of the interventricular septum due to blunt force. Am Heart J 1952; 43: 273–285

9) Ilia R, Goldfarb B, Wanderman KL, et al: Spontaneous closure of a traumatic ventricular septal defect after blunt trauma documented by serial echocardiography. J Am Soc Echocardiogr 1992; 5: 203–205

10) Tarmiz A, Lopez S, Honton B, et al: Surgical repair of rupture of the membranous septum after blunt chest trauma. Ann Thorac Surg 2011; 91: e3–e4

11) Kim YM, Yoo BW, Choi JY, et al: Traumatic ventricular septal defect in a 4-year-old boy after blunt chest injury. Korean J Pediatr 2011; 54: 86–89

12) Robinet S, Morimont P, Lambermont B, et al: Interventricular septal rupture caused by vehicular trauma. Heart Lung 2012; 41: 200–202

13) Martinez MW, Mookadam F, Sun Y, et al: Transcatheter closure of ischemic and post-traumatic ventricular septal ruptures. Catheter Cardiovasc Interv 2007; 69: 403–407

14) Cleland WP, Ellman P, Goodwin J, et al: Repair of ventricular septal defect following indirect trauma. Br J Dis Chest 1961; 55: 17–22

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