日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(5): 429-431 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.429

Editorial CommentEditorial Comment

小児循環器科医にとってのリウマチ熱Rheumatic Fever for Pediatric Cardiologists

茨城県立こども病院Ibaraki Children’s Hospital ◇ Ibaraki, Japan

発行日:2016年9月1日Published: September 1, 2016
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池田論文の重要性

先進国におけるリウマチ熱の減少は周知の事実である.衛生状態の改善や抗菌薬の普及によると考えられる.我が国でも臨床の場でリウマチ熱に遭遇することは少なくなった.私自身も医師になったばかりの頃に1例経験して以来,ごく最近まで全く診る機会がなかった.リウマチ熱の後遺症と確信できる弁膜症もほとんど経験したことがない.リウマチ熱はおそらく減少はしても決して撲滅できるような疾患ではないだろう.リウマチ熱症例に遭遇したときに速やかに診断に到達できる医師は少ないのではないか.結核のようにその疾患が稀ではなかった時代には容易に診断されていたものが,その疾患を診たことのない医師が増えれば当然診断されにくくなるはずである.今後の麻疹も似た歴史かもしれない.

池田論文は,病理解剖でリウマチ熱による伝導路の病変が証明できた貴重な症例である.突然死症例を不整脈死と診断するのは困難なことが多いが,病理解剖で房室結節の病変が証明できれば,房室伝導障害による房室ブロックを想定できる.本症例は,もし病理解剖が行われなければリウマチ熱とは診断されなかったであろう.突然死例の病理解剖の重要性を考えさせられる.

今後リウマチ熱を経験する可能性のある小児循環器科医のために,教科書を中心にまとめてみたい1–3)

リウマチ熱の疫学

世界的にリウマチ熱は減少してきているが,途上国においては稀な疾患ではない.途上国では10万人当たりの年間発症が50を超え,200~300という地域もある.先進国では10万人当たり10以下,0.5~3程度である.アメリカでは1980年代前半には10万人当たり0.5まで減少した.しかし,1980年代後半以降,先進国でも小規模な流行がみられている.

我が国では症例報告が多いが,散発例の報告もある.日本小児循環器学会による稀少疾患サーベイランス調査では,リウマチ熱の報告は年間4~10例である4).おそらくこれらは心炎をきたした症例であるので,小児循環器科医が関与していない症例があることを考慮するともう少し多いだろう.

世界的にはリウマチ性心疾患はすべての年齢層において最も多い後天性心疾患であり,すべての心疾患の半数を占める.リウマチ性弁膜症は若年に発症することから,社会経済に与える影響が大きい.

リウマチ熱の減少はリウマチ熱による死亡を減少させ,かつて8~30%であった急性期死亡がゼロに近くなっている.リウマチ熱の死亡は心合併症に起因するものが多い.途上国においてはリウマチ熱やリウマチ性弁膜症による死亡が年間50万人とも報告されている.急性期の死亡は心炎によるものが多い.後遺症としての弁膜症による死亡もある.しかし急性期の房室伝導障害による死亡例の報告はほとんどない.

リウマチ熱の心合併症

リウマチ熱の心炎は,リウマチ熱の主症状で関節炎に次いで2番目に多い症状である.小児では初発例の約50~60%に出現する.頻脈・心雑音で気づかれることが多く,発熱・関節炎の出現後,1~2週間以内の出現が多い.重症度はさまざまで,軽症で一過性のものから劇症型で死に至るものもある.汎心炎であり,心内膜,心筋,心膜すべての炎症を引き起こすが,多くは弁膜炎を中心とした心内膜炎である.心内膜が最も侵されやすく,心内膜炎のない心筋炎・心膜炎は稀である.

リウマチ熱の房室伝導障害は古くから有名で,すでに1920年代には知られていた.「心電図のPR延長」はJones診断基準の小項目になっている.心電図のI度房室ブロックの頻度はリウマチ熱の約20%程度であるが,PRの延長は軽度のものを含めるとリウマチ熱の80%に認められたとの報告もある.一般的に予後は良好であり,心炎の重症度とは相関しないようである.PR延長の機序は実はよく分かっていない.病理学的には伝導路の変化はほとんどないとされる.アトロピンがPR延長を正常化させるため,迷走神経を介したものと考えられている.これらのことからリウマチ熱のI度房室ブロックは,高度または完全房室ブロックを呈するものとは機序が異なるのかもしれない.

II度以上の房室ブロックは稀である.高度あるいは完全房室ブロック,Adams-Stokes発作をきたしたリウマチ熱の報告もある.これらも可逆的で,ペーシングが必要な場合でも一時的なことがほとんどである.しかし,最近,成人のリウマチ熱で永久ペースメーカーが必要になった症例が報告されている5)

不顕性のリウマチ熱

リウマチ熱の中には不顕性に発症するものがある.リウマチ熱と診断された症例で先行する上気道炎症状があるのは3分の2程度である.またリウマチ性弁膜症のうち,診断基準を満たすリウマチ熱の既往のないものも少なくなく,約半数を占めるとの報告もある.溶連菌の先行感染の証明は,迅速検査,培養,抗体価の上昇による.しかし,抗菌薬が投与されていると迅速検査や培養で検出できないことがあるし,時期によっては抗体価が低下していることもある.弁膜症が発見されてからリウマチ熱が判明する例もある.また,小舞踏病が初発症状の症例も報告されている.

不顕性のリウマチ熱を診断することは,リウマチ性弁膜症の発症を予防するためにも重要である.1度リウマチ熱を発症した症例は溶連菌の再感染で心炎を再発しやすく,再発を繰り返すことで弁膜症が進行していく.そのため抗菌薬による再感染予防が必要である.内科的治療により弁膜症の進行を抑制し,弁置換手術などの外科的治療を回避できる可能性がある.

当然,リウマチ熱の急性期に突然死の可能性があるならば,急性期にきちんと管理してそれも予防したい.池田論文のように,突然死例の中にリウマチ熱が紛れ込んでいる可能性も考えられる.我々が思う以上に不顕性のリウマチ熱は多いのかもしれない.

突然死症例の病理解剖の重要性

突然死症例で病理解剖によって死因を解明できるのは,死因に直結する所見が認められた場合である.例えば急性期の心筋梗塞,急性心筋炎,催不整脈性右室心筋症,肥大型心筋症などである.これらの疾患が証明されたとしても,ポンプ不全であったのか不整脈であったのかの判断は困難であることが多い.病理解剖で不整脈関連死が強く疑われるのは,伝導系の病変があった場合などに限られるだろう.

本症例は,もし病理解剖が行われなければ,心臓突然死もしくは不詳の死として処理されていたかもしれない.病理解剖を行うことで,我々にいろいろなことを残し,教えてくれた.

突然の我が子の死で家族が動揺し悲嘆にくれる中で,病理解剖を強く進めるのは勇気が必要である.それでも死因を追及することは,我々にとっての重要な仕事なのだろう.

引用文献References

1) Shulman ST: Rheumatic fever, in Kliegmen RM (ed): Nelson Textbook of Pediatrics (20th ed). Philadelphia, Elsevier, 2016, pp1332–1337

2) Tani LY: Rheumatic fever and rheumatic heart disease, in Allen HD, Driscoll DJ, Shaddy RE, et al (eds): Moss and Adams’ Heart Disease in Infants, Children, and Adolescents (8th ed). Philadelphia, Wolters Kluwer/Lippincott Williams & Willkins, 2013, pp1303–1330

3) Fyler DC: Rheumatic fever, in Keane JF, Lock JE, Fyler DC (eds): Nadas’ Pediatric Cardiology (2nd ed). Philadelphia, Saunders Elsevier, 2006, pp387–400

4) 市田蕗子,佐地 勉,梶野浩樹,ほか:平成21年度 稀少疾患サーベイランス調査結果.日小循誌 2010; 26: 348–350

5) Oba Y, Watanabe H, Nishimura Y, et al: A case of adult-onset acute rheumatic fever with long-lasting atrioventricular block requiring permanent pacemaker implantation. Int Heart J 2015; 56: 664–667

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.
池田麻衣子,ほか:病理組織診断でリウマチ熱による伝導路障害が死因であると疑われた1例.日小児循環器会誌2016; 32: 423–428

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