日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(4): 321-322 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.321

Editorial CommentEditorial Comment

疾患概念の変遷から注目される炎症性筋線維芽細胞腫瘍Why is the Inflammatory Myofibroblastic Tumor of the Heart Noted?

北海道大学病院小児科Division of Pediatrics, Hokkaido University Hospital ◇ Sapporo, Japan

発行日:2016年7月1日Published: July 1, 2016
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2002年から10年以上が経過した2013年,WHOの軟部腫瘍分類が改訂された.113種類の組織型の軟部腫瘍がそれぞれの分化に基づいて11腫瘍群に分類されている.もちろんこの11腫瘍群の中に,線維芽細胞/筋線維芽細胞腫瘍が分類されている.しかしこの炎症性線維芽細胞腫瘍(IMT)は以前から新生物として認識されてきたわけではない.線維芽細胞,筋線維芽細胞,炎症細胞が混在して増生する像は肉芽組織など炎症性変化で観察されるため,以前は形質細胞肉芽腫や炎症性偽腫瘍など反応性病変をうかがわせる名称で呼ばれていた.しかしこの中に再発,遠隔転移,浸潤を見せるものが確認されるようになり,真の新生物が含まれると考えられるようになってきた.こうしてIMTの概念が誕生するに至った.その後,anaplastic lymphoma kinase(ALK)遺伝子を含む転座を有する症例も発見され,IMTの少なくとも一部は新生物であることが確実となった.現在では筋線維芽細胞の増殖とリンパ球,形質細胞,好酸球などの炎症細胞浸潤を特徴とする中間悪性腫瘍と定義されている.本疾患は稀ではあるが,心臓病変は極めて稀である.しかし稀ということだけではなく,上述の通り新生物として認識されるに至り,他の心臓腫瘍に見られることの多い血行動態上の悪性というだけでなく,若宮らが述べているように悪性新生物の面が強く見られることもある点が本疾患の注目すべきポイントである.最近の40例近くの心臓病変の報告では8例が死亡,移植,再発となっている.中には心臓浸潤を含む多臓器への転移から半年ほどで永眠された症例も報告されている.

本疾患の確定診断は,病理所見による.細胞分化を識別する免疫組織学的検査ではα-smooth muscle actin, muscle specific actin, calponinが陽性であり,10%程度はdesminも陽性となるが,最終的には形態診断による.そのような中注目されているのが若宮らも触れているALKである.IMTの約半数が免疫染色でALK陽性であり,若年に多い.多くの症例ではALK転座の存在と免疫染色でのALK陽性は一致するが,稀に転座陽性も免疫染色陰性症例が存在する.このような場合に高感度免疫染色にてALK陽性が得られるとの報告もある.ALKは診断マーカーとしても有意義だが,このように高感度免疫染色やFISH, RT-PCR等を使用してALK発現,転座を確認することに注目が集まるのは治療につながる可能性があるからである.

ALKは種を超えて保存されている受容体型チロシンキナーゼである.その名の通り細胞表面受容体の役割を有していると考えられ,近年ヘパリン,グリコサミノグリカンなどが候補に挙がっているものの,まだリガンドの知られていない数少ない受容体型チロシンキナーゼである.点突然変異,遺伝子融合などにより活性化され,IMT,悪性リンパ腫,肺がんなど様々な腫瘍の誘導に関与する.これに対し,ALK阻害剤を用いて融合遺伝子機能を抑制するという分子標的治療法が考案されている.実際ALK阻害剤としてCrizotinibが開発され,重篤な合併症も示したものの,肺がんに高い奏効率を示した.現在は次世代薬も開発が進んでいる.このようなことからIMTの場合もALK関連腫瘍であるならば同様の治療法の有効性が期待され,実際RANBP2-ALK融合遺伝子をもつIMTにおいてCrizotinibが使用され治療効果が報告されている.今後さらに分子標的治療の精度が上がれば切除不能のIMTでは治療の有力な選択肢となりうるかもしれない.

IMTは反応性病変様から悪性腫瘍まで多彩な病変をとるため鑑別も容易ではないが,心臓病変も報告のある代表的な鑑別疾患を述べる.まずALK陽性となる紡錘形細胞増殖を示すものに横紋筋肉腫があるが,IMTには横紋はなく,myogeninも陰性である.反応性病変としてはIgG4関連炎症性偽腫瘍がある.IgG4/IgG陽性細胞数比や閉塞性静脈炎の有無が鑑別に有用である.IMTは紡錘形細胞の増殖と炎症細胞浸潤からなるが,その背景には膠原線維や粘液腫状基質を伴う.基質と腫瘍細胞密度との比率によりmyxoid,cellular,hypocellular fibrousと3パターンに分けることもあり,myxoidパターンをとるときには若宮らも述べている通り,原発性心臓腫瘍では最も頻度の高い粘液腫との鑑別が必要になる.IMT, 粘液腫ともIL-6を産生することが知られ,発熱,悪寒,関節痛などの自己免疫疾患様の全身症状を生じることもあるのはこのためと考えられている.

治療は前述のようなALK阻害剤,ステロイド,化学療法などの内科的療法も報告されているが,腫瘍摘出が基本である.全摘出できれば基本的には予後は良いとされるが,病変部位,特に心臓病変では必ずしも全摘出は容易ではない.更に全摘出後の再発とされる報告もあり,若宮らが留意しているように,術後も定期的な観察を続けた方がよいものと考えられ,術後3か月,半年,1年,以後1年ごとの画像検査を推奨している報告もある.

以上極めて稀な心臓腫瘍であるだけでなく,その疾患概念の変遷からも注目されるIMTについて概説した1–3)

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 若宮卓也,ほか:右房内に発生した炎症性筋線維芽細胞腫の乳児例.日小児循環器会誌 2016; 32: 314–318

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