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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(3): 232-236 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.232

症例報告Case Report

心筋壁内走行を合併した左右冠動脈–右室瘻に対し右室内腔より瘻孔閉鎖を施行した1例Surgical Correction of Bilateral Coronary Arterial-right Ventricular Fistula

1和歌山県立医科大学第一外科The First Department of Surgery, Wakayama Medical University ◇ Wakayama, Japan

2和歌山県立医科大学小児科Department of Pediatrics, Wakayama Medical University ◇ Wakayama, Japan

受付日:2016年1月18日Received: January 18, 2016
受理日:2016年3月28日Accepted: March 28, 2016
発行日:2016年5月1日Published: May 1, 2016
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冠動脈瘻の頻度は低く,両側冠動脈が関与血管となるものは非常に稀である.今回,心雑音を主訴とした無症候性冠動脈瘻の4歳男児に対し冠動脈瘻閉鎖術を施行した.冠動脈瘻は小児期は無症状で経過することが多いが,成人期以降で心不全や狭心症状が生じるため,早期治療が望まれる.治療適応は,症状の有無や瘻孔血管の瘤化,瘻孔の大きさ等をもとに決定される.また,瘻孔の閉鎖方法には様々な術式が報告されているが,本症例では瘻孔血管の心筋壁内走行を認め,術前および術中所見から右室切開による直接瘻孔閉鎖法を選択した.

Coronary artery fistula (CAF) is a rare congenital anomaly, and a bilateral coronary artery origin is especially rare. We report the case of a 4-year-old boy who was diagnosed with a heart murmur without symptoms at 7 months of age. He underwent CAF closure via right ventriculotomy. Most cases of CAF are clinically asymptomatic in young patients. The CAF treatment strategy is determined by the symptoms, properties of the aneurysmal vessel, and the size of the fistula. As heart failure and exertional angina gradually appear in adulthood, treatment may be required earlier after diagnosis, depending on the patient’s condition. Various surgical options for closing the fistula have been reported; however, we selected right ventriculotomy in this case because of myocardial bridging of the fistula coronary arteries.

Key words: coronary artery fistula; myocardial bridging; coronary arterial aneurysmal change; right ventriculotomy

はじめに

冠動脈瘻(coronary artery fistula)は冠動脈の先天性異常の中で最も頻度の高いもので,全先天性心疾患の0.2~0.4%であるといわれている.その多くは片側冠動脈に生じるが,左右冠動脈が瘻孔血管となるものはその中でも5%と非常に稀である.治療には経カテーテル的にコイルを用いて瘻孔を閉鎖するコイル塞栓術と外科的に瘻孔を閉鎖する術式があり,症例によって選択されている.

症例

症例

4歳男児.在胎39週5日,2,756 gで出生した.4ヶ月健診にて発達遅延を指摘され,近医小児科でフォローされていたが,7ヶ月時に初めて心雑音を指摘され,心エコーにて左右冠動脈–右室瘻と診断され経過観察となった.4歳時に治療適応の評価目的に心臓カテーテル検査施行.肺体血流比は1.1であったが,左右冠動脈の拡大と瘤化を認め,手術適応と判断された.

入院時身体所見

身長103.5 cm,体重16.5 kg.血圧107/50 mmHg.心拍数98/分.胸骨左縁第2–4肋間にLevine3/6の連続性雑音を聴取.

検査所見

1)胸部X線所見

心胸郭比56%.心拡大なし.

2)血液検査

CK 141 IU/L,LD 322 IU/L,BNP 18.6 pg/mL.

3)心電図

洞調律,脈拍91回/分,正軸.ST-T変化認めず.

4)心エコー検査

右冠動脈3.8 mm,左冠動脈主幹部4.5 mm,前下行枝4.2 mm,回旋枝1.8 mm.右冠動脈,左冠動脈前下行枝の右室への流入を認め,開口部はcontinuous flowであった.心駆出率は60.4%,壁運動の異常は認めなかった.

5)冠動脈CT

両側冠動脈の拡大,蛇行を認める.両側右室心尖部への流入を認める(Fig. 1).

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Fig. 1 Preoperative three-dimensional reconstruction computed tomography showing dilated RCA and LCA drain into the RV apex

RCA, right coronary artery; LCA, left coronary artery; RV, right ventricle.

6)心臓カテーテル検査
  • 右室圧:収縮期18 mmHg 拡張末期2 mmHg.酸素飽和度:78.7%
  • 左室圧:収縮期95 mmHg 拡張末期4 mmHg.酸素飽和度:98.0%
  • 肺動脈圧(主幹部):収縮期18 mmHg 拡張期6 mmHg.酸素飽和度:78.4%
  • Qp/Qs: 1.13
7)冠動脈造影

右冠動脈,左冠動脈の拡張を認め,共に右室への開口を認める.

手術所見

全身麻酔下,仰臥位にて胸骨正中切開.心膜切開すると直視下に左前下行枝,右冠動脈右室枝の拡張を認めた.上行大動脈送血,上下大静脈直接脱血とし体外循環を確立した.経右上肺静脈左房vent挿入した後,心尖部脱転し冠動脈の走行を確認したところ,左右冠動脈ともに心尖部の手前から心筋内へ走行していた.術前所見と合致した右室心尖部に菲薄化を伴う奇異性運動部位があり,術前検査からこの部位に冠動脈開口部位があると考えられ,ここを切開し開口部を確認する方針とした.大動脈遮断し,心筋保護液を順行性に注入し心停止.右室心尖部の菲薄部位を15 mm切開すると瘻孔開口部と思われる穴が確認でき(Fig. 2),φ2 mm sizing probeで逆行性に走行を確認した.心筋壁内走行も確認できたため,pledget付6-0 polyvinylidenefluoride縫合糸3針にて瘻孔閉鎖した.この際,冠動脈内空気残留を防ぐため心筋保護液を注入しながら結紮し,右室への心筋保護液流入消失により完全閉鎖を確認できた.右室切開部を自己心膜stripを用い,5-0 polyvinylidenefluoride縫合糸で閉鎖後,大動脈遮断を解除した.解除後は,正常洞調律の心拍が再開し,人工心肺離脱後も心電図上ST上昇を認めなかった.大動脈遮断時間は34分,人工心肺時間は68分,手術時間は178分であった.

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Fig. 2 Intraoperative photograph showing the fistulas from intraventricle

We dissected the apex of the right ventricle and identified the fistulas directly. The red dotted circle shows the opening of the intramyocardial fistula. RCA, right coronary artery; LAD,left anterior descending artery; RV, right ventricle.

術後経過

術後急性期からヘパリン(10単位/kg/日)を用い,抗凝固療法を開始.術翌日に一般病棟へ転棟.アスピリン,ワルファリンによる内服抗凝固療法開始.術後7日目に退院となった.術後6ヶ月での冠動脈造影では瘻孔の残存は認めず,拡張していた冠動脈も術前に比べ,縮小傾向を認めた(Fig. 3).

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Fig. 3 Preoperative (a, b) and 6-months postoperative (c, d) coronary angiography

a: RCA #1, 3.9 mm; #2, 2.6 mm. b: LAD #5, 5.0 mm; #6, 5.2 mm; #7, 4.2 mm. c: RCA #1, 2.7 mm; #2, 1.6 mm. d: LAD #5, 3.4 mm; #6, 3.2 mm; #7, 2.2 mm. a and b show right ventricle is contrasted, but c and d do not. RCA, right coronary artery; LAD, left anterior descending artery.

考察

冠動脈の先天異常は,病変発症部位により,起始部,区域部,末梢部の3つに大別できる.冠動脈瘻は末梢部の異常であり,冠動脈が肺動脈や心腔と瘻孔を形成することで血流の交通が生じるとされ,先天性の冠動脈異常の中で最も頻度が高いが,全先天性心疾患の0.2~0.4%にすぎない1)

Dimitris1)らは冠動脈瘻の成因について報告しており,多くは先天性であるが,それ以外にも様々な発生要因があると述べている.また瘻孔血管の開口部位は右心室や右心房と右心系に多く,瘻孔血管は右冠動脈が50~60%と多く,両側冠動脈が瘻孔血管となるものは5%と稀である1, 2)

臨床所見は,乳幼児期や小児期,思春期には無症状で経過することが多く,聴診で心雑音を指摘され超音波検査により発見されることが多い2).瘻孔が大きく,短絡血流量が多い場合には,二次的にうっ血性心不全や肺高血圧をきたすことがあるが,通常は短絡血流量は少なく,肺体血流比は2以下である.また,瘻孔が存在する冠動脈領域においてスチール現象による狭心症状が生じることがあるが,小児期には稀である.成人期において動悸や胸部痛の訴えから,冠動脈造影を施行され偶発的に見つかることもある4, 5)

また,両側の冠動脈が瘻孔血管となる冠動脈瘻の症例報告は少なく,成人期に胸痛や胸部不快感といった狭心症状や呼吸困難感を主訴に診断され,無症状の小児期において診断に至ることは少ない.症状の出現に関しては関与血管の数よりも瘻孔の大きさや短絡血流量に関係すると言われている6–9).本症例は,両側冠動脈が瘻孔血管であり,無症状であるが,心雑音から診断に至った非常にまれな症例であると考えられる.

治療は,関与血管や開口部位には関係なく,症状の有無にかかわらず大きな瘻孔が認められるとき,あるいは心筋虚血や不整脈,心室機能不全,心室拡大,心内膜炎が認められる軽度から中等度の瘻孔を認めるときは,瘻孔の閉鎖術を行うことが推奨されている3, 5).閉鎖術の方法としては,経皮的にカテーテルを用いて,あるいは外科的に行う方法がある.また,無症状の患者に対しても狭心症状や心筋梗塞といった瘻孔による合併症を防ぐという理由で瘻孔閉鎖術が勧められる9).本邦では,①現在無症状でも,短絡率が30%以上のもの,②心電図に虚血性変化および負荷の徴候が認められるもの,③肺高血圧症または心不全の進行が予想されるもの,④細菌性心内膜炎の既往のあるもの,⑤動脈瘤の破裂の危険が考えられるものが手術適応であろうと考えられており,一般的に短絡が小さく無症状のものは感染性心内膜炎の予防のみを行い,乳児期に心不全をきたしたもの,瘻孔が極めて大きいもの,冠動脈瘻が複数存在するもの,冠動脈の拡張や巨大な瘤を認めるものは瘻孔閉鎖治療の適応と考えられている10)

カテーテルを用いる方法としてコイル塞栓術があり11),外科的には,瘻孔血管を心外膜側から確認し,心外膜側で結紮・離断する方法,冠状動脈を縦切開して血管内腔から瘻孔を縫合閉鎖する方法,心室切開を行い心腔内から瘻孔を直接縫合閉鎖する方法がある12–14).これらの術式は,術前の検査を基に術中の冠動脈の走行・状態に応じて選択される.カテーテル的あるいは外科的どちらにもストレス,出血,感染,全身麻酔,冠動脈血栓とそれに伴う心筋虚血といったリスクがあり,さらにコイル塞栓術ではコイルの心腔内脱落,カテーテルによる血管穿孔などの合併症があり,外科手術では外科的侵襲,人工心肺の使用などのリスクがある.

本症例においては,患児は無症状ではあったが,左右冠動脈の拡大,瘤化を認め,早期治療が望ましいと判断し手術適応とした.術前の超音波検査や冠動脈造影より,両側の瘻孔血管の心室への流入部において周囲の心筋が,他の右室心筋と比べ奇異性運動を認めたことから,菲薄心筋であると考え,手術時に同部位から開口部の同定が可能であることが予測された.実際の術中所見では,瘻孔血管の心室筋壁内走行を認め,心外からは流入部の同定が困難であったため,開口していると予測した右室の菲薄部位を切開し心腔内に達し瘻孔を直接確認した上で縫合するという術式を選択した.

術後は,冠動脈内血栓形成に伴う虚血,心筋梗塞,不整脈や,瘤化冠動脈の拡大や瘻孔閉鎖部の再開通,瘻孔遺残などの合併症が起こりうるため継続的な長期フォローが必要である.本症例においても,拡大した冠動脈の瘻孔を閉鎖したため,術後瘻孔血管の血流速度は低下し血栓形成をきたしやすくなると考えられるため,術後急性期から抗凝固薬および抗血小板薬を併用している.術後1年を経過した時点では,新たな症状の出現や術後合併症などは生じずに経過しており,拡大していた冠動脈は冠動脈造影で縮小傾向を認めている.

結語

無症状の冠動脈瘻の症例で,瘻孔血管が右冠動脈及び左冠動脈の前下行枝の両側であるというまれな症例を経験した.術前の画像検査及び術中の所見から人工心肺使用心停止下で右室切開を行い,瘻孔を直視下に直接縫合閉鎖を行う術式を選択し瘻孔閉鎖を行った.術後は合併症の発生もなく,拡大冠動脈の縮小が得られている.

この症例に関しては,2015年3月8日第30回日本小児循環器学会 近畿・中四国地方会にて報告している.

付記

この論文の電子版にて動画を配信している.

引用文献References

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