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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(3): 221-222 (2016)
doi:10.9794/jspccs.32.221

Editorial CommentEditorial Comment

総肺静脈還流異常症を合併した臓器錯位症候群Total Anomalous Pulmonary Venous Connection with Heterotaxy Syndrome

埼玉医科大学国際医療センター 小児心臓外科Department of Pediatric Cardiac Surgery, Saitama Medical University International Medical Center ◇ Saitama, Japan

発行日:2016年5月1日Published: May 1, 2016
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吉澤論文は,総肺静脈異常症を合併した無脾症候群症例のFontan型手術までの合併症の治療法を含めた治療戦略の一例を示した症例報告である.この吉澤論文の対象疾患である臓器錯位症候群(特に無脾症候群)は,多くの場合(機能的)単心室症を呈し,また多彩な先天性心疾患を合併することが多い.その中でも総肺静脈還流異常症を合併し,様々な理由で新生児期に修復術が必要となった場合,総肺静脈還流異常症を合併した二心室修復が可能な症例と比較し,単心室合併例での総肺静脈還流異常症修復手術の臨床成績は不良である報告が多い1–3)

この吉澤論文では,総肺静脈還流異常症を合併した無脾症候群症例の外科治療の課程において,致命的な合併症やその危険因子に対し,様々な治療方法を組み合わせることでFontan型手術に到達することが可能となり,その様々な治療上の工夫について考察を行っているが,総肺静脈還流異常症修復術周術期におけるリスクの考察はされていない.そのため本稿では,現在においてもその臨床成績が不良であることの多い,新生児期における臓器錯位症候群に合併した総肺静脈還流異常症修復手術の死亡率などの臨床成績について最近の知見をまとめてみたい.

単一施設からの解析では,2005年のボストン小児病院Friesenら1)による報告で,機能的な場合を含めた単心室症に合併した新生児期における総肺静脈還流異常症修復手術の,その早期から晩期にかけての全死亡率は51%(非単心室症例では12%)に達すると報告している.また,2012年の東京女子医科大学病院Nakayamaら2)は,無脾症候群に合併した総肺静脈還流異常症症例の5年生存率は44.8%(二心室症例を含む非無脾症候群合併例では5年生存率は87.5%)と報告している.解析方法が若干異なるため,単純な比較はできないが,Friesenら1)と同じような高い死亡率となっている.これらのデーターはいずれも単一施設の解析や,二心室修復例との比較が中心となっている報告である.臓器錯位症候群のみにおける総肺静脈還流異常症合併例の手術成績や,多施設間のデーターをまとめた報告は出されていなかったが,昨年(2015年)のAnn Thorac Surg誌に,The Society of Thoracic Surgeons Congenital Heart Surgery Databaseに登録された,北米全体をほぼ網羅すると思われる,総肺静脈還流異常症合併臓器錯位症候群症例の解析が発表された.このKhanら4)の報告によると,総肺静脈還流異常症合併臓器錯位症候群の総肺静脈還流異常症修復手術後の全死亡は臓器錯位症候群全体で261例中死亡100例(死亡率38%)に認め,単心室形態症例では167例中死亡72例(死亡率43%),非単心室症例では94例中死亡28例(死亡率30%)であったと報告している.これらの臨床成績は解析年度の違いからか,前述のFriesenら1)や,Nakayamaら2)の解析と比較すると,死亡率は若干改善傾向を示しているが,現在でも臨床成績が非常に不良な疾患群であることが示されている.さらに,死亡例の危険因子として,体肺動脈短絡手術併施(単心室形態症例 71例中死亡33例 死亡率46%,非単心室形態症例 13例中死亡5例 死亡率38%),肺動脈閉鎖症合併(単心室形態症例 51例中死亡24例 死亡率47%,非単心室形態症例 13例中死亡例 死亡率15%),生後48時間以内の手術(単心室形態症例 38例中死亡17例 死亡率45%,非単心室形態症例 16例中死亡3例 死亡率9%),手術児体重が2.5 kg以下(単心室形態症例 21例中死亡10例 死亡率48%,非単心室形態症例 10例中死亡3例 死亡率30%),下心臓型総肺静脈還流異常症(単心室形態症例 44例中死亡20例 死亡率45%,非単心室形態症例 15例中死亡4例 死亡率27%),術後ECMO導入(単心室形態症例 13例中死亡10例 死亡率77%,非単心室形態症例 7例中死亡3例 死亡率43%),Norwood or DKS手術併施(単心室形態症例 3例中死亡3例 死亡率100%)が挙げられている.

さて,吉澤論文の症例において,上記に挙げた危険因子のうち,体肺動脈短絡手術併施,肺動脈閉鎖症合併,手術児体重が2.5 kg以下,下心臓型総肺静脈還流異常症の4つが該当している.この危険因子を多く含んだ状態での総肺静脈還流異常症修復手術とその周術期を乗り越え,複数の致死的な合併症を克服し,最終的な目標であるFontan型手術に到達した,吉澤らの所属施設全体の治療レベルの高さと,筆者らの努力と熱意,その疾患に対する適切な知識の豊富さに素直に敬意を表したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 吉澤康祐,ほか:2回の肺静脈狭窄解除術を経てFontan型手術に到達し得た下心臓型総肺静脈還流異常を合併した単心室の1例.日小児循環器会誌2016; 32: 215–220

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