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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(2): 168-170 (2016)
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Editorial CommentEditorial Comment

わが国の周産期医療と極低出生体重児における先天性心疾患Perinatal Medicine and Very Low Birth Weight Infants with Congenital Heart Disease in Japan

東邦大学医療センター大森病院 新生児科Department of Neonatology, Toho University Omori Medical Center ◇ Tokyo, Japan

発行日:2016年3月1日Published: March 1, 2016
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極低出生体重児とは1,500 g未満の低体重児を指し,心疾患がなくとも総合周産期ないしは地域周産期母子医療センターといった高次周産期医療センターNICUでの診療対象となる疾患群である.本対象群はこのような周産期センターを有する病院であり,かつ,小児循環器・心臓血管外科部門のある施設でしか報告し得ない貴重な報告と思われる.

現在,少子化が進む中で,わが国の低出生体重児の比率はむしろ増えており,年間100万人出生する新生児の約10%が低出生体重児である.さらに極低出生体重児は全出生数の1%弱である.平成6年は年間出生数124,069,000中,低出生体重児が88,362で割合が7.1%であったが,平成21年は年間出生数1,091,156中,低出生体重児が104,479,割合も9.6%と実数,割合ともに増加している(図11).また,別の視点から見ると平成21年の0歳児の死亡原因は1位が「先天奇形,変形及び染色体異常」,2位が「周産期に特異的な呼吸障害及び心血管障害」であり,「極低出生体重児における先天性心疾患」はそのどちらにも属する病態を抱えている極めて危急的な対象群である.中嶌論文はそのような意味で,日本の周産期小児医療の抱える現代的な問題点を追及した意義ある論文と言える.

わが国では平成9年より周産期医療整備計画が推進され,総合周産期母子医療センターを人口100万に対し1施設を配するという目標を掲げて,母児の切れ目ない医療を目指してきた.それにより,現在,全国に総合周産期センターが104施設,地域周産期センターが292施設と拡充されてきた.周産期センター診療の中心は母体管理と早産児,低出生体重児に対する医療であるが,その中にあって外科的介入が必要な新生児に対応できる施設は限られており,総合周産期センターであっても,小児外科疾患は90%,心臓外科疾患は50%,脳外科疾患は50%でしか対応できない.したがって,全国で極低出生体重児で心疾患を有する新生児を診療できる施設は約50施設に限られているのが現状である.

Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 32(2): 168-170 (2016)

図1 生数及び出生児体重2,500 g未満(1,500 g未満)の出生割合の年次推移

特定非営利活動法人新生児臨床研究ネットワーク(Neonatal Research Network of Japan: NRN),により,全国の1,500 g未満の低体重児の全国調査が2003年から行われている.加盟する全国の総合周産期,地域周産期母子医療センターを中心に集積したデータであり,わが国の極低出生体重児の大多数をカバーするビッグデータである.母体情報や分娩時情報,入院中の情報,短期予後さらには1歳半,3歳,6歳のキーエイジでの長期予後も追跡されている.2003年から2014年の12年間に極低出生体重児49,614例が登録されたデータである.先天性心疾患は「先天異常」として登録がされているが,心疾患が主要疾患である場合に限定されており,主要疾患が染色体異常などである場合には登録されない.頻度順にVSD,Fallot四徴症,大動脈離断・縮窄,肺動脈閉鎖・狭窄,両大血管右室起始,左心低形成症候群,大血管転位,房室中隔欠損,総肺静脈還流異常,三尖弁閉鎖,総動脈幹症,単心室の順である.総数は423例あり,登録された極低出生体重児の0.9%に相当する2).しかし,CHDの半数を占めるVSDなどがすべて登録されていないことや染色体異常例・奇形症候群が含まれないなど,CHDの頻度を論じるには不十分であり,本データからは心疾患の詳細な分析は困難である.これらには早産児特有の合併症として,脳室内出血が12%,脳室周囲白質軟化症が2%,壊死性腸炎が7%に認められ特殊な管理が求められる.38%の児がNICU入院中に何らかの手術を受け,入院中死亡が23%に認められるなど,極めて予後不良な疾患群である.中嶌論文のような単施設のデータでは母数が少なく統計処理を行う際の制約となるが,詳細な解析が可能である.多施設のビッグデータと単施設の詳細なデータのいずれの利点も得るためにはさらなる調査が必要となる.

低出生体重児における先天性心疾患の発生頻度が高いことは多くの論文で指摘される.正常体重児を含む,新生児全体でのCHDの頻度は1,000出生に対し10.6とするわが国のpopulation based studyがあるが3)低出生体重児,とりわけ,極低出生体重児での発生頻度は著者らが述べているように,報告により一定ではないものの正常体重児に比して高く,1,000出生に対し8.9~43.5であるという.理由としては早産や低体重で出生することが多い,多発奇形児や染色体異常児ではそうでない児よりCHDを合併しやすいなどの影響が考えられる.自験例であるが,CHDを有する染色体異常例は正常体重群では13%であるのに対し,低体重群では32%と2倍以上の頻度で合併している.何らかの奇形症候群でも正常体重児と低体重児とで各々5.6%と10%でやはり2倍近く低体重群での合併が多く,小児外科疾患合併例でも各々2.7%と7.6%で,同様に低体重群で圧倒的に多かった.染色体異常の代表的疾患として21トリソミー,18トリソミー,13トリソミーがあるが心疾患を持つ低体重児354例中,21トリソミーは31例,18トリソミーは47例,13トリソミーは13例存在した.奇形症候群ではNoonan症候群,VATER連合,CHARGE症候群が代表的な疾患であった.特に,18トリソミーとVATER連合はほぼ全例が低出生体重児であった4)

低出生体重児の心疾患の病型はPDA, VSD, AVSDなどの左右短絡疾患群や大動脈縮窄・離断症,大動脈弁狭窄,総動脈幹症などの左室流出路障害群,その他,総肺静脈還流異常などがあり,特徴として肺血流増加型の心疾患が多い.逆に,純型肺動脈閉鎖・狭窄や大血管転位症,無脾症など,肺血流減少群では低体重群の割合が少ない傾向にあった.このような結果はLevyらの報告5)に酷似している.しかし,Fallot四徴症と両大血管右室起始症で低体重例が目立った要因として,染色体22q11.2欠失や18トリソミーにこれらの合併が多かったことが考えられる.

心疾患合併の低出生体重児の生命予後と治療結果は正常体重児と比較して,良好な結果を期待することはできない.低出生体重児では手術困難な合併奇形例が多く,極低出生体重児特有の壊死性腸炎や頭蓋内出血,敗血症など生命予後を左右する合併症の存在があることは著者らも述べている.さらに,手術手技も体重増加を得るまでは姑息術に留まる可能性が高いからである.肺血流増加群に対する肺動脈絞扼術ないし両側肺動脈絞扼術と肺血流減少疾患に対するBT shunt術が挙げられるが,正常体重児に比べ手術リスクは当然高くなる.手術介入のタイミングなど治療戦略は今後の課題となる6).極低出生体重児のCHDについては多くのデータ蓄積が必要であるとともに,総合周産期母子医療センターと小児循環器医療との確かな連携が求められる.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである. 中嶌八隅,ほか:極低出生体重児の先天性心疾患:1施設での検討.日小児循環器会誌2016; 32: 160–167

引用文献References

1) 厚生労働省人口動態統計・医療施設調査2011

2) Neonatal Research Network of Japan 2013

3) 中澤 誠,瀬口正史,高尾篤良:わが国における新生児心疾患の発生状況.日小誌1986; 90: 2578–2587

4) 与田仁志,島 義雄,川上 義,ほか:低出生体重児における先天性心疾患の臨床像.日本新生児誌1993; 29: 873–879

5) Levy RJ, Rosenthal A, Fyler DC, et al: Birthweight of infant with congenital heart disease. Am J Dis Child 1978; 132: 249–254

6) Kawata H, Kishimoto H, Miura T, et al: Surgical management of congenital cardiac defects in neonates and young infants born with extremely low weight. Cardiol Young 2003; 13: 328–332

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