日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(1-2): 68-69 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.68

Editorial CommentEditorial Comment

小児における術後悪性高熱症についてPostoperative Malignant Hyperthermia in Children

筑波大学医学医療系外科学(循環器)Faculty of Medicine, University of Tsukuba ◇ 〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-11-1-1 Tennodai, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8575, Japan

発行日:2015年3月1日Published: March 1, 2015
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悪性高熱症(Malignat Hyperthermia)は全身麻酔の合併症として広く知られている概念ではあるが,本邦での発生頻度は全身麻酔5000~100000例に1例とされる稀な疾患である1).また,必ずしも麻酔中の発生のみではなく,発症までの時間経過に症例間で差があることが指摘されており,周術期合併症として認識すべき疾患であるともいえる2,3).悪性高熱症は麻酔薬により誘発される致死的な常染色体優性遺伝の潜在的筋疾患であり,揮発性吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬により骨格筋細胞内のカルシウム調節機能に異常をきたし,筋小胞体のカルシウム放出チャネルであるリアノジン受容体(RYR1)からのカルシウム放出が増大する.この結果,骨格筋細胞内の代謝が亢進状態となり,呼吸性・代謝性アシドーシス,頻脈,不整脈,体温上昇,筋硬直,横紋筋融解が生じるとされる1,4)

臨床診断にあたっては,本邦では盛生らの体温の数値基準を使用した臨床診断基準5)や,悪性高熱症の臨床症状について項目ごと加点して悪性高熱症の確からしさをランク付けするLarachらが作成したclinical grading scaleが用いられており6),通常麻酔中の呼気終末二酸化炭素分圧の上昇や頻脈,体温上昇,筋硬直などの臨床症状から発症を判断する.

しかしながら,心臓開心術を施行した小児においては,体外循環によって術前後の体温が制御されることや,循環不全などによる頻脈・不整脈の出現やアシドーシスを認めることも多いため,徳永ら,吉村らによる症例報告のように早期診断が困難であった症例も散見される3,7)

小児における悪性高熱症の発生についての報告は多くはないが,Salazarらによる米国データベースを検索した報告では,1998年から2010年の間に17歳以下の小児において310例が悪性高熱症と診断され,全悪性高熱症の約20%であったとしている.また,その死亡率は2.9%であり,成人悪性高熱症患者の死亡率18.2%に比して低かった8)

また,小児では年齢による骨格筋量が大きく異なるため,乳幼児期,児童期,青年期でも臨床症状が異なることが指摘されている.Nelsonらの,North American Malignant Hyperthermia Registryからの報告によると,18歳以下の小児における急性悪性高熱症の最も頻度の高い初期症状は頻脈と高炭酸ガス血症であるとされているが,乳幼児群に比べて年齢の高い13~18歳の群で,体温上昇やCPK,K値の上昇などの横紋筋融解の所見がより強く認められたとされている9).一方,生後24ヶ月までの乳幼児群ではよりアシドーシスに傾き,高い乳酸値を示す傾向があった.これは,若年における骨格筋の未発達さが,異常亢進した代謝を代償しきれないための所見ではないかと考えられている9).小児における悪性高熱症による死亡率が成人に比して低いことが,骨格筋量の違いと関連しているか否かについては不明であるが,興味深いデータであろう.いずれにせよ,これらの知見を総合すると,小児における悪性高熱症の症状は多様であり,臨床診断は成人に比べより困難であると結論づけられる.稀ではあるが,ひとたび発症すれば致命的な疾患であり,小児の周術期管理においては常に念頭に置かれてしかるべき病態ではないかと考えられる.

悪性高熱症と診断した後は,トリガーである薬剤の中止とダントロレンの投与が異常亢進したカルシウム代謝への直接的な治療となる.ダントロレンは骨格筋の筋小胞体からのカルシウム放出を抑制し,骨格筋細胞内のカルシウム濃度を低下させるため,悪性高熱症の特効薬として認識されている1).同時に横紋筋融解や付随する呼吸循環障害へ積極的な対症療法が必要となる.

近田らの症例では,循環動態の悪化を伴う高体温と横紋筋融解の所見を認め,悪性高熱症の診断でダントロレンを使用している.CGSスコアではランク4,somewhat greater than likelyという診断であった.このような術後の異常高体温が真の悪性高熱,つまり骨格筋代謝亢進による悪性高熱症かどうかの診断は臨床症状だけでは困難である.悪性高熱症の確定診断には,本邦ではスキンドファイバーを使用したカルシウムによるカルシウム誘発試験[Ca induced Ca release: CICR]が行われているが,小児においては検査自体の経験値が少なく,また筋線維の未発達性ゆえに偽陰性と判定される可能性もある.また,RYR1遺伝子変異検索による診断も行われているが,CICR亢進患者のうち遺伝子変異が認められたのは57%にすぎず,人種による変異点の違いや変異点の不明な悪性高熱症例も多いことが明らかとなっている10).いずれの検査も悪性高熱症の確定診断に有用ではあるが,判定に時間を要するため急性期の検査方法としての使用は現実的ではない.本症例のように,臨床的に悪性高熱症が強く疑われた時点での速やかな対症療法の開始と,同時に治療薬であるダントロレン使用の考慮が救命のためには必要だといえる.

また,術中ではなく術後に発生した悪性高熱症について,弓削らは術後悪性高熱患者43名にCICR検査を行ったところ42名で正常であったと報告し,麻酔中に発症する悪性高熱症と異なる誘因で発生している可能性を指摘している2).近田らの症例も,経過は必ずしも悪性高熱症に典型的ではないが,ダントロレン投与に加えて全身冷却や腹膜透析,胸骨再開胸による心負荷の軽減などの対症療法が功を奏し,救命に至ったことの報告価値は高い.さらには,悪性高熱症であるか否かにかかわらず,高体温自体が生体に与える影響は大きく,体内温が42度を超えると10数時間で死に至る可能性もあるとされ,周術期の積極的な体温管理は重要であるといえる11)

小児において,術前に気付かれていなかった筋ジストロフィーが悪性高熱発症後に診断された症例報告もあり,悪性高熱症の素因となるような疾患を有する可能性について問診や家族歴の聴取,術前CPK値の測定も考慮すべきである3)

稀とは言え,小児心臓手術においても,常に悪性高熱発症の可能性を念頭に置いた術後管理が必要であり,悪性高熱症の早期発見に有用な呼気終末二酸化炭素濃度や体温の持続的観察などのモニタリングも重要であると考えられる.また,麻酔科医のみならず,周術期管理を行う医師およびチーム全般の,悪性高熱に対する正しい認識が求められ,稀な疾患であるがゆえ,近田らの症例のような報告を貴重な経験として積み重ね共有していく必要がある.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

近田正英,ほか:小児開心術症例の術後劇症悪性高熱症の1例.日小児循環器会誌2015; 31: 64–67

引用文献References

1) 向田圭子,河本昌志:悪性高熱症 最近の話題について.日臨麻会誌2012; 32: 682–690

2) 弓削孟文,向田圭子:術後発症の悪性高熱症と治療戦略.日集中医誌2008; 15: 485–487

3) 徳永千穂,平松祐二,野間美緒,高橋実穂,堀米仁志,岩崎信明,高橋伸二,水谷太郎,榊原 謙:遅発性悪性高熱症を発症した心室中隔欠損閉鎖術.胸部外科2005; 58: 201–205

4) Rosenberg H, Davis M, James D, et al: Malignant hyperthermia. Orphanet J Rare Dis 2007; 2: 21

5) 盛生倫夫:悪性高熱症,熱中症および悪性症候群.日臨麻会誌1992; 12: 679–694

6) Larach MG, Localio AR, Allen GC, et al: A clinical grading scale to predict malignant hyperthermia susceptibility. Anesthesiology 1994; 80: 771779

7) 吉村真一朗,小嶋大樹,平手博之,杉浦健之,有馬 一,祖父江和哉:小児心臓外科術後に悪性高熱症の診断に難渋した1症例.日臨麻会誌2013; 33: 820–825

8) Salazar JH, Yang J, Shen L, et al: Pediatric malignant hyperthermia: Risk factors, morbidity, and mortality identified from the Nationwide Inpatient Sample and Kids’ Inpatient Database. Paediatr Anaesth 2014; 24: 12121216

9) Nelson P, Litman RS: Malignant hyperthermia in children: An analysis of the North American malignant hyperthermia registry. Anesth Analg 2014; 118: 369374

10) Ibarra MC, Wu S, Murayama K, et al: Malignant hyperthermia in Japan: Mutation screening of the entire ryanodine receptor type 1 gene coding region by direct sequencing. Anesthesiology 2006; 104: 11461154

11) 前原康宏,向田圭子,河本昌志,弓削孟文:本邦における1990年以降の悪性高熱症死亡例の検討.日臨麻会誌2000; 20: 385–390

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