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特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(1-2): 61-63 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.61

Editorial CommentEditorial Comment

先天性心疾患をもつ子どもの疾患理解Disease Understanding in Children with Congenital Heart Disease

千里金蘭大学看護学部Faculty of Nursing, Senri Kinran University ◇ 〒565-0873 大阪府吹田市藤白台5-25-15-25-1 Fujishirodai, Suita-shi, Osaka 565-0873, Japan

発行日:2015年3月1日Published: March 1, 2015
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はじめに

先天性心疾患患者は,思春期・青年期に至っても自分の病気を十分に理解していないことは多くの先行研究で報告されている1–4).先天性心疾患のみならず,成人期に達する小児慢性疾患患者は増加しており,移行期支援において,患者の疾患理解は重要な鍵となっている.厚生労働科学研究費補助金成育疾患克服次世代育成基盤研究事業報告書では,患者の自立に向けて,学童期・思春期から成人後を見越した疾病教育を行う必要性,その準備期である10代患者のケアの重要性が述べられている5,6).本稿では,先天性心疾患をもつ子どもの疾患理解について,なぜ理解が進まないのか,なぜ理解することが重要なのか,そして,理解を促す支援について,久保論文の取り組みを交えて述べる.

先天性心疾患をもつ子どもの疾患理解が進まない理由

先天性心疾患患者が,自分の病気について十分に理解できない要因としては,親,医療者,患者それぞれの問題がある7–10).親の問題としては,子どもが理解できるように親が伝えていないこと,親自身が理解することが困難だと感じていること,医療者が病気について子どもに話すことを親が好んでいないことがあげられる.特に,母親が子どもへの説明に消極的である場合,子どもは疾患を自分のこととして捉えにくくなることが明らかになっている7).医療者の問題としては,患者に対する病気の説明や情報提供が不足していること,患者の問題としては,自分は理解できないと思いこみ,親に依存していること等があげられる.

また,先天性という特徴から,物心がついた時から病気と共存して成長する.そのため,「病気のある生活が普通の生活」,「病気は自分の特徴」9–12) のように,病気による生活での不都合や制限等に違和感をもたずに育つことも,疾患理解を阻害する一因ではないかと推察する.

先天性心疾患をもつ子どもが疾患を理解することの重要性

自分の病気について理解が不足していると,病気を自分自身の問題として実感できないことにつながる11).また,思春期・青年期になると,予後についての曖昧さ・不確かさがストレスや不安を生み,病気のことを知りたいが,知るのが怖いと考えるようになり9,11),疾患理解が進まない要因として悪循環となることが考えられる.

筆者は,『病気体験に関連したレジリエンス』研究13)において,自分の病気を理解することが,病気体験に関連した困難を乗り越えるために重要であることを示した.『病気体験に関連したレジリエンス』のアセスメント指標の一つが「自分の病気を理解できる」であり,下位尺度の『友達や周りの人に病気の説明ができる』,『相手によって内容を変えて自分の病気の説明ができる』,『医師が話している内容が分かる』等により構成されている.これは,心臓の欠陥や病名,薬等の知識理解にとどまらず,相手との関係性や重要性を考慮しながら自分の病気について他者に説明したり,専門家である医師と対等に会話できるというレベルが,「自分の病気が理解できる」であることを意味する.

先天性心疾患の学童や青年を対象とした他の研究においても,病気の理解がQOLを高めること14),適切な情報を得ることで自責の念を弱めること7) が報告されていることからも,疾患を理解することが生活の質を向上させることが分かる.

今後の展望と実践への示唆

先天性心疾患患者の疾患理解については,海外での報告は多いが,わが国では詳細は明らかにされていない.疾患理解の低さは,成人期での社会的自立の低さにつながる問題であるため,久保論文では学童期からの「疾患理解」に着目し,その特徴を明らかにしている.

久保論文はAdult Congenital Heart Association15) の指標を参考に,客観的に「重症度」を分類し,重症度による疾患理解の比較をしている点で意義がある.

しかし,客観的な視点から判断された重症度は,自己のとらえる健康知覚とは異なるものである.客観的な指標は子ども自身の主観的な重症度とは一致しない可能性がある.先述したように,先天性という特徴から,客観的には重症であっても,自己を重症と認識している患者は少ないという印象をもつ.重症度は,「解剖学的な欠陥」や「疾患の種類」のみならず,入院回数,手術回数,通院頻度,学校管理指導区分,体育の制限の程度など,患者の生活への影響を含めて総合的に判断する必要があると考える.

また,久保論文では,年齢による比較をしている.病名,薬の名称,受診理由,次回の受診日の理解では,年齢と共に理解している患児が増加している.先に紹介した『病気体験に関連したレジリエンス』研究においても,「自分の病気を理解できる」は年齢との相関があった13).学校や職場等で,自分の病気について説明しなければならない機会や,自分が医師と直接話をする機会が増えることによると考える.言いかえれば,早い発達段階から,自分の病気を自分で説明すること,自分で医師と話をすることで疾患理解が進むことが期待できる.そのような環境づくりが重要であると考える.

久保論文では,さらに,小児の認知発達や学校での学習進度に基づいて考察されており,発達段階に応じた指導を行う際の手がかりとなる.認知発達の段階が具体的操作期の7歳~11歳までの子どもは,現実の具体的な経験に基づいて理解できる範囲のものを思考・推理する.したがって,子どもの生活や経験に即して説明することが有効である.形式的操作期に入る11歳以降は,現実の具体的束縛を越えて,思考を進めることができる.自分の身体の内部で起こっていることを,説明によって正しく理解することができるようになる.検査データと症状,病状と運動制限や治療を関連づけて説明することが有効である.

最後に,「疾患理解」の構成要素には,久保論文の調査項目に含まれていないもの,例えば,どのような手術をいつ受けたか,今後どのような治療をするのか等についても重要である.今後,「疾患理解」の内容を吟味し,この研究が発展していくことを期待したい.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

久保瑤子,ほか:小,中学生の先天性心疾患患児の疾患理解―患児の「年齢」と疾患の「重症度」による疾患理解の比較―.日小児循環器会誌2015; 31: 52–60

引用文献References

1) Cetta F, Warnes CA: Adults with congenital heart disease: Patient knowledge of endocarditis prophylaxis. Mayo Clin Proc 1995; 70: 5054

2) Van Deyk K, Pelgrims E, Troost E, et al: Adolescents’ understanding of their congenital heart disease on transfer to adult-focused care. Am J Cardiol 2010; 106: 18031807

3) Wang Q, Hay M, Clarke D, et al: Adolescents’ drawings of their cardiac abnormality. Cardiol Young 2011; 21: 556561

4) Moons P, De Volder E, Budts W, et al: What do adult patients with congenital heart disease know about their disease, treatment, and prevention of complications? A call for structured patient education. Heart 2001; 86: 7480

5) 水口 雅:厚生労働省科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「慢性疾患に罹患している児の社会生活支援ならびに療育生活支援に関する実態調査およびそれらの施策の充実に関する研究」平成25年度研究報告書,2014

6) 石﨑優子:成人移行期小児慢性疾患患者の自立支援のための異国支援ガイドブック医師版(試案),2014

7) 青木雅子:あたりまえさの創造:ボディイメージの形成過程からとらえた先天性心疾患患者の小児期における自己構築.日看科会誌2009; 29: 43-51

8) 伊庭久江:先天性心疾患をもつ幼児・学童の“自分の疾患のとらえ方”.千葉看護会誌2005; 11: 38–45

9) 高橋清子:先天性心疾患をもつ思春期の子どもの“病気である自分”に対する思い.大阪大看誌2002; 8: 12–19

10) 益守かづき:先天性心疾患の子どもの体験に関する研究 民族看護学の研究方法を用いて.看研1997; 30: 233–244

11) 仁尾かおり,藤原千惠子:先天性心疾患をもつ思春期の子どもの病気認知.小児保健研2003; 62: 544–551

12) Tong EM, Sparacino PSA, Messias DKH, et al: Growing up with congenital heart disease; the dilemmas of adolescent and young adults. Cardiol Young 1998; 8: 303309

13) 仁尾かおり,石河真紀,藤澤盛樹:学童期から青年期にある先天性心疾患患者の“病気体験に関連したレジリエンス”アセスメントツールの開発.日小児循環器会誌2014; 30: 543–552

14) 廣瀬幸美,倉科美穂子,牧内明子,ほか:心疾患をもつ学童のQOLと背景要因—自己評価および代理評価による検討—.家族看研2010; 16: 81–90

15) Adult Congenital Heart Association: 32nd Bethesda Conference: “Care of the adult with congenital heart disease. J Am Coll Cardiol 2001; 37: 11611198

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