Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(1-2): 52-60 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.52

原著Original

小,中学生の先天性心疾患患児の疾患理解患児の「年齢」と疾患の「重症度」による疾患理解の比較―Disease Understanding in Primary and Junior High School-Aged Children with Congenital Heart Disease according to Age and Severity

1東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科The United Graduate School of Education, Tokyo Gakugei University ◇ 〒184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-14-1-1 Nukuikita-machi, Koganei-shi, Tokyo 184-8501, Japan

2千葉県こども病院循環器科Department of Cardiology, Chiba Children’s Hospital ◇ 〒266-0007 千葉県千葉市緑区辺田町579-1579-1 Heta-cho, Midori-ku, Chiba-shi, Chiba 266-0007, Japan

3千葉大学教育学部Faculty of Education, Chiba University ◇ 〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-331-33 Yayoi-cho, Inage-ku, Chiba-shi, Chiba 263-8522, Japan

受付日:2014年10月20日Received: October 20, 2014
受理日:2015年2月11日Accepted: February 11, 2015
発行日:2015年3月1日Published: March 1, 2015
HTMLPDFEPUB3

背景:成人科への移行に向けて,幼い頃から患児本人が疾患を理解することは重要であるが,患児の疾患理解についてはよく検討されていない.患児の「年齢」や疾患の「重症度」による疾患理解の特徴を比較した.

方法:A県内の小児専門病院循環器科に通院中の小学1年生から中学3年生の先天性心疾患患児28名を対象に,半構造化面接を行った.

結果:運動制限,薬の頻度・効果,感染性心内膜炎の予防の理解は,患児の「年齢」や疾患の「重症度」による差が見られなかった.しかし,病名,薬の名称,受診の理由,次回の受診日の理解では,患児の「年齢」による差が見られ,年齢が上がると共に,理解している患児が増加し,薬の管理の主体は「親」から「患児」へと移行していた.心臓の欠陥の理解では,疾患の「重症度」による差が見られ,軽度の患児の方が具体的に理解していた.

結論:医療者は,患児に疾患説明を行う際,認知的な発達段階や疾患の構造の複雑さを考慮して説明を行うことが重要である.

Background: For the transition to adult health care, it is important that children with congenital heart disease (CHD) understand their disease. However, disease understanding in children has not been well documented. This study evaluated the ability of children with CHD to understand their disease according to patient age and disease severity.

Methods: A total of 28 children in grades 1–9 who received treatment at a pediatric cardiology department participated in semi-structured interviews.

Results: No differences according to age or severity were observed in children’s knowledge of “limitation of exercise,” “medication frequency,” “medication effect,” and “prevention of infective endocarditis.” However, understanding of “disease name,” “medication name,” “reason for consultation,” “next consultation date,” and “self-management of medication” increased with age. “Cardiac defect” was specifically understood best by patients with mild symptoms.

Conclusion: The results suggest that care providers should explain the disease to children with CHD while considering cognitive development and disease complexity.

Key words: cognitive development; disease understanding; transition preparation

背景と目的

医療の進歩に伴い,現在では90%以上の先天性心疾患患児(以下,患児)が成人を迎える1).成人期の患者は,小児期とは医学的に抱えている問題が異なる2)ため,患児は18歳頃までに小児科から成人科へと移行することが望まれる.小児科から成人科への移行を成功させるためには,小児科の頃から,患児が自分の疾患を理解し,セルフケアを行えるように,移行準備をする必要がある.

小児科から成人科への移行は,患児にとって心理的な負担が大きい,子ども病院と循環器内科のある病院が距離的に遠いなどの問題から困難さが残る.しかし実際には,患児のドロップアウトは,小児科から成人科への移行段階よりも,小児科の間によく起こる問題である3).これは親の疾患理解の乏しさ4)が主な原因であろう.親から疾患管理を任されている患児は,自分の病状について良く理解しており,成人科への移行について良く説明ができ,親から自立して疾患管理を行うことができる5)と言われており,患児が幼い頃から,自分の病状や定期的に受診する必要性を理解することは重要である.

これまで,青年期や成人期の患者の疾患理解を明らかにした研究6–8)では,青年期や成人期の患者であっても,医学的な内容を理解することの困難さが示唆されており,青年期前の患児が疾患について理解することは,なおさら困難であることが予想される.しかし,親元を離れて学校で生活する児童期以降の患児は,自分でセルフケアを行うために,疾患について理解する必要がある.また小児科の医師が,移行準備として,患児に疾患説明を行うにあたり,移行期前の患児の疾患理解の程度を明らかにすることは重要である.しかし,これまで児童期や思春期の患児の疾患理解に焦点を当てた研究はわずかしかない.伊庭9)は,幼児や小学校低学年の患児は,自分が心臓病であることや手術の経験,薬の服用,日常生活における制限について理解していることを明らかにした.また,小学校中学年以降になると,疾患の原因,疾患を抱える自分の将来,友人との違いについても考え始めることを明らかにした.また,仁尾・藤原10)は,11歳から15歳の患児は,病気の受容をめぐって葛藤し,社会的な疎外と限界に困難を感じながらも,病気のコントロールと自立に向けて挑戦していることを明らかにした.

これらの研究から,患児の疾患の捉え方や受け止め方など広い意味での疾患理解は明らかになった.しかし,医師が患児に疾患説明を行う際の手がかりとして,患児が心臓の欠陥,病名,運動制限,薬,感染性心内膜炎の予防,受診の理由,次回の受診日について,どの程度理解しているのかを把握することは重要である.そこで本研究では,小,中学生の患児が上記の内容についてどの程度理解しているのかを明らかにする.

患児の疾患理解には,認知的な発達が影響している.患児は,日常的に身体活動に伴う疲労や薬の服用を経験しており,特別な状況でなくても心疾患であることを感じざるをえない11).子どもは,病気の経験を通して,その臓器について知るようになる12)ため,患児も心疾患という独自の経験によって,幼い頃から心臓を知っている.それに加えて,我が国の学校の理科では,小学6年生で心臓の名称,位置,はたらき,中学2年生で心臓のつくり,血液の循環,「心室」や「弁」などの解剖用語を学習する.児童期や思春期の患児は,心臓の基礎的な知識を身につけており,疾患を理解する上でのレディネス(準備性)はすでに整っている.

小学1年生になると,具体的な経験や対象,事象について,論理的な思考が可能になり,情報を整理・分類・順序立てて考えることが可能になる具体的操作段階に入る13,14).この時期は,言葉を通しての抽象的なことよりも,見たり聞いたり経験したことを全体として記憶する傾向があるため9,14),患児が日常的に経験している身体の疲労などから疾患を認識する.

小学4年生になると,直接体験していなくても,説明や本などの間接経験を通して学習することができたり,語の意味(概念)を定義したり,知識を階層的に体系づけたりすることができるようになる15).また,9歳頃から始まる急激な認知機能の発達と,学校生活で同年齢の子どもとの関わりが増えるため,友人との社会的比較により,自分の能力や行動を自己評価するようになる16).この時期の患児は,医療者や親からの説明や本を通した疾患理解が可能になるため,疾患理解の幅が広がるだろう.また,情報を体系づけて考えられるようになるため,病状と受診の理由などを関連づけて考えることができる.そして,友人と自分を比較する16)ことによって,疾患を抱える自分が友人と同じようにできないことに嫌悪感を抱くようになるため,運動制限のある患児の中には,疲労を感じていても無理して運動を続けてしまう者も出てくる9)

中学1年生になると,具体的事象にとらわれずに,抽象的思考が可能となる形式的操作段階13)に入り,具体的操作期までに得た論理的関係について,仮説を立て,推論することができるようになる17).また,第二次性徴として,身体が劇的に発達するため,変化する自分の身体や内面に関心が向けられる18).この時期の患児は,これまでに得た疾患に関する知識の関係性を基に推論しながら,先を見通して疾患と付き合うことを考えられるようになる.また,保護された生活からの自立を模索し,自分の身体を自分で守ろうとする傾向が強まる10).そのため,これまで親が主体となって行われていたセルフケアは,この時期を境に患児が主体となって行うようになることが望ましい.以上の認知的な発達段階を踏まえて,本研究では,患児の「年齢」を小学校低学年,小学校高学年,中学生に分けて,疾患理解の特徴を比較する.

また,疾患の重症度によっても,疾患理解には差が見られる.Moons19)らは,ファロー四徴症の患者は,大動脈狭窄症や大動脈弁狭窄症の患者よりも,図表に心臓の欠陥を正確に位置づけることができないことを示し,心臓の欠陥を描くことが困難な複雑な心疾患の患者の方が疾患理解が乏しいことを示唆した.一方で,ファロー四徴症や大血管転位症を含むチアノーゼがある患児の親は,チアノーゼがない患児の親よりも病名をよく理解しており4),重症な心疾患の患児の親の方が疾患理解が良いことを示した.これらの結果から,患者と親では,疾患の重症度が疾患理解に与える影響は逆であるものの,疾患理解は疾患の重症度に影響を受けることが伺える.そこで本研究では,疾患の重症度による疾患理解の特徴を比較するために,Adult Congenital Heart Association20)を参考に,疾患の「重症度」を軽度,中等度(本論では,Great ComplexityとModerateを合わせて,中等度とする)に分ける.小,中学生を対象にした本論において,Adult Congenital Heart Association20)を参考にしたのは,先天性心疾患は生涯を通して付き合う疾患であり,基本的には幼少期から成人期まで疾患の重症度は変化しないと考えたためである.

以上を踏まえて,本研究では,小,中学生の先天性心疾患患児の疾患理解に焦点を当て,患児の「年齢」や疾患の「重症度」によって,疾患理解に特徴があるのかを比較する.そして,医療者が小,中学生の患児に疾患説明を行う際の手がかりへの示唆を得ることを目的とする.

方法

用語の定義 先天性心疾患:生まれつきの心奇形だけでなく,不整脈も含める.

疾患理解:患児が病状やセルフケアについて正しく理解していること.

調査協力者 A県内の小児専門病院循環器科に通院中の小,中学生の先天性心疾患患児28名.事前に調査に関する説明を聞くことを承諾した56名のうち,遺伝子異常,発達障害,難聴など言語によるコミュニケーションの困難さを抱えておらず,さらに外来の予約時間が重なっていない28名を選定した.疾患理解の特徴を比較するために,患児の「年齢」を小学校低学年8名(男児6名,女児2名,M=7.81歳,R=6 : 3~9 : 1),小学校高学年6名(男児3名,女児3名,M=10.85歳,R=9 : 5~11 : 10),中学生14名(男児7名,女児7名,M=13.71歳,R=12 : 4~15 : 3)に分けた.また,疾患の「重症度」を軽度15名(小学校低学年3名,小学校高学年3名,中学生9名,M=11.82歳),中等度13名(小学校低学年5名,小学校高学年3名,中学生5名,M=10.94歳)に分けた.患児の疾患名は,Table 1に示す.薬を服用している患児(全て中等度)は,小学校低学年で3名,小学校高学年で1名,中学生で2名いた.

Table 1 Diagnosis (n=28)
SeverityDiagnosisn
SimpleVentricular septal defect6
Atrial septal defect6
Mitral regurgitation1
Patent ductus arteriosus1
Coronary artery fistula1
ModerateTetralogy of Fallot2
Total anomalous pulmonary venous drainage1
Aortic insufficiency1
Congenital pulmonary arteriovenous fistula1
Aortic stenosis1
Pulmonary atresia1
Single ventricle3
Complete atrioventricular block3

調査時期 2013年8月13日~2013年8月30日.

調査方法 個別に半構造化面接を行った.面接は発達心理学を専門とする調査者1名が行った.面接時間は一人あたり3~16分,平均時間は8.00分(SD=2.67)であった.調査協力者の回答は,許可を得てICレコーダーで録音すると共に調査者が筆記した.

患児が希望する場合は,親が面接に立ち会った(28名中11名).その場合は,面接前に親に対して患児の面接が終了するまで発言を控えるように頼んだ.

調査内容 質問は計10項目であった.質問内容は,「病状」として①自分がどんな病気か知っているか(心臓の欠陥)②病気の名前は知っているか(病名),「セルフケア」として③体育の時に気をつけていることはあるか(運動制限),④薬は誰が持ってくるか(薬の管理の主体),⑤いつ薬を飲んでいるか(薬の頻度),⑥どんな薬を飲んでいるか(薬の効果),⑦薬の名前は知っているか(薬の名称),⑧心臓のために歯のことで気をつけていることはあるか(感染性心内膜炎の予防),⑨今日こども病院に来た理由を知っているか(受診の理由),⑩次はいつこども病院に来るのか(次回の受診日)を尋ねた.基本的にはこの順序で質問を行ったが,患児の回答によっては質問の順序を入れ替えたり,より深く尋ねたりする場合があった.質問項目設定の根拠として,患児の疾患に関する基礎的な知識を明らかにするために,「心臓の欠陥」,「病名」を取り上げた.また児童期以降は,親元を離れて生活する時間が増えるため,自分でセルフケアを行う必要があると同時に,幼い頃からセルフケアを行うことは将来的な自立につながると考え,「運動制限」,「薬」,「感染性心内膜炎の予防」を取り上げた.また,幼い頃から定期的な受診の必要性を理解することは,成人科への移行を促すと考え,「受診の理由」,「次回の受診日」を取り上げた.

分析方法 各面接から得られた内容を基に,逐語録を作成した.「病状」の理解,「セルフケア」の理解に関する発話を抽出した.患児の「年齢」や疾患の「重症度」によって,疾患理解に特徴があるのかを比較するためにFisherの直接確率検定を行った.

倫理的配慮 面接前に書面(小学校低学年用,小学校高学年用,中学生用,親用と発達段階に応じて4種類作成した)を用いて,患児と親に「研究の趣旨」,「調査への参加は自由意志であり,いつでも拒否できること」,「拒否しても,今後の医療行為における不利益は被らないこと」,「得られた情報は個人が特定されることなく,プライバシーの保護に十分配慮されること」を説明した.また,主治医から患児の疾患に関する情報を得る可能性も説明し,許可を得た.受諾を得られた場合は,患児と親の両方から同意書に署名をもらった(患児が自分で氏名を書けない場合は,親が代筆した).面接はプライバシーが確保できる個室で行った.

結果

患児の回答の真否は,患児に疾患説明を行っている内科の主治医に確認し,正しい回答をした患児を「疾患理解している」とした.また,性別による疾患理解の特徴を検討するために,Fisherの直接確率検定を行った結果,全ての項目において性差は認められなかったため,分析は性別を考慮せずに行うこととした.

「病状」の理解

心臓の欠陥 「わからない」,無答などの「自分が心臓病であることを理解していない」回答と,「心臓病」,「心臓に穴が空いている」などの「自分が心臓病であることを理解している」回答に分類した.

小学校低学年では4名(50.0%),小学校高学年では5名(83.3%),中学生では12名(85.7%)が心臓病であることを理解していた.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意ではなかった.

軽度では14名(93.3%),中等度では7名(53.8%)が心臓病であることを理解していた.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意であった(直接確率検定法,p=.029).残差分析によると,軽度では心臓病であることを理解している患児が多く,中等度では心臓病であることを理解している患児が少なかった.

また,軽度と中等度では回答の内容に差が見られた(Table 2).軽度の患児は「心臓に穴が空いていた」,「弁が逆流して血が少し混ざる」など,心臓の欠陥を具体的に理解している患児が多かった.一方,中等度の患児は「心臓病っていうのはわかるけど,詳しいことはわからない」など,心臓病であること以外は理解していない患児が多かった.

Table 2 Cardiac defect
SeverityGradeAnswer
Simple1–3There was a hole in my heart.*
I have heart disease.
4–6Before surgery, there was a hole in my heart.*
There was a congenital defect in the form of a hole in my heart, and I underwent surgery at the age of 4–5 years.*
There was a transposition of the blood vessels.
7–9There was a hole in my heart. When I exercise vigorously, my heart beats faster.*
I have heart disease.
There is a hole in the left ventricle.*
The hole is relatively small.*
There was a hole in my heart.*
There was a hole in my heart.*
I have heart disease.
The blood flows backwards.*
The tricuspid valve had only two leaflets.*
Moderate1–3(Point to the heart) Instead of two, there is only half one.
My heart doesn’t move very much.
Because my heart is bad, a pacemaker was implanted.
4–6I have heart disease.
I underwent surgery to open a constricted blood vessel.*
7–9I have heart disease, but I don’t know the details.
I have heart disease, but I don’t know the details.
Single ventricle.*
*Answer was clear and correct.

病名 「先天性心疾患」,「わからない」,無答などの「病名を知らない」回答と,「心室中隔欠損」などの「病名を知っている」回答に分類した.

小学校低学年では0名(0.0%),小学校高学年では1名(16.7%),中学生では6名(42.9%)が病名を知っていた.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意な傾向であった(直接確率検定法,p=.075).残差分析によると,小学校低学年では病名を知っている患児が少なく,小学校高学年では回答に偏りは見られず,中学生では病名を知っている患児が多い傾向であった.

軽度では3名(20.0%),中等度では4名(30.8%)が病名を知っていた.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意ではなかった.

「セルフケア」の理解

運動制限 「わからない」,「特に何も気をつけていない」などの「体育の時に気をつけていることがない」回答と,「無理をしない」,「見学する」などの「体育の時に気をつけていることがある」回答に分類した.

小学校低学年では2名(25.0%),小学校高学年では2名(33.3%),中学生では5名(35.7%)が体育の時に気をつけていることがあった.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意ではなかった.

軽度では3名(20.0%),中等度では6名(46.2%)が,体育の時に気をつけていることがあった.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意ではなかった.

しかし,軽度と中等度では回答の内容に差が見られた(Table 3).軽度の患児は,主治医から運動制限は受けていないが,「(心臓が)痛くなったら見学する」,「運動するとたまに心臓が痛くなるので,こまめに休憩している」などのように,自分の体調を考慮しながら疲れた時に休憩をしていた.一方,中等度の患児は「鉄棒の時は見学する」,「走るやつ(競技)のときは,先生が『歩いてやって』って言う」,「あまり走らなくてもできそうな競技は参加している」などのように,主治医から制限されている競技の時は授業を見学し,自分ができる範囲で参加していた.

Table 3 Limitation of exercise
SeverityGradeAnswer
Simple4–6I take a break only if I experience heart pain.
7–9I take a break if I experience heart pain.
I take a break frequently when it is time to participate in soccer.
Moderate1–3I don’t use the horizontal bar. I only watch other kids use it.
I don’t exercise often.
4–6Instead of running, I walk.
7–9I exercise but I don’t run.
I observe other kids instead of to participating in horizontal bar exercises.
I don’t overexert.

薬(管理の主体・頻度・効果・名称) 薬に関する回答をTable 4に示す.薬の管理の主体は,小学生では4名中2名が「親」と回答し,残りの2名が「自分と親」と回答した.中学生の患児は2名共「自分」と回答した.中学生の患児は,「ホチキスで止めてあって,自分で出す」と工夫しながら薬の管理を行っていた.薬の服用の頻度は,「1日1回飲む」,「朝と夜に飲む」など,薬を服用している6名全ての患児が知っていた.薬の効果は,6名中5名が心臓病のために服薬していることを理解しており,「血が固まらないようにする」,「尿をよく出す」など,詳しい効果を理解している患児は3名いた.薬の名称は,小学生では4名中1名が知っており,中学生では2名共知っていた.

Table 4 Medication
GradeAnswer
ManagementFrequencyEffectMedication name
1–3Patient and parent.Once per day.Prevention of blood coagulation.I don’t know.
Parent.Once in the morning.I don’t know.I don’t know.
Parent.Morning, noon, and night.Medication for heart disease.Aldactone and warfarin.
4–6Patient and parent.Morning and night.Medication for heart disease.I don’t know.
7–9Patient.Three times a day.Blood.Warfarin.
Morning.It prevents blood coagulation.Warfarin
Patient.Morning and night.I don’t know.Renivace.
Morning and night.It passes in the urine well.Aldactone.

感染性心内膜炎の予防 感染性心内膜炎の予防について,小学生で理解している患児は一人もいなかった.中学生では,14名中2名が「歯が悪くなると心臓の病気が悪化するかもしれないから,虫歯になってはいけない」と,感染性心内膜炎と歯科衛生との関連を一部正しく理解していた.

受診の理由 「わからない」,無答などの「受診の理由を理解していない」回答と,「心臓の検査」,「1年に1回の検診」などの「受診の理由を理解している」回答に分類した.

小学校低学年では3名(37.5%),小学校高学年では5名(83.3%),中学生では13名(92.9%)が受診の理由を理解していた.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意であった(直接確率検定法,p=.009).残差分析によると,小学校低学年では受診の理由を理解している患児が少なく,小学校高学年では回答に偏りは見られず,中学生では受診の理由を理解している患児が多かった.

また,小学校低学年と中学生では回答の内容に差がみられた(Table 5).小学校低学年の患児は「心臓とか(医師に)見せるため」などと回答していた.一方,中学生の患児は「どれくらい穴がふさがっているかの確認」,「前に手術をしたので,定期的な検査できた」などと回答していた.中学生の患児では「定期的」に受診することを理解している患児が3名いた.

Table 5 Reason for consultation
SeverityGradeAnswer
Simple1–3For an examination.
4–6For a medical examination.
Cardiac examination.
To identify abnormalities.
7–9To confirm how long a hole of the heart is occupied and determine whether there are any abnormalities.
To determine whether the disease worsened or improved.
Cardiac examination.
Periodic postoperative follow-up exam.
Cardiac examination.
Examination.
Examination of heart sounds and murmurs.
Annual medical examination.
Moderate1–3Cardiac examination.
Cardiac examination.
4–6Cardiac treatment.
Examination.
7–9Cardiac examination.
Cardiac examination.
Periodic medical examination.
Medical examination.
Assessment of current condition.

軽度では12名(80.0%),中等度では9名(69.2%)が受診の理由を理解していた.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意ではなかった.

次回の受診日 「わからない」,無答などの「次回の受診日を知らない」回答と,「1年に1回」,「冬休み」,「来年の8月5日」などの「次回の受診日を知っている」回答に分類した.

小学校低学年では3名(37.5%),小学校高学年では3名(50.0%),中学生では13名(92.9%)が次回の受診日を知っていた.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意であった(直接確率検定法,p=.013).残差分析によると,小学校低学年では次回の受診日を知っている患児が少なく,小学校高学年では回答に偏りは見られず,中学生では次回の受診日を知っている患児が多かった.

軽度では12名(80.0%),中等度では7名(53.8%)が次回の受診日を知っていた.直接確率検定を行った結果,人数の偏りは有意ではなかった.

考察

患児の「年齢」,疾患の「重症度」による差が見られなかった疾患理解

運動制限,感染性心内膜炎の予防,薬の頻度,薬の効果の理解は,患児の「年齢」や疾患の「重症度」による差が見られなかった.

運動制限で,患児の「年齢」による差が見られなかったのは,体育が始まる小学生以降は,年齢に関わらず,医療者や親,教師が患児に体調を考慮しながら運動を行うように指導しているためであろう.疾患の「重症度」による差が見られなかったのは,幼い頃から運動制限がある患児にとって,運動制限を特別なことと意識していなかったためであることが考えられる.また,伊庭9)の結果と異なり,本研究でセルフケアの必要性を理解していても,無理して運動を続けてしまう患児はいなかった.本研究の患児は,教師や友人に疾患のことを理解してもらっており,体育の時に見学しやすい環境を作ることができていると考えられるだろう.

薬の頻度は,全ての患児が理解していた.これは,自分が体験しているセルフケアは,小学校低学年でも理解できるという伊庭9)の結果と一致する.また薬の効果は,6名中5名が心臓病のための薬であること,そのうち3名が「血液をさらさらにする」などのより詳しい効果を理解していた.薬の服用は家庭で行うセルフケアであるため,親の説明が患児の理解に影響していると考えられる.患児の服用している薬の効果を知っている親は44.6%,薬の副作用を知っている親はわずか7.1%であり,親の薬に関する理解は決して十分とは言えない4).しかし,親が患児の薬についてよく理解し,患児に説明を行っていると,小学校低学年でも薬の詳しい効果を理解できるのだろう.

感染性心内膜炎の予防は,28名中2名しか理解していなかった.この結果は,成人期の患者であっても,感染性心内膜炎に関する理解が乏しいというMoons19)らの結果とも一致する.その理由として,感染性心内膜炎の原理の理解の欠如が考えられる.「歯科治療中の流血に伴って体内に入った細菌が,血液と共に心臓まで流れて,心臓で炎症を起こす」という感染性心内膜炎の原理は,「血液が養分を全身に運ぶ」ことを学習する小学6年生であれば理解できる.今後は,まず感染性心内膜炎の原理を説明した後,歯科衛生などの予防法について説明することが望ましいだろう.

患児の「年齢」による差が見られた疾患理解

病名,受診の理由,次回の受診日は,中学生が小学校低学年よりも,薬の名称は,中学生が小学生よりも良く理解していた.薬の管理の主体は,親(小学生)から患児(中学生)に移行していた.

病名の理解で,患児の「年齢」による差が見られたのは,中学生になると「心室」や「弁」などの解剖用語を理解できるようになるためであることが考えられる.しかし,小学校高学年の患児が病名を知っていたことから,患児が疾患に興味を持つことは,疾患理解を促進させることがわかる.また,小学校高学年になると,様々な知識を体系づけて考えられるようになる15)ため,自分の疾患と病名を関連づけて考えることができるようになるのだろう.

受診の理由,次回の受診日の理解で,患児の「年齢」による差が見られたのは,中学生になると,先を見通して疾患と付き合うことが理解できるようになるためであることが考えられる.小学校高学年では83%,中学生では93%の患児が受診の理由を理解していたことから,患児は心疾患のためであることを理解しながら受診していることが伺える.また,中学生の93%が次回の受診日を知っていたことから,患児は定期的に受診する必要性も理解していると言える.軽度の患児の中には,将来的には受診が必要のない患児もいる3)が,小児期は軽度であっても定期的な受診が必要であるため,疾患の「重症度」による差は見られなかったのだろう.

薬の管理の主体が,中学生を境に親から患児へと移行していたのは,この時期の発達的な特徴である,自分の身体を自分で守ろうとする傾向10)の現れであると考えられる.また,患児が薬を管理するのに伴って,どの薬があといくつ残っているのかなどを気にかけるようになるため,中学生になると薬の名称も知っていたのであろう.

疾患の「重症度」による差が見られた疾患理解

心臓の欠陥は,軽度の患児が中等度の患児よりも具体的に理解していた.この結果は,Moons19)らと一致しており,軽度の疾患は解剖学的な構造が単純で,患児にとって言葉で説明がしやすかったことが理由として考えられる.

発達段階を考慮した疾患説明

心臓を学習する前の小学校低学年の患児であっても,心臓を認識している.また,身体を動かすと疲労を感じたり,毎日薬を服用したりする経験から,自分が心疾患であることを自覚している.そのため,この時期は患児の生活や経験に絡めながら,「胸が苦しくなったら先生やお母さんに教えてね」,「病気を治している途中だから,○○の運動はやってもいいけど,△△の運動はやめようね」などと,セルフケアの必要性を説明することが効果的である.幼い頃から,大人が患児の行動を一方的に制限するのではなく,患児が主体となって疾患を抱える自分の行動を考えることができるように,この時期から「セルフケアの大切さ」を伝えていく必要があると考える.また小学校高学年になると,説明や本などの間接経験を通して学習することや,様々な情報を体系づけることが可能になるため,これまでの患児の経験と疾患説明で得た知識が関連づけられるように説明すると良いだろう.

また心臓を学習する小学6年生以降の患児は,目に見えない心臓の構造も理解することが可能になるため,解剖図を用いて視覚的にわかりやすく,疾患や心内膜炎の原理を説明することが重要である.

研究の限界と今後の課題

本研究では,小,中学生の患児の疾患理解の程度は明らかになったが,この時期の患児が適切なセルフケアを行う上で,十分なものであるのかどうかまでは判断することができなかった.今後,患児が適切なセルフケアを行う上での十分な疾患理解の程度(基準)が明らかになれば,医療者が疾患説明を行う際の手がかりになるだろう.また,本研究で明らかになった10項目の疾患理解は,疾患理解の一部に過ぎない.今後は,疾患理解において重要な「手術」や「治療」に関する理解も明らかにする必要があるだろう.

また調査時期が,夏休み期間中であったことから,軽度の患児が多く,重度の患児が少なかった.また,中等度の中学生の患児は,夏休みを避けて受診することから,各重症度の平均年齢に差があったことも疾患理解に影響を与えていると考えられる.今後は,重度の患児の疾患理解も調査すると同時に,各重症度の平均年齢を統制することによって,先天性心疾患患児の疾患理解をより広い視野で明らかにする必要がある.

結論

本研究では,小,中学生の患児は,自分が心臓病であることや定期的な受診の必要性,薬の服用,運動制限について理解していることが明らかになった.運動制限,薬の頻度・効果,感染性心内膜炎の予防の理解は,患児の「年齢」や疾患の「重症度」による差が見られなかった.しかし,病名,薬の名称,受診の理由,次回の受診日の理解では,患児の「年齢」による差が見られ,年齢が上がると共に,理解している患児が増加し,薬の管理の主体は「親」から「患児」へと移行していた.心臓の欠陥の理解では,疾患の「重症度」による差が見られ,軽度の患児の方が具体的に理解していた.医療者は,患児に疾患説明を行う際,認知的な発達段階や疾患の構造の複雑さを考慮することが重要である.

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