日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

Online ISSN: 2187-2988 Print ISSN: 0911-1794
特定非営利活動法人日本小児循環器学会 Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery
〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5アカデミーセンター Japanese Society of Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery Academy Center, 358-5 Yamabuki-cho, Shinju-ku, Tokyo 162-0801, Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(6): 320-321 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.320

Editorial CommentEditorial Comment

膨大に作成・保存されている先天性心疾患患者血液サンプルからのiPS細胞の作製の意義iPS Cell Generation from the Bank of Peripheral Blood from Patients with Congenital Heart Disease

慶應義塾大学医学部内科学教室Department of Internal Medicine, School of Medicine, Keio University ◇ 〒160-8582 東京都新宿区信濃町35番地Shinano-machi 35, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan

発行日:2015年11月1日Published: November 1, 2015
HTMLPDFEPUB3

先天性心疾患は比較的頻度も多く,生命予後や生活の質に大きく関わってくる重要な疾患である.それらの革新的な治療方法を開発するためには,正確な病態解明が必要になってくる.これまで先天性心疾患の病態解明のために行われてきた研究は,主に二つに大別される.一つは患者情報をもとにした遺伝子解析を行い,原因となる変異遺伝子を同定することである.もう一つは遺伝子改変マウスなどの実験動物をもとに,形態学的・機能的,そして分子生物学的解析を行うことであった.これらの研究により,先天性心疾患の原因など,多くのことがわかってきた.一方で,これまでに実験動物ではわからなかったことも多く,またわかってきたことが本当にヒトで起こりうることなのかという疑問も湧いてきた.実験動物の代表であるマウスとヒトでは心臓の大きさも全く異なり,脈拍も10倍くらい異なっており,ヒトとはかなり異なった実験系である.これまでは患者心臓サンプルを基礎研究に用いることは,ほとんど不可能であったために検証しようがないことと思われてきたが,iPS細胞(induced pluripotent stem cell)を用いることで患者特異的心筋細胞が作成可能となり,これまでにわからなかった病態などがわかるようになるのではないかと期待されている1–4)

川口らは,先天性心疾患患者から作製保存された不死化B細胞株を用いてiPS細胞の樹立を報告している.末梢血から得られるB細胞を不死化する方法は患者血液を長期に保存するために古くから用いられている方法であり,培養皿上で無限に増殖可能な細胞が得られ,また凍結保存もできる.不死化B細胞を作製する利点は,患者の生きた細胞を基礎研究などの細胞生物学的な検討に用いることが可能なことと,増殖可能であるために遺伝子解析を目的としたDNA抽出などにいくらでも用いることが可能な点がある.著者らは,これまでに4200株以上を樹立しており,患者情報なども含めて極めて貴重なサンプルである.

患者細胞から作製されたiPS細胞は,患者の全ての遺伝情報を有した多能性幹細胞であり,無限に増殖が可能で,心筋細胞を含めた様々な細胞に分化することが可能である.そのため患者由来iPS細胞を心筋細胞へ用いることで,遺伝子変異に起因する先天性心疾患患者の病態を再現することが想定される心筋細胞が培養皿上で容易に得ることが可能である.著者らがこれまでに集めた膨大なサンプルを今後iPS細胞研究に応用するためには,著者らにより作成された不死化B細胞がiPS細胞にリプログラミング可能であることを検証する必要がある.一般的にヒトiPS細胞を作製するためには,皮膚線維芽細胞や末梢血T細胞などの初代培養を用いて作成される5,6).当初は細胞株からはiPS細胞は作製しづらいと考えられていたが,不死化B細胞も含めて一部の細胞株ではiPS細胞作製可能であることが示されてきた.しかしながら現実的な問題点として,細胞培養の方法や不死化B細胞の作製方法などの細かな実験手法は研究室ごとに異なっており,著者らの方法で作成された不死化B細胞が本当にiPS細胞にリプログラミング可能かどうかは行ってみないとわからない.特に著者らは膨大なサンプルを既に集めており,それらからiPS細胞が作製可能であることを示した点が,本研究の非常に意義深い点と考えられる.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 川口奈奈子,ほか:先天性心疾患における不死化B細胞株由来induced pluripotent stem(iPS)細胞の樹立.日小児循環器会誌 2015; 31: 313–319

This page was created on 2015-10-30T13:28:56.35+09:00
This page was last modified on 2015-11-27T14:07:35.869+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。