日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(5): 282-283 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.282

Editorial CommentEditorial Comment

佐藤論文に対するEditorial CommentEditorial Comment on Paper by Sato et al. “Crossed Pulmonary Arteries with Left Branch Pulmonary Stenosis in Two Patients with the 22q11.2 Deletion Syndrome”

順天堂大学医学部心臓血管外科学講座Department of Cardiovascular Surgery, Faculty of Medicine, Juntendo University ◇ 〒113-8421 東京都文京区本郷二丁目1番1号2-1-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8421, Japan

発行日:2015年9月1日Published: September 1, 2015
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佐藤論文は,Crossed Pulmonary Arteries(CPAs)に合併した大動脈弓異常に対して,大動脈弓再建後に生じた左肺動脈狭窄の発症の機序とその治療法を論じた貴重な症例報告である.

本論文の中にも記述されているとおり,文献的には稀であるとされているが1),通常無症状でありその臨床的意義は少ないと予想される.逆にそうであるがゆえに,外科治療を目的としない心臓超音波などでは,CPAsが存在しながらも見逃されることが多く,また見過ごされてもその臨床的意義は少ないため,あとで気づかれることもほとんどないようである.そこで実際には発生率はもう少し高いのではないかとされている1).総動脈幹と右大動脈弓に合併したCPAsや偶然に乳児期に見つかったという報告があるものの2,3),どちらも3D-CTがその診断に有用であったという内容であり,佐藤論文に示されたような合併先天性心疾患の特徴ある外科的修復とCPAsの解剖学的形態の特徴から生じた術後続発症について述べた報告は皆無であるがゆえに大変貴重な症例報告であると改めて言及したい.

佐藤論文での症例は,いずれも大動脈離断症に対する新生児期の拡大大動脈弓再建術を行った症例の術後左肺動脈狭窄の発生という点が重要なポイントである.論文内でもそれらの特徴として①左肺動脈狭窄は,大動脈弓離断症の拡大大動脈弓再建後に発生し,しかも重度である.②それらの重度の左肺動脈狭窄に対する治療にバルーン拡大は無効であり,観血的外科治療が必要であった.と述べている.この①,②につき,筆者の大動脈弓離断症の手術経験からの見解を述べてみたい.

①大動脈弓離断症の大動脈再建は,近年ほとんどが他の合併心奇形とともに新生児期に一期的に根治術が行われ,大動脈弓再建も直接吻合が主流である.その直接吻合も,大動脈弓の吻合部狭窄を回避する目的で,特に論文の症例のような大動脈弓離断症B型では,その形態から下行大動脈の小弯側の吻合部は上行大動脈の中枢側に切り込んで寄せざるをえない状況にある.これにより再建された大動脈弓は下方に移動するためCPAsの左肺動脈は上方から大動脈弓の小弯に圧排されることが容易に予想できる.大動脈弓離断症A型や大動脈縮窄症であれば,ある程度の大動脈弓の太さが確保されている症例も多く,上行大動脈にまで切り込む拡大大動脈弓再建を行わずにすみ,術後の左肺動脈狭窄を避けることができる可能性がある.よって,大動脈弓離断症B型にCPAsを合併した場合は,直接吻合による拡大大動脈弓再建では必発であると言ってもよいと思われる.

佐藤論文ではこの左肺動脈狭窄を避けるために,二つの考案がなされている.一つ目は大動脈弓再建の際に左鎖骨下動脈のFlapを用いて,少しでも大動脈弓に余裕を持たせる工夫が考察されており,筆者もよい方法の一つであると考える.筆者の考察としては,この論文の3D-CTでの左右の肺動脈と主肺動脈の形態を見る限り,二つ目の大動脈弓を再建する前に異常分岐の左肺動脈を分岐部から切離して,正常解剖位置にその分岐部を移植するほうがより容易ではないかと考えたがいかがであろうか.大動脈弓再建部の吻合距離が長くなると止血に難渋することも懸念されるため,より低圧系の肺動脈再建のほうを選択したいのは外科医の気持ちかもしれないが.

②発生してしまった左大動脈狭窄の治療は困難である旨が紹介された.佐藤論文では,まずバルーン拡大を内科的インターベンションとして試みているが,不成功に終わっている.大動脈弓再建後の左肺動脈への観血的アプローチは困難であり,内科的インターベンションに頼りたいところではあるが,最終的には外科的修復がなされ狭窄は解除された.狭窄の放置による左肺血管床の減少を予防すべく体肺動脈短絡手術を姑息的に行ってから,十分に対策を考える時間を確保して,低侵襲でリスクの少ない方法から狭窄解除を試みている.最終的には高侵襲の観血的外科治療を選択せざるをえなかったとはいえ,患者の最高利益を考慮したそのstrategyの考案姿勢は賞賛に値するものと筆者は考える.

新生児期の大動脈弓離断複合に対する一期的根治術後の重度左肺動脈狭窄に対する肺動脈狭窄解除術は,再開胸,上行大動脈および背側に存在する位置異常の左肺動脈の剥離,再建大動脈が左肺動脈の修復時の視野の妨げになるなど手術は困難を極めたと予想する.このことから,手術時に左動脈狭窄を予防すべく大動脈弓再建の工夫にもっとも重点を置くべきであるというのが結論と言っても言い過ぎではないであろうと思われる.筆者のような外科医にとっては,大動脈弓再建の工夫において,下半身の循環停止時間が許容時間を越えてしまう可能性を鑑みて,下行大動脈送血などを準備して十分な対応ができるようにもしなければならないであろうとも考える次第である.

以上より,佐藤論文の貴重な症例から得られた教訓として,1. 大動脈弓離断症はCPAsの合併に注意を払うべく3D-CTを必ず撮影して,CPAsの存在を見据えてCTを確認する.特に染色体異常の合併はより注意を要する.2. 大動脈弓再建は左肺動脈の小弯側からの圧排を予防すべく工夫が必要である.3. 不幸にも左肺動脈狭窄が発生した場合は外科的狭窄解除が第一選択である,をわれわれに示してくれた.

最後に,佐藤論文は一般的には心臓外科医の治療に関与することはなく目に触れることはあっても問題とすることがほとんどないCPAsの特異な経過を報告するとともに,その機序および治療法につき解説を加えた貴重な論文であった.まさにこの疾患は,医療安全のKY(危険予知)に順ずるものであり,確立は低いとはいえその事故を予想すべく対応(3D-CTの撮影)と早期発見(CPAsを考慮した読影),事故の予防(大動脈弓再建時の工夫による左肺動脈狭窄発生の予防),事故後の速やかな対応(左肺動脈狭窄解除の第一選択は外科的インターベンション)が求められる疾患であると思うのは,病院医療安全にも従事する筆者の考えすぎであろうか.貴重な症例の報告に感謝申し上げる次第である.

本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 佐藤智幸,ほか:大動脈弓離断症術後に重度の左肺動脈狭窄を合併したCrossed pulmonary arteriesの2例.日本小児循環器会誌 2015; 31: 278–281

引用文献References

1) Babaoglu K, Altun G, Binnetoglu K, et al: Crossed pulmonary arteries: a report on 20 cases with an emphasis on the clinical feathres and genetic and cardiac abnormalities. Pediatr Cardiol 2013; 34: 1785–1790

2) Altun G, Babaoğlu K, Oğuz D, et al: Crossed pulmonary arteries associated with persistent Truncus arteriosus and right aortic arch on the three-dimensional computed tomographic imaging. Anadolu Kardiyol Derg 2013; 13: 25–29

3) Chen J, Feng Y: A rare case of crossed pulmonary arteries in an infant: case report. J Cardiothorac Surg 2013; 8: 79

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