日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(5): 238-239 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.238

Editorial CommentEditorial Comment

Fontan手術後の抗凝固・抗血小板療法:最善の治療法とは?Antithrombotic Therapy after Fontan Procedure

1九州大学病院小児科Department of Pediatrics, Kyushu University Hospital ◇ 〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出三丁目1番1号3-1-1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka 812-8582, Japan

2九州大学病院ハートセンターHeart Center, Kyushu University Hospital ◇ 〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出三丁目1番1号3-1-1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka 812-8582, Japan

発行日:2015年9月1日Published: September 1, 2015
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Fontan手術後の抗凝固・抗血小板療法については,いまだ最適な標準治療というものが存在せず,限られた情報と経験,信念に基づいて,個々の施設で独自の方法が選択されているのが現状と思われる.本学会でもかねてから多くの議論がなされているが,現時点で明らかとなっているエビデンスを整理し,今後の展望について述べたいと思う.

日本循環器学会の「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」においては,心房細動を合併するFontan手術後患者へのワーファリン投与はクラスIで推奨されているが,不整脈がない症例においては明確な記載がない1).American College of Chest Physicians(ACCP)の小児の抗凝固療法に関するガイドラインでも,アスピリン(1~5 mg/kg/day)もしくは,ワーファリン(PT-INR 2.0~3.0目標)を推奨すると記載されているが,その併用の意義や優劣については記載がない2)

田中論文では,主に抗凝固・抗血小板療法の併用例における,梗塞や出血性合併症について検討している.総じてみると,梗塞は少なく比較的軽症であるが,出血性合併症,特に消化管出血が多く,肺出血による死亡例もみられている.

当施設における経験でも,Fontan手術後の成人例116例(年齢中央値24歳,女性58例)において,ワーファリン+アスピリン併用の88例では,血栓塞栓症が2例(2.3%),出血性合併症が16例(17.7%)と,血栓塞栓症は少なく,出血性合併症が比較的多くみられた.ワーファリンのみ内服の23例では,血栓塞栓症が2例(8.7%)でみられ,出血性合併症はなかった.アスピリンのみ内服の5例では,血栓塞栓症はみられず,出血性合併症が1例(20%)でみられた.全体としては,血栓塞栓症は少なく,出血性合併症が17例でみられたが,そのうち16例(93.8%)は,ワーファリン+アスピリンの併用例であった.

田中論文でも取り上げられているOhuchiらの検討では,ワーファリンとアスピリン併用例では早期に出血性合併症が多いと報告されている3).当施設の経験や,田中論文でも同様であり,ワーファリンとアスピリンの併用例では血栓塞栓症は少ないものの,出血性合併症が比較的多いというのは共通した事実と言えそうである.また,PotterらのFontan手術後210例における血栓予防治療の検討では,アスピリン単独治療群と,ワーファリンを基本とした治療群との間で,血栓塞栓症の頻度に差はないと報告されている4).田中論文では,脳梗塞をきたした3例では,休薬,盲端肺動脈スタンプ,房室弁機械弁置換術後と,3例とも何らかの血栓塞栓症のリスク因子があり,そうでない症例では脳梗塞はみられていない.血栓塞栓症のリスクが低い症例では,抗凝固療法と抗血小板療法の併用は,リスクの層別化を含め再考の余地があるのかもしれない.

Fontan Anticoagulation Study Groupからのアスピリンとワーファリンの前向き比較試験では,血栓塞栓症の予防効果については両群間に有意差はないものの,minor bleedingの頻度はアスピリン群の14%に対して,ワーファリン群で33%と多かった5).また,個人的な経験でも,特に若年女性でワーファリン内服中の症例は,月経過多や,月経周期に伴いPT-INRが不安定となることが多くしばしば苦労する.当施設の症例を振り返っても,女性では血栓塞栓症,出血性合併症ともに,男性に比べて2~3倍多くみられており,注意が必要と考える.

成人心房細動患者では出血性合併症リスクが低いとされるNOACが広く用いられ始めているが,小児科医がNOACを用いる機会は現時点では少なく,使用経験が豊富で臨床感覚のある循環器内科医に,今後より多くのFontan手術後患者を診ていただき,この領域での牽引を期待したい.

血栓塞栓イベントの予防とは別に,しっかりとした抗凝固療法・抗血小板療法は,肺血管への微小塞栓を予防し,肺血管床がきわめて重要であるFontan手術後の症例において,長期的には良好なFontan循環の維持に寄与するとの考えもある.常に過凝固状態にあるFontan術後患者において,本理論は理に適っているようにも思えるが,その証明は容易ではない.比較試験を行おうにも,術者の力量や術前後の管理を含めた各施設や時代の医療の質のバイアスや,内臓錯位症候群や左心低形成症候群等の各症例の生来的なリスク,Fontan循環完成時の重症度・不整脈合併の有無などに応じて抗凝固療法が選択されうるというバイアスがあるため,明確なエビデンスを示すことは難しい.経験的には,確かにしっかりとした抗凝固・抗血小板療法がなされ,非常に調子のよいFontan術後の症例を数多く診ており,抗凝固・抗血小板療法を含めた丁寧な内科管理が良好なFontan循環の維持に寄与することについては疑問の余地がない.と同時に,無投薬で不整脈や自覚症状もなく,CTRも非常に小さくて凝固線溶系のパラメータも全くもって正常な,いわゆる“Perfect Fontan”の成人症例も実際に目にし,本問題の答えを出すことの難しさを実感している.前述のFontan Anticoagulation Study Groupのような前向き比較試験でより長期の血行動態のデータが得られれば,抗凝固・抗血小板療法の肺血管床への長期的なメリットの有無も明らかになるかもしれない.

ワーファリンの効果や,至適INRが欧米人と日本人で違うことは成人領域では古くから知られているが,小児においても同様に遺伝的背景による差異が存在することが近年報告されている6).本邦でも,Fontanネットなどの1,000人規模のレジストリが開始されており,今後これらのデータを活用して,日本人における抗凝固・抗血小板療法標準治療を確立するのが我々の使命であろう.

以上のように,Fontan手術後症例における最善の抗凝固・抗血栓療法については,いまだエビデンスも限られており,決して簡単ではない.個人的には,幼児期の転倒・頭部打撲のリスク,学童期のスポーツの有無,田中論文でも述べられた消化管出血,成人女性の過多月経やワーファリンコントロールのリスクなど,様々な要素を勘案する必要があり,画一的にはいかないものと考える.リスク層別化を含めた最善の標準治療,同時にtailor-madeの抗凝固・血小板療法,及び消化管潰瘍予防などのそれをサポートするきめ細やかな治療が,今後の課題であろう.個々の症例にあった最善の治療を選択するための判断材料が,今後増えてくることを期待する.

本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

  • 田中裕治:抗凝固,抗血小板療法中に梗塞,出血のイベントを起こしたフォンタン術後患者の検討.日小児循環器会誌 2015; 31: 229–237

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