日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(4): 220-222 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.220

Editorial CommentEditorial Comment

肝肺症候群と類縁疾患Hepatopulmonary Syndrome and Speculations about Its Related Disorders

1天理よろづ相談所病院先天性心疾患センターCongenital Heart Disease Center, Tenri Hospital ◇ 〒632-8552 奈良県天理市三島町200番地200 Mishima-cho, Tenri-shi, Nara 632-8552, Japan

2天理よろづ相談所病院小児科Department of Pediatrics, Tenri Hospital ◇ 〒632-8552 奈良県天理市三島町200番地200 Mishima-cho, Tenri-shi, Nara 632-8552, Japan

発行日:2015年7月1日Published: July 1, 2015
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はじめに

今回の永田論文は,肝肺症候群(hepatopulmonary syndrome: HPS)と門脈肺高血圧(portopulmonary hypertension: PPHTN/PoPH)が同時に発症し,さらにNoonan症候群が存在するという,珍しい症例の報告である.これら3つの疾患のうち,読者諸氏に比較的馴染みが薄いと思われる肝肺症候群につき,京都大学や最近のreviewで得た知見を絡め述べてみたい.

HPSの定義と診断

肝疾患特有の肺循環合併症として肺高血圧,肺動静脈瘻が発症することがあり,各々PPHTN(PoPH),HPSと呼ばれる.近年のreviewでは,HPSの診断基準として以下の3項目が挙げられている1,2)

1. 肝疾患の存在

HPSは,慢性的な肝疾患の影響下,ある程度時間をかけて発症する.門脈圧亢進のない場合でも発症しうる.また永田論文の症例のように,明らかな肝機能障害のない,門脈還流異常や門脈体循環シャントの存在下で発症することもある.よってここでいう肝疾患とは,「門脈圧亢進の有無を問わず門脈還流異常や門脈体循環シャントを含む慢性的な」肝疾患と捉えるべきと考える.

2. 低酸素血症の存在/A-aDO2の開大

もともと数値として低酸素に関する明確な定義はなかった.一方昨今の論文は,A-aDO2開大が15 mmHg以上(年齢による変化を考慮し65歳以上では20 mmHg)を診断基準としている.

3. 肺内血管の拡張(≒肺内シャント)の存在

通常⌀5~8 µmとされる肺内毛細血管が,HPSでは⌀100 µm以上に拡張している.時には孤立性の大きな動静脈瘻が存在する.これらの存在を確認する簡便かつ感度の高い検査として,コントラスト心エコーがある.わずかな気泡を混入し強く攪拌した生理的食塩水を用いるが,気泡のサイズは10 µm以上あり,これを静注すると肺内毛細血管に捕捉され,気泡は通常左心房に現れない.毛細血管の拡張,あるいは動静脈瘻が存在すると,気泡が素通りして左心房に還流する.これを心エコーで観察することで肺内シャントの存在が示されることとなる1–3)

一方,⌀10~60 µmの凝集アルブミンを核種(99mTc-MAA)に用いる肺血流シンチでは,やはり本来肺内毛細血管に捕捉される核種が,左心に還流し全身に流出,集積する.これにより肺内シャントの存在が示されるとともに,肺と肺外の集積量からシャント率を計算できる.

コントラストエコー法は感度は高いが定量性に弱い.還流する様子を4段階に分けて大雑把に評価できる3)が,シャント率の数値化は困難である.肺血流シンチを合わせて行うことで,定量的な評価を補足できる.

発生頻度・予後

HPSの発症頻度はPPHTNよりやや高く,肝疾患患者の5%から30%程度とされる1).以前行ったコントラストエコー法を用いた検討では,移植術前の患児50例の半数以上に肺動静脈瘻を認めている.ただし低酸素血症が明らかとなるgrade 3とgrade 4に限れば10例(25%)であった3).他家の報告からも,HPSの定義を満たさないものを含めると,かなりの頻度で肺内血管が拡張していると考えられる.

HPSは進行性であり自然予後は不良である.HPSの有無により肝疾患の予後はおよそ3倍悪化するとの報告がある4)

病因論

現在でも未知の部分は多いが,最近の知見からは,NOなどによる肺内血管の拡張と,VEGFを介した肺内血管新生の亢進がHPSの病因の主体と考えられてきている2)

以前よりHPS患者では呼気中の窒素酸化物濃度が高いことが知られており,肺におけるNO産生亢進が示唆され,HPSの肺内血管拡張にNOが強く関与していると想定されていた.

HPS患者やHPSの動物実験モデルにおいて,恐らくは胆管細胞での産生亢進によるエンドセリン-1(ET-1)の血中濃度上昇が確認されているが,動物モデルにおいてはエンドセリン受容体のうち,血管内皮に存在するB受容体(ETB)が優位に増加・活性化されているという.ETB活性化はNO産生を増加させ血管拡張をもたらす.

また肝疾患患者において,腸管細菌のトランスロケーションや血中エンドトキシンの増加が認められるとの報告がある.動物モデルにおいてはこれらに呼応して肺内への単球・マクロファージの集簇や活性化が生じ,肺内でTNF-αなどのサイトカインを産生し,これらがNO産生を亢進する.

一方動物モデルにおいては,単球・マクロファージが病的に肺内に集簇した結果VEGFの活性化が生じ,血管新生が促進されるという.

治療

現在有効性が期待される内科的治療法はなく1),根本的な治療を目指す場合,下記の外科的治療を検討することとなる.

1. 異常血管の結紮・閉鎖術

門脈還流異常や門脈体循環シャントが原因と考えられる症例においては,永田論文のように結紮術やカテーテル治療によるシャント血流の処理が奏功する場合がある.しかし現時点で適応に関するコンセンサスはない.積極的に手術やカテーテル治療で閉鎖を行う報告もある5)が,門脈圧の上昇による腸管浮腫や腹水など,大きなトラブルが生じる可能性がある.私たちはこれまで,バルーンなどによる閉鎖試験にて門脈圧が20 mmHg以下に留まり,造影などで肝内門脈の存在が確認できる場合を適応と考えてきた.

2. 肝移植

以前はHPS患者への肝移植術の成績は悪く,HPSは肝移植術の禁忌とされていた.しかし近年,重症例で多少低下する傾向にはあるものの,HPSを伴わない症例との移植成績に有意な差は認めなくなった4,6)

一方HPSは進行性であり,前述の通り移植術を受けない場合の予後は悪いが,肝移植によりHPSはほとんどの症例で軽快する.現在では重症のHPSはむしろ,肝臓移植の適応と考えられる1,6)

ただし低酸素が重度となると,統計上成績に差はないとは言え,周術期,術後管理に問題は増え,手術の難易度は高まる.しかもHPSの進行は比較的速い.よってPaO2が70 mmHgに達する頃には肝移植の検討を始めるべきと考える.

HPSと類縁疾患

最後に,HPSとの共通点を持つ疾患について,興味深く思う事項につき述べてみる.

1. HPSとPPHTN

HPSとPPHTNは,末梢肺血管の拡張と収縮という対局の病態であるが,ともに肝疾患に関わる肺循環異常であり,似通った部分は多い.肝疾患,特に門脈体循環シャントから発症する臨床像,HPSからPPHTN,あるいはその逆へ移行したり永田論文のように同時に合併する症例の報告が存在するところからも,共通した発症機序の存在が疑われる.その観点から注目すべきはET-1であろう.肺高血圧においてET-1がA受容体(ETA)を介して重要な働きをしていることは周知であり,PPHTNにおいてもETAの関与は重要と考えられる2).一方でHPSではETBの関与が疑われている.ETAとETBの活性の偏りがどうして生じるのか,HPSとPPHTNの発症を分けるものは何なのか,疑問は尽きない.

2. HPSに対するPPHTNとオスラー病(HHT)に対する肺動脈性肺高血圧(PAH)

TGF-β superfamilyの一員であるALK1が,肺内シャントを合併しうるHHTの原因遺伝子の1つであることはよく知られているが,HHTの家系からPAHが発症する報告がある.ALK1は,PAHに関与する一方,肺内シャントの形成にも関与していることになる7).また遺伝性PAHの原因遺伝子としてBMPR-2の異常が知られているが,BMPR-2はTGF-β superfamilyの一構成要素である.現在のところHPS症例にALK1などの異常が認められたとの報告はないが,肺内シャントとPAHに共通の発症機序が存在する可能性を思わせ,HPSとPPHTNの関係も絡んで興味深い.

3. HPSとGlenn,Fontan循環における肺内シャント

Glenn血行動態や下大静脈–肝静脈の還流不均等なFontan症例において肺内シャントが生じることは,小児循環器部門ではよく知られた事象である.昔から「hepatic factor」が肺内に流入しないため発症するというメカニズムが説明されてきたが,片やHPSでは,前述の通りET-1やエンドトキシンその他の物質の流入などが発症の原因とされる.臨床像の似た,しかも肝臓が関与する2つの病態において,肝門脈系の血流内に存在する物質の流入の有無という相反する発症メカニズムが両立するのは自然なことなのか,今後の知見の集積が何かを語ってくれるかもしれない.

Fontan循環での孤立性の肺内シャントに関し,「同部位の血管拡張(のみ)ではなく周囲の血管の収縮がシャント血管の形成・成長に関与しているのではないか」とのspeculation(国立循環器病研究センター)を,最近目にした.これもまた,血管の拡張と収縮のバランスの偏りという点からも興味深い着眼である.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

永田佳敬,ほか:門脈体循環シャントによる肺高血圧症及び肺内シャントを合併したNoonan症候群の1例.日小児循環器会誌 2015; 31: 212–219

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