日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(4): 190-191 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.190

Editorial CommentEditorial Comment

Modified single patch術後左室流出路狭窄の懸念は心臓外科医の杞憂であったのか?Modified Single Patch: Don't We Have to Worry about Subaortic Stenosis Any More?

近畿大学医学部心臓血管外科学教室Department of Cardiovascular Surgery, Faculty of Medicine, Kinki University ◇ 〒589-8511 大阪府大阪狭山市大野東377番2号377-2 Ono-Higashi, Osaka Sayama-shi, Osaka 589-8511, Japan

発行日:2015年7月1日Published: July 1, 2015
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はじめに

左心右心を隔てる中隔と心房心室を隔てる房室弁の要を欠く房室中隔欠損(AVSD)の根治に際しては,心内を四分するために中隔と房室弁が交叉する部分で中隔欠損パッチか,房室弁のいずれかを2分する必要に迫られる.房室弁を2分割してパッチは分割しない方法が従来のsingle patch法であり,分割した房室弁を中隔パッチに逢着するため,縫い代分の弁尖が犠牲となる.一方,中隔欠損閉鎖パッチを心房側と心室側に2分割して房室弁を上下で挟み込む方法がtwo patch法で,我が国では城谷1)らが良好な成績を報告して広く用いられてきた.

術後LVOTOへの懸念

Single patch,two patchいずれの方法も,房室弁の共通弁尖を本来の位置,すなわち根治手術の第一ステップで行われる水テストで観察された高さに維持することを共通のコンセプトとしている.

Two patch法においても心室中隔欠損(VSD)の浅いtype A-1では心房中隔欠損閉鎖パッチを共通弁尖を介してVSD crestに逢着し,共通弁尖を落とし込む,現在modified single patch法と呼ばれている術式が行われていた2)

簡便な方法であったが,共通弁尖を落とし込むことで術後の左室流出路狭窄(LVOTO)を引き起こすリスクがあると考えられ,あくまでもVSDが浅い症例に限るものと警鐘されていた.

Modified single patch法は,従来VSDの浅いA-1型に限られていた簡便術式を全てのAVSDに適応拡大したものである.Patchが1枚であるためmodifiedあるいはsimplified single patchと命名されているが,共通弁尖を切開しないというコンセプトを維持しており,本来はtwo patch法をsimplifyあるいはmodifyした術式と言える.実際,modified single patch法に関する報告の多くは,single patch法ではなくtwo patch法を比較対象としている.

前述のように,以前はVSDが浅くない症例で共通弁尖をVSD crestに落とし込むとLVOTOをきたすリスクがあるとされ,筆者を含め,多くの心臓外科医は先達からそのように教えられていた.

Modified single patchはcomplete AVSDをincomplete AVSDに変換する手技とも言えるが,incomplete AVSDで僧帽弁前尖を心室中隔から切離挙上してcomplete AVSDに変換してLVOTOを避けるという全く逆のコンセプトをもつ報告さえある3)ので,Nicholson,Nunnら4)がmodified single patchとして本法の適応をほぼ全例に拡大して報告した際,多くの心臓血管外科医が術後のLVOTOを懸念したのも当然であろう.

しかし,modified single patchの適応拡大に対するLVOTOの懸念をよそに,現在までに報告されたmodified single patch法の報告では術後LVOTOはtwo patch法と差はなく4,5),Backerら6)は「まだ左室流出路狭窄を懸念するのか?」とまで謳っている.

共通弁尖は薄く柔軟性に富む膜組織であり,これをVSD上縁に引き下ろしても,弁尖は帆のように心房側に膨らみ左室流出路を塞ぐことはなかったのであろう.

Modified single patch VS two patch

Modified single patch法を推す多くの報告では,LVOT,MRともにtwo patchと比べ非劣勢で,術式簡略化による遮断時間,総体外循環時間短縮について優勢であると結論づけている4–6)

石丸ら7)の報告も同様に術後遠隔期においてLVOTO,MRともにtwo patch法と遜色はなかったとしているが,従来の報告4–6)と異なり,two patchに対し,遮断時間も含めて非劣勢にとどまっている.

今回,非劣勢にとどまったのは,single patch法から術中にtwo patchに術式変更を要した症例が2例あり,その総遮断時間をmodified single patch群にフェアにカウントしたためで,恐らくこの症例を除けばmodified群の遮断時間は有意に短縮されていたであろう.

いかに共通弁尖が柔軟とはいえ,本来の位置から過度に引き下ろせば直線状に伸びた弁尖は流出路の障害となり得るであろうし,mural leafletとの接合部も中隔側に偏倚してMRの原因となり得る.やはり,modified single patchにも適応の限界はあるのではないだろうか.

Nicholson,Nunnら4,5)はVSDの深さで術式選択は行っておらず,VSDの深さの数値には言及していないが,彼らの症例にはlarge VSD症例が多数含まれていた.

しかし,もうmodified single patchでLVOTOの懸念など不要と謳うBackerら6)も,実際には11 mm以上のVSD症例にはtwo patchを選択しているのである.

Wilcoxら8)も共通弁尖を過度に引き下ろすことでLVOTOやMRを引き起こすことを懸念して,VSDの深い症例ではtwo patchを選択している.彼らは明確な数値ではなく共通弁尖をcrestまで引き下ろした際のテンションで判断している.

著者らは以前の報告では7 mm以下を適応としているが9),今回7)の症例では7 mmの症例でtwo patchへの変更を要しており,VSD深度以外にも形態的な条件10)も関与している可能性があることを示している.

Modified single patch法が標準術式となるには

AVSD修復のような複雑な手技において,ある種のコツ,術者のセンスのようなものが,その結果に大きく関与することは紛れもない事実ではあろうが,一つの術式が標準術式となり得るには,そのような術者個人の特性に依存しない指標が必要である.Modified single patch法がAVSD修復の標準術式たるにはその適応を明確にすることが求められる.VSDの深さ,antero-superior extension10),等の適応条件が今後明らかにされた時に,我々の懸念が杞憂であったと言えるのではないか.

注記:本稿は,次の論文のEditorial Commentである.

石丸和彦,ほか:遠隔期成績からみた完全房室中隔欠損症に対する術式選択の検討.日小児循環器会誌 2015; 31: 184–189

引用文献References

1) 城谷 均:完全型心内膜床欠損症に対する根治手術.日本胸部外科学会誌 1978; 26: 310–313

2) 城谷 均:心内膜床欠損 新小児医学大系.小児心臓外科学 1981; 33: 309–323

3) Starr A, Hovaguimian H: Surgical repair of subaortic stenosis in atrioventricular canal defects. J Thorac Cardiovasc Surg 1994; 108: 373–376

4) Nicholson IA, Nunn GR, Sholler GF, et al: Simplified single patch technique for the repair of atrioventricular septal defect. J Thorac Cardiovasc Surg 1999; 118: 624–627

5) Nunn GR: Atrioventricular Canal: Modified Single Patch Technique. Semin Thorac Cardiovasc Surg Pediatr Card Surg Annu 2007; 10: 28–31

6) Backer CL, Eltayeb O, Mongé MC, et al: Modified Single Patch: Are We Still Worried About Subaortic Stenosis? Ann Thorac Surg 2015; 99: 1671–1676

7) 石丸和彦,西垣恭一,金谷知潤,ほか:遠隔成績からみた完全房室中隔欠損症に対する術式選択の検討.日小循誌 2015; 31: 184–189

8) Wilcox BR, Jones DR, Frantz EG, et al: Anatomically Sound, Simplified Approach to Repair of “Complete” Atrioventricular Septal Defect. Ann Thorac Surg 1997; 64: 487–494, discussion, 493–494

9) 小澤秀登,西垣恭一,川平洋一,ほか:完全型房室中隔欠損に対する心室中隔直接閉鎖法の中期遠隔成績.日小循誌 2009; 25: 34–38

10) Adachi I, Ho SY, McCarthy KP, et al: Ventricular Scoop in Atrioventricular Septal Defect: Relevance to Simplified Single-Patch Method. Ann Thorac Surg 2009; 87: 198–203

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