日本小児循環器学会雑誌 Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery

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Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(3): 117-118 (2015)
doi:10.9794/jspccs.31.117

Editorial CommentEditorial Comment

「2.5 kg以下の新生児・乳児における体外循環非使用肺動脈絞扼術の転帰と問題点」に対するEditorial commentEditorial Comment on the Article Entitled “Outcome of Pulmonary Artery Banding without Cardiopulmonary Bypass in Infants Weighing Less than 2.5 kg”

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発行日:2015年5月1日Published: May 1, 2015
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先天性心疾患(congenital heart diseases: CHD)を持つ低出生体重児(low birth weight baby: LBWB)は早産や子宮内発育遅延に伴う問題を有し,様々な疾患を合併することが多い.そのため,心臓手術には大局的な戦略と実務上の戦術が正常出生体重児(normal birth weight baby: NBWB)に比べ更に重要である.本号の中嶋らによる「2.5 kg以下の新生児・乳児における体外循環非使用肺動脈絞扼術の転帰と問題点」はLBWBに対する姑息術の検討を,主に戦術部分から議論している1).本解説では,視野を広げて戦略についても論じる.なお,文献的考察は総説を参照されたい2)

戦略について

LBWBのCHDの手術の戦略には,二つの主要な検討点がある.一つめは,NBWBと同じ日齢で手術を行うか,遅らせるかの時期の判断である.早期手術を推奨する論文や,特別な理由(感染,臓器不全,出血傾向,安定した循環など)がなければ遅らせるべきではないとする論文がある一方で3),挿管,強心剤使用,プロスタグランジン使用,易感染性など集中治療の継続を要する因子がなければ遅らせるのは有害ではないとする論文や,時期を症例ごとに判断した結果,遅らせなかった群と遅らせた群の1年生存率は同じであったとする論文がある4,5).一律に手術を遅らせることは推奨されないが,症例ごとに遅らせる判断をするのは不利益にならない,というのが多数意見のようである.

二つめは,NBWBと同じ術式を選択するか異なる術式を選択するかの判断である.NBWBであれば行うはずの人工心肺下の心内修復術を行うか人工心肺を用いない姑息術を行うかの判断が最も多い.修復術は姑息術より有意に手術死亡率が低かったとするMeta-analysisなど,修復術を推奨する論文が多く6),姑息術を積極的に勧めるのは少数意見のようである.しかし,LBWBでは体肺動脈シャントは肺動脈絞扼の数倍以上の死亡率である7).この二つの術式を姑息術としてまとめて修復術と比較するのではなく,シャントを要する疾患と肺動脈絞扼を要する疾患を区別して検討する必要があると考える.

中嶋らは,LBWBに可能な限り内科的治療を優先して体重増加を図り,体重増加前に手術の必要があれば可能な限り姑息術を行う方針を採り,肺動脈絞扼を行った11例中10例が生存中という良好な成績が得られているので,手術戦略は成功したといってよい.一方,小児心臓外科の歴史では,手術成績の向上に伴って,手術が早期化し段階的手術から一期的修復への移行がみられてきた.今後,この流れがLBWBの手術にも及ぶことは予想に難くない.中嶋らは,今後も良好な成績を維持するとともに,将来を見据えた手術戦略の進化にも取り組まれることと思う.

戦術について

中島らの論文では,肺動脈絞扼では吸入酸素濃度(FiO2)0.21–0.4で肺体動脈血圧比(Pp/Ps)が0.5–0.6となることを主目標にバンドの長さを調節している.しかし,肺動脈絞扼の目的は肺血圧の低下ではなく肺体血流比(Qp/Qs)の調整である.カテーテル検査でPp/Psが0.5–0.6でQp/Qsが2.0を超えることを経験するように,Pp/PsとQp/Qsの相関は強いものではない.肺動脈絞扼ではPp/PsよりもQp/Qsを指標にするのが望ましいのではないだろうか.筆者は,成長に伴うバンドの相対的狭小化を考慮しQp/Qs=1.5を目安に絞扼を行っている.高肺血流は発育不良,心不全や死亡の原因になるので,極低出生児でも早期の再介入は覚悟のうえでQp/Qs=1.5を目指している.FiO2=0.5で動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)を40 Torr前後になるよう換気を調節してもらい,動脈血酸素飽和度と肺動脈血酸素飽和度を実測し,上大静脈酸素飽和度で混合静脈血酸素飽和度を代用し,肺静脈血酸素飽和度を0.98と仮定することで,Qp/Qsを計算する.結果として動脈血酸素飽和度(SaO2)は,心室中隔欠損では0.90–0.95,房室中隔欠損では0.85–0.90,単心室では0.75–0.80程度になる.また術中Pp/Psは0.35前後になることが多いので,手術を手早く済ませたい症例では,Qp/Qsを計算せずPp/Ps=0.35前後でSpO2が予想の範囲内になるように調整することもある.文献では,Pp/Psの目標は0.25–0.33とされているようで,中嶋らよりややきつい絞扼が好まれているようである8,9).両側肺動脈絞扼では,術中に左右不均等な絞扼になっていないことを確認する必要があると考えている.筆者は血管結紮用クリップをあらかじめ決められた幅に変形させることで左右の肺動脈を均等に絞扼し,さらに術野からの超音波検査で左右の絞扼部の加速が同程度であることを確認している10)

おわりに

NBWBのCHDに対する手術戦略は,手術成績の向上に伴い標準化されてきた.一方,LBWBのCHDは,出生体重や合併疾患の有無など付帯する条件が多様であり,手術時期,術式ともに戦略の標準化につながる説得力のある提言はないといってよい.戦術についても様々な意見があるうえ,外科医ごとの手術の早さや繊細さが異なるので,標準化はできていない.現状では,外科医は症例ごとに最善と信じる戦略と戦術をとるしかない.そのうえで,中嶋らの論文と同様に,自己の手術結果を後方視的に評価し,戦略や戦術が適切であったかを検討することが重要であろう.

引用文献References

1) 中嶋智美,平松祐司,金本真也,ほか:2.5 kg以下の新生児・乳児における体外循環非使用肺動脈絞扼術の転帰と問題点.日小児循環器会誌2015; 31: 111–116

2) 金子幸裕:低体重児の心臓手術.日小児循環器会誌2013; 29: 102–108

3) Reddy VM: Low birth weight and very low birth weight neonates with congenital heart disease: timing of surgery, reasons for delaying or not delaying surgery. Semin Thorac Cardiovasc Surg Pediatr Card Surg Annu 2013; 16: 13–20

4) Shepard CW, Kochilas LK, Rosengart RM, et al: Repair of major congenital cardiac defects in low-birth-weight infants: is delay warranted? J Thorac Cardiovasc Surg 2010; 140: 1104–1109

5) Hickey EJ, Nosikova Y, Zhang H, et al: Very low-birth-weight infants with congenital cardiac lesions: Is there merit in delaying intervention to permit growth and maturation? J Thorac Cardiovasc Surg 2012; 143: 126–136.e1

6) Abrishamchian R, Kanhai D, Zwets E, et al: Low birth weight or diagnosis, which is a higher risk?: A meta-analysis of observational studies. Eur J Cardiothorac Surg 2006; 30: 700–705

7) Curzon CL, Milford-Beland S, Li JS, et al: Cardiac surgery in infants with low birth weight is associated with increased mortality: analysis of the Society of Thoracic Surgeons Congenital Heart Database. J Thorac Cardiovasc Surg 2008; 135: 546–551

8) Angeli E, Pace Napoleone C, Turci S, et al: Pulmonary artery banding. Multimed Man Cardiothorac Surg 2012; 2012: mms010. doi: 10.1093/mmcts/mms010

9) Sharma R: Pulmonary artery banding: Rationale and possible indications in the current era. Ann Pediatr Cardiol 2012; 5: 40–43

10) Kaneko Y, Achiwa I, Morishita H, et al: Bilateral pulmonary artery banding using ligation clips: A novel, residual stenosis-resistant technique. J Thorac Cardiovasc Surg 2014; 147: 1984–1985

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